第15章 大先輩との警察業!

「あれ、愛香も翔もどうかしたのか?」

「愛香。なんかあった?ちょっとぼーっとしているけど?」

久しぶりに警察署で集う。何か2人の感じに少し違和を感じた。言葉にすると難しいけど……

「あ、いや特に何もないから!」

「そうそう俺も。」

「ならいいけど…」

二人共何事も無かったかのように振る舞った。その様子を見て凪は

(この感じ何かあったんだな。翔に関してはわからんが、愛香は絶対に悠と何かあったっぽいしな。じゃないと、悠が急に「この前行商人の変装渡した子いるだろ?そいつのことちゃんと見ていてくれよ。いつ暴走してしまうかわからないから。辛さを他の人を心配させたくないっていう優しさで隠してしまうかもしれないけど、ちゃんと分かってあげてくれよ。」なんてメールしてこないだろうし。)

と、自分なりの推測をしていた。

だが、そんなメールがあったことすら知らない新と繁は、ずっと?マークを頭に浮かべていた。


「あれ…」

「愛香どうかした?」

「いや、気の所為だったから。気にしないで。」

愛香なんかあったのかな…

「っとうわぁ!」

ドアを開けて入ったところで、ドアの前にロープが張られていて、それに躓いて転んだ。

たまたまか倒れるところにクッションが置かれていたので痛くはなかったけど。

「ふふっ…」

「師匠!大丈夫ですか?血とか出てませんよね?」

「いや出てない。だから翔、ちょっと止めてくれ。体中触ろうとするな。」

翔の奇行も相変わらずか。

「で、これ誰かがやったんだよね?じゃないとこうはならないし。」

丁寧に近くのものにロープが絡まっていて、ドアの前にピンと張られている。どう考えても誰かが意図的にやらないとこうはならない。

「私じゃないですよ。」

「師匠の足を怪我させるようなことしません!」

「もちろん私でもないです先輩。」

うーん…

やりそうなのは石山さんか?次点で翔


「まあ、これぐらいならいっか。」

ちょっとした悪ふざけの範疇だし。このクッションも怪我させないようにおいたのかもしれないし。

犯人探しをする必要はないかな。

俺は張られたロープをとって、部屋の隅の方に置いておいた。

そして荷物を置いて、いつものソファに座った。

『プ〜』

「ふふっ。」

「師匠。おならしましたね?」

「いやいやしてないしてないよ!?」

「でも、音がそっちから聞こえましたよ?大丈夫です。師匠が人の多いエレベーターの中で臭いおならを意図的にしても嫌いにはなりませんから」

「シチュエーション酷いな。てか、俺じゃなくてこれだから原因!」

「あ、ブーブークッション。なんでこんなところに?」

「絶対誰かのイタズラでしょ…」

これ他にもイタズラ仕掛けられてるような気がするんだが。


二人が奥で話していた頃、こっちの女子二人も別のことを話していた。

「愛香、どうかしたの?」

「繁。なんだか誰かの視線を感じちゃって。気のせいかもしれないけど。」

「気のせいだといいね。」


「ハクションッ」

くしゃみが出た。今更だけどこの部屋寒すぎるよ。

「暖房付けるか。って、なんで冷房なってるの!」

「暖房にしてっと。もう誰がやってんだよ…」

笑えるようないたずらなのはいいけどさ、誰がやったのか分からないとなんか奇妙に感じちゃうんだよ。

「ここも久しぶりだな」

凪も帰ってきた。もしかして凪犯人説ある?いやなさそうだけど。念の為。

「そうだ年末持ち帰るの忘れてた荷物を取って置かないと。っ…うわぁっ!誰かなんかした?自分の荷物取れなくなっていたんだけど。」

「ふふふっ」

またですか。てか凪が引っかかるなら違うんかな。

わざと引っかかって自分を白く見せたのかもしれないけれど。うーん…分からん。

「あーこれ、引っ張っても取れないように細工されてる。」

凪は上から荷物を取った。流石にここまでやられると犯人見つけたほうがいい気がする。


「ねえ、このイタズラ誰か仕掛けた?」

「分からない。でも少なくともこの前の帰りのときにはこんなの仕掛けられてなかったと思うよ」

俺も、それは確かだと思う。

「師匠。もしかして石山さんでは?石山さんなら仕掛けること自体は簡単でしょうし。」

「あー確かに。俺たちの誰かがやったよりかはだいぶ信用できる。(石山さんならやっててもおかしくないかな)」

「ははっ。面白。それじゃあ最後の仕掛けをと。ポチッとな」

「それでー…え?何が起こった?」

「私分かりません…」

いきなり部屋の照明が落ちたと思ったら、机の上から強い光がついた。

天井を見上げると、『異小課』と漢字でLEDライトが置かれていた。

「はっははっ。成功成功。楽しい〜」

「ねえ、さっきから声が聞こえる気がするんですけど師匠。」

「奇遇だな。俺も聞こえた」

「愛香がさっき誰かに見られているような気配がしたって。」

うん。さっきまで気のせいかとも思ってたけど、みんなが言っているなら確実だろう。

この部屋、もうひとり誰かがいる。

そうと決まれば早速部屋の中を色々と調べ始めた。

そして数分後、

「あ、いました。不審者が」

「はははっ不審者ってw。」

掃除用具入れの中で愛香が女性を見つけた。この人が犯人か?

