第16章 秘密基地での警察業!

ここは石山さんが仕事をしている部屋。

トゥルルルル…

「はい、こちら石山です。」

石山さんのスマートフォンに電話がかかってきた。さっきまでやっていた競馬のサイト巡回の手を一度止めて、その電話へと出る。

「おーい准。元気か?」

「光坂先輩。光坂先輩からかけてくるのは珍しいですね。」

電話相手は石山さんの先輩で新潟県の異小課の石山さんポジションの光坂茜さん。

「積もる話もあるんだがな。まあちょっとお前んとこの子達に用があってな。ちょっと依頼していいか?どうしてもな…。」

「この前鍛錬の件でお世話になりましたし、依頼ぐらいお安いご用です。それで、どういう依頼なんですか?」

この前の鍛錬では彼女に南さんに手伝いの依頼をしてもらっていた。その時の借りを返そうとしている。

「ありがとな。それで依頼なんだが、簡潔に言うと来週の週末、そっちの子達を数人貸してもらいたいんだ。週末は事情があって私の子達を休ませてあげたいんだ。いつもなら何とかなるんだがな、魔族がこんな時に限って出やがる。それで、魔族を倒せるやつが週末必要なんだよ。」

「分かりました。光坂先輩。頼んでみます。」

電話はそこで切れた。


この後、新潟県異小課では

「ちょっと依頼してみたよ。受けられるかは分からんけど、まあ駄目だったらだめだったで他のところに依頼してみりゃいいだけ。絶対どこかは受けてくれるから。絶対に仕事はさせない。休ませてあげるから。」

「光坂さん。ありがとうございます。菊花お嬢様に言ったら仕事を放棄なんてできない。とか言いそうなんで、絶対黙っといてください。」

さっきまで石山さんと会話していた光坂さん。彼女と西さんが話していた。

「言わん言わん。1秒1秒、しっかり一緒いてあげな。それに、泣きたいときは、泣いてもいいんよ。」

「いや、泣きません。泣けません。泣いたら、お嬢様が悲しんでしまうんや。お嬢様を悲しませるのは、メイドとして失格や。では。」

西さんはお嬢様のところへと向かった。

「ほんと、いい子たちだな…。それなのに…運命ってなんでこんなに残酷なんやろ。天の神様、お願いです。あの3人を、守ってください。」

彼女は手を合わせて祈りながら涙を流していた。

「間違いにしてください。勘違いにしてくださたい…」


「師匠。師匠と二人っきりなんて久しぶりでしたね。」

「ああそうだな。ただ…その言い方なんか気持ち悪いんだけど。」

「確か今日はスーパーで卵安かったな。」

男達3人が異小課へと続く廊下を歩いている。任務が終わり、凪の食堂勤務も料理の下準備は終わったみたいだ。

凪だけ違うことを考えている。とはいえ、金欠かつ料理好きの凪にとって特売情報は大事なのである。

「お、ちょうど戻ってきたんだな。」

部屋のドアを開けようとしている石山さんを見つけた。石山さんはこっちに気がついてドアを開けるのをやめ話しかけてきた。

「週末の任務の話だけど、ちょうど帰ってきて良かった。全員に伝えておきたいからな。」

結構大事な任務なのかな。

「ま、とりあけず入るか。廊下は寒いし。噺は暖房の聞いた中でだ。」

異小課の部屋で全員が集まっている。


「それで、任務内容だが…新潟県に週末出張してほしい。ってことだ。諸事情でそこの人が任務をできないらしい。」

「あー、なるほど。」

「それで、そんなときに限って魔族を討伐しなけりゃならないらしいから、ここに依頼が来たんだ。」

ちゃんと異小課間の絡みっていうのはあるんだ。まあこの前スポーツ大会やったぐらいだしそりゃあるか。

「5人全員で行くんですか?それとも誰かだけが行くんですか?」

「うーん…数人貸してほしいって言われたからな…ま、5人で行きゃいいだろ。こっちでは魔族の情報は入ってないんだし。緊急任務があってもいつもみたいに瞬間移動すれば対応できるからな。」

愛香の瞬間移動でどこでも行けるので、任務中に全く関係ない任務を振られることがある。基本的には愛香一人か愛香ともう一人誰かがそっちの任務をやるという感じ。


その後、石山さんは真っ先に仕事部屋に帰って電話をかけた。

「光坂先輩。全員そちらに行ってくれると言ってくれました。」

「全員!?3人ぐらいで良かったんだがな。そっちの都合もあるだろうし。いいのか?」

「はい。瞬間移動を使える子がいるので。」

「なーるほどな。ありがたく使わせてもらうよ。」

「それにしても、休ませたいって、過労になりかけたんですか?」

「過労か。そうだったら良かったんだがな…嘆いても仕方ないのだけれど。」

突然、悲しげな声へとなった。

「じゃあな。准。」

そして電話を突然終わらせた。まるで何かをごまかすかのごとく。

「光坂先輩…何があったっていうんですか…気になりますよ…」

その急激な変化に、石山さんのテンションも若干低くなった。


「ふー…なんとか取れたわ。これで、あの子達を休ませられる。休まるかは別だけど、少なくとも働かせるよりは絶対いいでしょ。」

光坂さんは週末の休みを伝えに3人がいる部屋へと向かった。

「おーい。週末こっちの諸事情で異小課できんから、3人とも週末は働かなくてええからな。」

「分かりました。光坂さん。週末ですね。」

光坂さんがふと横を見ると、感謝の気持ちを示して頭を少し下げている西さんの姿が見えた。

「お嬢様。週末、なにかしたいことはありませんか?」

「やりたいこと…懐かしいところに行きたいな…成長っていうのを感じたい。」

「分かりました。私がお嬢様のため準備をしておきます。」

従者の二人は尊敬するお嬢様へと頭を下げた


そして週末。俺達は新潟県に行くため用具倉庫にあるおなじみのゲートのところへ向かっていた。

「新潟県に行くついでに、新潟県にある美味しい抹茶和菓子店にも行こーかな〜。」

愛香はいつもよりテンションが高い。抹茶のことになるとテンションが上がるな愛香は。

「おー、この前のとこ。」

ゲートをくぐったあとは前に来たことがある白い部屋だった

「よー来たな。私は、ここの異小課の裏の仕事・会計とか事務作業とかやってるんや。まあ、君達のとこの准見たいなポジションってことや。今日はよろしくな。」

部屋から出たところで女性と出会った。

「今日だけなんですか?」

「今のところはな。魔族の討伐が完了すりゃ終わりでええ。急に情報とかが入れば追加で依頼するかもしれへんけどな。」

今週と聞いていたけど今日だけなんだ。まあどっちでもいいと言えばいいけど。愛香の瞬間移動ですぐ帰れるんだし。

「とにかく、任務のことから伝えていきたいけど、その前に部屋に来てーな。こんなとこで話すのはアレだからな。」


その部屋へとついていった。富山県のより片付いているきれいな部屋だった。毎日掃除されているように。

「それにしても、ここで働く人たちはやっぱりいないんだな。確か最低3人は働いていたはずだけど。」

「まあな。こっちにも事情ってやつがあるんだよ。」

「事情?」

ちょっと気になる言い方だな。

「個人情報の関係で、ここについては教えられないな。」

「それで、任務の内容なんだが…」

話を無理矢理変えた。それについてあまり詮索されたくないかのように。

まあ、詮索すべきとも思えないので、気が付かなかったふりをしたのだが。


「任務内容だが、ここの集落近くの山で魔族の目撃情報が入ったんや。でさ、そいつが近くの集落を襲うようになって、田畑が荒らされまくってるんや。しかも、凶暴で何人もの集落の人が犠牲になっとる。こいつはさっさと討伐せにゃならないだろ。」

人間のいるところの近くに棲み着いたのは厄介だよな…。それでいて凶暴。早めに討伐しないとまた被害が出てしまう。

「あとここはそんなに重要なことじゃないけど、そいつは雪が降っているときは隠れていて見つけようがないんや。で、天気が良い今日のうちにやんなきゃならないん。なんか質問ある?」

「あの…戦いって派手にやってもいいですか?山の木が倒れてしまうかもしれないので…」

繁が質問した。確かに繁の技を使うと木が倒れたりして、最悪火事になってしまいそう。

「数本ぐらいならいいだろ。でも、二次災害が起きるのだけは避けてほしいかな。山火事とか土砂崩れとかね。」

まあそれやったらだめなのは当たり前だよな。


「じゃあ、行きますね。」

愛香はその場所の写真を見て瞬間移動でその場所へと5人を移動させた

「問題はどうやって見つけるかだよな。ここで来るのを待つしかないか…でも…」

「俺としても待つのが一番かと。場所的に山から一番近い集落はここだし。」

凪もそう言ってるし、少し懸念があったけどここで待つのが良さそうかな。

「とりあえず持ち場所決めます?」

この集落は三方を山に囲まれている。どこから来てもおかしくはない。愛香の言う通り、一箇所で待つより、5人バラバラで待ったほうがいい気がする。

じゃんけんとかなんとかで場所を決めて、その場所へと全員移動した。


そんな頃

「ようやくここまで来たよ…。でもここからが一番きついところ。こんな山に道なんか整備されてないな。なんでこんなとこに作ったんだよ…」

集落のバス停でバスから降りた謎の人が、ぶつぶつ言いながら山を登ろうとしていた…

「気張って行かないとな。大事な会議なんだし。」

その人はスマートフォンに入れてある資料を読みながら集落を歩いていた…


新達5人が集落で見張りをしていた頃、実は近くの山にこの3人がいた。

「懐かしいなぁ…ここでよく3人で遊んだっけ。」

「あ、あのときは私のような人がお嬢様と一緒に遊べたことを光栄に思っています。」

「はいはい松木。硬い硬い。お嬢様もめちゃくちゃ敬われるより、同じような感じで接してもらったほうが、嬉しいって言ってたやろ?」

そう。新潟県の異小課の3人。南菊花・東松木・西蓮葉である。

「それにしても、ここまだあるとはね。てっきり壊れちゃってたと思った。だって、ここ作ったの小学生2年生のときだよね。8年間ずっと、残ってたんだね。」

「実はですね。私がお嬢様のためにこの秘密基地を、とっても丈夫に作ったんです。当時10歳の私は、色々な人に頼んで長い間壊れないように裏で直したりしてたんですよ。」

「そこまでしてくれてたの?」

「はい。だって、この秘密基地を作る仕事が、私にとっての初めての仕事だったからな。」

ここはこの3人が昔遊んだ秘密基地。3人は懐かしいところを巡る一環でここに来ていたのだ。

「そういえばそうでしたっけ?あいにくあまり覚えてないもんで。」

「松木…あのなぁ。お嬢様を本当にお慕いしてるのは分かるけれど、だからって同業者の私に冷たく当たるのはやめぇ。ただ私は恩返ししているだけなんやて。」

松木が蓮葉を少し苛つかせるかのような口調で言ったが、それに慣れている蓮葉はいつものように諭した。


「そうだよ松木。ほら、この秘密基地を作る数日前、ボロボロの蓮葉を連れて家に帰ったこと。覚えてない?」

「勿論覚えてますよ!私は、お嬢様との記憶は一日残らず記憶していますので!」

「やっぱり覚えてるんじゃん。あ、もしかして嫉妬ってやつ〜?」

「…」

図星すぎて何も言えなくなっていた。

「まあ、そのことはいいとして、お嬢様に拾ってもらったことは私もちゃんと覚えてるんよ。だってあれ無ければ、私は死ぬ運命だったやろし。お嬢様は命の恩人や。やから、私はお嬢様に一生恩返するんや。」


