第10章 心霊スポットで警察業!

8月も中旬になった。夏休みは半分以上過ぎていた

「あ、そういえば師匠。今日の夜暇ですか?」

「え?ああ暇だけど?」

急に翔から尋ねられた。

「今日夜に肝試しやりたいんですよ。師匠も来ます?」

「肝試し?いいけど。」

肝試しか。あんまやったことないな。

肝試しぐらい何とかなるか。

「あれ?それって7月に計画したやつ?」

「うんうんそう。それで予定では8月の最初の頃にやろうと思ったんだけど、鍵借りるのに手間取っちゃって。それで昨日ようやく鍵を借りることができたんだ」

繁と翔は7月のうちに計画を立てていたんだ。俺も計画立てるの教えてくれれば良かったのに…。俺がいないときに計画したのかな?

「それで師匠。肝試しをするのは坪井温泉というところなんです。知っていますか?」

「分からないな」

「そこは元々旅館だったんだけど、事故があって倒産してしまったんです。その事故で、客の一人が亡くなったらしくて…その幽霊が出ると噂の場所なんです」

いかにもな心霊スポットだな

心霊スポットってたいてい、その付近で人が亡くなっているところな気が来る。まあ幽霊とかがつきやすいだろうから仕方ないけど


「あ、でそれで…」

ドンドンドン

「2ヶ月ぶりだな。元気にしてたか?」

計画を聞いていたら、突然扉がノックされ、聞き覚えのある声が聞こえた

扉を開ける

「ホクに名村さん!まあまあ久しぶりです」

「アタシの名前よく覚えていたな。覚えなくていいって言ったのに」

この二人は長野県の異少課のメンバー。ホクは一回ここを破壊した張本人だ

「ホクさん。それに確か名村さん。お久しぶりです。」

「確か愛香だったっけ?違ったらゴメンな」

「いいえ。合ってますよ」

久しぶりにちょっと話した。


「てか、さっきまでなんの話ししていたんだ?」

「坪井温泉で今日肝試ししようって言う話ししていたんだ。愛香は来れないから4人で行くんだけど」

「坪井温泉!」

急にホクが喋った。今日急にいろんなこと起こり過ぎじゃない?

「北。どうかしたか?坪井温泉になにかあるのか?」

「坪井温泉といえば北陸で一番の最恐スポットと呼ばれているところじゃないですか!」

なんだろう。ホクもすっごい翔みたいな感じがする

「ふーん。ま、興味はないな」

「今日行くんですよね?俺も連れて行ってくれませんか!?」

目がキラキラしている

ホクもホラー大好きなのか

「いいよ。ホラー好きに悪いやつはいない」

流石にそれは言いすぎだろ

「じゃ、アタシはこれで…」

「亜美も連れてっていいか?」

「大丈夫大丈夫。あと数人いてもいいよ。」


「え?いや…アタシは…」

名村さん?なんか勝手に連れて行かれそうな雰囲気だったけど、大丈夫?

「亜美も来るよね?だって今日家族が入院してて一人なんでしょ?問題ないよね?」

なんだろう。なんかちょっと無理矢理行かせようとしているような…

「あ、アタシは…ちょっと諸事情で行けないからな…」

「あ、もしかして亜美怖がってるの?それならごめんね。亜美は怖がりだから行けないんでしょ。勝手に誘っちゃ悪いよね」

「はぁ?アタシが怖いわけ無いだろ!」

「それなら行ける?」

「も、勿論だ。幽霊だろうがなんだろうがアタシが全員ぶん殴ってやるよ!」

名村さん大丈夫か?

「じゃあ夜に二人でここ来て、みんなと一緒に肝試しするか」

名村さん言葉では気丈に振る舞っていたけど顔が引きつっていたような…それにホクが悪巧みしているような顔していたような気が…

なおその時、ホクはこう思っていた

よし、怖がりな亜美を連れて行くことに成功した。散々こき使ってくれたからな、ちょっとは復讐してもいいよな

(この警察署の修復作業のためホクがここにいてその間亜美が仕事を一人でやらざるを得なかったためその代わりに)亜美がホクにほぼすべての仕事を一定期間押し付けたことをホクは根に持っていたらしい

といっても、二人は同僚としてそれなりに仲が良い。友達にちょっかいかける感覚でイタズラするのだとか


夜、6時頃

「アタシが来たよ。肝試しなんて子供だましなんだからさっさと言ってさっさと帰ろう。」

「じゃあ全員揃ったことだし、坪井温泉に行きますか」

ちなみに愛香は行かないので、もう家に帰っている。そのため愛香の瞬間移動で行くことはできない

なので行くのが面倒くさい。電車で一時間半かけてなんとか着いた。


「これは…いかにも幽霊が出そうな旅館。幽霊見つけ出して写真に収めてやる!」

「そうだなホク。幽霊に会って話してやる。できれば成仏までさせてあげたい」

なんかこの二人幽霊好きだからってめちゃくちゃ仲良くなっている

「幽霊か。この世界ではそんな珍しいものみたいだな。勝手に物珍しがるのもどうなんだろうな」

「繁、俺もそう思った。幽霊になったんだからゆっくり休みたいと思ってるだろうしな。勝手に行っちゃだめな気がする。でも今日は仕方ないから。繁もそういうことに考えなくていい」

凪繁は元の世界のことも踏まえて考え事している。一理ある気がする

「もういい。さっさと終わろう!」

名村さんが声をあげた


「じゃあ行きますか」

ホクは翔から鍵を受け取り、その鍵で入り口の扉を開けた

中に入る。最初のところはロビーらしきところ。ボロボロの椅子や、カウンターが残っていた

「高そうな時計だな…」

カウンターの隣には古そうな振り子時計が置いてあった。未だに動いていて、ほぼ正確な時刻を刻んでいる。今は8時らしい

「ここには特に何もなさそうか。とりあえず1階から順に調べていくか」

いつもと違って翔が仕切っている。珍しい。

何かやらかさなければいいけど


「ここは従業員室か。」

机と椅子が無造作に置かれている。引き出しの中も見てみたが埃が溜まっているだけだった。長い間誰も使った形跡はない。

「アタシはもう帰っていいよな?幽霊なんていなかったし」

「いや、全体の数%も回ってないんだから、帰るなんてもったいないよ亜美。ちゃんと100%探索してからじゃないと」

「ああ…そっか…」

今更だけどここかなり広めの廃墟旅館だよな。全部見るのかなり時間かかるんじゃないか?

絶対誰か眠くなりそう。


「全体的に暗いんだよな…。ここは風呂場か」

電気なんてもちろん通ってない。そのため、懐中電灯でなんとか調べていた

「一応男子と女子で分けたけど、人いないんだし別に分ける必要なかったよな。今から女子風呂調べてこようかな」

「やめとけやめとけ」

入ってないとはいえ流石に今入るのはやめといたほうがいいだろう。あの女子二人に白い目で見られる

「ここは山を見ることができる風呂場だったみたいだな。」

「あれっ?これ…」

湯船から窓の外を眺めていると、足で何か踏んづけた。湯船に落ちていたそのモノを拾い上げる

「鉛筆?」

湯船の中には鉛筆が一本落ちていた。

「なんでこんなところに?」

鉛筆を持った状態で湯船に浸かって落とした?清掃員が掃除中に間違えて落とした?