色々と聞きたいことがある。


「あー面白かった。ごちそうさま。」

……

「あのー、どちら様で?そしてイタズラ仕掛けた犯人ですか?あとなんでそこに?」

正確にはもっと聞きたいことあったけど、なんとか3つに絞った。

「私は佐藤美崎。これでも元はここで働いていたから、君たちからしたら先輩だね。恋ちゃん純ちゃんから君たちのことは聞いてたよ〜。」

そういえば前にいた人達がいたって石山さんとか言ってたな。全員急に辞めたって俺が入ったとき言ってた気がする。

一つ前に勤めていた先輩が部屋の掃除道具入れから出てくる状況もひどいものだけど。

「あー、じゃあ次を…」

「OK〜。いた理由でしょ?もちろんね。君たちの様子を陰ながら見守ろうと思ってね。普通に私がいたら変に意識しちゃいそうで、それじゃあつまらないからね。」

えっとつまり、後輩達がちゃんとやっているかが気になって見に来たってこと?でも俺がなんか勘違いしているような気がする。

「それで、イタズラ仕掛けたのは私だよ〜」

「やっぱりですか!?」

見てたっていうのも、そのいたずらの反応を見ていたと。何故か辻褄が合ってしまう。

異小課の人ってなんか変わった人が多いと思うのは気の所為なのだろうか。

「昨日の朝から色々と仕掛けたんだ。面白そうな楽しそうなイタズラを。私、後輩達が大丈夫そうか見ておきたかったんだけどね。ついでにイタズラ仕掛けようって。こういうのは、初見の反応を見るのが楽しいんだよ。」

後輩達に会うついででやるのはおかしいと思うんだが


「君達すっごいね!楽しいったらありゃしない。私が辞めたことで誰もいなくなったから、全然楽しくないのもあってここには全く顔だしてなかったけど、後輩が来てたならもっと早く行けば良かったよ。」

佐藤さんが5人の武器の力を体験して、その都度に楽しんで喜んでいた。もうこれ遊園地のアトラクションとか、デパートのショー的なそんな感じな気がする。

「本当、楽しかったよ。高校に行ってできなくなったけど、毎日くだらない雑談をして、そして敵を倒して、楽しかった……。もう一度あのときみたいにやれたらいいのに。って、私過去を省みたりするタイプじゃないのに。過去を懐かしむぐらいなら、今を楽しまないと。」

ぶつぶつと独り言を喋っていた。異小課時代の記憶かな?


「おーい、任務入ったぞ。って、いたのかお前。まあいいや、今回はかなりのアレだから全員で行ってくれ。」

「うん。任務?なら私も行こっ。任務なんて久しぶりだな〜。一人ぼっちじゃないんだし。」

あ、行くんですか。

「佐藤さん。大丈夫ですか?もう既に異小課やめられているのに…」

「大丈夫。戦うことも楽しいと思ってるから。仕事を楽しめとか、そういうの聞いたことあるでしょ。アレだよ」

あんまり分からないけどとにかく行けるってことでいいよね。

「そうか。まあそれで、任務の内容だが…」


任務の内容は至ってシンプル。雪が降り積もった雪原で起きた神隠し事件の調査。まあ十中八九魔族が関わっていると睨んでいるらしい。

「今回はコンディションが最悪だからな。十分気をつけろよ。特にそこら辺は天気が変わりやすいらしいから、今は晴れの予報だがいつ雪が降るかもわからんから」

「面白そう〜」

「そうだったこいつはこういう奴だった」

石山さんもは普通とは変わった人だと認めていたんだ。まあこんなヤバそうな事件を面白そうだなんて言われるとそうなるわな


「とりあえずここら辺らしいけど…」

愛香の瞬間移動で任務の場所の近くへと着いた。晴れていて視界は予想よりいいけど、雪がかなり積もっている。動きづらいったらありゃしない。

「雪合戦したいな〜」

この雪を見てそんな考えをしていた。考え方が根っから違うのだと思い知った


「でも先輩、神隠しと言う名の誘拐事件の調査だって言うことは分かったんですけど、どうやって調査するんですか?」

「ああ…何も思いつかん。犯人(人?)が隠れてそうな場所を虱潰しに探すぐらいしか…」

魔族が絡んでいるのならここら辺にいることは確かなんだが、ここら辺は一面雪景色。そんなに隠れられそうな場所もない。

虱潰し作戦で問題はなさそうに見えてきた。

「そもそも、何でこんなところで事件が起こるんだ?しかも連続で」

こんな雪原に人が近づくこと自体おかしい気がする。町や村が近くにあるわけでもないし。

「この奥に秘湯があるんですよ。師匠。それでこぞってここを通ったみたいですね。」

へーそうなんだ。まあ確かに山奥の秘湯とかテレビとかで見たりはするけど。

「てか、よく知ってたな翔」

「こういう山奥の場所に関しては俺の得意分野ですから。山で生まれ山で育った山っ子ですもの。」


「そういえば、私の武器について教えたほうがいいよね。まあ、私のやつ面白いから秘密にしときたい感は否めないけど、流石にね。実際の任務にしゃしゃり出たんだから説明するよ。」