8年前、新潟県のとある道。今は日曜日の昼だというのに人通りは少ない。

「誰か…助けて…。」

当時10歳の蓮葉は大粒の涙を流しながら歩いていた。

もう5日も何も食べていない。水に関しては公園でなんとかなったものの、お金もなんにも持ってない彼女はボロボロの服を着て行くあてもなく道を歩いていた。顔には痣があり、どう見ても普通の状態じゃないのは明らかだった。

「お家に帰れない…帰ったら、またお父さんに…でも、このままじゃ飢えて死んじゃう…お母さん、助けて…」

彼女の父親は幼い彼女に虐待を行っていた。正確には血は繋がっていないが。

彼女が産まれたあと、本当の父親は流行病にかかって亡くなってしまった。母親はそれからしばらくして再婚したのだが、彼女もまた2ヶ月前職場の事故で亡くなってしまった。今の父親が豹変したのはその後である。

彼は彼女に暴力を振り、家ではわがまま三昧。家事の全てを子供やらせ、酒を飲んでは子供に当たる。そういう最悪なやつになってしまっていた。

そんなところから彼女はなんとか逃げてきたのだが、急いで逃げたのでなんにも持ってきていなかった。それほどまでに状況が切羽詰まっていたのである。

こういうとき、大人はこぞってこう言うだろう。

「交番に行け。そしたらお巡りさんが守ってくれる。」と。

確かに警察署に行けば基本的には守ってもらえる。でも行けない大きな理由がある。

彼女は脅されていた。「先生とかそういう大人にこのこと言うんじゃねぇぞ。もし言ったら、今よりさらに痛い目に合わせてやる。勿論、言わないよなぁ?」

こう脅されていると、逆らえないものである。もう逃げてるので痛い目にあうより先に虐待の罪で捕まることも、こんな状況では

思いつかないし、思いついたとしてもそれを実行に移せないのである。


「あ、これ…私…死ぬ…のかな。」

視界が揺らぎ、体温も下がっていることを感じてる。エネルギーが底をつきかけていた。そもそも虐待されている時点でまともに食べられていないのに、それで5日間何も食べてないとなると、餓死という結果になりかねない。

「あっ…」

視界に急に地面が近くに映る。立って歩くだけのエネルギーすらままならない。

「お母さん…今そっち…行くね。」

彼女の目には、天国からお母さんが迎えに来る幻覚が見えていた。

「お嬢様?」

また、幻聴?も聞こえていた。


「ここは…?」

西蓮葉は部屋の中で目が覚めた。ふかふかのベッドに横たわっていた。そこには未だ見たことのない光景が広がっていた。例えば、ベッドの横のランプは高級品に疎い彼女でもいかにも高そうだと分かるほどのものだった。

「私の家?全然違うように見えるけど…」

そのとき、突然ドアが開いた。

「ヒィッ!」

虐待されていると、ドアが開くだけで恐怖感を抱いてしまう。それほどまでに彼女は追い詰められていた。

「あ、目が覚めた。良かった…大丈夫?」

ドアを開けて自分と同じくらいの背をした女の子が入ってきた。

「イヤッ…やめて…ごめんなさい!」

「えっ?待って待って。私、何にもしないよ!」

「ご、ごめんなさい!」

虐待を受けた影響でよく謝る子になってしまっていた。そんな彼女に戸惑う。

「お嬢様?何してるの?」

そこに少し背が高い男の子が入ってきた。

「この子がね…」

「昨日、お嬢様が君のこと助けてくれたんだよ。お嬢様が道で倒れていた君を連れて帰って、色々としてたんだよ。」

「あ、あり…がとう…ござ…います…」

もう分かっているだろうが、助けてくれたお嬢様とは南菊花のことで、お嬢様と呼ぶ男の子は東松木である。

倒れたところを運良くして、南家のお嬢様に拾われて、一命を取り留めたのだった。


「蓮葉、どうかしたの?」

「あ、ごめんなお嬢様。お嬢様と最初に会ったときのこと思い出したんや。お嬢様はあのときから優しかったなーって。」

秘密基地を訪れたことで、ちょっと過去のことが蘇ってきた彼女だった。

「お嬢様が優しいのは当たり前だろ!」

「はいはい。重い重い。」

軽くあしらう。

「そういや松木は確かお嬢様と子供の頃からの仲だったんやっけ?あのときの時点ですでにいたんだし。」

「親があの家に使用人として働いていたからな。お前なんかより断然長い年月苦楽をともにしているんだぞ。」

お前なんかよりと無意味に強調する。

「本当に人生ってわからないね。親が事故死して、虐待受けて、優しい名家のお嬢様に拾われて、お嬢様のメイドになるなんてね。」

「あ、ごめんねお嬢様。今日はお嬢様のために一日何でもしますから。」

「ははっ。贅沢言うならいつまでもこうしていたいんだけどね。はぁ…今日死ぬなんてね。」

暗い顔でお嬢様はそう言った。

「お嬢様…なんでお嬢様が…」

松木は不甲斐無さに拳を握りしめていた。


今日死ぬ。そう確信してしまっている理由は一つ。それは半年ほど前に遡る。

「お嬢様。どうかしたんか?」

メイドの蓮葉は洗濯物を畳みながらお嬢様へと尋ねる。東が外に買い物に行っていて、ここにいるのは二人だけとなっていた。

「ねぇ蓮葉。私ってどう思う?」

「お嬢様を?えぇっと…お嬢様は優しいお人や。私を救ってくれたんやし。」

松木ほどではないものの、彼女も菊花のことをよく知り、よく分かっていた。7年半も一緒にいれば、当然というものでもあるが。

「ふふっ。ありがとう。でも、私って実は悪なんじゃないかと思って…こんなことになってるのも、実は私自身が悪いんじゃないかって」

「そんなわけないって。お嬢様。もしそうなら、近くにいる私や松木が気づかないはずがないんや。そんなに気になるなら、あれに見てもらえばどうや?」

そう言って、大事に置かれている菊花の武器を指さした。

「どんな情報でも見られるんやから、自分のことも何でも知れるはずや。」

人のありとあらゆる情報が観れる能力審査の力。それを使って自分自身の知らない一面というのを観てみようと。

蓮葉は、(これでお嬢様が悪いんじゃないと思っていただける。お嬢様は私の中で一番の善人なんや。)と考えていた。


「確かに。分かった調べてみるね。ありがとう蓮葉。」

「いえいえ。」

蓮葉は会話を終えて洗濯物を畳み始めた。そして菊花は自分のことを調べていた。

「えーっと…ここじゃなくて…」

性別やら年齢やら、全然関係ない情報だらけ。探すのも一苦労だった。

「え?」

探しているとき、たまたま見てしまった。全くの偶然で、そんなもの見るわけじゃなかったのに。

「死ぬまで…あと180日…」

そう。余命と言うやつを見てしまった。しかも残酷にも、80年とかそういう安心できるものではなく、ましてや単位が年ですらない180日だった。

「お嬢様?」

「蓮葉…私…」

「お嬢様。スーパーでお肉安かったんです。今日はごちそうですよ〜。」

「松木!」

涙ながらにその声を読んだ。


その後、一部の人にはこのことを話した。180日だと言って皆悲しい反応をした。それでも残りの余命を楽しめるようにと、色々なことをしてくれた。

その一つがスポーツ大会である。同じ異小課の交流の場が欲しいなと言うことで3人で色々と準備したのだ。

そして、その日から今日で180日が経ったのだった。

今日が最後の日なのだ。


任務で集落の周りでそれぞれ監視していた新達。ただ待ちぼうけていた。

「ただ待つだけと言うのも、暇なものだな。」

その一人、凪は自分のところへ来たものの、何もできず暇になっていた。

「何か作っておくか。」

暇つぶしも兼ねて、何かと役立ちそうな薬を先に作っておくことにした。

回復薬とか、あって損はないからな。

作ったあとの薬は基本的に運ぶのが難しいので、ほとんどの薬は、現地調達となる。とはいえ、少しくらいなら持っていけるのも事実なのだけど。

「ふんふふーん。」

鼻歌を歌いながら呑気に近くの草から回復薬を作り始めた。


ゴンゴンゴンゴン

「なんか、うるさいな…できれば静かであって欲しいんだがな…」

回復薬作りに集中していると、ふとうるさい音が聞こえてきた。自然の音というよりは、工事現場などでよく聞く機械音のような…

薬作りはとても繊細。例えば、少しでも配分を間違ってしまえば効果が弱くなり、挙句の果てには毒薬になってしまうこともある。

製薬の薬研があるとはいえ、生半可な気持ちでやっていいことではないのだ

「あっ…あぁ…」

強い振動を感じた。その振動によりもう少しで完成しそうな回復薬が溢れて使い物にならなくなつてしまった。

「はぁ…まぁ、こんなこともあるか。」

集中が切れ、息抜きにと周りを見渡した。そのときに気がついてしまった。

「…あれだな。多分。」

それなりに近い位置に、5mほどの大きな動物がいた。断定は出来ないが、任務の魔族であろう。

「俺のところで魔族が出た。応援を頼む。」

凪は全員にメールで伝えた。


「さて…どうするか。」

というのも、凪に攻撃技はない。デバフの薬は作れるが、直接ダメージを与えるものは作れないのだ。

「そうだ。ずっとそこにいろ。」

幸いなことに、まだやつは俺のことが気がついていない。しかも、逃げようとはしておらず、ただそこにいる。襲われているときなら俺だけだとかなりきついものがあったのだが、これならまだなんとかできそうだった。

「ガンガンガンガンガンガンガンガン。」

動くたびに金属音がなっている。本当に生きてるのか?ロボットじゃないのか?と疑ってきた。

そんなことを考えていると、運の悪いことに目があってしまった。


「あ、これ見つかってるぽいな。」

すぐに状況を察する。敵は凪の方へと向かって動いていた。

「ここで戦うのは悪手。とはいえ、逃げるのはもってのほか。結構詰んでるな。」

ここで逃げるのは勿論駄目。たまたま今は人がいないけど人が来たらその人が犠牲になってしまう。とはいえ、凪の武器の力の関係で、凪が戦うのは無茶でしかない。

「援助が来るまで惹きつけるしかないな。」

「おい。こっちだよ!」

移動してくる敵を惹きつけて山の方へと逃げる。作戦は成功し、敵は木々をなぎ倒しながら凪を追いかけていた。

「俺、山の方へと逃げてるから!山の近くに着いたら連絡頼む!」

逃げながら、携帯電話で山にいることを皆に伝えた。

「はぁ…はぁ…」

だが、凪は元々体力が他の人に比べて少ない。ないというわけではないものの、平均より下である。そしてここは山、アスファルトの走りやすい道とは違い、地面は木の根っこなんかで凸凹しており、さらにそれに追い打ちをかけるようにここは上りの斜面だった。