どっちも絶対にありえないわけではないけど、かなりの確率で違うだろう。

だったらなんなのだろうこの鉛筆。

「この鉛筆落とした?」

「いや」

「落としてないけど」

「なにそれ?」

俺たちの落とし物ではないみたい。俺ももちろん違う

「この鉛筆、湯船に落ちていたんだけど」

「湯船に落ちていた鉛筆、なるほど。これは幽霊の仕業か?楽しくなってきた!」

もうこの二人勝手にやっとけ


探検し始めてから少し経ち、一階の部屋は全て探検した

売店、食堂、裏庭などを行ったが、特に何も起こらず、普通だった

「一階は特に何もなかったな。次どうするんだ?」

今は階段の前にいる。上に上がるか下に下がるか

「うーん…じゃあ上から行きましょう。最終的には全部探すんだし、ここの決断でなんか変わるわけではないから。」

ホクの言っていることは理解できる。

階段で俺たちは2階へと上がった

「ところでこれ、壊れたりしないよな?」

「……」

「返事しろ」


2階へと上った。ちなみに階段が壊れたりはしなかった。良かった

「えーっとじゃあまずは幽霊がいそうなところから調べますか」

その時だった

「光なき 暗き…」

「うわぁぁぁぁ!」

ここにいる誰とも違う声が聞こえた。他に人がいるとも考えにくいのに

本当にいたのか!?幽霊が

一部(凪と繁)を除いて悲鳴を上げた。と言っても、ホクと翔は嬉しそうな悲鳴だったが

「ほ、本当に幽霊が…やだぁぁー!」

「ホク、本当に幽霊がいるみたいだな。音がしたのはこっちからだな。行くぞ!」

「そうだな。幽霊がいるうちに会っておかないと!」

ホクと翔は声がする方向に走っていった。


「ちょっと待て!」

俺の声は聞こえてないようだ。それか聞こえてて無視しているか。

とりあえず止まってはくれなかった

「ああもう。追いかけるか」

「ちょっと待ってください。」

追いかけようとしたら繁に呼び止められた

「どうした?」

「名村さんがあっちに行ってしまったので、私はこっちを追いかけてきます。」

周りを見てみると、名村さんがいなくなっていた。あの声が聞こえたときはいたようで、その声が聞こえていたが、いつの間にかいなくなってしまったらしい。

繁曰く、走って逃げてしまったとのこと。あの二人が走ったのより何倍もちゃんとした理由だ

「繁が行くなら俺もついて行く。」

「分かった。お兄ちゃん」

凪と繁が名村さんのところに行くのか。別れてしまうな

「じゃあこの階段で集合な」

全員集合させておいたほうが安全だ


俺は廊下を走り、翔とホクがいる場所へと着いた。

二階の宿泊部屋。そこで幽霊を探していた

「こっちから声が聞こえてきた。ここら辺にいるはずだ!」

「おーい。一旦やめろ」

俺が言ったものの二人は聞く耳を持たない。

襖や障子を開けて、幽霊がいないか探し続けている。

何かに集中しているときって、他のことに気づかないことってあるけど、それみたいなものなのか


「お前らな!」

聞く耳を持たないから実力行使に出た。と言っても、後ろから服を引っ張っただけだが

「あ、師匠」

「お前らな…」

「あ、そうですね。ごめんなさい」

分かればいいんだ。やけに素直なのが違和感あるけど

「師匠も一緒に幽霊探したかったんですよね」

「全然違えわ」

俺は幽霊に興味が全く無いわけではないけど、今幽霊を探したいわけではない。

「とにかく一回階段のところに戻るぞ。こんなところで単独行動するなんて死亡フラグだからな。」

そもそも幽霊を探しに行くこと自体かなりの死亡フラグだということは言わなくていい

「大丈夫だ。俺一人なら単独だけど、翔と二人でいる。それなら死亡フラグにはならないだろ?」

こういう人が真っ先に死ぬよな

「それに、俺らには幽霊を探さないといけない理由があるんだ。」

おー…それって…

「自分の怖いもの見たさという都合か?」

「よく分かったな」

ですよね


「とにかく、ここら辺探してもいなかったんだろ。それならもう探す必要もないだろ」

「そこなんだよな。となるとやっぱりもうここにはいないのか?」

そうだと思う

「本当にここにはいないのか。全部の部屋を数回調べたけどいなかったし…」

「なら、そうですね。」

「ああ、仕方ない」

お、ようやく分かってくれたか

「じゃあ階段へと…」

「幽霊は他の部屋に逃げたんだ。二階をくまなく探すぞ!」

「必ず、絶対、何が何でも幽霊を見つけてやる!」

どうしてそうなった

この流れ諦めて合流する流れだよね?一回集まれば探索に付き合うからね


「階段へ来い」

流石に人の話を聞かないので、本当の実力行使に出た

いつもの剣を取り出し、電磁の力を使って足を痺れさせた

弱い電流なので痺れるだけで済ませている。殺しはしない

「人の話を聞こうね?」

「「は、はい!」」

剣からは怒るにつれて放電の量が多くなっていた

「幽霊見つけたかったな…」

「そんなこと言わなくても、合流だけしたら探すの付き合ってやるからな」

「え?本当ですか?」

本当なんだけど、今更だけど探すの付き合うこと言ってなかった。言った気になっていた

「本当だ」

階段へと向かった。

そのとき、振り子時計の音がボーンと鳴った


新が翔とホクを捕まえていた頃、凪繁は廊下を走っていた

「廊下にはいないか。となるとどこかの部屋に入ったんだよな。こっち側に階段はないし、すれ違っていないから一つ一つこっち側の宿泊部屋探すか」

「じゃあ私は右側の2部屋探すから、お兄ちゃんは左側をお願い」

手分けしたほうが探しやすい。名村さんを早く見つけないと。

「部屋の中にはいないかな?名村さん。出ておいで。」

ベランダの方も探したけどいなかった。もう一つの部屋にいるのかな?

「名村さん。出ておいで」

繁はいつもの優しい声で呼ぶ。繁が元魔王だなんて考えられないような声。

魔王が優しすぎていいのか。もっと人々を怖がらせないととか思うかもしれないが、これが繁なりの魔王のやり方である。

民に優しくなくては王様として民を導けない。その言葉をスローガンにして、元の世界ではやっていた


「2つの部屋。ざっと見た感じだけどいなかったな…」

階段からこっち側には4つの宿泊部屋ぐらいしか行くところがない。他には用具倉庫などはあるけど、それらには鍵がかかっていた。

「繁、そっちにいたか?」

お兄ちゃんも探索し終わったみたい。でもこういう話し方をするっていうことはお兄ちゃんも見つけられなかったような気がする

「…こっち側にはいなかった。お兄ちゃんは見つけた?」

「…いや、ざっと見た感じだけどこっち側の部屋にもいなかった。」

やっぱりか

名村さんどこ行っちゃったんだろ。

もしかして幽霊に…いやそんなはずはない。多分


まず、名村さんはどこに行ったかを探るために、どうしてどっかに行ったのかを考えよう。

確かあのとき、名村さんは「ほ、本当に幽霊が…やだぁぁー!」と言っていた。

「やだ」か。

もしかして、本当は幽霊が怖いんじゃ。それならこう言ったのもおかしくない。

でも昼間に来たとき、幽霊なんて怖がっていない的なことを話していたよな…いや、それが嘘の可能性もある。見栄を張りたかったのかもしれない

多分。幽霊が苦手なのに幽霊の声が聞こえたから逃げたんだ。それなら辻褄が合う


「やっぱり、名村さんは幽霊が怖くて逃げてしまったんだろうね」

「多分そうだな。怖いものからから逃げたいと思うのはおかしくない。…待てよ。もしかしたら、あそこにいるんじゃないか?」

お兄ちゃんが何か勘づいたみたい。

お兄ちゃんは直感が鋭い。勘といっても、それが当たっていることがしばしばある。

「お兄ちゃん?もしかして、どこにいるか分かったの!?」

「ああ、多分あそこにいるかも。元の世界で繁が最初に勇者と来たときに繁が隠れた場所。あのときと今の状況は似ている。同じように隠れていてもおかしくない」

「あ、確かに」


お兄ちゃんは名村さんが屋根裏にいると言っている。

私は元の世界で勇者と初めて出会ったとき、私は怖かった。お母さんが亡くなって、魔王に就任した直後に来た。

勇者は人間。誰にでも優しくしている私でも、人間だけは駄目だった。人間に初めて出会って、魔王城付近ぐらいしか行ったことのない私にとって、それは見たこともないもので、恐ろしく思えた

しかも勇者、魔王を討伐しようとしている者。死の恐怖もあってか、職務を放棄して屋根裏でビクビクと震えていた。

お兄ちゃんが私のことを探してくれて、それで勇者なが魔王を憎んでいないことを知ってからは、勇者と仲良くなって、気がついたら魔王城で月一ぐらいで会う仲になっていたんだけど

そして、その話で私は屋根裏に隠れた。それと同じだと言っているんだ

確かに今の名村さんも過去の私も、突然の怖いものにおびえて恐怖を感じて逃げた。同じ状況だった。


「でも屋根裏なんてどこから行ったんだろ?」

「屋根を重点的に調べよう。もしかしたら行く道を見落としているかもしれない」

廊下の屋根にはそれらしい形跡が無かったので、宿泊部屋を調べている

「ベランダにも部屋の中にもないな…念の為ここも調べておくか」

押入れの扉を開く。押入れから物が落ちてくるなんてことはない。押入れの中には何も入っていない

「…あった」

押入れの天井。そこが壊れていた。ここからなら、屋根裏に入ることができる。あとは、ここに本当にいるかだけだ

中に入って、そこで見つけた

「名村さん。降りましょう。多分大丈夫ですから」

「無理」

いつもとは違うしおらしい声で言った。


「ごめん。アタシ、降りたくない。君は繁だったっけ?悪いけど、他の人にはこのこと言わないでくれる…」

名村さんは頭を抱えながら座っている。体は目に見えるほどに震えている。

「うーん…」

無理に降ろさせるのは良くない。幽霊は元の世界では悪霊なんてごく一部だったけど、この世界では分からない。それに、悪霊が完全にいないわけではないと思う。一人にさせておくのはやめたほうが良さそうだ


「繁、そっち居たか?」

お兄ちゃんの声。

お兄ちゃんにこのこと伝えたほうがいいのか。

正直に伝えると名村さんがさっき言ってたことを無視することになってしまう。かと言って嘘を付くと、お兄ちゃんはずっとこの近くを探し続けるだろう。行ける範囲が狭いんだから