「私の武器はこのシャベル。そして武器の効果は罠作り。その名の通り、これさえあればいつでもどこでも罠を仕掛けることが出来るんだ〜。考えた罠を作れるけど、イタズラとしても使えるから、本当に使いやすいんだよね。」

「え、つまりあの時のイタズラも…」

「うん。これを使ってやったんだよ。」

武器の力と使用者の性格がこれでもかというぐらい合ってるな。ここまで合うと、神様が意図的に渡した説があるんだけど。流石にないとは思うけど。

「でも罠を仕掛けたとしてもシャベルで相手を叩いたりはできないですよね?」

「うん。でも、罠を使うことで結構簡単に倒せるから、なんにも問題いらないよ。」

かなりのチート能力。


「何かあった?」

「ここにも何にもないっぽいね。」

「あれ、これなんだろう…あ、ただの植物か。」

とりあえず近くにある森を探していた。といっても、なんにも成果はなかったけど。

「本当に神隠しだったのかな…」

「ありえなくもないけど、魔族関係してそうとは言ってたからね…」

一応神様によって神隠しにあった説もあるにはある。実際親善試合旅行のときに神様とは会ったし。それに、その神様によって愛香と入れ替わるという明確な被害を被ったし。

だけど、魔族が関係してそうとも言っていて、正直半々ぐらいだと思う。

それに、この場所的に単に遭難しただけって可能性もある。その場合いち早く見つけないとやばいことになるけど。

「次のところ行くか。」

この森はくまなく調べたが特に何も見つからなかったので、次のところへと行くことになった。


「これは本当に酷い。皆、絶対に離れるんじゃねぇからな!こんな吹雪の中で見失ったら見つけるのは絶望的だからな!ずっと手を繋いでおけ!」

その場所へ行こうとしたとき、急に吹雪が強くなった。3m先も見えそうにない。

翔がいつもと違ってちゃんと的確に指示をしていた。珍しい。山育ちで、遭難の怖さをここにいる誰よりも知っているからだろうか。

「いや…これは愛香に瞬間移動してもらって一度帰ったほうがいいな。愛香!瞬間移動よろしく!」

しかし、愛香は何も応えなかった。

「愛香?」

「行かなきゃ」

「おい、愛香!?ちょっと、どこ行こうとするの!?誰か止めて!くっ…全然止まらない…」

愛香は行かなきゃとボソリとつぶやき、そして俺達から離れて吹雪の中どこかに行こうとした。

翔が叫びながら必死で愛香を止めていた。俺も一緒になって腕を掴んで止める。

それでも、愛香は動き続けた。俺たちの声は何も聞こえてないようだった。

「落とし穴をっと。」

「うわぁーー!?」

少し深めの落とし穴が愛香のところにできた。ちゃんと下にはクッションが引いてあって、痛みを受けないようになっている。

ただ、たまたま近くにいた翔が巻き添えを食らっていた。

「止める手段これしか思いつかなくて。」

シャベルの力で落とし穴を作って無理やり動けないようになっていた。少し深めなので、無理やり上がるのも一苦労だ。

「行かなきゃ…」

「愛香!しっかりしろ愛香!」

翔が愛香の首を揺らす。だが、それでも愛香はずっと同じことしか言わなかった。


「行かなきゃ。」

「よしできた!愛香、これ飲め!」

あれから十数分後、落とし穴の中で愛香はずっと同じことを言い続けている。一緒に落とし穴に落ちてしまった翔は繁や落とし穴を作った張本人が助けていた。そしてその間凪が何とか落ち着かせる薬を作っていて、俺は近くからそれを作るのに必要な材料を凪に言われて取りに行っていた

「行か…な…あれ、私…」

「戻った!愛香!大丈夫だったか?」

何とか凪の薬のおかげで愛香は正気を取り戻した。愛香の正気を取り戻すさまを見て皆安堵の表情を浮かべていた。

「え、ちょっと私何してたの?なんでこんな所に?」

「愛香本当に覚えてないのか?」

「はい…吹雪が吹き始めた頃から何も…」

正気を失っていた頃の記憶はないようか…何があってどうして愛香がこうなったのか、それも全く分からないまま。


「ちょっと待って愛香、やっぱり…愛香、刺されてる。愛香は体をあの魔族に乗っ取られていたみたい。」

魔族に体を乗っ取られた…怖…

「どういうことなんだ?」

「多分ハネミスという魔族が原因。そいつは自分の体から自分の小さな分体を作り出して、そいつが刺すことで強い洗脳作用を引き起こすんだ。そいつに刺されると、その主の元へと行かなきゃならないという強い洗脳を施して、無理やり動かさせて食べられるという趣味も悪いやつだ。俺の国でも同じことをして国外追放されたやつだが、この世界に来てまで悪さをしているとはな…」