息切れも早くなって仕方がない。

なんとか逃げ切れているとはいえ、追いつかれるのは時間の問題だった。


「大丈夫?ってあれ、あのときの。」

「お嬢様。お嬢様はその人を連れて下がっていてください。」

「あのときの…確か…新潟県の異小課の…」

そう。凪を助けに現れたのは近くの秘密基地に来ていた菊花達3人だった。秘密基地の窓から、魔族に襲われているのが確認できたので、3人で助けに来たのだ。

「こっちに来るんやないよ。」

「お嬢様には指一本触れさせません!」

蓮葉は壁を作って相手の動きを封じ、そのスキにゲートを通って移動した松木が攻撃態勢に入った。

「松木!弱点は左足だって!」

「分かりました。お嬢様!」

菊花は能力審査で弱点を観て、そのことを松木に伝えた。見事なチームプレイだった。

「ガンガンガンガン」

「ちょっと!逃げるな!」

攻撃をくらってたまらなくなったのか、そいつは逃げようとした。蓮葉が壁を作ったものの、それを壊して逃げていった。

だが、逃げられたが、凪が無事であったので、結果としては良かった。


「お兄ちゃん。今お兄ちゃんがさっきいたとこ着いたよ。大丈夫?」

「あっ…繁。うん。大丈夫。」

凪は繁に事情を説明した。

「逃げられちゃいましたか。これで大人しくするんだったら私達もわざわざやりに行かないんやけどね。悪いことするからやるんですもの。」

「お嬢様。お怪我はありませんか?」

「大丈夫だって松木。それより、二人も大丈夫?」

3人で、話を咲かせていて、完全に凪は置いてきぼりくらっていた。

「そういえば、大丈夫?」

「大丈夫です。ありがとうございます。」

実際3人がいなければ危ないところだった。凪は3人に対してお礼をする。

「それにしても、なんでこんなとこに?この近くは、あんまり観光地も何もなかったと思うんやけど。」

「いや、そうじゃなくて…」

その時、なにかに気がついたかのように、蓮葉は凪を連れて声が聞こえないくらいの距離まで菊花達から離した。

「あんな。多分光坂さんに呼ばれたんやろ?もし違うのなら違うって言ってほしいけど、光坂さんに呼ばれたので合ってるなら、そのことは黙っといてほしいんや。」

「光坂さん?」

誰のことだ?少なくとも、そんな名前を聞いた覚えは凪になかった。

「あぁ。光坂さんって言うのは、私達のとこの異小課の上司のお姉さんのことや。もしかして、本当に関係なく来たんか?」

「あぁ、あの人ね。多分呼ばれたで合ってる。」

「ほんまか。なら、黙っといて。せっかく来てくれて悪いとは思っとるけど、ここで話してもうたら、意味がなくなってしまう。お嬢様のためなんや。頼む。」

蓮葉は頭を下げて懇願した。


「え、いいですけど。」

「ほんまか!?ありがとうな。」

「あ、お兄ちゃん。探したんだよ。」

蓮葉が凪にお礼を言って喜んでいると、凪以外の異小課の4人が来た。

探すのにかなり手間取って、その間に合流したらしい。

「あ、なんか事情があって、俺達が任務でここに来たことは、言わないでほしいって。」

「そうや。お願いするな。」

わざわざ言う必要もないので、他の4人も納得した。

それに、凪が彼女らに助けてもらったと言っていた。助けてもらったのだから、その礼としてもそのことを聞き入れた。

「蓮葉?」

「お嬢様。申し訳ございませんでした。どうしても話したいことがありましたので。」

「蓮葉、お嬢様には時間が無いのにそんなことでお嬢様の時間を費やさせるんじゃない。」

松木は蓮葉に眼で怒っていた。


「まあ、私はいいんだけど。あれ、確か富山県の5人だったっけ?全員来てたんだね」

「まあ、息抜きに全員で旅することになって、それでここに来たんです。」

西さんに頼まれたように真の理由が分からないように伝えた。

「楽しんでね。」

南さんは笑顔で答えた。

「さてと、松木、蓮葉、さっきの倒しておきたいんだけど、いい?」

「お嬢様!?いいんですか?俺達が後日倒しておきますよ。だから、今日わざわざやる必要はないです。」

松木は菊花の事情が分かっているからこそ、こんなことに時間を使わせたくないと考えていた。今日で終わりだというのに、最後まで仕事というのは、いささか悲しいことだからである。

「そうだけどさ、あのまま放置したら無関係の一般人が巻き込まれちゃうじゃん。とはいっても、実際に倒すのは二人だから、私が言えることじゃないことは分かってるけど。でも」

「お嬢様。私はえぇよ。お嬢様がやりたいことなら、全力で手伝うっていうのがメイドってもんや。それで、松木はどうするんや?」

そう言っている蓮葉だったが、心の中では、あまり仕事させたいとは思ってなかった。そのためにわざわざ休ませたのだから当たり前だ。お嬢様の最後の日を有意義に過ごしてほしかった。

「…お嬢様がやりたいのなら、全力で賛成致します。」

お嬢様の残りの時間を有意義に過ごさせたいという気持ちと、お嬢様の意見を尊重したいという気持ちで葛藤していたが、お嬢様の意見を尊重したい気持ちが勝った。

「あ、俺たちも一緒に行っても良いですか?あんなのを見て黙っているわけにもいかないので。」

話に入っていけないような感じを出していたが、新は任務を遂行するために一緒に行くことを決めた。目的は同じなのに、分かれる意味はあんまりない。

「いいよ。人数は多いほうがいいしね。」

南さんは快く受け入れた。


「はぁ…はぁ…この山、急斜面すぎる…」

一方その頃、一人で山を登っている人がいた。

この山はあんまり人は来ない。そんなところを登っていて、怪しさ満点だった。

「会議の時間…流石に大丈夫だよな?」

腕時計をしきりに確認している。どうやら彼は会議に出るためにこの山を登っているようだ。

「うん?あぁユスか。」

目の前にさっき凪を襲って逃げ出した魔族がいる。こいつとなにか関係がある模様。

「早くしないとな。手に入れた情報を、伝えないと。団の繁栄のために。」

謎の言葉を呟いていた。


その後、俺達はさっきのやつを追いかけていた。

「足跡が残ってて良かったな。」

「これなかったら見つけるのきついからな。」

山の土に大きな足跡が残っていて、それで簡単に探せそうだった。

ただ…

「お嬢様に怪我させるなよ?」

「私のことはいいから、お嬢様のことはちゃんと守ってくれない?」

「ちょっ…誰か…助け…」

翔がさっきから2人に絡まれていた。助けてあげたいのは山々だけど、単純に助けるの無理そうだから…翔、頑張れ

「それにしても、3人共すっごく仲がいいですね。」

「うん。松木も蓮葉も、昔ながらの友達だからね。それに、こんな私でも着いてきてくれるんだもの。仲良くならないわけ無いじゃん。」

南さんは嬉しそうに答えた。やっぱり、他人から仲の良さを改められて伝えられると、人間誰しも嬉しくなるものなんだろう。

「そういえば前のとき思ったんですけど、メイドとか、執事とか、どういう意味なんですか?」

前とはスポーツ大会のとき。その時西さんは自分のことをメイドと、東さんは執事と言っていた。

「あぁ。その名の通りだよ。松木は執事として、蓮葉はメイドとして私に仕えてくれてるんだ。本当、私にはもったいないくらいだよ。」

「いえ、お嬢様が凄すぎて、私のほうが勿体ないぐらいであります。私めがお嬢様の元で働かせてもらっていることを光栄に思っています。」

「うるさい松木」

西さんの的確なツッコミがきれいに入った。

「へぇー。ってことは、南さんってお嬢様なの?大金持ちの。だって、そうじゃないと雇うのは無理だよね。」

愛香は悪気なく、ただ『凄いなぁ』という気持ちで聞いた

「あ、うん…」

しかし、そのことを聞いてあからさまに南さんの態度が変わった。

「ちょっと。こっち来て」

「え?はい。」

愛香は西さんに連れて行かれた。

「お願い。伝えなかった私も悪いけど、お嬢様にそのことは禁句なの。お嬢様は忘れていたいの。思い出したくないの。お願い。そのことは言わないで。」

ちょっと怒っているように言ったが、これもお嬢様のためを思ってだった。ずっと仕えてきたお嬢様と、会って数回の人だったら、お嬢様の方を優先するに決まっているのだ。

「はい。ごめんなさい。」

愛香は素直に謝った。


「うん。」

愛香に対し、蓮葉は頷いた。

「お嬢様の嫌な過去やからね。忘れさせてあげたいんよ。本当、あのことは…なんで許せないったらありゃしない。」

元の列に戻って足跡を追いかけた。その間、蓮葉はその過去のことを考えていた。

愛香に言う際に思い出してしまった。お嬢様の酷く悲しい過去。

(許せない。お嬢様がこんなにも生と死の境目にいるというのに、罰をうけずのうのうと暮らしているのが。)


数年前、蓮葉がメイドになってかなりの月日が経った頃。

「おい菊花!なんだこの作文は!」

「お父様。どこが悪かったのでしょうか?」

お嬢様が怒られている。お嬢様の作文を見た感じ、特に問題は無かったように思えたんや

けど…

「お嬢様を叱り飛ばすなんて…いくらお嬢様の父親としても…生かしておくべきか…」

「松木、止めろ!どっから取り出してきたのか分からんがその銃をしまえや!気持ちは分かるけども。」

松木が何故か銃を準備していた。そないなもんどっから取り出してきたんや…

松木はお嬢様の執事。お嬢様に使える者同士、それなりに交流はある。最も、松木は私以上にお嬢様第一に思ってて、それでか私とはあんまり交流しようとしないんやよな…いつかもっと仲良くなりたいな…

「お前に何が分かる!」

「問題起こしたらこの家追放されるぞ!」

「あっ…ちっ…」

この脅しいつも強いなって思う。家追放されたらお嬢様の執事として働けなくなる。だから、聞かざるをえなくなる

「お前はわしの後を継ぐ、そうしかないだろ!なのになんだこの作文は!『将来の夢 警察官』だと?ふざけてるのか!」

「ふざけてません。私は、他人の助けになれる警察官になりたいんです!」

松木の件で忘れそうになったけど、お嬢様が怒られている件に話を戻そう。

それで、将来の夢ね…私には縁のない話で、その分あんまりわからないんやけど、これはお嬢様の方が正しいと感じるんやよな。

最近はこんな感じのいい争いがしょっちゅう起きていた。

そして、その争いに油を注ぐ出来事が発生したのであった。元々あった対立は、その出来事で修復不可能なラインまで来てしまったのだ。


「おぎゃぁぁおぎゃぁぁ」

「生まれました!元気な男の子ですよ。」

病院にて菊花のお母さんに男の子供、菊花の弟が生まれた。

普通であれば喜ばしい出来事である。だが、菊花はこのことが原因でさらに親との関係が悪くなるのであった。


「菊花。お前に話したいことがある。」

ある日、菊花はお父様に呼ばれた。特に大事な話なので、人払いをちゃんとしている。

「わしの息子、曽根が生まれた。それでだ。お前がわしの跡を継ぎたくないというのはわかっている。わしとしても、嫌がる人にやらせるのは不本意ではない。そんなものがやってもやる気があまり出ない。でだ。これは予定だが、曽根に家を継がせようと思う。」

ほかなら、これが原因で姉弟喧嘩が起きてしまうかもしれない。家を継ぐ予定だったのに、急に変えられたら、怒りがこみ上げかねない。

だが、菊花は違った。菊花はそもそも家を次ぐことに興味がない。彼女がなりたいのは警察官だった。

「え、継がなくていいんですか!」

菊花は笑顔で答えた。しかし、それに対するお父様の答えは予想外の答えだった。

「ああ、だから、大人になったら朱雀家の御曹司と結婚しろ。家を大きくするためだ。」


「え?どういうことですか!」

怒りをあらわにする。騙された気分だった。

「どういうも何も、そういうことだ。」

お父様はしっかりと言い放つ。菊花は少し黙った。

それはそのことを考え込む時間でもあったし、お父様に対して昂る感情を抑えるための時間でもあった。

「お父様、私が家を継がなければならないことはある程度理解できます。ですが、結婚を勝手に決められるのは、断固として抗議します。」

家を継ぐことは私がそのとき一人っ子だったから、お父様が亡くなると誰も次ぐ人がおらず、お父様が経営する会社で働く人が路頭に迷ってしまうのでまだ理解できた。でもこのことは受け入れられなかった。