お兄ちゃんに無駄に探し回らせるのは違う。

そう思い、少し考え、そして何とかなる言葉を思いついた

「お兄ちゃん。ここに名村さんいたよ。でもちょっと今あのアレな状況だから、もう少ししてから二人で行くね」

「分かった。じゃあ階段のところで待っているから」

お兄ちゃんが名村さんが幽霊の怖さに逃げたことはほぼ知っているけど、それでも伝えないほうがいいでしょう。

「名村さん。お兄ちゃんが階段のところへ向かってくれたから、もう誰にもこのことはバレませんよ。神代先輩や翔さんやホクさんら今別のところにいますから」

「…本当?北にさえ知られてなければいいけど…」

「はい。」


「でもやっぱり幽霊が…君は分かっているんでしょ。私がここには逃げ出してきたことを知ってないと、ここまで見つけるのは困難だし。アタシが本当は幽霊が怖いこと。ごめん探してくれたのに。アタシはやっぱり隠れていたい。」

そっちの問題か

怖がりなことがバレないのは何とかなるでしょう。でもこっちは…

「大丈夫ですよ。怖くありません」

昔お兄ちゃんが勇者が怖くて隠れていた私を見つけたときにしたこと。それを真似してみた

頭を掌で優しくなでる。まるで子供をあやすかのように

「ふぁっ!」

「ちょっ、ちょっとやめてくれ。恥ずかしすぎる…この年で頭を撫でてもらうなんて…しかも年下に…」

「ほら、怖いこと忘れているじゃないですか」

「……本当だ」

お兄ちゃんはその時私の頭を撫でて落ち着かせてくれた。落ち着いたことで、なんとか恐怖に打ち勝つことができた

「なんとか元の場所へ戻るぐらいなら大丈夫そうになった。あの……ありがとうな」

「どういたしまして。私も同じようなことがあったから分かったんです。そういや、さっき『この年で頭を……』と言ってましたけど、年なんて関係ないと思いますよ。自分が甘えたいなら甘えていいんです。たとえいくつでも」

自分の考えを言った。私も今でもたまにお兄ちゃんに甘えたりしているから。

成長ってある意味残酷なのかも。

そんなことを考えながら廊下を歩いて、階段のところでお兄ちゃんと会った

そのとき、振り子時計の音がボーンと鳴った


旅館に入って最初のところはロビーらしきところだった。ボロボロの椅子やカウンターがあった。

そこで全員が集まっていた

……

「え?」

新が思わず叫んだ。他の人たちも驚いていた

「あれ?俺たちは2階にいたよな?なんで一階に…」

「何も思い出せません。振り子時計の音がなったところまでは覚えているんですけど…」

繁は言った。その言葉に皆が同じ反応をした

「えっ?アタシも同じところまでしか覚えられてないんだけど」

「俺もだ。階段のところで待っていたら音が聞こえて気づいたらここにいた」

「俺もです。こんなの幽霊の仕業としか考えられないですよね!」

「俺も同じところまで。全員が同じタイミングまでしか覚えられていないなんて、ホラーですね!幽霊の仕業ですよね!」

「俺もそこまでしか覚えられていない」

皆時計の音が聞こえてから先が全く覚えてないみたいだ。

時計の音が聞こえてから何があったんだ?なんで全員の記憶がなくなったんだ?

本当にどういうことなんだ?


「ちょっとここ見てくれ!」

考えていると、凪に呼ばれた

「どうした?」

「皆が時計の音を聞いてからって言ったから、時計がなにか関係あると思って調べていたんだが、この時計の時刻を見てみろ。」

時計は8時を指していた

…!?

「え?8時?」

なぜここまで驚いているのかというと、ここに来て最初に時計を見たとき、時刻は8時だったのだ。あんだけ色々なところを調べたというのに、まるで時間が経ってない

「いやこれ、止まっているんじゃ…」

「それはない。一回の探索中にふと時計を見たとき、8時45分をさしていた」

時計が止まっていたというわけではない。それなら、考えられるの一つだけ

「時が、巻き戻っている…」

SFでありそうなタイムリープを、実際に体験することになるとは。

皆時計の音が聞こえてからの記憶がなくなっていたが、そもそもそんなもの存在しないんだ。


「時が巻き戻るなんて…そんなことあるの?」

「普通はありえない。だけど、何かが絡んでいたら話は別」

これは幽霊の仕業はなのか?そんな感じがする

「なあ、流石に帰らないか?こんなの危険だろ。何かがまた起こらないうちに帰ったほうが安全だ。…聞いてるか北」

「こんなの幽霊の仕業だよね!普通に起きるとは思えないし、これは俄然調査する気力が湧いてきた!」

「そうだなホク。ここの謎、俺たちが解明してやろうぜ!」


この二人がいかにも食いつきそうな話題だったな。反応が予想通りすぎる

ホラー大好きだな。これ幽霊見つけるで帰らないとか言ってもおかしくないんだが

「待て待て北!」

二人がまた勝手に行こうとしていたが、名村さんの声で止まった

「何?」

「いやこんな時が戻るという不可解な現象が起こっているのに、探索するのは危険すぎる。ここから離れたほうがいい。」

俺もそう思う

時が戻るなんて普通じゃない。ここは心霊スポット、遊び半分で来ては行けない場所だったんだ。いつ事件が起こるかわからない。

ここに幽霊がいるかは分からないが、いるのなら確実に俺たちのことを快く思ってないだろう。こんなことをわざわざさせるんだから。

幽霊なんて俺たちの手に負えない。戦ってもまともに勝ち目がない。すでに死んでいるものをどうやって倒せばいいというのだろうか。

「いや駄目だ。ここにいる幽霊に悪さをしないようしないと、他の人たちが犠牲になってしまう。警察として、防ぐことができる事件を防がずに事件起こすなんてしちゃいけない。」

「うん。ここに遊び半分で来てしまう人たちがいるかもしれない。ホクが言う通りだ。危険なことをするのは俺たちだけで十分なんだ」

お前達…


「お前らただ単に幽霊見たいだけだろ」

「ソソソ、ソンナコトハアリマセンヨ」

口が引きつっている。嘘つくの下手か

だよな。よくそんな言い訳を咄嗟に考えれたな。そこだけは評価したい

「そうか…それなら仕方ないか。」

うん?名村さん?

「アタシも幽霊にあ、会うの付き合ってやるよ。警察なんだからな」

信じちゃったよ

嘘を信じてしまう人って可哀想すぎる

その人は信じていたのに、最終的に裏切られることは変わらないんだから

「名村さん…こいつらが言っていること多分嘘ですよ」

「いや、そんなはずはない。北は嘘なんてつけないと信じているから」

あ、そっちを信じているのね


「先輩、このこと調べたほうがいいと思います」

繁が小声で話してきた

「そうか?危険な気もするんだが」

「いや、少し気になったことがあるんです。この時が戻ったやつ、珍しいですがその力を扱える魔族がいるんです」

マジかよ!?