「お兄ちゃん…」

酷いな…。たまたま俺たちがいたから何とかなったものの、一人でいたらどう考えても愛香は食べられていたんだよな…

この近くで起きていた神隠し事件もそいつの仕業と見て間違いないだろうな。正気を失うさまを見ると神様の祟りとかそういう考えになったのかもしれないし。

「すみません。俺としてはあいつは倒したいです。人間を惑わして殺すのは、許せない行為です。」

凪が珍しくここまで怒りに燃えている。

「勿論そいつを倒すか。それがこの任務でもあるんだし。だが、刺されるのは大丈夫なのか?」

「それなら大丈夫。この薬を飲みさえすれば刺されなくなる。実際には皮膚を少し固くしてさせなくするんだけど、まあそこら辺はそんなに重要じゃない。」

「へぇ…随分と面白そうな戦いになりそう。」


「愛香がさっき行こうとしていた方角、そっちに本拠地があるはず。」

愛香の薬を作っている間に吹雪は去ったので、全員でその方向へと歩き始めた。

また歩いている間、愛香に「乗っ取られていたときに変なことしてないですか?」と聞かれたので、乗っ取られていたときのことを教えていた。

「行かなきゃ…っと…そんな感じだったんですね。なんにせよ、皆さん止めてくれてありがとうございます。」

「いいって。どう考えてもおかしな状態だから止めただけだし。」

「だって子供がどこかに行くなんて全くもって楽しくないからね。そんな悲しい話は、起きないほうがいいんだよ。笑顔じゃなくなっちゃう。」

相変わらず楽しさとか面白さを軸に話すけど、悪い人じゃないんだろうな。本当に悪い人なら助けたりしないもんね。だから問題ないかな。


「ところで、さっき言っていた俺の国でも…とか、どういうことなの?気になるから教えて。」

「ああ…それは…すみません。」

多少考えた上、凪は魔族であることを話さないことに決めた。あまり口外したくないことだろうからな。魔族を生かすか殺すかに関しては、色々な意見があるだろうし、もしかしたら魔族を全て滅簿させなければならないと思っている人かもしれないからな。

「へぇ…本当に言えないの?私がこんなにも聞いているのに?」

「本当に本当です!」

凪がきっぱりと断った。


「まあ、なんで隠しているかは知っているけどね。君達が魔王とその兄、だからでしょ。」

え?

「え?え?え!?」

なんで?なんで?

「どうしてそれを…」

「恋ちゃんに聞いたとき教えてもらったんだ〜。恋ちゃんを怒らないでね。私だから教えてくれたのもあるだろうから。」

川崎さーん!?

「いや〜、まさか魔族を倒す部隊に魔族が入ってるとはね。面白いったらありゃしない。それに魔王がこっちの世界に転移するなんて、楽しそうでしかないじゃん!」

「楽しくなんかないですよ。城のみんなと別れて、たまたま二人いたから孤独感を感じず済んだものの、一人ぼっちだったら孤独感で押しつぶされそうになっていたでしょうから…」