「うぇぇぇんうぇぇぇん」

「曽根を泣き止ませに行くから、この話は終わりだ。」

菊花の言った言葉を無視して、お父様は部屋から出ていった。


「お嬢様?どうかされました?」

自室の机に向かって大きなため息をついてると、部屋におやつを持ってきた松木に聞かれた。

「聞いてよー」

人払いをしたこととかもう知ったこっちゃない。松木にそのことについて愚痴った。

あんまり愚痴とかやらない質だけど、松木だからか愚痴った。それだけ、松木を私の親友と思ってるってわけだけど。

「ははっ。愚痴ったら気が軽くなったよ。ありがとう。」

「お嬢様を…お嬢様を勝手に…お嬢様は、それでいいんですか!あっ…ごめんなさいお嬢様。」

びっくりした…松木の大きな声に鼓膜が破れるかと思った。

でも、私のことを考えてくれていると思うと、なんか嬉しいな。

「いいよ。それで、いいかと言われると、勿論駄目なんだけどね…」

会ったこともない人と婚約されるなんてね…嫌に決まってる。そもそも、私はあんまり婚約とかしたいってわけでもないしね。大人になったら変わるのかもだけど。

「酷い話やね。」

うんうん。って、

「蓮葉!?いつの間に…」

「お嬢様が愚痴ってたときからいたよ。先やらんといけへんことあったから、会話に参加せぇへんかったけど、話の内容はちゃんと聞いてたんよ。」

「蓮葉、つまりお嬢様が私にだけ打ち明けてくれた話を盗み聞きしただと?万死に値する。」

「ちょっと松木、痛い痛いからやめろ、やめろって。」

松木は蓮葉の首元を掴んでいた。

「松木、止めて蓮葉が…」

「は、すみませんお嬢様。」

松木は暴走するとこうなるのが玉に瑕だなぁ。執事としてはちゃんとしているのに。

「お嬢様には、夢があるんやろ。でも、そのためのことができない。なら、自分で夢を掴めるよう道を変えればいいんや。一般的な道が、真に正しい道とは限らへんのや。私だって、一般的に見りゃかなり異質な道を通っとるけど、この道に満足してるのやし。」

なるほどね。まぁまぁ言いたいことは分かったな。

要は、夢を追う方法は一つじゃないってことだよね。

「で、それでどうするんだ?まさか何も考えず、お嬢様に机上論をぶちまけに来たというわけではないんだろ。」

松木も、なんだかんだ蓮葉のこと分かってるんだな。仲良さそうで、嬉しい。

「一応論はあるんよ。まあこれを実行するかはお嬢様次第やけど。お嬢様がこれをやりたくないのなら、この話はなかったことにしてええ。」

「勿体ぶらずに早く伝えろ。お嬢様に。」

「あんな、もう、この家から出てしまうんや。親のせいで無理なら、親から離れてしまえばええんや。」


「…離れる。」

親から離れるなんて…やっていいの?

「元に私は親から離れたわけだし、この世界では親から離れちゃダメってわけじゃないんよ。子供が親元を離れて暮らすのは色々と問題あるかもしれへんけど、そこは私がなんとかしたる。今よりは多少不便になると思うけど、私が働いて金稼いでやるのや。」

「蓮葉、何勝手に一人だけ抜け駆けしようと?私もお嬢様のために働くに決まってるだろ。」

え?え?私するなんて言ってないよね?なんか勝手に話進んでるんだけど…

「いや、私それをするなんて…」

「勿論、これをするかしないかはお嬢様の自由や。私は別にどっちの選択肢を取ったかで態度とかを変える気持ちはこれっぽっちもないんや。お嬢様がしたい方を選んでや。」

そうだよね。ちゃんと考えないと


二人が部屋から出ていって、色々と考える時間になった。

このままここにいるのなら、少なくとも今の生活を維持することはできる。お父様から色々と言われるかもだけど、安定して大人になれる。

だけど、大人になってからはよく分からないまま結婚させられるという筋書きになっている。よく分からないから、本当はその人がめちゃくちゃ優しい良い人なのかもしれない。だけど、そんな確率に頼るのはなんだかなぁという感じだ。

逆に家を出たとしたら、家から出た時点で安定さは消えてしまう。今より不安定な暮らしになるに違いない。だけど、結婚という結末は変えられる。それに、お父様にとやかく言われることもなくなる。

「どっちかと言ったら家を出たいな。だけど…問題はお金関係なんだよなぁ…」

お金は生きるのに必要、だけど正直私はお金稼ぎなんてできると思えない。

そんな経験なんて無い。

「だからな…やっぱりやめるかな…」

「大丈夫ですお嬢様。お金のことは心配しなくても。私めがお金は稼ぎます。」

「松木、いつの間に。」

聞かれてたんだ…さっき松木蓮葉に盗み聞きだめって言ってたのに。

「私も大丈夫だよ。少なくとも困らせはしない。」

どこから入ってきたのかいつの間にか蓮葉が部屋にいた。

「うーん…なら…」

悩んだ末、自分がしたいことを尊重することにした。私はこのことを後悔しないよう自分自身に伝えたのだった。


「決めた。私は、この家を出る。手伝ってくれる?松木、蓮葉。」

「もちろんや。」

「仰せのままに。」

将来のことも考えて、こっちにすることになった。結婚される未来よりは、こっちのほうがいいと思う。


「お父様。お話があります。」

「あん?なんださっさと話せ。」

そのためにも、お父様に意思表示はする。お父様に伝えず勝手に出ようとも考えたけど、多数の人に迷惑かけちゃいそうだから、ちゃんと伝えないと。

「私は、この家を出ます。もうこんなところにいられません。」

「は?…勝手にしろ。駒が減るのは嫌だが、出ていくというのなら、さっさと出ていけ。くれぐれも、お家の品位を下げるんじゃないぞ。あと、俺は1円も出さないからな。お前が勝手に出ていくんだから。」

普通の家庭なら止めたりするんだろうけど、止めようともしない。

やっぱり、私のことを大事な娘として、見ていなかったのかな…

「…分かりました。さようならです。」

そう言って部屋を後にした。


「お嬢様。大丈夫でしたか?」

「うん。」

「お嬢様。物件見つけられましたよ。まぁ小さなアパートやけど…そこはな、仕方ないんや。なんとか、我慢してくれえや。」

3人で引っ越しの準備を始めた。もうここには戻ってこないだろうから、大事なものは全て持っていく。

「そうだ。これ伝えないと。私、悪いんだけど多分二人に給料払えない。いや絶対に払えない。断言する。だから、手伝ってなんて無責任に言っちゃったけど、断っていいからね。」

一人暮らしですら精一杯になるだろうし、二人に払う給料まで稼ぐ余裕なんてない。

「何言ってるのや。私がお嬢様に仕えるのはお嬢様への恩返しのため。私はまだまだお嬢様に全ての恩返しはできてへん。だから、給料なんて無くたって、お嬢様に仕えるのは変わらへんよ。」

「私めも、お嬢様に使えることを変える気はありません。これからも、よろしくお願いします。」

え?え?

予想外の答え。

「待って、ちゃんと考えて。給料が出ないってことは、生きるのもままならなくなるよ。考え直して。」

私に、そこまで感謝される筋合いなんてないんだ。私はただ生まれがお金持ちなだけの、一般人なんだから。

「私はそれでもお嬢様に着いていきます。お金は他のことをして稼ぎますので。」

「考えは変わりまへんよ。」

涙が出てきた。今まで生きていて流れた涙の中で、一番大粒の嬉し涙だった。

そして、家を出て、3人で暮らし始めたのだった。お金を稼ぐため、異小課に入ったりもしながら。


過去のことを思いながらも、蓮葉はみんなと一緒に進んだ。

「うーわ、最悪。」

「これは分からへんな。」

足跡を追い続けていたが、あるところを境にきっぱり足跡が無くなっていた。

といっても、誰かが足跡を消したとかそういう訳ではなく、ただ単に地面がここからかなり固くなってるのか、足跡が付かなかったみたいだ。

「どうしますか?お嬢様。」

「うーん…この辺りを少しだけ探して、手がかりが無いか探そう。足跡だけが、手がかりってわけじゃないだろうしね。」

南さんの意見に皆賛成した。


木々や地面を調べていくうちに、蓮葉と松木は少し深いところまでやってきてしまっていた。

木々が生い茂っていて、地面を照らす日光もかなり少ない。

だが、まだ帰りの方向が分かってるのが不幸中の幸いだった。

「お嬢様。お嬢様の意向に逆らいたいわけではないのですが、一度戻ったほうが良いのでは?これ以上行くと、戻れなくなるかもしれません。私のゲートも完璧というわけではありませんし。」

あの場所をちゃんと指定できるか難しいというのもあり、ゲートというワープができるものを持っているけど否定的だった。

「うん。あ、ちょっと待って」

今見えたけれど、あれは普通の動物って感じの大きさじゃなかった。もしかしたら…さっきのやつかも!

蓮葉は木の隙間からそれなりに大きな影を見て、そこへと走っていった。

「お嬢様!お嬢さ、痛…あ、お嬢様!」

突然走り出した菊花を追いかけようと松木も走ったが、ぬかるんでいた地面に足を取られ、派手に転んでしまった。

「確かここら辺に…」

菊花は松木が転んだことにも気が付かず、その場所へと行っていた。


「あれ?何であなたがここに?あ、もしかして…」

菊花はその場所にいた不審な人を見つけた。

そいつは、いきなり現れた菊花を咄嗟に殴って気を失わせた。

「くそっ!なんでこんなとこに…ここにいた事、そして何よりここでやっていたことがバレたら、おしまいだな…何とか気を失わせたとはいえ、このままじゃまずい!」

「お嬢様。どこにいらしゃいますか?」

松木は菊花を探している。転んだときに見失ったが、ここらへんの方角に来ていたことは分かっていた。

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ。悠長にしてられない。でも…そうだ。これがあるんだった。これで記憶を失わせれば…」

菊花に怪しい薬を飲ませ、そして自分のことがバレないよう証拠を持ってその場を後にした。


んあ…

「お嬢様!お嬢様!」

頭がぼーっとする。私は空を見上げていて、ちらちらと松木の顔も視界に入る。

「脈は…良かった。でもこれは…今から病院に移動しますね。」

「いや…私は、大丈夫。ちょっと頭がぼーっとするだけ…少し休めば、良くなるはず。」 

地面の枯れ葉に寝そべっていた自分の身体を起こした。身体を打ったかのような痛みと言葉にしづらい身体のダルさを感じる。

私は何をしていたんだっけ?松木の元を離れて…なんで離れたんだったっけ?