時を自在に操れるって色々とチートじゃないか?瞬間移動やほぼすべての薬を作ることができる俺たちが言える義理ではない気もするが

「もしかして、今回の現象はそれが原因と?」

「可能性の話ですが、ありえないことでもありません。それなら私達の出番かと」

それなら確かにそうだな。魔族関係は普通の人たちでは太刀打ちできないからな

「よし、探すか」


「で、どこから調べる?」

そこさえ決まらないと意味がない。

「これって時が巻き戻っているなら、すでに調べた一階のほうを調べても意味ないよな。二階か地下かってところか」

凪はちゃんと考えてくれる。どこぞかの幽霊探しで人の話を聞かず猪突猛進したやつとは違う

「じゃあ地下調べるか?二階は半分ぐらい探索したからな。」

とりあえずここに誰かいることは確実だろう。階段の声の件にて。その声を出したのがこんなことをした首謀者なのだろうが。

会話でなんとかなればそれが一番なんだけど、どうだろう。日本語を喋っていたから話はできるだろうけど、問題は話を聞いてくれるかということだ


「暗いな…」

一部の窓から月明かりが差し込んでいた一階や二階と異なり、完全に真っ暗だ。懐中電灯を照らして探検する

地下には扉が数個あった。ボイラー室や電気室なんかを調べるがめぼしいものは出てこない。ただどっちのところもなぜか異常なほどに機械が壊されていた。

「最後にこの扉か」

扉に手をかける。しかし扉は開かなかった

「これ、鍵かかっている。翔、鍵出して」

「はい。でもこれ、多分違うかと」

翔の言ったとおりだった。鍵は違った。

ここだけなんで鍵かけられているのか。他の部屋の扉には鍵穴があるものもあったのに、それらは閉められてなかったというのに

ますます分からない


「地下は特に何もなかったな」

「ええ。つまり、二階に幽霊がいるということですよね!」

「そうだな。それしか考えられない!」

こいつらはなんでこんなにポジティブ思考なんだろうか。誰か教えて

「そういや、繁と名村さん探索中よく一緒にいなかった?何かあったの?」

「はぁ?気のせいだろ!?」

名村さんに速攻で否定された。気のせいだったのかな…

でもよくふたりとも近くにいた気がするんだけどな…

まあそんなことは本当にどうでもいい。

そうして、俺たちは階段を上がり、二階に行った。


二階はこの階段を中心として3方向にわかれている。翔が行っていたところ。繁が名村さんを探すときに行ったところ。そして、まだ行ってない未知のところ。

「確かこっち側は翔達、こっち側は繁達が探索したよな?翔達が探索したほうは特に何もなかったって話だったけど、繁達の方はどうだった?」

二手に別れたあと、階段に戻る前に時が戻って、その後それ関係の話してなかったからな。そっち側がどうなっていたのか全く分からん

「こっち側には宿泊部屋4つとあと鍵がかかった倉庫があったけど、宿泊部屋には何もなかったよ。倉庫は鍵がかかって分からなかったけど」

「うん。ついでに廊下になにかあるかも調べたけど、特に何もなかった。でもその時幽霊探していたわけではないから、もしかしたら大事なもの見逃しているかもしれないけど」

凪と繁が言う。凪と繁だし多分正しいでしょう。

なお新がそのようなことを考えていたとき、名村さんは繁とひそひそ話をしていた。

名村さんはそもそもこっちの異少課とはほぼ関わってないので、仲もそこまで良くはなかった(悪くもないが)のだが前回屋根裏での件より、急速に仲が良くなった模様

「ねえ。もしかして、彼も私がこっち側に来ていたことを知っているの?」

「うん。ちなみに言うと、あそこにいる私のお兄ちゃんも知っていた。でも、あのときは誰にも見られていなかったし、誰にも言わないから」

「北には知られてないよね」

「うん。あのときホクさんは一気に突っ込んでいたから。あの幽霊大好きな彼があの状況でそのことを気にしているとは思えない」

「それもそっか。ありがとうね。繁」


やっぱり未探索エリアになにかありそうだ

そっち方向へと歩き出した。

凪繁が探したエリアは幽霊探しの目的で探しだけではいし、翔とホクが探したエリアは実際には宿泊部屋までしか調べられてないから、どちらも穴がある。だけど、やっぱり未探索エリアを先に埋めておきたい。

「何もないか…」

未探索エリアにあった複数の部屋、それぞれをくまなく調べたというのに、全くと言っていいほど情報が出てこなかった

「こっちにあると私も思ったのにな…」

ただボロくなっていた部屋であるだけだった


「光なき 暗き…」

…これは!?

あのときにも聞こえていた声。前に聞いたときよりも若干小さく聞こえる

「今度こそ、こいつを見つけてやる」

「そうだな。翔」

二人が声が聞こえた方向へと走っていった。

「俺たちも追いかけるか」

俺と凪はすぐに走っていった。繁と名村さんは少し遅れてから来た

名村さんは怖がっていた。声自体は二度目だからなんとかなると言っても、自分から幽霊がいるところに突撃するのが怖かった

でもそんな名村さんのことを繁が「大丈夫。大丈夫。皆がいます」と言ったことにより、名村さんも行く勇気が出た

この話をしていたので、この二人は行くのが遅れてしまった


「やっぱりこの宿泊部屋にはいないか」

ここは時が戻る前に翔とホクが一生懸命探していたところだ。時が戻っているのだが、同じような言葉が同じような時間で聞こえてきた。

それなら、前に調べ終わったところに新しく現れるとは思えない。

「でも、ここにもいないし、階段で一階に行ったのか?」

宿泊部屋近くにある階段を見て言う

「となるとかなりきついんですよ。一階は広いし、この階段壊れて降りれなさそうだったので」

そうだったのか。でもここまで探しているんだ。それで見つからないということはここにいないと思う

「じゃあ、俺と…誰か一階の調査したい人いる?」

「俺が行く」

凪が手を挙げてくれた。二人いれば探すスピードも速くなる

凪と一緒に、階段を降りて一階を探し始めた。探すのはあの階段の下辺り。そこらへんにいそうな予感

だが、探している最中にあの音が聞こえてしまった

振り子時計の音がボーンと鳴った


「また時が戻ったのか」

「そのようだな」

気がつくと、またロビーのところへと戻っていた

時計は8時をさしていた

「どうしようか。」

この流れからして、時が戻る原因をどうにかしないと、時計の音が鳴ったタイミングで8時まで戻ってしまうみたいだ

ここの原因を突き止めろとか依頼されているわけではない。ここで帰ってもなんの問題もない。というか安全を考えると帰ったほうがいいだろう。今は時が戻っているだけとはいえ、急に変なことになる可能性だって十分ある。

でも俺はそうはしなかった。このまま放っておいたら一般人に危害が加わるとか、もしかしたら魔族の仕業かもしれないから自分達の仕事だとか。そういう理由もあったけど、今はそれを上回る一番の理由ができた

ここまで来たら、もうこれが起きる理由を知りたい。謎を解き明かしたいというものである。

好奇心と言うのがいいか。気になってしょうがない。


「師匠。作戦を思いつきました。前回のループで確信しました。この方法なら行けると」

翔が自信満々で言ってきた。翔の作戦ということで不安はあるが、他に作戦があるわけでもない。俺がやっても、前回と同じように何も得られず時が戻ってしまいかねない

「なんだ?」

「ループしても、幽霊の声は多分同じところから聞こえてきました。それなら、今回ずっとあの近くで待機すれば、必ず幽霊に会えると思いまして。是非やらしてください。俺を幽霊に会わせてください!」

翔にしてはまともな作戦だった。いつもは謎な作戦を考えるのに

あの幽霊が時を戻している犯人だろうけど、話を聞いてくれるかな?戦いになったりしなければいいけど。基本的に幽霊は生きている人に色々とやれそうだけど、こっち側からは除霊とかしないといけない気がする

「よし、それやるか。皆、あそこに行くぞ」

俺たちは階段を上り、最初に翔とホクが探索していた廊下に行った

そこで座って幽霊を待った


かなり長いこと待った。

「あ、もうすぐそうですよ」

スマホの時計によるともう少しで幽霊の声がが聞こえる時間らしい。

ホクが前回のループでいつの間にか時間測っていたらしい。優秀か


「うわっ!?」

宿泊部屋の扉が誰も触っていないのに開いた。

幽霊が来たのだろうか。風で開いたというのも考えづらい

「幽霊来たか。ちょっと話してくる」

「あ、俺も」

翔とホクが二人で行った。二人だけに任すのも何かなと思ったので俺も行く

「え?誰?もしかして、肝試しにきた人?なんにしろ早くここから出たほうがいいよ。」

声だけが聞こえる。姿は見えないが。ガチの幽霊だ

「ここの幽霊の方ですか?」

単刀直入に聞いたな。幽霊にそういうこと言えるんだ

「うん。自分はここで昔事故で死んじゃって、魂だけの存在となった幽霊。今は生きているとき途中で終わってしまった未練を果たしているところ。って、自分のことはどうでもいいから。君たちはさっさとにげたほうがいい!」

やけに俺たちに逃げるよう言ってくるな


「あなたが時を巻き戻しているんですよね?それをやめてくれませんか」

言葉でなんとかしてくれればいいが

「え?時を巻き戻す?ちょっと待って、それ本当に自分関係ないから。幽霊だからってどんな力でも使えるなんてそんなわけじゃないから!」

あれ?

嘘を言っているようには聞こえない。もしかして俺の推理。全然的外れの推理だったのか?