楽しさにしか興味が無い彼女は、魔族がやっているからって嫌悪感を抱くような人ではないみたい。ひとまず良かった。

だけど、楽しそうって言った後の凪の言葉が悲しかった。そんなもん、だよな。


「うわぁーー。楽しそう!」

「凄い。こんなところに…」

話をしながら雪原を10数分歩くと、雪原でお城が見えた。

皆目を輝かせたり驚いたりしている。かという俺も驚いた。誰もこんなところにこんなに立派な城があるとは思うまい。

「多分ここだな。奴の根城。元の世界の建築様式の城だし。」

確かに言われてみればこんな城は見たことが無い。城マニアと言うわけでもないのだけど、この城は和風の城とも洋風の城とも言えなかった。

「城門を開けっ放しとはな。都合がいい。ここから入ってみるか。」

「お城とかいろんな仕掛けがあるだろうから、楽しみだな〜」

一人のせいでいまいち緊張感が持てなかった。いいことでもあり悪いことでもある。


「中は暗めだな。誰か明かり持ってないか?」

「あ、それなら私が。ちょっと待っててね。……はい。ちょっとチカチカするけど、そこはご愛嬌。」

シャベルを使ってチカチカする懐中電灯を取り出していた。肝試しのいたずらとかで使うやつなんだろうな。

「大丈夫そう。…じゃあ、ボスのところまで行きましょう。」

城らしい無駄に天井が高い廊下を歩いて通り抜けた。


「魔族か?」

目の前から奇妙な見た目をした生物が現れた。目が3つある。

「戦うって言うなら容赦しないよ。ほう、戦うとね」

相手から襲ってきたので返り討ちに合わせておいた。

「そういえばあいつはあっちの世界の頃喋ったりできない魔族を懐柔してたな。この先こんな感じで襲ってくるかもしれないぞ。」

「はい!」

魔族を懐柔か。まぁまぁ面倒くさそう。

特に強い魔族と戦う羽目になると肉体的に受けるダメージが大きくなる。最悪そこで倒されかねない。

出くわさないことを祈るしかない


廊下をとりあえず突き当たりまで進んだ。でも上へと上がれそうな場所も見つからなかった。

そして、俺達は廊下から行ける部屋を一個一個調べることになったのである。

「長い間使われて無かったっぽいな。ホコリが酷い」

最初に入った部屋の中、翔はホコリなどから予想していた。

「やつはここで住んでいるというよりただ根城にしているだけ、使われなくても当然。」

「はぁ…なんでこんな山奥にあるんだろう。家の近くだったら色々と楽しめそうだったのに。」

やっぱり普通の人と考えていることが違った。でも何にでもいい感じに解釈できるのは、ある意味才能なのかもしれない。


「おっと、見〜つけちゃった見〜つけちゃった。」

3個目の部屋の中を探索していると、イタズラ好きの彼女がベッドの下から隠し通路を見つけた。

「こんなのよく気づけたな…」

ベッドの下、しかもただ見ただけでは分からず、床ではなくベッドそのものの下側にボタンが付いてあって、それを押すことで隠し通路が開くようになっていた。

「私だったら、こういうとこに隠したいからね。隠し物の基本だよ。」

隠し物の基本とやらはよくわからないけど、俺達だけだったらかなり時間かかりそうだったのは事実。素直に心の中で礼を言った。


「こんなところに繋がってるんだ。面白〜。楽しいな、リアル脱出ゲーム。」

「リアル脱出ゲームじゃないんじゃ…」

「比喩だよ比喩。そんなこと分かってるって。でもさ、そんな感じじゃない?」

隠し通路はまだ行ってない部屋へと繋がっていた。でもこの部屋は出る扉が開いていない。これ、本当に脱出ゲームっぽいかも。

「鍵が必要みたいだけど、それっぽいのある?」

「この中か?南京錠で鍵がされてあるけど。それに怪しそうなノートもあった。」

部屋は子供部屋みたいなところだった。そんな子供部屋のおもちゃ箱?っぽいやつの中に鍵付きの箱が入っていた。また、おもちゃ箱の中には怪しい日記も入っていた

1=100 2=141… 3=173… 4=200 5=?…

「?に入る3桁の数字が南京錠の鍵かな。脱出ゲームの考え方ならそうだけど。」

これが謎…だけどこれはなんだ?

「41,32,27…等差じゃなさそうか。てかなんで…が付いてるんだ?」

全員で頭を唸らせた。

「あ、あーそういうことか!完全に分かった。」

3分ほどして、元異小課の彼女が大きな声を上げた。

「答えは、223っと…正解〜。南京錠開いたよ。」

「え、なんで分かったんです?」

「これね、それぞれの√を小数点第2桁まで表してたんだよ。√1は1.00、√2は1.41…ってこと。それで、√5は富士山麓オウム鳴くで、2.2360679だから、223ってわけ。」

俺はなんとか理解できたけど、愛香はあんまり理解できていなさそうだった

中の鍵を使って次の部屋へと行く


「ピアノが置いてあるな…」

城とかになんかよくあるような音楽部屋だった。ピアノだけが部屋に置かれている

「このピアノ、一オクターブのドからシしかならないみたいです。他は弦が切れてるのかもしれないです。」

「ピアノの裏にあったよ。次の謎が、ワクワクしてくるね。」

ワクワクするかはともかく、次の謎へと取り掛かる。

ミシンの音にドレスを着たファラオは起き上がり、そのソウルは響き渡った。←

「は?」

全く意味がわからない。

なにかの暗号だろうが、全く持って分からなかった。

「もしかして、こういうこと?」

小一時間考えていると、繁が分かったようだった。

「このカタカナが階名になっているんじゃないですか?階名以外は無視して。そうなると、ミシドレファラソってなります。これを弾くんじゃないですか?」

「いや、矢印があるから順番逆だと思う。ちょっと弾いてみるな」

ソラファレドシミとピアノを弾くと、廊下から大きな音がした。

「どうやら、合っていたっぽいな。」

廊下へと出ると、一つの壁がなくなって、新しい部屋へと行けるようになっていた。


「今更だけど、このギミックどうなってんだ?」

「博士みたいな人がいたんだろうな。」

次に行ける部屋は食堂だった。食堂のテーブルの上にまた紙が貼られてある。

『?』にはいるものはなに?せいかいのものをえのしたのたなにおけ。

せ→し→ 板

な←を→ 苗

か→る→ ?

「暗号か。考えてみるか。」

皆で暗号の答えを考えながら部屋を見回ったが、この暗号以外に謎のようなものはなかった。

キッチンには色々なものが落ちてはいたが、ただそれだけだった。

そんな感じだったので、俺達はまた暗号のテーブルまで戻って考え始めた。

「あ、なるほどそういうことか。」

ふと俺の頭の中で何かが冴え渡り、解き方が分かった。謎解き初めてだけど、意外と楽しいものなんだな。

「これ、問題文からその文字の矢印の向きにあるひらがなを読んでいるんだ。」

せ→ならせの右にある『い』のように読むのだ。

「なるほど、うわぁーーこれは解きたかったな〜。となると、答えは『芋』ね。」

「芋ならキッチンの冷蔵庫に他の食材と一緒に入っていたはず。」

冷蔵庫から芋を取り出し、絵の下の棚に置くと、棚が動いて奥に進めるようになった。


「えーっと…」

奥にあった階段を最後まで登ったのだが、階段の出口にも謎があった。

30=48 60=96 100=?