飲まされた薬のせいで、松木の元を離れたところからの記憶が無くなっていた。まだすべての記憶がなくなるものでなかっただけマシなのだが、大事なことを忘れてしまったことにすら気がつけないでいた。

「うん。だいぶ良くなってきたかも。」

「お嬢様。肩貸しますよ。戻りましょう。山は危険です。」

二人は足跡が消えたあのところまで戻っていった。


「はぁ…なんとか九死に一生を得た…ほんと、詰んだかと思った…」

菊花に薬を飲ませたその人は、やはり大丈夫か気になり、話し声を盗聴できる位置で、二人の様子を探っていた。

「聞いた感じ。記憶消しの薬は効いてるみたいだな…あいつが作ったやつだったから、いまいち信用できなかったんだが。まぁ…これでこいつらは放置で…」

そうなればまだ良かった。もし放置する道を選んでくれたら、まだ安全ではあった。

菊花が見た光景のことは何か分からないが、とはいっても実害は喰らわないはずだった。

「いや、この世界に永遠に効果が続く薬なんてないな。何回も重ねがけして、効果を延長したのならともかく。あの記憶消しの効果も、いつかは切れてしまう。それなら、切れる前に始末しておかないと。」

菊花に魔の手が迫っていた。そして何よりも不味いのは、菊花、そして他の誰もがこのことに気がついていないことだった。

気がついているのならともかく、気づいてない魔の手から逃れるのは、想像の10倍難しいのである。


「あ、お嬢様も松木も、遅かったな。どこまで行っとったんや?」

色々とあり、戻るのが本当に遅くなっていた。

「うん。行きすぎちゃってね。ごめんね。」

「いや、謝らなくてもいいいんやよ。無事だったんだし。そうそう。新しい足跡見つかったで。やっぱりここら辺だけ足跡が付きづらい地質だったんやろな。」

二人の無事もあり、笑顔で蓮葉は言った。


蓮葉が見つけた足跡を、全員で追い続ける。

その様子を、さっきの怪しい人が木の隙間から覗いていた。

「うわぁ…面倒くさい。2人しかいなかったんだし、さっきのときに二人共仕留めりゃよかったな…。ま、過ぎたことにとやかく言っても仕方がないか。それはそうと、どうやってやるか?効果時間が未知数な以上、早めに仕留めておきたい。」

首に手を当ててその人は考える。

「まず明日用事がある以上今日中に仕留めなきゃならない。明後日以降に仕留める選択肢もあるが、効果時間の関係であまり選びたくはない。で、どうやって仕留めるか。俺が自らこの手で倒すというのは…いや、相手の人数的にかなり劣勢だし、何より仕留める前に逃げられたらお話にならない。却下だな。」

そんなこんな小さな声でぶつぶつ言ってるうちに、菊花達は足跡を追いかけて移動していた。考え事に夢中でこいつは気がついていなかった。

「なら事故死に見せかけるか。この山にはあいつもいたことだし、あいつにこのことを伝えれば、確実とは行かなくてもかなりの確率で殺せるな。そして何より、任務中の事故として処理される。俺のこともバレない。最高だな。そうと決まれば、あいつに伝えに行くか。」

それなりに長い時間をかけて決めたようだ。

「え?あいつらはどこいった?」

今更になって気がついた。

「あ、いたな。あの感じ、山を色々と動いてるな。距離的にも最高だな。」

獲物を見つけた鷹のような目をしていた。絶対殺すと、悪人のくせに強い決意を持っていた。


「ふー…ようやく住処見つけられた。」

一同は足跡を辿って崖の近くの洞窟へと着いた。中から大きな音も聞こえ、間違いなく中にいると思える。

「ピギー!ピギー!」

え?何?

近くの木々にいた鳥たちが一話残らず羽ばたいて逃げていった。何やら不穏な感じを醸し出している。

「これは…強敵の予感がしますね…空気でわかります。師匠」

あ、そうなんだ。俺には分からないんだが

「強敵だとしても、私はお嬢様を守りつつ敵を倒す。それだけや」

「ふっ。お嬢様を守るのはこの私。蓮葉にかっこいいところを横取りはさせません。」

小さいところでは色々な思いが入っているが、みんなの気持ちは大部分強敵に立ち向かうこと。で一致していた


ゴンゴンゴンゴン

「出て来やがったな。」

戦おうとしたら相手側からこっちに来てくれた。正直に言って好都合だ。

狭く暗い洞窟内で戦うよりずっと良い

「皆、こいつの弱点は左足。そこを集中攻撃して!」

南さんからの指示通りに、俺達は左足を集中攻撃する。

「お嬢様には、指一本触れさせませんよ。」

「瞬間移動してと。」

まず、ワープ能力を使える二人が率先して攻撃した。次に

「よーし、巻き添えくらいたくなかったら離れてね!」

「電気は…効いてなさそうだな。」

俺が剣で、繁が銃で狙う。一発一発確実にダメージを蓄積させる。

ガンガンガンガンガンガンガンガン

なんだか様子がおかしい。音もさっきより速く鳴っている。なにか来そうな感じがする…

「こいつ、口から炎を吐いてくるらしいから、気をつけてね!」

一足早く南さんは伝えた。それに伴い、守護系の二人が受け止める準備をする。

「この盾で…」

「お嬢様。この後ろに隠れててな!私が壁を築いたるから!」

翔はいつものように盾を構える。そして西さんは無から炎を受ける防御壁を作っていた。

「熱っ…痛…」

「繁、大丈夫か?この薬を飲めば、火傷は治る。疲れたら回復薬を出すから、遠慮なく言ってくれよ。」

炎はかなり広い範囲に広がり、辺り一帯の木に火がつきかける。いつ山火事になってもおかしくない状況だ。

そして、この攻撃により繁が炎で軽い火傷を負ってしまった。しかし、凪が作った薬で傷を癒やす。

かなり安定した戦いとなっていた


今回は8人で戦っている。個人的にいつもより戦いやすい。

「松木!後ろは崖だ!死ぬぞ!」

「えあうぁ!はぁっはぁっ…」

東さんが相手の攻撃を警戒して後ずさりしていると、西さんが大声で伝えた。

ここはかなり崖から近い場所。正直ミスって崖から落ちかねない。そう思うと緊張してきた。

東さんも西さんの声で気がつけたが、それまで気づいてなかった様子だったし、崖から落ちてしまいかねなかった。


「くっ…熱いですが、まだまだ!耐えてみせます!」

盾で軽減されるとはいえ、翔はその熱さをもろにくらっている。凪も心配して薬を渡し、それを飲んで軽減しているとはいえ、翔がきついことには変わらない。

山火事のことも考えて、早く倒すのが吉だな。


「よしっ!相手の体力もかなり少なくなってきてるよ!」

左足を攻撃し始めてから少しして、南さんが言った。

南さんの力には今回かなり役に立ってる。戦うことはできなくても、サポートをして助ける役。

そういう役も、前線の役と同じぐらい大事なのだと感じている。


「っ…」

翔がきつそう。いつもと違って、熱まで盾で防ぐことはできないっぽいからな…

相手は炎を吐く攻撃か腕を動かして殴る攻撃の2つ攻撃しか今の所してこない。

攻撃パターンが少ないし、どちらも気をつければなんとかなるので、勝てない相手ではない。翔が熱さでダウンしなければ、の話だけど。

そうならないためにも、一回一回に力を込めて。


「ほう。これは神様も手助けしているようだな。ちょうど運良く戦ってる最中。周りの人達も含めて疲弊しているに違いない。」

怪しい人が菊花のことを少し離れた所から見つめて独り言を呟いた。

「さぁ、行って来い。目的はあの女。周りのやつに関しては殺れなくてもまだいい。勿論、殺れるならやってしまえ。」

「ワオーン!」

近くには犬型の魔族がいる。だが、その魔族は怪しい人の事を襲わなかった。これがただ単にこの魔族が凪や繁のような人を無闇に襲わない魔族だったら良かったんだけれど、その魔族のいかにも人を喰いたそうな様子から、それが違うことは明らかだ。

そして、その魔族を菊花達に向けて放った。菊花達を喰らいに走り出す。

「魔族と戦ってる時点で、戦いに負けて死ぬことは覚悟できてるよね?なら、こう死ぬのが本望でしょ?」

めちゃくちゃな文。この人の思考は常人とはかけ離れていて狂っていた。


一方、新達は。

「もう少しで倒せそう。」

相手の動きもぎこちなくなっている。体力も残り僅かなのだろう。

「ガン!」

いきなり大きな音が鳴った。まるでスピードを出した自動車が壁にぶつかったような、そんな音。

そして、急に戦っていた相手が倒れた。誰も、とどめを刺したわけではないのに。

「グルルルル…」

そして、目の前には大きな野犬のようなやつが俺たちを睨みつけていた。


「温厚的な動物ってわけじゃなさそうやな。というか、この世界の動物とは違うな。」

「ええ。お嬢様、決めてください。戦うか、私のワープゲートで逃げるか。」

「勿論戦うよ。さっきのと関係あるかは、まだ分からないけど、人に危害を加えようとする時点でね。ここは集落からとても遠い場所、とは言えないしね。」

さっきのやつが集落まで来ていたし、こいつも集落まで襲いに行く可能性は十分ある。

「分かりました。」

あっち側は戦うみたいだ。勿論、俺達も戦う。確かにこれは仕事とは違うこと。だけど、ここで帰れるほど俺達は神経図太くない。

「戦いましょう。日本の自然の山に、外来種なんて必要ないんですよ。師匠」

「ああ。」

山生まれ山育ちの翔は、山のことがここにいる誰よりも分かっている。山を愛するものとしても、他人事ではないと感じているのだろう。


「弱点は…無し。強いて言うなら心臓などの、生きるのに必要不可欠な器官。」

「弱点無しか…こりゃ時間かかるな。まぁ、無敵と言われるよりは何万倍もええんやけどね。」

弱点無しと言われて一時は戸惑ったけど、よくよく考えたら俺達はあんまり弱点を特に攻撃していない。まず、任務のときでさえ弱点を教えてもらってない。

なら、弱点無いとはいえ、いつもと同じ感覚でなんとかなるのでは?と考えてしまった。

弱点があるかどうか分からないと弱点がないと完全に分かっているのでは、実際は結構な差があるのだが、そのことに新は気がついていなかった。


「このやろ…速い!あぁもう鬱陶しい!」

東さんがキレている。それなりに大きな体のくせに速い。戦えない速さではないものの、体力の消耗が激しくなってしまう。

「お嬢様を傷つけさせはしませんよ!」

西さんは壁を作り出して南さんを攻撃から守っている。

攻撃されてもそれに対処するのではなく南さんを襲おうとしている。その姿に少しばかり違和感を覚えた。

考えるとすれば、一番襲いやすい獲物を狙っている。とかか?

南さんは情報を見ることはできるがそれだけ。守る力も攻撃する力も持ち合わせていない。

有り得そうだ。こっちの凪も同じようだが、こっちは薬を作れる。作っているところを見て、南さんを狙おうとしたのかもしれない。


「年齢とか性別とかじゃなくて!もうちょっと、有用な情報をお願い!」

南さんはずっと調べ続けている。だけど情報が多すぎて調べるのに手間取っていた。

一つのものに関する情報でも数万は軽く超える。弱点とかはよく使うので場所が分かっていたけど、あまり使わない情報は一つ一つ探さないといけないのでかなり時間がかかってしまうのだ。

「お嬢様。すみませんがジリ貧です…材料が…」

「うん。今探しているからね。蓮葉。頑張ってこらえて。」

蓮葉の製造の力は使うのに材料が必要。武器に材料を入れる必要がある。

だけど、その材料の量があまり多くない。最大量入れていたのだが、先程の戦いもあり多いとはいえないのだ。

作ったものを壊して材料の回収ができるけど、それも使った元の量よりは少ない量しか回収できない。


「瞬間移動で!」

「凍らしても無駄なんですか!?」

「今少し電気効いたな。でもほんの少しすぎてあんまり使えはしないか…」

全員で様々な方法を模索する。ダメージを与えることはできているものの、有効打になるかと言われればそうでもない。

「翔、こっちにいるよりあっち行ったほうがいい。」

「いやでも、凪が狙われるようなことになったら…正直凪に攻撃を避けれる自信はないよね?」

一方。後方で、菊花達のいるところの反対側に二人はいた。

「そんなもんないな。でも大丈夫だ。こっちにはなんてったって薬があるんだ。回復手段があるのなら、ダメージは気にはならない。それより、相手はあの二人を集中攻撃している。ここで何もしないよりは、守ったほうがいいと思うぞ。」

「確かにそうだが、どう考えてもこういうタイプの場合盾役が一緒の場所にいるのは得策じゃない。それぞれが半分ずつ守るのが一番良いやり方だ。」

凪は狙われている二人を守ったほうがいいと、それに対し翔はあっちには一人盾役がいるから、凪やその他のメンバーがいるこちらで盾を構えていたいと対立していた。

翔はこの戦いが始まってから一回も盾で守ってない。一応空気球を打ったりもしたけど、まぁ盾がメインの武器な時点でダメージは期待できるようなものではない。

そこだけ聞くなら凪の言うようにしたほうがいいが、相手がどう動くかわからない以上、翔の意見も正しい。薬があるとはいえ、凪が普通に攻撃を喰らったら立て直せるかもわからない。