「そんな話している場合じゃないの。危ないから帰ってくれない。自分とは別に危険なものがあるの!」

「それってなんなんですか?」

「まあ、これ言ったら流石に帰ってくれるか。今日の朝、ここにおかしな獣が現れたの。とにかく怖そうな獣。それで、獣が地下の食料庫の方に行ってしまったから、自分が食料庫へとつながる廊下を鍵で閉めたの。自分が今住んでいるこの旅館を壊されたくなかったから。でも、この旅館今となっては至るところがボロいから、いつまで持つかわからないの。分かった?ここは危険なの。今すぐ出ていって、お願い。君達がここで死ぬ必要はないの。」

話を聞いている感じ、この幽霊さんが悪い霊には思えない。悪い霊だったら、ここまで話しないような気がするし、勝手にここに来た俺たちのことを死んでほしくないと言ってる。善良な霊だと思う。


「おじさん。その獣って、2mくらいの大きさだった?」

「自分はおじさんじゃない。死んだときの年齢だと23歳だから。この体もそれから成長してないから。だから今も23歳なの」

「流石に無理がありますよ。それに、あなたの顔は23歳には見えません」

「そこえぐらないでくれよ…生きているときもそこいじられたんだから…」

繁と幽霊が話している

話自体はそんな気になるようなことでもないけど、ちょっとだけ気になった

「もしかして繁、この幽霊が見えるのか?」

「え?見えますけど」

当然というような言いぶりで言った


「見えるの!?」

自分が見えてないからてっきり誰も幽霊のことを見えてないのかと思った

「繁、霊感あるんだ…」

「俺も見えるけど、新は彼のこと見えてないのか?」

「ああ俺もだ。幽霊を間近で見れてマジで嬉しい」

凪やホクが言ってきた

え?これもしかして自分だけ見えてないってパターンのやつ?それやばいやつな気がするんだけど

え?そんなはずない…と思いたいけど、こんなに見えると言われると…

「ホク。お前見えるのか!?お前だけ幽霊をちゃんと見えるなんてずるいぞ!」

あ、良かった。この調子だと翔も見えてないみたいだ。

見ることができたのがこのメンツということは、魔族は確定で幽霊を見ることができるのだろうか。

ちなみに名村さんはさっきから何故かずっと震えながらしゃがんでいた。

「声だけだから声だけだから…」

多分見えてなさそうだった


「で、そんなことよりお兄さん、その獣って、2mくらいの大きさだったんですか?」

そういやその話していたな。俺が邪魔しちゃったけど。ごめん

「お兄さん…か。確かその獣は、それぐらいの大きさだったな」

「じゃあ、足は黄色だった?」

「ああ、そうそう。珍しい獣だなって思ったんだ」

「あと、目の周りが赤くなっていた?」

「どうだったかな…確かそんなだった気もするけど」

繁は獣の特徴を聞いていた。

「分かりました」

「繁、それってやっぱりあれだよな」

分からん。あれってなんだ?

この獣に関係することだろうけど


「先輩。彼の話に出てきた獣、特徴が時を戻す力を扱える魔族の特徴と一致しているんです。おそらく、地下の扉の先にその魔族がいて、そいつが時を巻き戻しているのかと」

なるほど、この幽霊は時の巻き戻りには何一つ関わってないのか

心霊スポットだったり幽霊の声が聞こえたりで幽霊が原因だと思っていたのに、完全にそう思い込んでいた

「その魔族、良いやつなら倒さないけど、危害を加えるやつなら倒さないといけないな」

危害を加えてこない繁や凪のような魔族ならいいけど、話がそもそも通じるとは思えないな…幽霊の話によると、地下がボロボロに壊されていたのはこの魔族のせいだろうし


「とにかく、君たちは早く帰って、お願い」「いいえ。帰りません。」

きっちりと言いはった

「え?話聞いてた?悪いやつ倒すぞ!的な感じで動くバトル漫画じゃないんだよ。命は一つ。すでに死んでしまった自分だからこそ命の大切さが生きている誰よりも分かるの。君たちが行って勝てるようなやつとは到底思えないの。」

幽霊が必死に行かせないようにしてくる。やっぱりこの霊は良い霊なんだろう。人を呪わず、生きている人をなんとか助けようとしている

「大丈夫です。ただその獣と話をするだけですから」

話が通じず、俺達を襲ってくるようなら、正当防衛で戦うけど。

それでもまず話をするのは大事だ。繁や凪のような魔族だっている。そんな人たちと戦ったら完全に俺達が悪者だ。そんな一方的な正義を振りかざすような人にはなりたくない。


「話?なぜそんなことをする。第一、獣に日本語が通じるとは思えない。空想の世界じゃないんだから」

「話をすれば、通じ合うかもしれないじゃないですか!」

完全に理想での話になっている。かもしれないからなんて、根拠のないけど、根拠がなくても理解できる。納得できるものはたくさんある。この幽霊を納得させればいいんだ

「まあ確かにそれはあるかもしれないけど、話が通じなかったらどうする?あの獣にやられてしまう未来しかないぞ。」

やっぱりそこなんだよな。死なないように忠告している人なら、そこに必ず触れると思っていた

「大丈夫です。俺達は、強い武器を持っていて、それを使いこなしているんで」

そう言っていつもの剣を取り出した。これで認めてくれないか。お願いだ

電気の力も見せる。

なお、異世界の武器のことはあまり口外してはいけないけど、まあ幽霊だしと思い話している。流石にこれで色々なところに噂が流れることはない…と思う


「は?何これ?まるでファンタジーじゃん!今どきってこんなんもあるのか…死んだときから色々変わったんだな…。まあ、いっか。君たちは強そうだし、君たちはどうにかしてあの獣をどうにかしたいと思っていそうだったからね。はい、これが鍵だよ。でも、危なくなったら早く逃げてよ。それが、鍵を貸す約束だから」

なんとか認めてくれた。これであの魔族であろう獣の被害に他の人が遭わなくなる

魔族はやっぱり俺達がやらないと。他の人は普通戦ってもやられるだけなんだから


鍵を持って、階段を降りて地下へと来た

そして、あの扉のところまで来た

「じゃあ、開けるよ」

鍵穴に鍵を差し込んだ

扉の奥は倉庫らしいところだった、食料庫と言っても、食料は一つすらない。

食料庫はまあまあ広い。倒れているものも含めて棚が多い。見通しが悪い

「あれだな」

入り口を少し開けて中の様子を見ていると、怪しい影を見つけた。光が無くてとても見づらいが(ライトはこっちの場所がバレかねないので消している。あっちはこっちのことを気づいていない)大きさなどからそれっぽさがある

「はい。間違いなくあれは魔族です。時を戻す力を持っているかまでは分かりませんが、おそらく持っているかと」

やっぱりか、魔族であることを改めて確認できてよかった。相手の情報はできるだけ知っているに越したことはないだろう。


「メールで石山さんから、相手が攻撃してきたら攻撃する許可を得てきました」

凪はそこらへんちゃんとしている。しっかりしている。いつも事後報告にしている(といっても、最初から命の危機のときは倒しても良いと言われているのだが)俺とは違って。

「あいつは多分言葉通じないと思いますよ、それに、あいつは好戦的な種族ですよ。本当に話し合いするんですか?」

「一応な」

俺もやっても聞く耳を持たないような気がしている、今まで戦った相手が敵意のない魔族だったってことは無いと思う。ホクは一応改善されたとはいえ、戦っているときは目茶苦茶俺達のこと憎んでいたもの

まあそれでも、話し合いでなんとかなるならそうしたい。悪くないやつは攻撃したくない


あいつは食料庫をうろつき回っている。そこの扉が開いていることも気がついていないようだ

「よし、やるか」

「魔族さん。あなたは俺達を襲わないでいてくれますか?それなら俺たちも手を出しません」

扉から中に入り、大きな声で言った。他の人たちには相手が襲い掛かってきたときに戦いにすぐ加勢できるよう準備をしておいてと言っておいた

「ガガガガ」

魔族に自分の考えを伝えたものの、聞く耳を持っていないようだ

話している最中だった。相手が攻撃してきた。途中の棚などに当たって攻撃しづらい状況だったが、その代わり棚が壊れた。その棚が全部壊されたらと思うと…

「皆、戦うぞ!」

話し合いはまともにできなかった。戦うしかない


「避けろよ!」

奴が攻撃をしてきた。手にある爪で引っ掻こうとしてきていた。翔がいつものように盾でそれを防ぐ。盾って結構使えるよな

「とりあえず電磁で痺れさせておくか。」

普通に攻撃したいのはやまやまだが、ここは食料庫。棚とかがあり、剣を持った状態だと動きにくい。

実はこの剣、いや、異世界の武器ほぼ全てに言えることだが、持ち運びがしやすいように大きさを持ち運び用と通常の大きさのどちらかに変更することができる。これは凪から聞いたことだが、これのおかげで運びやすくなっている。だから、大きさを変更しまくれば、この状態でも剣で直接攻撃は理論上できる。

だが、それは難しいし大変だ

棚が多いここでは、それをすると何回も何回も大きさを変更することになる。そして、大きさを変更するには少し時間がかかる。

となると、あまり実践的ではない

そのため、電磁だ。電磁なら敵から離れた場所でも攻撃できる。

「はっ!」

電磁で敵を狙って攻撃した


「アバババババ…」

確かに敵に攻撃は当たった。しかし予想外なことが起こった

俗に言うフレンドリーファイア、それを実際にしてしまった。

敵の攻撃を受けていた翔、そして近くで攻撃しようとしていた名村さんに攻撃が当たってしまった

つまり、二人を電磁で痺れさせてしまったということだ

なんでこうなったのか、それはこの場所が原因だ

ここは食料庫、しかも大手スーパーのとかではなくそんなに大きくない旅館の

まぁまぁ広いとはいえ今まで敵と戦ってきた場所に比べて圧倒的に狭い

そして、電磁の力は狙ったところの少し周りまで効果が及ぶ。そのせいだった

「ああもう、ここ狭すぎです。私の魔弾もこんな広さじゃ使えません」

繁の魔弾は完全に範囲攻撃だからな。学校の七不思議のとき敵の大量の魔族を一掃していたし。でも、それが仇となってしまった

この広さでやられたら俺たち燃えるか凍るか…

同じような理由で翔の空気球も使えない。まあこんなところでやったら狭さ以前にものが飛び交って大変なことになるけど

こういうところでの戦闘は愛香が適任なのにな…愛香の武器は短剣、この狭さをものともしない。持ち前の運動神経も合わされば、簡単に討伐できそうだ

まあいない人をとやかく言ってもしょうがない。今をどうするかに専念せねば


「ちょっ!な…に…」

あれ?てか今になって気づいたけど、この状況二人、特に名村さんはヤバくない?