「あれ、これ等比数列じゃん。左をx、右をyとするとy=1.6x。となると、答えは160かな。」

謎解き好きの頭をフル回転してすぐ解いていたが、160は答えではなく、開けることはできなかった。

「あれ、違うの?でもこれどこかでみたことあるんだよね…」

「あ、思い出した。答えは…えっと…2^8で…16×16…256だ。これ、16進数を10進数に直せっていう至極簡単な問題だったんだよ。」

中学生の俺の頭には何を言っているのか理解できなかった。

まあ、解けたからいいかな。

階段から出ると、玉座の間のようなところに着いた。


「今日もお客さんがやってきたみたいだ。」

玉座の間、そこの玉座では見た目からして異形の存在がふんぞり返っていた。

「ハネミスめ。」

凪の様子から見るに、こいつがハネミスなんだろう。

「おめでとう。ここがこのお城の最奥。君達はここまでの数多の謎を解いてきたんだね。30人目だよ。ここまでこれたのは」

「どうしようもないクズ野郎め!」

元の世界のことを知っている凪は怒っている。そして繁は無言で銃を構えていた。

「おっと、君は私のことを知っているのかな?まあいい。私はそんなことには関与しない質なのでね。本題に入ろう。さあ、これからエンディングさ。」

「危ない!」

咄嗟に愛香を突き飛ばす。ハネミスが高速で近くにあった大きめの石を飛ばしてきて、それに攻撃される寸前でなんとか避けられた。

「外しちゃったか。大丈夫。心配しなくていいさ。一発で終わらしてあげる。これが私の唯一の優しさなのですから。」

「お兄ちゃんの言ってたとおり。同情の余地はないね。」

繁が銃を撃って頭を狙う。だが敵にはちゃんと当たっているにも関わらず、涼しい顔して立っていた。

「あくまで足掻くと。早く死んでほしいんだけど。」


全員で武器を構えて一斉に攻撃に転じる。剣やら短剣やらで。5対1だからといって油断しちゃだめだと思い、攻撃を繰り返す。

「はぁ…こいつ…硬すぎる…」

こいつは攻撃自体は今の所そこまで大したことはない。翔の盾で普通に守れているし、一度自分が攻撃をミスで食らってしまったが、ただそれなりに痛い程度、今までに戦った他の魔族や人と比べれば断然ぬるかった。

だが、こいつは皮膚がそもそも硬すぎる。愛香の短剣や俺の攻撃でも少ししか削れなかった。

しかも皮膚に痛覚がないのか、まったくもって怯んでくれない。

「はぁ…捕食相手を間違えたようです。後であの子にはきっちりと言わないといけませんね。まあ、他に誰かがいるわけでもないから、今日は見逃してあげましょう。それにしても、独り言を言っている間に攻撃とは、ルールがなっていたせんね。」

「お前に言われたくねーよ。」

「普通に戦うのもいいですけど、そろそろ面倒くさくなってきましたね。ちょっとお腹も空いてますし、昼ごはん早めちゃいましょっか。」

そいいうと、攻撃をされながら、玉座の後ろに回りスイッチをオンにしたのだった。


「え?」

俺達のいたところに牢屋が上から降ってきた。鉄格子の中に閉じ込められた。

「五月蝿い食材も、閉じ込めれば簡単に調理できるんですよ。って、え?」

普通ならかなりヤバそうな状況だったけど、まあこっちには愛香がいる。愛香が瞬間移動で全員を出してくれた。

「もういいもういい!さっさと倒してあげるから、覚悟してください!」

なんか怒らしてしまったみたい。いや、俺達悪くないけど。まあいつもそんな感じではあるけど。

「この力で!え?うわぁーー!」

ドスン!

「え?」

思わずこっちも唖然とした。相手が手に黒いものをためて攻撃しようと突っ込んできて、俺達は防御体制として翔の後ろにいたのだが、相手が途中で落ちていった。

「フフッ。どう?落とし穴だよ〜。トラバサミも入ってるけど。」

あ、なるほど。罠を作る能力で作ったのか。

あまりにもすぽっと落ちていって拍子抜けした。

「散々コケにしやがって…」

「うわぁ!這い上がってきた。」

「アハハッ!トラバサミ挟まってる!面白〜。」

やっぱりなんか一人おかしいな。こんな時に笑うなんて。


「これが私の闇の魔法の力!」

ハネミスは手の中に黒いものを溜めて殴ってきた。いつものように盾で防ぐ。

「ぐっ……さっきまでとは比べものにならないほど強いな…」

翔がぼやいている。実際くらったわけではないので正確には分からないが、翔の受け止めた盾が飛ばされるぐらいには威力が高い。

「短期決戦にしときたいんだがな…」

やっぱり皮膚の硬さがネックになる。

「これを飲めよっと」

「ゴホッゴホッ!お前らー!」

「どう?塩分多量の麦茶。イタズラでよくあるんだよ?」

あー知らずに飲んだらめちゃくちゃむせるアレか。

「これ飲んで!少なからず力を上げられるから!」

凪が攻撃力を上げる薬を完成させたようなので早速飲む。

「力がみなぎるな。」

「師匠!誰かー!」

翔はひたすら攻撃を耐えしのいでいた。盾役としてみんなを守っていた。

盾が弾き飛ばされてもすぐに拾って、敵を前に構えていた。


「ヘイト管理してるのか。多分」

さっきから色々なイタズラをして敵を怒らせて敵の攻撃の狙いが自分に行くようにしている。翔がその前で盾を使って防いでいる。落とし穴なんかも使うことで、押し切られないよう戦っていた。