「誰にも傷つけないのが、盾使いです。だから!」

そのようなこともあり、翔はそこから動けなかった。少なくとも、襲われている二人の状況がヤバくなるまでは


「ワオーン!」

相手がいきなり大きな遠吠えをした。さっきまでと急に様子が変わると、なにか起きるんじゃないかと身構えたくなる。

「うわ!突き破ってくんのやな…確かに土の壁とやけど、それなりに固いんやぞ…」

力を込めて突進し、蓮葉が作った土の壁を壊した。幸い(?)なことに、攻撃を受けたのは蓮葉の足首だけだった。

そして二度目の攻撃を喰らわぬよう分厚めの壁を相手との間に作った。

「蓮葉、それ…」

「大丈夫やお嬢様。ただ少し血が出ただけ。こんなん、虐待の痛みと比べれば、断然痛くもないんや。それにな、私は今幸せなんよ。メイドとして、お嬢様を危機から守れた。これは、使用人としては最高の誉れや。」

それなりに大きな怪我だったのだが、蓮葉はお嬢様を心配させないためか、少しと平静を装った。

「これ、回復薬です!受け取ってください!」

「ありがとうな。さてと、まだまだ壁を作って。」

凪が投げた(手渡しで渡すのは凪の自衛能力の低さからして危なすぎるので)薬をキャッチして飲み、また、壊れたところに追加で土の壁を作り始めた。


「さてと、さぁボーナスタイムだ。お嬢様に危害を加えた罪。未遂とはいえ、覚悟はできてるよな。」

お嬢様に攻撃が当たるかもしれなかったといった怒りが松木をより駆り立てた。その怒りの中に、一応ほんの少しは蓮葉が怪我をしたことも入ってると思う。多分。

相手の速さで攻撃がしづらかったものの、先程壁を突き破った攻撃をしてからは、動きが鈍くなってる。攻撃系の人達はこれを機に一気に倒そうと攻撃を一斉に仕掛ける。

松木がワープゲートを通って近くに行き攻撃し、また愛香は瞬間移動で近くに行き攻撃する。新は剣を構えて腹のあたりを切り、繁は当たらないよう爆発に誰も巻き込まれないよう慎重に銃を撃った

「みんな!着々と体力削れてるよ!今半分ぐらい。」

南さんは皆に情報を伝える。あと半分。いままでと同じことをもう一度繰り返せば倒せるという思いで、心に希望の雲が浮かび始めた。


「はぁ…早く仕留めてくれないかな。こっちとて、早く帰りたいんだからさ。久しぶりの休みの日なんだし。」

遠くから、今新達が相手をしている魔族に命令した怪しい人が、ぼそっと独り言を言っていた。

「負けはしないだろうけど、万が一負けたときのことも考えておくか。あんまりボロが出かねないからやりたくないけど。」

嫌々そうにしながら、準備をしていた。

「一番最悪なのは逃げられたとき。サツが敵を目の前にして敵前逃亡するかっていうところだけど。万が一はあるからな…逃亡したときは、やつらの本拠地で張って、人目のつかないとこで殺すのが良さそうか。」

ありとあらゆる可能性を模索し、その対応を考えていた。


「ワオーン!」

「ちっ…ボーナスタイムは終わりかよ。これ以上お嬢様に危害を加えるんじゃねぇぞ。」

怒りの籠もった声で言い放ち、敵を睨みつけ、武器を構える。

先程まで動きが鈍かったものの、疲れが取れたのかまた元気になった。

そして、さっきまでは菊花を一度で襲ってたのに、今度は周りにいる人達を攻撃し始めた。

理由は分からないが、取り敢えず自分を攻撃してくる奴を先に倒しておいたほうが、より勝ちやすくなると思ったからと考えられる。

受けた命令は、菊花を殺すこと。菊花を倒すことはさっきの突進を何回か繰り返せばいけることは分かってるのだが、体力的に連発するとこちらがやられる。そのことに気がつくと、さっきまでは無視していた自分を攻撃してくる人達を、野放しにして戦うよりは、そちらを全滅させたほうがよい。そう考えてもおかしくはない。

この4人を倒したら、相手からまともに攻撃を受けることがなくなる。そして、こいつらは狙ってるやつと違って自分を守る術を持っていない。そうなるのは当然と言っても過言ではなかった。

「は、今度は俺かよ。お嬢様に行くよりは、断然いいな。」

「松木、いざとなったら壁を作ったるからな!」

攻撃する必要があるので、無闇矢鱈に壁を作ると逆効果になる。攻撃できるように、タイミングを見計らって壁を作らないといけない。だが、その場合壁を作るのが遅れると攻撃をもろに食らってしまうことを意味していた。

新なら剣で少しはガードできるかもしれないが、どうやっても松木のメリケンサックでガードするのは、無茶というものである。


相手へダメージを与えているのは確実だが、こっちにもダメージは少しずつ蓄積し始める。

的確に蓮葉は壁を作った。ちゃんとタイミングを見計らって相手の攻撃に合わせて作った。だけど、それを繰り返して、結果的に起きてほしくなかった事態が起きてしまったのだ。

「作ってと…作っ…作…あ、材料が無い…。悪いんだけど、私は壁を作ることができんのや。材料が無くなってしまったのや!祈ることしかできへんが、頑張ってくれ。」

材料が不足することで、壁を作れない。周りに少しある壁を壊すことで一応作れなくもないかもしれないが、壊したときに手に入る材料が少ない以上、壁が脆くなってしまうことは必至だ。正直、そうするぐらいなら今ある壁のままにしておいたほうがいい。今の壁は何とかあの突進以外は耐えれる。攻撃している人達が、これを利用して戦うしかない。

「俺が守ってみせる!」

その状況を見て、翔が盾を構えて、皆を攻撃から守る。蓮葉が壁を作れるから、仕事を二分割していた翔だったが、今となっては翔しか守りに参加できる人はいない。

だが、相手も防御している敵をずっと攻撃する馬鹿ではない。翔が攻撃をあまりしてこないことから、こいつは後回しでもいいと判断したのか、構えた盾をかいくぐって後ろにいる人に攻撃する。

盾を構えた状態では素早くは動けない。ダメージを抑えるものの、反動とかで倒れたらなんの意味もない。そのため、どっしりと足を固定して構えないといけないが、そのことを相手に使われた。

幸いなことに、これは通常攻撃。あの壁を突き破った突進ではない。血は出て痛みもそれなりに感じるが、あれを受けた蓮葉ほどではない。

とはいえ、あっちと違って何回もやってくる。一個一個のダメージが大きくなくても、何度も喰らえば大きなダメージになるのは当然だった。

皆、全身に痛みが走っている。特に近くにいる攻撃系の、新や松木などが。

とはいえ、松木はワープゲートを使えるから、危なくなったら逃げればいい。だが、ワープゲートで逃げることは拒み、近くの壁でダメージを避けていた。

「逃げれねぇ…ここで逃げたら、お嬢様にタゲが向くかもしれない…」

お嬢様のことを思うと、あまり逃げれず、そのせいでより攻撃を喰らってしまっていた。

「残り、30%ぐらい?応援してるね。」

どんどん削れていることを確信して、安堵して残りを削って行くのだった。


ヤバい…。ズキンズキンしやがる…。

口では痛みを隠していた松木だったが、身体の痛みは無慈悲にも襲いかかってくる。

今回一番攻撃をくらっている。逃げようとしないし、相手から狙われてしまうのも頷ける。

「ぐあっっ…」

また攻撃を喰らった。このままくらい続けると死にかねない。死ななかったとしても、重篤な後遺症が出かねない。

「おい松木!こっちへ来い!私からの命令だ!お前の身体が持たん!こっちにいれば、まだなんとかなる!」

「松木!?本当に大丈夫?無理しちゃ駄目!」

蓮葉と菊花も、松木の状況をスルーすることはできない。

松木の身体から血が出ている。しかも単なる石につまづいてコケたときに出来る、絆創膏を貼るような擦り傷ではない。

あちこちに痣ができ、また出血もかなりひどい。今すぐ病院に行ったほうがいいレベルだ。

「お嬢様。大丈夫です。そして蓮葉…俺は、お前の命令には従わない…。俺が従うのは、お嬢様だけだ…。」

松木は頑なに拒む。お嬢様のところへ行くと、状況的にお嬢様が襲われかねない。蓮葉の製造も使えない以上、それは避けねばならなかった。

「松木、なんでそんなに頑なに拒む?理由を話せ。私を納得させなければ、無理矢理にでもこっちに来てもらう。」

蓮葉の声は松木に対する怒りが入っていた。自分を大切にしないことに対する怒りが。

蓮葉はお嬢様も大切だが、松木も大切に思っていた。同じお嬢様に仕える従者同士、一緒にいるのも当たり前。そんなの、仲が良好じゃなければ基本続かない。

「……」

「…お嬢様のためだよ!お嬢様に攻撃をいかせないため!わかったか!」

松木は投げやりに理由を言う。

「松木に何ができると?今のボロボロのお前の状況で。倒されて、ただの時間稼ぎにしかならないのがオチ。無意味や。」

「時間稼ぎになるなら、意味はあるだろ!」

どちらも譲らない。いや、譲れない。

時間稼ぎは無意味とも言えるし、意味があるとも言える。これは矛盾してそうで矛盾はしてない。

どうせ破滅が訪れるという意味では無意味だし、その時間でできることがあるという意味では意味がある。

「それで生まれる意味は、幼い頃から一緒にいたお嬢様を裏切って、一足先に天国に行き、お嬢様を悲しませるほどの、意味はないやろ!」

あまり怒らない蓮葉がブチ切れた。その言葉に、松木の心が揺らぐ。

「いや…でも…」

葛藤が松木の心に生まれていた。


その頃、新達もそれぞれダメージを負っていた。松木よりは遥かにマシではあるが、痛いことは痛い。また、それとは別できついことが起きていた。

「はぁ…はぁ…ぜぇ…ぜぇ…」

戦い始めてからかなり時間が経っている。特に攻撃時にかなり動かなくてはならない新と愛香は疲れがかなり溜まっていた。

二人共持久力はかなりある方。新は今までいろんな戦いをしても乗り切っていたし、愛香は故郷では一番体力がないと言われていたものの、普通の人から見ればかなりある。村民全員忍者なあの村には、体力が優秀な子になるDNAが蔓延っているのだろう。

「一旦休んだらどうです?師匠。ここは何とかしますから。」

翔は最初の方何もしてなかったので体力は残っている。無理してやるより、一度回復させてからまたやる方が、かえって早く倒せると感じていた。

「まぁ…なら、そうさせてもらうな。」

自分の身体のことをちゃんと理解している。逃げられない理由があるわけではないので、木のそばで休憩することにした。相手の残りHPもまだまだあるし、無茶は禁物であると悟ったようだ。

「愛香も休憩すれば?」

「じゃあ、私もそうします。」


なお、このとき後方にいた繁と凪は

「回復薬が…全然間に合わない。」

「お兄ちゃん。頑張って。」

「繁。大丈夫だ。問題はない。ただ、ちょっとばかし、時間がかかってしまう。ただそれだけで。」

二人で応援しながら、それぞれ戦いに貢献していた。


そんな感じで休みを取っていたこちら側とは異なり、新潟県の3人は。

「いや…俺は…」

「何を悩むことがあるんや!早く決めろ!決断するまでの時間伸ばしたって、そんなに変わらないんやから!」

決断するまでの時間と言うのが長くなっても、2つのうちどちらかを選ぶということは変わらない。今の状況がちゃんと考えることができる状況ならこんなことも言わなかっただろうけど、ここは強敵との戦いの場。決断のために無駄に長い時間をかけてはならない。