さっきの電磁のせいで二人が痺れている。今は敵の魔族も痺れていて何とかなっているが、もし敵の痺れのほうが早く解けたら二人が危ない。

「名村さん!翔!すまんな…」

剣を持ち運び用の大きさにした。今回この剣あんまり活躍できなさそうだ。持っていたってそんなに効果はない。それなら剣しまって俊敏性を上げたほうが良さそうだ

二人のところに行った。そして二人を少し離れた場所まで運ぼうとした。


「私も手伝います!」

繁も手伝ってくれた。これで二人一気に運ぶことができる。

なお凪は回復薬を一生懸命作っていた。またホクは復活の呪文を唱えていた。ホクのその技は今回でも使えるだろう。

繁のお陰で時間をかけずに2人を運べた


二人を一旦扉の外へ運んで、扉に鍵をかけた

二人の痺れが解けるまではこうしておこうと思う。今回あんまり戦える人いないし

「やられたようです。彼らたち」

ホクには復活の力で復活させた魔族の様子が分かるのだろうか。現在敵とホクが復活させた魔族たちだけが食料庫にいる。食料庫に窓がないのに、よくわかったな

そして、やられたということは、敵が動き始めたのか

「ドンドン!」

勢いよくドアを叩く。痺れているときでも目は見えるから、ここに逃げたことを見ていたのだろうか

まだ二人は起きない。流石にいつか起きるよな…

脈はあるし、何とかなるはずだ


「うぁ…あれ?アタシ…そうだ、アタシ急に痺れて…繁が助けてくれたんだっけ…ありがとう」

扉を閉めて数分後、名村さんは目が覚めた。痺れも解けたみたいだ。

「ごめんなさい名村さん。自分の電磁が当たってしまったみたいで…」

「ああ、そうだったの。まあ生きてるし、傷負ったわけじゃないしいいよ。アタシは結果論を重視しているから」

「師匠!」

お、翔も復活したみたいだ。

「大丈夫だったか?」

「はい。繁に助けてもらいましたから。でも師匠に助けてもらいたかったn」

「へぇ~繁に助けてもらったのにあろうことか他の人が良かったとまで言うんだ~繁がわざわざ助けてあげたのに?助けなくても繁は特に問題ないのに善意で助けてあげたのに?」

なんか凪が怒っているように聞こえる。まあ妹がわざわざ助けてあげたのにそのことをないがしろにされたら兄としては傷つくのだろう。怒ったとしても仕方がない。翔、これはそっちが悪い。


「さ、茶番はいいとして、あいつをどう倒すか作戦会議するべきでは?」

「は?茶番だと?俺は…」

「ああ繁様自分を助けていただきありがとうございます」

「そんなそんな。私はそんなに……」

「…それで、作戦はある?」

凪もようやく許したみたい。翔、もうちょっと考えて発言しようね

「とりあえず、みんなの武器の力を確認したほうがいいんじゃない?」

「そうだな。そうしないと作戦の立てようがない」

繁と凪が言った。実際俺もそう思っていたけど、なんか凪が繁の言ったことだったから賛成したようにも聞こえる。気のせいだろうけど

凪のことだからちゃんと考えた上で賛成しているのだろう。俺が勝手に勘違いしてたな

「えーとまず俺は…」

俺、翔、凪、繁の順で説明して行った。やっぱり愛香がいないのが痛手だ。こっち側に今回まともに攻撃できる人がいない。

「じゃあ次はアタシだな。あたしの武器はこの毒針。これで攻撃するごとに相手のステータスを下げれるの。また、毒が回りさえすれば一発でイチコロできるわ。まあでも、強い魔族は毒に耐性があるのが多いけど」

話を聞く限り、デバフ系か。やばい。今回俺も繁もまともに力を使えないから、攻撃系の人が誰もいない。名村さんの針攻撃が強いのか分からないけど、針そのもののダメージはそんなになさそう。針で刺すだけだし

となると毒が効きやすいか効きにくいか。そこらへんは流石にわからない。どうしろって言うんだ


そのあと一応ホクの武器の力も改めて説明してもらった。まあすでに知ってたんだけど

「で、どうする?」

「そこなんだよな…」

凪は直接ダメージを与えられる薬を作れないし、俺、繁は今回まともに戦えない。翔は盾で守るのとはできるだろうが空気球で攻撃は多分無理。

ホクの復活に頼ろうにもさっきの感じそこまで期待できそうにない。ないよりはマシだけど。いや、そもそも今回の戦闘場所が狭いところなのに、魔族を復活させると戦いづらすぎる。

名村さんの毒針に頼るしかなさそうだ。

「やっぱり、アタシしかちゃんとダメージ与えられるのいなそうか。アタシ頑張ってやるよ!」

何も言ってないのに理解が早い。

ドアは壊れかけている。そこに名村さんが手をかけようとしていたときだった

「あ、そうだ。愛香さえここに呼べれば…」

愛香の短剣なら一番攻撃できる。それに愛香は運良く瞬間移動を持っている。今から来てくれるようなら、一瞬でここまで来てくれる。

もうこれしか方法がないと思う。

「そうだな。流石新だな。こういうことには頭が冴えるな」

なんか遠回しにdisられているような。こういうことにはって。

って、そんなことはどうでもいい。俺は愛香に電話をかけた。


ツルルルル…ツルルルル…

「はいもしもし。どうかしました神代先輩?」

よっしゃ!繋がった!あとは愛香がここに来てくれるよう頼めば…

「あの愛香、俺達今坪井温泉にいるんだけど悪いんだけどこっちに来てくれn」

「無理無理神代先輩の頼みでもそれは無理です!」

ツーツーツー

やべっ

「ごめん。愛香呼べなかった…」

そうだった。愛香はめちゃくちゃホラー苦手だったんだった。それなのに心霊スポットに呼び出すのは無理だった。

事情さえ説明してれば来てくれたかもしれないけど、焦ってて事情説明を省いてしまった。そのせいでこんなことになってしまった

ツルルルル…ツルルルル…

愛香にもう一回電話をかけたが、電話を取ってはくれなかった。一度切ったのにまた電話を取るのか微妙だったけど僅かな望みにかけた。それで無理だった

「そうですか、まあ愛香には愛香の事情があるだろうし、勝手に責めたりはしないでくださいね」

「責めたりなんかしないよ。強要なんて俺は嫌いだし。」

そんな感じの話をしていた。気が緩んでいた

そのとき、ドアが壊れる音が鳴った


「え…」

うん。まあ確かにボロかったけど、こんなタイミングで壊れないで…

「チッ。ドアも壊してここまで来たっていうんか。そんなに死にたいならさっさと退治してやるよ!」

一番ドアの近くにいた名村さんが即座に戦い始めた。

「へへっ。まずは一発目!」

持っていた毒針で一回刺した。なお話によると少し間を空けてから2発目を刺さないと効果は増えないらしい。

開始そうそう打てたのはいい。敵のステータスが最初から下がった状態で戦える。

「じゃ君。少しの間奴のことよろしくね」


名村さんは翔に言った。盾で味方を守れる唯一の人だからな。戦闘時に翔はいつも活躍しているな。盾ってそれほどに強いんだな

「はい。オッケーです。」

盾でやつの攻撃を翔が防いでいる。

今俺は何もできていない。ここが狭くなければちゃんと戦えるのに…

凪は回復薬を作っている。材料が無くて作るのは難航している

そして俺、繁、ホクは敵から離れて戦いに参加せずにいた。名村さんや翔が一生懸命戦っている間。自分達がなにもせずにいる。仕方ないこととはいえ、つらい。みんなと一緒に戦いたい。

「翔さん!名村さん!今回私達は戦えませんが、応援はしています!頑張ってください!」

「オッケー繁!盾の力って言うのを見せてやるから、その目に焼き付けてくれよ!」


そうか応援という方法があるのか。応援することによって士気とかがUPするのなら、応援はバフ技と言っても過言ではない。

今は翔が一人で戦っている。翔のことを考えると、普通に応援するより師弟関係を彷彿とさせるような応援が翔の心に突き刺さる気がする。

「翔!お前は俺の弟子を名乗っているんだろ!それなら弟子を名乗れるほど実践で役に立て!めげるんじゃないぞ!」

「…!?はい!師匠!」

翔は盾で今まで通り防いでいる。でも応援の効果はあったような気がする。敵の不意の攻撃にも集中してちゃんと対応できるようになっている。盾さばきが上手くなっている。


「よし、これくらいあれば十分かな」

「亜美。やっちゃえよ!」

「言われなくてもやるつもりだよ?北」

名村さんが一発目を決めてから少しの時間がたった。名村さんは敵が翔を攻撃する間に2発目の毒を入れた

「グッ…グァァ!」

毒が効いてる。この調子だ


あれからも翔が名村さんの毒針が効くようになるまで耐え、そして名村さんが毒針で刺すということを3回繰り返した

凪の回復薬も何とかできたので、楽に戦えているらしい

「よし、これで5発目か。敵もだいぶ弱ってきたな。」

毒効果によりかなり弱体化されていて、それは戦ってない俺からでも弱くなっていることが実感できるほどだった

「体力はあと少しってところかな」

毒により体力はもうだいぶ削られているだろう。まだ生き残ってはいる。しぶといな

グァァァァァァ

うん?あんなことしてたか?