そのため、敵はこっち側へのマークが薄れていた。

「とはいったもの…こんなんじゃ時間がな…」

「さっきから銃で狙っているんですれど、そしてちゃんと当てているんですよ。なのに涼しい顔してます。炎に当てても凍らせようとしても…」

繁はひたすらに銃を一点に集中して撃っていたが、それでもあまり進展は見られてなかった。

「手間はかかるが、こんな感じでやっていくしかないのか…。翔の体力が心配だが…」

敵の攻撃のほぼ全てを翔が受けている。翔が倒れたら、ドミノ倒しの如く全滅する可能性が高い。

一撃一撃集中して入れる。


「これだけの落とし穴なら、どう?」

「キサマら…」

近くに誰もいない好きを狙って落とし穴を仕掛けて落としている。

「早い早い!もうちょっと時間をちょうだい!」

落とし穴作戦を何度も繰り返しているからか、脱出する速度も速くなっていた。

「落とし穴じゃだめなのか?なら別の方法を使うまで!」

落とし穴以外…何かちっともわからない。


「それにしても…本当にどこの皮膚も超硬いのか?」

ふと思うようになった。生物として、どこかだけは硬くないところがあるのではないか?

「そういえば…ぃまでの戦いのシーンで違和感があったような…それが何なのか思い出せない…」

とにかく、まだ狙ってない足首や手やら首やらを狙ってみる。


そこ3つを狙ったが、どこも硬さは変わらなかった。

「いや…でも…そうだ!」

だけど、さっきまで抱いていた違和感が何なのか、それがわかった。

おかしかったのはこのとき。最初に落とし穴にハネミスが落ちたとき、その時トラバサミが挟まった状態で戻ってきた。

そこがおかしかったんだ。どう考えても、こんなに硬いなら、トラバサミ自体が挟まることはない。皮膚に少しの傷を与えるだけだ。

でもそうならずに挟まったのは、そこの皮膚が硬くないから。

「はぁ…はぁ…まだ…守れる…」

翔の体力切れより早く倒せるかもしれないということだ。


愛香にその事を伝えようともしたが、伝えたらハネミスにも聞かれかねない。ヘイト管理されているとはいえ、弱点を相手が知ってるのにそこを放置するようなやつはいないだろう。いるとしたら戦力差があまりにも大きい場合のみだ。

ハネミスに悟られないように、その傷がある場所を剣で切った。

「うぁぁー!貴様ー!」

これは効いてるな。攻撃をくらっても全くも気にしてなかったのにここまで痛がっている。

「愛香、弱点はここだ!」

「わかりました先輩!」

愛香が瞬間移動を使いながら何度も切り刻む。

「この野郎!」

「そんな攻撃、当たらないですよ。」

愛香は攻撃を瞬間移動を使ってほぼ避けている。

「ん?おぉ!帰ってきたな私の分体!さあ、やってしまえ!」

「あれ…」

頭が熱い…ぼーっとする…

クラクラと目を回し、その場に倒れ込んだ。

そこから少し離れたところにいた愛香も、同じようにその場に倒れた。


「新、それに愛香も!…感染症にかかってるな…待ってろよ!」

凪が必死で薬を作っている。

「やはり、お前は役に立つな。よしよし。お前らに言ってやるとこの子の病気には、今までのどの病気とも違う病気さ。既知の薬などどれも役に立たない。それに、死亡率も高い。諦めることd」

