第9章 悪戯な夢後編 真実の夢へと警察業!

土曜日

山井探偵事務所の二階、ここは居住スペースとなっていて、探偵と助手の二人がここで共同生活をしている

「…もう朝か」

探偵の彼女、山井はベッドから起きた。

顔を洗おうと洗面所へと行く

「…あれ?恋がまだ起きていないなんて珍しいな」

リビングの電気がまだ点いていなかった。

いつもは恋私よりも1時間は早く起きているというのに、それでいつもならこの時間朝食作ってくれているのに。珍しいこともあるもんだな

「恋、入るぞ」

顔を洗ったあと、恋の部屋へと入った


そこで見たのは驚くべき光景だった

「嫌だ嫌だ…嫌ァァァァァァ…」

恋が寝ているベッドの周りに、黒いモヤのようなものが出ていて、開いている窓から出ていっていた

そして当の本人、恋は異常なほどに苦しんでいた。恋とよく事件を解決してきているが、これほどまでに苦しんでいるのを見たことがない

「恋!」

「恋!大丈夫か?」

返事は無く、ただうめき声をあげ続けた

聞こえてないのか

仕方ない。無理矢理にでも起こさないと

眠っている人を強制的に起こす方法。これだ!

私は恋の鼻をつまんだ

眠っているときに鼻をつまむと、息苦しさで起きてくることがあるという。

「起きろ!」

「ァァァァァァァ…ァァァァァ…ァァ…」

「ァ……ハァハァハァハァ…」


恋の目が開いた

「恋!大丈夫か?」

眠っている恋を抱きしめていた。私の目には涙が流れていた

「あぁ~純様に鼻をつままれたと思ったら抱きしめられているなんて、私は昇天してしまいそうです〜」

よーしいつもの恋だ。さっきまでの苦しんでいた面影はない

「大丈夫そうだな」

「ところで今は…え?もうこんな時間!ごめんなさいさっさと朝食作ってきますね」

「いや土曜日だからそんな急がなくていいから」

そうはいったものの、結局恋はキッチンへと向かった

「あ、そうだ。純様、助けてくれてありがとうございます」

「当然だ。私は探偵、困っている人を助けるのが仕事だ。それに、恋は私の秘密を知っていて、私が一番信用している仲間だかな。」

「純様…私は昇天してしまいそうです」

「するな」

なんか恋って異常に私を尊敬してくれているような気がするな…流石に人の心までは探偵でも分からないけど

恋がサンドイッチを作ったので、食卓で二人で食べていた

「ところで、結局何があったんだ?夢関係のことか?」

「はい…苦しんでいたのはあの夢が原因です。あの異常なまでにおかしな夢が」


警察署の異少課の部屋では、繁と翔というなんだか珍しい組み合わせの二人がいた

ちなみに凪は食堂にいる

「師匠も愛香も遅いな…今日なにかあるとか言ってなかったよな…」

いつもなら今いるはずの時間なんだが、まあ師匠と愛香だし、問題はないだろう。多分

というか石山さんも遅いな。あの人が遅れるのは日常茶飯事のような気はするけど


「手伝ってくれ!」

それぞれがスマホをいじっていると、そこには美少女探偵の山井さんと美少女助手の川崎さんが来た。なんかいつもと違う雰囲気で、息を切らしていた。いつもなら暇つぶしで来ているのに、なんか事件でも起こったのか?

「山井さん、どうかしました?」

「事件が起きてだな、君たちの手を借りたいと思ったんだ」

「事件内容を簡単に説明する。被害にあっているのはこの街の多くの人。何故か一週間過去の夢を見る。似たような事件が前に別の街で起きていたらしい」

「それって…俺もそんな夢見ていました!月曜日に、夢の中で昔の幼なじみに会って、木曜日までは楽しく暮らして、それで今日夢で彼女に告白したんですけど、フラれてしまう。そんな夢を見ていました」

「多分それだ。恋が見た夢でも過去を見ていたらしいからな」

2、3日目はなんで夢が続いているのか不思議に思ったが、これは俺だけじゃなかったのか


「で、君は今日起きられたのか?」

「…?はい…?そうですけど…」

「となると、すべての人があの黒いモヤを出しているというわけではなさそうだな」

事件内容も、誰がこんなことを仕組んだのかも全くわからない。こんなことをして、何になるんだ?