遠目で戦いの様子を眺めていると、翔のことを攻撃するのを急にやめ、下がって右手と左手を合わせた。今までこんなことはしてこなかったのに

そして指を絡ませて、強めに握りしめていた

「…これは!やばい。このことをすっかり忘れていた」


…ん

廊下に倒れていた。何があったんだ?

周りを見渡す。するとおかしなことに気がついた

まずあの敵がいつの間にかいなくなっている。そしてここらへんの壁やドアはさっきの戦闘中に壊れていたはずなのに、いつの間にか元に戻っていた

「もしかしてこれって…」

「先輩…すみません。あの魔族の大事なことを忘れていました。」

繁が起き上がって俺に話してきた。多分繁が言おうとしていることは、俺が今考えていたことと同じだろう。

「あの魔族は右手と左手を合わせて、指を絡ませることで時を戻すことができるんです」

やっぱりか。奴には時を戻す力があることは知っていた。いつか使うんじゃないかと感じていたからな

「それでここからが厄介なことなんです。あいつは、めったにあの力を使わないんです。ここまではいいんです」

確かに今まで一度も戦闘中にその技を使わなかった。

「でも、あいつは死を回避するためにあの力を使います。自分がこのままだとやられてしまうような状態なら、その力を使ってその場を切り抜けるんです。と言ってもその力を使うとそこまでの記憶がほぼ消えてしまうらしいので、大抵は無限ループに陥ってしまうらしいですが」

生きるために使うのか…安易にやめてほしいとは言えない。理論には納得できる

「それ…なにか対処法はないのか?」

「対処法というか倒す方法ですが、その力を使おうとしてから使うまでに少し間があります。その少しの時間で倒すことができれば勝てるかと」

きついな…


「なあ、他になにかないのか?倒さなくてもいいから、あの力を封じる方法は」

「多分ありません。もしかしたら私が認知してないで本当はあるのかもしれませんが…ごめんなさい」

「いや、謝らなくていいから」

ないか…まあそんな予感はしていた。もしあるのなら繁のことだしすでに言ってそうな予感がしていた。

なんかいい方法…一つ思いついたのは、繁が遠くから魔弾を発射するということ。繁の魔弾の威力なら、確殺できてもおかしくない。

でもこれには問題がある。一つは地下が目茶苦茶になってしまうこと。でもこれは仕方がない。さっき普通に戦っていたときでもやつによって周りの壁やらが壊されていたし。

で、2つ目。こっちのほうはかなり深刻だ。

ここがオンボロであることだ。そんな旅館の地下に魔弾という威力の高いものを撃ってしまえば、最悪の場合ここ自体が壊れてしまう。そうなると魔弾を打つために地下に必ずいる繁は瓦礫に押しつぶされかねない。

考えたがこの作戦はあまりにもリスキーすぎる。何か他の作戦にしないと…


「え?これもしかしてループしちゃってる?」

他の人たちも続々と起きてきた。繁があの魔族について凪以外の3人に説明している。

「新、何を考えているんだ?」

「ああ凪…、いや、あいつに勝つ方法を考えていて…凪は何か知らない?」

凪は繁と同じくあいつと同じ世界にいたんだろうから、なにか知っていたらいいけど…

「うーん…やっぱり力を使うギリギリまで削って、そこから攻撃するとかぐらいか…確かあいつは手が弱点だから、手を攻撃すればなんとかなるかなとは思うけど…毒の力だけだと難しいな…あれは毎秒継続的に少量のダメージを与えるものだから、倒す前にまた同じように力を使われるだけになってしまうかと」

そっか…名村さんでは多分不可能と。でも名村さん以外まともに攻撃できないんだよな。

「そうだ、凪の薬でダメージ量を大きくすることできないの?」

「確かに限度があるとはいえダメージを多くすることはできるけど…でもそれは薬を飲んだ人の直接攻撃だけ。毒のダメージを増やすのには無理だな。あの針のダメージを増やしたって雀の涙程度だし。毒をくらいやすくする薬をあいつに飲ませれば何とかなるかもしれないけど、そうしたらあいつに飲ませるのが無理かと。空気中に飛散させて息と同じく吸い込ませれば何とかなるかもだけど、そうすると薬をこの場で作れるか分からない。一応やってみるけど、あまり期待しないほうがいいよ」

それでもちゃんと薬を作ってくれるところ。そこが凪の良いところだ


凪と会話をしている内に、繁は3人に説明し終えたようだ(ホクはそのことを知らなかったので)。ちなみに繁は石山さんから聞いたことにして魔族であることはバレないようにしている。まあ、ホクが魔族であることは知っているし、それであそこまで気を許しているということは、バレても問題ないようにも思えるけど。まあ無闇に正体をバラすのは良くないか。

「力を使われる前に倒すね…確か繁広範囲を攻撃する力を持っていたよな。それでこの廃墟ごとぶっ壊しちまうのは駄目なのか?そうすりゃ狭くて戦えなかったものも戦えるようになるだろ」

「名村さんすっごいぶっ飛んだ発想だな…」

まあでもありっちゃありか…廃墟が壊れてしまうというデメリットはあるにしろ、敵と戦うには有効か

「でも亜美…それって騒ぎになるよね?ここ山の中とはいえ、まあまあ近くには家が並んでいるし…そうなったら色々とヤバくない?魔族のことはあんまり知られないようにしないといけないし。何より、普通に器物損壊だし。」

ホクが意見を言った。ホクにしてはまともな意見。


「あ、でも亜美。いいこと思いついた。狭くて戦えないんなら、狭くない場所におびき寄せればいいんだよ。あいつは外からこの中に来たんだから、帰れないわけないんだよ。だから、この廃墟からあいつを出して、その上で倒してしまうんだよ。いい案だと思わない?」

ホクはまるでドッキリを仕掛ける準備をしながら、このドッキリで引っかかる人がどんな反応をするか楽しみにしているような笑顔をしていた。ホクってこんな顔もできるんだ

でもホクの作戦はいいと思う。デメリットが思いつかない。今までと違って。

「確かにいい案だと思うけど北、でも…どうやって連れて行くんだ?」

「あ」

「ああ…えっと…」

そうだよな。デメリットないと言ったけどそれは問題なく連れてこれる前提の話だった。

ホクは一生懸命考えている。俺も考えてみるが、何も思いつかない。

「あ、それなら大丈夫です。」

突然、繁が喋った。繁には考えがあるのだろう。

「私、相手の好物を知っているので、それを使えば誘導するのは容易です。好物がおいてあるときに、警戒するような魔族じゃないんで」

「そうなのか。繁よくそんなこと覚えていたな。ところで、その好物ってなんなんだ?」

「多分、お兄ちゃんが持っているかと。お兄ちゃん。あれ持ってる?」

凪は薬を作る手を止めた。薬を作りながらも話は聞いていたようで、繁が言っていたあれ、あいつの好物を持ってきた。薬作りながら話を聞けるって凄。俺なら一つずつしかちゃんとできないのに


「これが誘導するのに使えるあの魔族の好物。粉末唐辛子です」

「ちょっとまって」

好物が粉末唐辛子なのはそこまでおかしいことじゃないよ。なんだけど、一つ明らかにおかしいことがある

「凪、なんで粉末唐辛子なんて持ってきてるの…」

そこなんだよ。俺達肝試しにここに来たよね?粉末唐辛子なんて肝試しと全く繋がりがないし、もってくる意味何一つ分からないんだけど。もしかして愛香みたいに、凪が異常に粉末唐辛子が好きだから持ち歩いているとか?