「ほい。落とし穴。」

「おいこら!」

敵はもう怒り狂っている。こういうセリフの途中で落とし穴に落とされると起こりたくなる気持ちも分からなくもない。

「くそっ…は?何だ?」

「よくあるじゃない。滑りやすくなるやつ。ローションだよ。」

時間稼ぎのためかは不明だが、落とし穴に大量のローションを入れていた。

「いや、滑りやすくなるだけ、何とかつかめば…」

「学校のイタズラの一番のものは何だと思う?答えはね、黒板消し落としさ。だけど、今回は特別製。鉄製の黒板消しだよ〜」

「右手は任せました。左手は私が射抜きます!」

何とか登ろうとするハネミスを、鉄の黒板消しで掴む右手を邪魔し、繁が左手が掴んでいる岩を撃ち抜いて落とす。完璧な連携状態だった。


「よし、できた。これを飲め二人共。それに一応他の皆も。」

そんな中、凪は薬を完成させていた。

「うぅ…はぁ…あぁ…ありがとうございます。おかげで良くなりました。さあ、戦いますよ!最後の決着を!」

愛香が弱点の場所に瞬間移動し、短剣でまた何度も切り刻んだ。

一度目は耐えれたものの、二度目には耐えれず、傷は血管まで届き、落とし穴に血が広がった。


「ふっ…ハハッ…私死ぬのか…ハハハッ…」

「どうしてこんなことをしようとしたんだ?全くもって理解できないんだが?」

ハネミスは死ぬことを悟っている。それが分かってるからか、凪が死ぬ前に吐かせようと質問している。

「ま、答える義理もないし、答えたところで何も変わらんが、とはいえ、死ぬまでなにもせず待つのも暇だな。何でしようとしたかなんて、ただの捕食活動なんだから仕方ないだろ。私は人の2区じゃないとエネルギー変換効率が余りにも悪いのでね。城に謎解きを仕掛けたのは、やっとクリアできたという達成感が絶望に変わるそのとき、その大きな感情の変化の因果か、味が美味しくなるもんでね。うん。もう死ぬのか…生まれて少しして人間を襲ってたら国を追われて…それからそれなりにたったら知らない土地に来て…そこで死ぬなんて…。酷いな私の生…」

微かに開いていまぶたは、その言葉を言った後閉じた。

ちなみに本体が死ぬと基本的には分体も死ぬ。今回も今死んだことで近くの雪原に沢山いた分体は全てその命を散らした。

「謎解きは楽しかったのになぁ…でも、仕方なかったとしてもさ、私達を襲おうとした事実に変わらないから。生まれ変わったら、もっと良い人生、歩めたらいいね。」

楽しさ、面白さを追い求めていた彼女は、ちょっと残念そうに、願う気持ちでその言葉をポツリと呟いた。


「成程、じゃあ、後はこちらでなんとかしとく。メディア関係の発表もしないといけないしな…。あぁ…嫌になる。」

ハネミスを倒したので、愛香の瞬間移動でいつもの警察署に戻った。石山さんに今回の任務の結果を伝える。

石山さんは捕食に関することに関して何も思わず慣れた手付きで仕事をしに行った。

「今日は楽しかったよ。色々なイタズラもできたしね。新鮮な反応は見ていて面白かったよ。またいつかここに来るかもね。その時は、元異小課の皆で来たいな〜。1期生vs2期生、とか。楽しそうと思わない?」

「は、はい。」

そう言うと、彼女は警察署から出ていった。本当に変わった人だったけれど、異小課の片鱗を感じることができた。流石、元異小課という感じだった。


「いや〜、楽しい一日になったな〜。」

美崎は夕焼けに照らされる道を歩きながら、今日のことを振り返っていた。

「皆にも教えよっかな。ん、あれは…」

2つ先の交差点。信号待ちをしている男を見つけて、走ってそこへと向かった。

「おー。こんなところで会うなんて奇遇だな、健心。買い物帰り?」

「うわっ。誰かと思ったら美崎か。直に会うのは久しぶりだな。見ての通り、俺は買い物帰りだよ。」

健心と呼ばれた彼は、美崎の仲間である。

「そうそう聞いて聞いて〜。私、今日ね〜久しぶりに異小課のとこいったんね〜。私の後輩も気になったしね〜。それでそれで〜…ってなわけ。」

「ハハ。美崎らしいな。会ったばかりですらまずいのに、初対面の人に罠のイタズラ仕掛るとは。変わってないな〜。」

そう、彼は仲間。同じ異小課で苦楽を共にした仲間なのである。

美崎の異小課時代もよく知っていて、それでそんな発言ができたのである。

「それにしても、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。最近はなってないから。病気のやつも、俺のことを諦めてくれ…不味い。頭痛くなった。悪いけど、お願い。」

「あぁ〜。なるほどね。オッケー。大丈夫。こんなところに病人を置いていくなんて、楽しくないことやらないから。」

それから数十秒。彼は酷い頭痛と激しい疲労感。吐き気、めまい、熱、全身の痛みに襲われて、その場所で気を失って倒れた。


近くにある公園のベンチへ倒れた彼を運び込み、美崎は彼が起きるのを待っていた。

「うん。おはよう。まあ、時間全然違うけどね。」

「助かったよ…あの場所で倒れると洒落にならないからね。本当、嫌だなこの病気。」

彼は過去の出来事により、不定期であの苦しみが起きる病気になってしまっていた。医者もこんな病気は見たことがないと匙を投げるほどだった。普段は何もないのだが、不定期でぶっ倒れてしまう。何より怖いのが不定期であること。定期的なら予想できるからその日は家にいようとかできるのだが、不定期なので色々と危険な目にあってきていた。

彼が異小課を辞めたのは、それが原因である。

「ねぇ。いつか皆で今の異小課のところ行ってみない?後輩と先輩として。3人でまたやってみたいんだ〜」

暗い気持ちを切り替えるように話題を明るい話題にした。

「ははっ…できたらいいね。あいつにも言わないとだけど。まあ、日程決まったら教えてね。休日なら基本大丈夫だから。まあ…倒れるかもしれないけど。」

「倒れさせないって。倒れたら私が見守るからさ。」

ちょっと矛盾が生じているような気がしたが、楽しさ好きの美崎はそんなことを気にもとめていなかった。相手にも、伝わっているだろうし。

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