「分かったよ。今回だけは、素直に従ってやる。今回だけな。」

「それでえぇで。つまり少なくとも、次回があるってわけやろ?」

ニコニコした顔で、蓮葉は松木に言った。


ワープゲートを使って松木は蓮葉と菊花がいるところに移動しようとした。

「グルルルル…ワン!ワン!」

だが、ゲートを作ったまではいいものの、ゲートを通ろうと、的に背を向けたその瞬間。背中を攻撃された。

しかも、いつもの攻撃とは違って少し力を溜めて放った攻撃。

相手も、背を向けた今しかないと思って、でも普通の攻撃なら駄目だと思って、逃げられず攻撃を当てられるギリギリの時間力を溜めて攻撃した。

「ぐぁっ…」

「「松木!」」

先程までの怪我で体力が残り少なかったのもあり、不意を突かれたその攻撃で、松木は倒れてしまった。攻撃により突き飛ばされ、崖の近くで倒された。

「はぁ…はぁ…うっ…」

倒れ伏した衝撃で足を痛めたのか、立つのも一苦労していた。

そして、相手からしたらそんな格好の獲物を逃すほど頭が悪い相手ではない。

周りから攻撃が飛んで来る中、そんなことを無視して松木のところに行った。

「これで、少しは…松木、お願いだ。耐えてくれ…」

そこら中の作った壁を壊し、それで松木との間に壁を作った。壁全てを壊して材料にしたとはいえ、材料はそんなに多くなく、作られる壁もそんなに頑丈なものとは思えなかった。


「瞬間移動!」

休んでいた愛香だったが、この状況を見てうかうかと休んでられない。休んでいて少し遅れたが、

瞬間移動で松木本人をこの場所へと移動させた

「あ…ああ…」

何とか今は助かった。だが、立つこともままならないことは変わらない。

一旦の危険を取り除いただけで、なんにも変わってない。

「ワンワン!」

「来たか…」

襲おうとしていた松木が急にいなくなって面食らっていたようだった。だが、今度は菊花と蓮葉のところを襲いに来た。

松木がいなくなったからか、命令を思い出したからなのか、それとも一番遅いやすそうだからか。理由は分からない。が、今は理由なんてどうでもいい。

「お嬢様。ここを離れましょう。少なくとも少しは。」

「うん。蓮葉、最悪私は見捨ててもいいからね。どうせ、今日が命日なんだし。」

明日は生きられないと思うと、むしろ私を守らないで見捨ててほしいとまで考えてしまう。

元の優しさなどから、自己犠牲の心が生まれた。

「そんなこと、私はさせません。最悪なことは、現実離れしているから最悪なんです。」

たとえ数時間程度でも、生きる時間が長くなるなら、全力で頑張ろうと、心の中で思っていた。


新や翔や繁や凪は菊花と蓮葉を襲う相手のこと追いかけていた。それに対し、愛香はこのボロボロな松木のことを見ていた。一旦病院に運んだほうがいいと考えていたところで、松木が声をあげた。

「お嬢…様!」

遠目で離れていく菊花を見ていた松木は、さっきまで立てないような状況だったのに、無理矢理にでも立ってお嬢様を追いかけ始めた。

火事場の馬鹿力というやつである。自分が切迫しているわけではないものの、お嬢様の切迫している状況を見て、普段の力を超えた力が出たのだろう。お嬢様に死なせないためにも。

「ちょっと!無茶ですよ!」

そんな松木の腕を愛香は掴んで止めた。こんなにボロボロになっているのに、行かせるわけにはいかないと。

「離せ」

「そんなにボロボロなのに、行ったらだめですよ。身体がもちません。」

通常時の松木なら愛香が腕を掴んだとて振り払うぐらい容易いのだが、今の松木はそれすらしなかった。それほど、体力が残ってない。

「お前が…勝手に決めるな。俺の行動を…決めるのは俺だ。他人に…とやかく言われる…筋合いはない。それに…俺の状態は…俺がよく分かってる。俺は…俺の身体は…必ずもつ。」

「!!」

愛香が手を離した。過去に他人から無理矢理修行された愛香に、その言葉は強く刺さった。

無言でゲートを開き、菊花のところへと行った。ここからだと斜面や岩やらで場所は直接見えないのだが、お嬢様のいるところを予測してそこへと移動した。


「お嬢…様…私めが、助けに…参りました…」

「松木!?お前、なんでここに!?」

予測は成功して、お嬢様のいるところへと松木は移動した。お嬢様のことならどんな奇跡でもおこしてしまいそうだ。

「お嬢様に…怪我はない…な。」

「あったりまえや。」

蓮葉が一部分を擦った程度しか喰らってはいなかった。少し血が出てるが、特に支障はきたしていない。

「松木…」

「お嬢様。」

菊花も松木の存在に気がついた。

「松木!なんで来ちゃったの…私を守るため?もっと自分を大切にしてよ…」

菊花は泣いている。松木のことを思って泣いている。松木が自分の身体より私の身体を優先したことで泣いている。


「お嬢様…っと、邪魔は、させないで、もらえますか!」

逃げまくっていると、いつの間にか崖っぷちに行ってしまった。菊花達は崖を背にしている。正直、ここから走って逃げるのは分が悪すぎる。目の前の敵をかいくぐって奥側に逃げる必要がある。怯ませる手段もないのに、それは無茶としか言いようがない。

「お嬢様。今は…これで、逃げ…」

松木はお嬢様にゲートをくぐって逃げることを提案した。敵前逃亡するようなものだが、勝算がまったくもって無い戦いをするよりは、逃げたほうが何倍もいい。

「ワンワン!」

「松木!?」

だが、相手はそのことをも的確に潰してきた。火事場の馬鹿力で動けていた松木を、容赦なく攻撃する。また、地面に倒された。

全身を痛みが襲う。立とうにも立てれない。

そして、それに追い打ちをかけるかのように、松木のメリケンサックが衝撃で手から外れていた。弱々しい力で握っていたものが、力がゼロになったことにより飛び出した。

持ってさえいればゲートを開くことができたものの、持っていないと力を使うことはできないのだ。


「松木!」

松木を救おうと危険を覚悟して菊花と蓮葉はその場へと突っ込む。

「くっ…」

蓮葉が身を挺してくれたおかげで菊花は無事に回収することができた。蓮葉もまだなんとかなるラインだ。

「逃げるは無理。勝つしかない。だけど…あの子達がここまで来るならいいけど、ここまで来れる確証がない。そもそも、来るかどうかも怪しい。来るとしても、いつ来るかもわからない。そうだ。」

蓮葉は何か思いついたようだ。

「お嬢様。正直これしか勝ち目はないと思います。作戦を話します。どうにかして、あいつを崖から落とす。これ一択です。落ちてしまえば、耐えれなければそれでよし。耐えたとしても、今よりはいい状態で戦えます。」

蓮葉の作戦は成功するかも分からないもの。一種の賭け。

こちらから攻撃がまともにできない以上、攻撃させて無理やり動かす方法は使えない。

相手が自滅するのをただ待つだけ。その待つのも、体力との戦いとなる。

「お嬢様。どうされますか?」

「分かった。絶対に勝つよ。」

最終決戦の舞台。戦いの火蓋は切られた。

お嬢様…蓮葉…

倒れて何もまともにできない松木も、心のなかで作戦の成功を祈っていた。


「はぁ…はぁ…」

崖から落ちてもらう。普通にやってみたが全くもって落ちてはくれなかった。

相手は崖があることを認識していないのか崖際だというのに慎重さの欠片もなく動き回っている。だから、やろうと思えばやれそうだった。

だが、相手は普通に追いかけてくる。だから、崖に落ちる場所に行かせるには、ギリギリまで崖の近くに相手をひきつけてから逃げなければならない。そうすれば、慣性で自然と落ちていってくれる。

とはいえ、ギリギリまで引き付けると逃げることができない。それが難易度を高めた要因だった。

「絶対に…3人で…勝つ!」

「蓮葉!調べてみたら、走ると少し止まりづらいって!」

蓮葉は強い意気込みを声にして、何回かチャレンジした。だが、未だ成功していない。


「なら!」

今まで一回も相手の体のどこかを崖から飛び出させてすらいない。本当にギリギリでやったら落とせそうなことには気がついたものの、危なすぎて却下した。

そこで、一か八かの作戦に出ることにした。

「お嬢様。私が囮となって崖の近くに引き寄せます。来たところを、私が掴んで無理矢理落とさせます。お嬢様は、やつの後ろから押して落とすのを手伝ってください。……これは、お嬢様にも危害が及ぶかもしれません。お嬢様が嫌なら、別の作戦を考えます。お嬢様、どうしますか?」

お嬢様に危害が及ぶかも、などと言っているが、どう考えても危ないのは蓮葉の方である。後ろから押すより、前で掴んでいる人の方を相手は襲うに決まっている。

蓮葉はそのことに気がついてたが、そのことは黙っていた。

「蓮葉、それって蓮葉の方が危ないよね?」

だが、菊花はちゃんと気がついていた。

「…バレてましたか。そうなりますね。でも、仕方ないんです。この作戦では、誰かが囮役にならないとそもそも始まりません。そしてそれをするのは、言い出した私の役目です。言い出しっぺの法則です。大丈夫ですよ。私は、虐待されても生きてたんです。運が良いんです。死ぬことなんて、ありませんよ。」

こんな緊迫した状況にも関わらず、蓮葉は笑ってみせた。ある意味蓮葉らしいとも言える。

「その言葉、信じるからね。」

「ありがとうございます。お嬢様。」


「さぁ、美味しい餌がここにいるんよ。早う襲って来なさい。」

崖際に立って蓮葉は挑発する。

(蓮葉が体を張ってやってるんだもん。失敗なんてできない。)

菊花は相手が蓮葉のことをじっと見ているうちに、木の裏に隠れた。相手から、私のことがバレないように。また、蓮葉の罠にちゃんとかかるように。

「ワオーン!」

「来たね。命を落とす準備が出来たと、考えさせてもらうよ。」

蓮葉に向かって突撃してきた。

「はっ!」

気合をため、襲いかかってくる相手の頭を掴んだ。

ここまでは、計画通りだった。

「ちょ…でも、放さないよ。」

掴んだからって相手の動きが止まるわけではない。

蓮葉は攻撃をもろに喰らってしまった。だが、位置的に落ちかねない場所にいたにも関わらず、蓮葉は体を巧みに回転させ、崖際ギリギリの位置で動きを止める。

また、そんなになっても、掴んだ手を離さなかった。

掴んだ手を離してしまうと、攻撃を受けたことが無駄になってしまう。だから絶対に、放さない。放せない。

掴んだまま蓮葉が回転やらをして、それに引っ張られたことと、さっきの攻撃の余波で、相手は少し疲弊して、ちょっとの間動けなくなっていた。

「蓮葉!」

菊花も木の裏から走って蓮葉のところへと行く。そして、蓮葉が掴んでいる相手を目一杯崖へと押した。

「せぇーの!」

それと同時に、蓮葉は掴んだ相手を崖へと引っ張った。

相手が動いている感覚を、二人共感じていた。

攻撃を喰らってしまうことが起きたものの、ここまでほぼ、蓮葉のシナリオ通りに動いていた。


「グルルルル……ワン!ワン!」

「うわっ…!」

「痛…ああっ!」

だが、身体を掴まれて黙っているわけはない。掴んできた手を振り払うために全身を揺さぶった。

この全身揺さぶりが本当に大きく揺さぶったので、さっき攻撃を喰らったときでさえ離さなかった蓮葉でさえも、手が離れてしまった。菊花も同じく外された。

これはかなりヤバい。相手を落とすことだけ考えてたが、蓮葉は本当にヤバい。落とされかねない。

必死に身体を動かすが、蓮葉が立ち上がるより前に相手は次の攻撃をした。


「蓮葉!」

今のままだと蓮葉が落ちちゃう!という心の思いが、菊花の体に火を点けた。

蓮葉に向かって攻撃してくる相手に飛びかかり、蓮葉を攻撃させないよう止めた。

「がう…がう…」

気性が荒い。だがこんなものに負けてはいけない。

相手が全身を揺さぶるが、さっきと違ってそれで手を離すこともなかった。がっちりと自分の握力を最大限発揮していた。自分の身体の他のエネルギーを全て、手に全集中させているようだった。