「あ、ああ。いやいつも薬を作るために持ち歩いている薬味セットの一つに粉末唐辛子が入っていたから、それを持ってきただけ」

あ、思ったよりも納得できる普通の理由だった。めちゃくちゃ深読みしていた


「これで完成と」

とりあえず地下の部屋から出口まで粉末唐辛子を置いていった。傍から見たら変なやつだな。

これで上手くいくのか不安だけど、なんとかなってほしい。

「ところで、どうやってあの扉開けるんでだ?普通に開けたら真っ先にそいつが狙われるんじゃないか?」

…そうだな

どうしようどうしよう。

「それなら大丈夫亜美、復活させた魔族達に鍵を開けてもらえば誰も傷つかずに罠にかけれる。」

おお…

ホクは杖を出し、復活に必要な呪文を唱える。

呪文唱えられるだけで死んだものを生き返らせるのってチートだよな。

「よし、彼が鍵を開ける役割を担ってくれます。鍵を開けてこいよ。」

俺たちは、通り道が見えるところから隠れてちゃんと罠にかかって外に出てくれるか見ていた

「あ、彼はやられてしまったようです。でも、これで鍵を開けれたことは確実ですね」

やられたってなんで分かったんだろう…ホクの力に様子がわかる力もあるのか。

「師匠、足音が近づいているような気が…」

俺達が隠れているのは一階から2階へと続く階段。その場所に足音が近づいているということは、作戦は成功していることを表している。

「あっ、見えました」

繁が小声で言う。ここにいるのがバレたら面倒なことこの上ないからな。

その間にもあいつは粉末唐辛子を追いかけていた

そしてついに、ここから外に出すことができた

「よっしゃあ!」

大声はだめなので、周りの皆だけに聞こえるような声で言った

「じゃあ、倒していきますか」

「そうだな。力見せてやる!」

みんなは隠れ場所から出て、出口を通って外のあいつの近くに行った


外の場所は開けている。ここなら俺の電磁はもちろん、退避さえさせれば繁の魔弾さえも使えそうだ

「じゃあまず俺が痺れさせてやる」

電磁の力で敵を痺れさせる。前は周りにいた翔や名村さんにも当たってしまったが、今回は大丈夫。楽しい。自分の能力をちゃんと使って戦えるのが楽しい。

痺れ効果がきれるまでは敵は行動しない。そして敵は死にそうになったとき力を使う。つまり、意図的に使っているということだ。それなら、痺れている間はその力を使うことはできないはずだ。

俺が剣で、名村さんは針で攻撃する。またそれに加えてホクが復活させた魔族も一緒に攻撃する。

ゲームと違って体力ゲージは見えるわけない。でも、敵の体力が確実にどんどん減っていっていることは確かだ。


「師匠、俺も倒すのを手伝いたいのでみんなそこから一旦どいてくれませんか?お願いします」

「私も撃つよ。巻き込まれないように離れて離れて」

翔や繁が力を使うためみんなは離れた

「空気球!」

「凍れ!」

二人がタイミングぴったりで力を使った。翔の空気球と繁の氷の魔弾を敵は同時にくらった

敵は魔弾により凍りついた

電磁がきれそうなタイミングだったから良かった。きれたら追加の電磁すればいいだけなんだけど


それから攻撃を繰り返し、特に問題なく敵を倒せた。

「なんか、あっけなかったな…」

強かった理由が狭いところにいたから、そして時を戻す力を持っていたから。それなのに広いところにおびき出され、また時を戻す力も使えなくしたせいで強みを全部消してしまったから仕方ない。

「時を戻す力を持つから、そんなに鍛えていないんです。負けそうになったって、時を戻してなかったことにすればいい。負けたとき自分を強くするのではなく、試行回数で運良く突破できるのを見つけるだけなので。」

自分の力一つに依存すると、それが使えなかったときに非常に困ってしまうということか。敵(の失敗)から学べることもあるもんだ。


「これで、ここに来た人が襲われる心配はなくなりましたね。」

「いやー良かったな。じゃぁ帰るか」

「ちょっと待ったー」

帰ろうとした途端、ホクと翔に行く手を塞がれた

「師匠。まだやることが残ってますよ!」

やること…

「あの幽霊さんに倒したこと伝えないと!」

あ、そうだった。幽霊のことなんか頭からすっぽりと抜けていた

「ごめん。そのこと忘れていた。じゃあ、行くか」


「君たち!大丈夫?怪我してない?」

幽霊がいたあの部屋に行くと、幽霊がめちゃくちゃ心配しているように話してきた

「大丈夫です。あのやつなら、俺達が倒しましたよ」

生きている人のことを案じるような人だし、あの魔族を倒したと知れば安堵するだろう

「はぁ…良かった。君たちやっぱり強いんだね。」

「そうだ幽霊さん。俺達があいつを倒したお礼として幽霊さんのことを教えてもらいたいんです。いいですか!?」

「俺も知りたいなぁ。もう亡くなってしまったからこそ分かることもあるだろうし」

幽霊大好きコンビが目を輝かして聞いている。

お礼と言っても戦えとは言ってないしむしろ戦いに行くのを止めていたよな。幽霊がお礼する必要はないと思うけど

「ははっ。君たち幽霊に興味なんてあるんだ。俺が教えられることを何でも教えてあげるよ。書くだけなら物足りないと思ってたし」

あ、話してくれるのね。


「まずは、俺のことについて話すわ。と言っても聞くほどの内容じゃないと思うけど。人生には沢山のドラマが詰まっているけど、他の人のドラマがそこまで気になるかと言われると気にならない人も多いし」

「俺は短歌が好きで、仕事の合間に短歌を書いていたんだ。それでここは今はこんな感じだけど、昔は景色がきれいだったからな、短歌を詠みに休暇を使ってここに来たんだ。でもまさか、ここの階段で足を滑らせて、そのまま死んじゃうなんて夢にも思ってなかったよ」

顔は見えないけど、このことを笑いながら言っているのが伝わってくる。

「未練とか…無かったんですか?」

「未練ね…無いわけじゃないね。でも未練なんてしのごの言ってたら面倒でしょ。人間いつか死ぬんだし、こんな運命だったって考えたんだ。大切なのは今からどうするか。それで、死んでからここでずっと短歌を詠んでいたんだ」

死んでからずっと…そこまで短歌を詠み続けるって、相当好きじゃないと飽きちゃうでしょ。一番熱中できるものって感じか


あのあとも少し話をしたが、不意に時計を見てあることに気がついた

「お、もうこんな時間だ。帰らないと電車乗り遅れるぞ。」

時計の時刻的に、ここから駅への移動時間も考えれば電車に乗り遅れかねない。

「え?でもまだ話してな…」

「北。流石に帰るぞ。この電車逃すと次までかなり待たされるから」

そうして、幽霊のところから帰ろうとした


「あ、ちょっと待って。君たち、ここで鉛筆落ちてるのを見なかった?」

鉛筆…ああ、アレのことか。

「男風呂の湯船の中に落ちてましたよ」

「そう。良かった。鉛筆無くしちゃって困ってたんだ。短歌は鉛筆で書いているからね。それにしても湯船か…前の短歌をそこで書いたからその時落としちゃったんだな…」

「では、俺達はこれで帰ります。」

「気をつけて帰ろよ。今は外暗いだろうから」


皆が帰ったあと、幽霊は鉛筆を拾って短歌を書いていた。

「光なき 暗き中にも 刺さりたる たった一筋 月夜の光」

その短歌を短歌帳へと書いた。短歌帳にはびっしりと短歌が綴られている。死んでからずっと書き続けていたんだ。この量でもおかしくはない

「それにしても、色々と不思議な子たちだったな…もはやまるで、この世の人間ではないかのよう…って、そんなはずないか。フィクションと現実が混同しちまってる。」

「あ、そうだ。彼らのことも短歌にしてみようっと。何がいいかな…」

彼は死後も、幽霊として生きているときはできなかったことをして楽しんでいた。笑顔で短歌のことを考えていた


電車に乗って帰る。みんな降りる駅は同じだ。夜らしく、あまり人は乗っていない

そこで皆はポーカーをして遊んでいた。皆盛り上がっていた

「じゃぁな。」

新達5人は駅から各自自分の家へと帰っていった。またホクと亜美は警察署のワープゲートで長野県へと帰る必要があるので警察署へと向かっていた

そのため、皆はここで今日のところはお別れとなった。実際には、凪繁と新は家がまぁまぁ近いのでまあまあ同じルートを通るのだが

ホクと亜美は2人で警察署へと向かっていた

「そういや、北があんなに心許すなんてな。アタシにすら心許してくれたのは1,2ヶ月たった後だったというのに」

亜美は昔を思い出しながらホクに言った

ホクは魔族。人間とあんまり絡みたくないと思っていた。ほとんどのとき一人で過ごしていた

「そういやそんなこともあったな…」

「まあ北がアタシに心許してくれたのはあのことがきっかけだったけどね。北が魔族であることがアタシにバレたあのこと。それが無かったら、今もあんな関係だったのかな…」

「そんなわけない…とは言えないんだよな。あのときの自分結構アレだったし」

人と関わりたくないと思っていた北。亜美は最初の頃は苦労したという

まあそれも最初の頃だけで、今は仲が良い友達となっているんだけれど

2人は警察署へ着き、ワープゲートで長野県へと戻ったのだった

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