菊花はそして、相手を崖へと連れて行く。相手の必死の抵抗に、何度も足をすくわれそうになったが、少し動かされながらももう方方の足で立っていた。

「お嬢様!」

生きれることができた喜びか、また助けてくれたお嬢様への感謝か、蓮葉は笑顔でお嬢様のところへと走った。


菊花はその時、崖際へといた。奴を落とそうとしていた。

だが文字通りの意味で必死の抵抗をしてくる。崖にもう気がついていて、ここから落ちたら死ぬと本能的にわかっているのか。

「お嬢様。手伝います。」

蓮葉もそこへと着いた。身体は色々とあってボロボロになっていたが、戦いの最後は二人でやりたいという思いがあったのだろう。

「分かっ…危ない!」

だが、その時一瞬持つ手が緩んだのを察知し、相手は菊花から逃げた。

そして、逃げた先にいる蓮葉を攻撃しようとした。今いるのは崖際、攻撃を喰らったら確実に落ちてしまう。

そして、蓮葉は突然のこと過ぎて、避けようともできなかった。

「そらっ!」

菊花は無理矢理に捕まえる。だが、その時に揉み合いになって………

手で相手を掴んだまま、菊花は崖から落ちた。

「お嬢様!」

(あ、これ死ぬな。まあ、今日どうせ死ぬんだし、それなら、蓮葉を守って死ねたから。いいかな。)

崖の底から、大きな音が聞こえた。蓮葉の見た先にあったのは、頭から血を流した少女だった。


「おっ…オイ。」

松木はさっきまで倒れたまま戦いの様子を見ていた。勿論、さっき起きてしまったこともちゃんと見ていた。

十分に回復したのか、それなりに動けるようにはなっていた。落とした武器を拾い、ワープゲートを開く。

「行くぞ」

「……」

松木の声は感情がこもっておらず機械的だった。色々なる感情が入り混じり、結果なんの感情も出ていなかった。

怒り、尊敬、悲しみ、恨み、自責……ざっと出しただけでも、これだけはある。

蓮葉も蓮葉で、何も言えなくなっていた。ただお嬢様が死んでいないことを、心の中で祈るだけだった。

崖の高さとしては十分死ねる。落として相手を倒すという作戦を考えれる程度には高い。

とはいえ、完全に希望がなくなったわけではない。重傷は免れないだろうが、落ち方や落ちた場所などの要因によっては、死なない可能性だってある。


ワープゲートで菊花がいるところへと行った。菊花は頭から血を流していた。隣には菊花が落ちるときに掴んでいた、菊花を落とした元凶の魔族が絶命していた。

「あ、蓮葉……松木……」

「お嬢様!!今病院に連れています!」

蓮葉も松木も涙を流している。まだ生きていたという気持ちが、途端に二人を現実へと引き戻した。

「ごめんなさい。ごめんなさい。私が……お嬢様を……」

蓮葉は菊花の手を握って大粒の涙を流した。学校で習いたての救命処置を行っている。

蓮葉は自分のせいで重傷を負ったと謝り続けてる。

「菊花……謝らないで……私は……今日が命日……だから……」

痛みが尋常じゃないだろう。口を動かすのもかなり辛いだろうに、菊花は口を動かす。

「お願い……二人共……我がままだけど……仲良く……やっていってね……。仕事も……やってくれたら……嬉しいな……。」

「お嬢様!やめてください!そんな、遺書みたいなことを!松木が医者を呼んできますから!助かりますから!私のお嬢様で、いてください……。」

どんどん脈拍が少なくなってくのを感じる。また、蓮葉の声はもう聞こえてなかった。菊花は意識を失った。


1分ほどしてゲートの奥から松木と医者達がやってきた。

「いた!早く担架で運んで!」

医者達はゲートのことが気になりもしたが、そんなことより眼の前で消えかけている命の灯火に再び火を付けることの方が大事だ。

担架で菊花は運ばれていった。そこに残っていたのは蓮葉と松木の二人だけだった


「あなた大丈夫ですか?」

病院の人達が尋ねてくる。私もそれなりに怪我してるけど、何より松木のことを心配していた。そりゃこんだけ血が出てりゃあね。

「大丈夫だ。これぐらい、自分で何とかなる。」

心配する病院の人に、強い口調で言い換えした。意地でも病院の世話にはなりたくないみたいだった。

お嬢様の手術が終わるときにお嬢様と一緒いたいから。

「あの子達に事情説明しておかないと。今もあそこにいかねないし。」

「さっさと行ってこい。お嬢様のことを考えて、お嬢様が目が覚めたときお前がいたほうが喜ぶ。ゲートなら作ってやる。」

病院の中、手術室の前の廊下の椅子に二人は座っていた。蓮葉はそういえばあの子達のことをすっかり忘れていたことに気が付き、伝えに行くことにした。

「早くしないと……」

手術が終わったときに私はお嬢様のそばにいなければならない。お嬢様に話さないといけないことが沢山ある。

ゲートで崖の上へと戻ってきた。

「さてと、どこいるんや。」

逃げるときに通った道を戻った。多分どこかで会えると思う。最悪会えなくても、確か瞬間移動の使い手があの子達の中にいたから、それで帰るやろうけど。ほったらかしっていうのも悪い。……奴は死んだことは伝えないと。

数分ほど走っていると、あの子達を見つけた。未だ私達のことを探していたよう。優しい。

「大丈夫だったんですか?」

「うん。あと、奴は死んだ。お嬢様が倒した。だから……早く…帰ったほうがいいと、伝えに来た……帰れる…だろ?」

さっきの戦いを思い出して涙が出ていた。

「あ、はい……涙出てますけど、何かあったんですか?」

「君たちには関係ない。こっちのことだから。」

そんな感じで取り敢えず5人を帰らせた。


「はぁ……最悪。なんでよ。なんで死んじゃうんだよ。滅茶苦茶怒られる…」

一方、崖の下では、魔族の死体を戦いの黒幕の人が見ていた。

「それに、病院に連れて行かれちゃったし。生きてたら不味いな……。とことんついてない。できればついでに誰かオマケで殺せればよかったけれど誰も殺せなかったし。」

殺すことに躊躇してない。

「はぁ…ただでさえ仕事が多いのに……始末書も書かないと……嫌だー」

何かを嘆いているようだった。嘆きたいのはお前じゃなくて蓮葉や松木達だというのに。


蓮葉はすでに病院に戻った。手術は続いている。

「お嬢様!」

ようやく手術が終わったらしい。手術室から医者達が出てきて、待っていた私達のところへと来た。

「お嬢様は、大丈夫だったんですか?」

「残念ながら、つい先程、死亡が確認されました。」

頭が真っ白になる。死亡が確認された?え?

嫌だ。信じたくない。さっきまであんなに元気に戦っていたのに。

「おい、嘘なんだろ!質の悪い嫌がらせなんだろ!嘘って言ってくれよ!」

「信じたくない気持ちも分かりますが、本当です。」

お嬢様……

涙がボロボロと止まらない。お嬢様との思い出が脳内にどんどん出てきて、でもそのお嬢様がいなくて……

「お嬢様……まだ逝かないでくださいよ……。まだまだお嬢様に、お仕えしていたかったのに……。これから、誰のために、どうやって生きていけばいいんですか……。」

医者は次の仕事へと行き、そこにいたのは二人だけになった。

「お前が!お前さえいなければ!お嬢様は!」

怒りながら松木は私の胸ぐらを掴んでくる。そのことに蓮葉は抵抗すらしない。

「私が……あそこで軽率な行動を取らなければ!うぁぁ……がぁ……!」

死んだ直接の原因があの襲ってきた魔族にあることは分かっている。でも、蓮葉があそこで油断しなければ。油断してお嬢様に助けてもらう必要がなければ、お嬢様が死ぬこともなかった。

ただの結果論に過ぎないことだけど、それでも責めたくなる。死という大きな惨事が起きてしまっている以上、それでも責めたくなるのだ。

蓮葉も悪気がなかったとはいえ、そのことが分かってる。だからこそ、松木のやることを甘んじて受け入れていた。


「松木……蓮葉……喧嘩しないで。」

「「……!」」

二人の耳に突然聞こえた。ぼんやりとしていたけど、お嬢様の声。

「お嬢様!」

「どこにいますか?今迎えに行きます!」

「迎えは来ないで…。少なくとも数十年は……。死んじゃったのは残念だけど……意外と窮屈じゃないから……。だから、責めないで。」

「お嬢様…」

死後どうなるかはわかっていない。だけど、その中に幽霊になるというものがある。

二人が聞いた声は、その類だったのかもしれない。

「……はい。」

二人共涙を手で拭った。そして二人でこう言った。

「「お嬢様。分かりました。ありがとうございます。」」

お礼を伝えるときは泣き顔じゃだめ。それは、もはや暗黙のルールだった。


「あ、何とか終わりました。」

「おう。そうか。引き受けてくれてありがとうな。もう帰っていいぞ。頼み事はそれだけやしな。」

新達は蓮葉に何も分からずただ終わったことを伝えられたあと、とりあえず終わったことを伝えようと新潟県の警察署へと瞬間移動した。

「あ、あの倒すべき魔族を倒した後、関係ないやつが現れて、それを西さん達が倒したらしいです。それで、俺達はあんまり戦っていないんです。」

ありのまま正直に話す。真面目な新らしい。

「うん?蓮葉がいたのか?いや達だから2人…いや、3人共いたのか?」

「はい。たまたま会って、一緒に戦ってくれました。」

光坂さんは3人共と分かっていた。光坂さんは余命のことを知っていた。それで、その状況で3人のことを考えると絶対一緒にいると分かっていたからだ。

「それにしても、あいつら……。こんな時でさえ戦うとはな。あいつららしい。」

ちょっと気分が良くなっていた。

「さようならです。」

「ほいなー。」

置かれてあるゲートを通って帰っていった。

「頼んで正解だったな。仕事しちゃうとは、よりにも思ってなかったけど。」

まだ訃報を聞いていないので、良い感じになっていた。


「純様、あの子、亡くなったみたいです。」

「そうか……。」

この戦いから1日後、場所は山井探偵事務所。

菊花が死んだことを何故か知っていた。

「やっぱり死って…悲しいですね。余命どおり。死ぬことは分かっていたとはいえ…。」

「ああ。そうだな。」

時間は、鍛錬のときまで遡る。

鍛錬のとき、純と恋の秘密を知った菊花は、二人に依頼していた。

「私、2月の半ばに死ぬらしいんです。確かかどうかは分からないけど、多分そうです。私の能力審査で自分のことを見たら、そうだったんです。そこで、探偵の二人に依頼したいんです。私の死ぬまでにやりたいことの、手伝いをしてください。私はあなた方の秘密は死ぬまで誰にも喋りません。お願いです。受けてください。」

頭を下げて依頼してきたときを、今でも覚えている。

「あ、郵便来てますね。」

ポストに入っていた封筒。それを取り出す。

「差出人は……!南 菊花。」

その名前に純も反応する。

「見せてくれ!」

封筒の中には、綺麗に折られた便箋が入っていた。

明日死ぬかもしれません。なので、ここでお礼をしておきます。

私のわがままに付き合ってくれてありがとうございました。私のためにあんなにも頑張ってくれて、ありがとうございます。

あなた達のご活躍も祈っています。

南 菊花

「南さん……。」

恋は泣いていた。

「追伸もあるな……。ん!え?は?」

「……本当、優しすぎる子だったな……。」

純は、空にいる彼女に手向けをした。

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