続いて川崎さんが話した

「私が見た夢では、過去の世界でおじいちゃんに会いました。おじいちゃんの優しさに昔みたいに触れて…でも最終日には、病気で亡くなってしまったんです。」

「二人の夢で共通しているのは、4日間幸せを味あわせたあと最終日にどん底に突き落としていること、過去の実体験が基になっていることか。そういえば、確か最終日に神様を名乗る奴にあったんだよな?」

「はい。病気でおじいちゃんが亡くなったあと、白い空間に飛ばされ、そこで会いました。そこで言われたんです『彼が亡くなったのはお前のせいだ』と、自称時空神を名乗る者に。」

「え?それも俺が見た夢とほぼ同じだ。最後の言葉が違ったりはしたけど、神様に会ったのは変わらない。神様曰く、過去に戻したのに、チャンスを使わないのはどうたらこうたら言ってました」

「つまり、そういう感じに夢をコントロールしたのか。」


「あれ?探偵さんたち来てたんですね」

凪も部屋へとやってきた。仕込みが終わったのか

「そういえば、君たちはそんな夢見なかったか?」

山井さんは凪と繁に聞いた。

「私は…そんな夢見ていないですね」

「えっと、どんな話しているんですか?」

あ、今来た凪には全く状況分からないな

繁と二人で状況を説明した

「うーん…そんな夢は見ていないな」

「君たちは見てないのか。まぁそれはいいとして、この夢は誰かが操っているはずだ。じゃないと説明がつかない。神の仕業と考えるにも、おかしな点が多すぎるから多分違う。で、今日の朝調べると黒い靄があちこちの家から出ていたけど、家の外にいるペットなどからは何も出てなかった。おそらく、人だけを目的として攻撃しているんだろう。その方が効率的なんだろう」

長々と喋られたが、要するに誰かが人だけにあの夢を見せたと言うことか

「でもなんでそんなことを?」

「2つ考えられる。1つ目は人が苦しむのを見るのが好きだから。2つ目は黒いモヤに関係する理由。可能性的には後者のほうが高い。前者ならここまでやる必要はないはずだ」

苦しんでいるのを見るのが好きだとしても、せいぜい苦しませるのは数人程度でいいはずだ。

ここまで多くしても、全員のことを見るのは無理だ

やっぱり推理力が高い

「この事件は、なんとしても解決しないといけない。普通に胸くそが悪い。一回幸福を味あわせてから、どん底に突き落とすなんて」

「被害にあった身として、私も徹底的に手伝いますね。それこそいつも以上に」

彼女たちの発言には怒りがこもっていた

「ところで、今君たちしかいないの?あの二人は?」

「師匠も愛香も、まだ来ていないですね。」

「これは、夢の被害にあってる可能性があるな。恋も最初はめちゃくちゃ苦しんでいた。自力で起きれないほどに。」


「二人の家は分かるか?」

「あ、わかります」

「よし、案内しろ」

まずは先に近い愛香から

ピーンポーン

「はい?どちら様で?ああ、川崎ちゃんお久しぶり」

「波山さん!?」

知り合いなのか

「それで波山さん。娘さんの様子見てもよろしいですか?」

「愛香ちゃんは朝から苦しんでいるの。原因不明。川崎ちゃん、お願いだから助けてくれない?」

「わかってます。そのために来たのですから」

愛香の家へと上がった。

「そういえば、知り合いなのか?」

「そうです純様。純様の助手となる前に、ちょっとした縁があったんですよ」

ものすごい偶然だな。


「ウゥゥ…ウゥゥ…」

思わず声を失った。愛香がベッドの上で異常なほどに苦しんでいた。想像以上に。

そして、黒いモヤが愛香の周りにあり、窓から出て消えていた

「恋のときと同じだな。いや、それ以上か?」

「私、外から見るとこんな感じになっていたんですね。覚めてないときは白い空間に取り残されて一人で悲鳴を上げていました」

愛香にも苦しむような過去があったのか?あの愛香では意外だ。いや、愛香は基本的に真面目だからむしろ過去で苦しみやすいのかも。自分自身で背負い込んでしまいそう

「恋と同じ方法で起きれるか?」

そう言うと、彼女は愛香の鼻をつまんだ

しかし、数分経っても何も起きなかった

「これ以上は危険か。呼吸に悪影響を与えてしまう」

「なんで起きないんでしょう。私は多分これをやられて起きたのに」

普通なら起きそうなんだよな

「多分苦しみの強さの度合いだな。彼女は苦しみが大きいんだろう」

「恋は祖父が死んでしまったが、それは病気で仕方なかったことだ。その分苦しみは下がったから鼻をつまむことで、目を覚やすことがれたんだろう」

「そして振られた彼は人が死んでないだけ苦しみは少ないから、自力で起きれたんだろうな」


家のところを調べたけど、特に有用な情報は無かった。

次にもう一人の彼のところに行く。

そういえば、恋は祖父の夢を見たらしいけど、あの恋と最初に会ったあの事件じゃなかったんだな。あれは被害があったわけじゃないからまだあれか。


「ここです」

ドアのインターホンを鳴らした

返事は無かった

いないのか?

「あ、そういえば師匠は親が両方とも他県にいて、いつもは一人で暮らしているみたいです」

…まずいな

彼が苦しんでいたとしても、確認する術がない。それに、誰も気づくことができない

それにこんなんじゃ、なんの成果も得られない。この事件の調査に来たのに

「仕方ない。恋、いつものやってくれ」

「いいんですか?なら遠慮なくやっちゃいますね」

いつものとは恋のピッキングのこと。恋は普通の鍵なら傷一つ付けずにピッキングすることが可能だ。流石に傷つけるわけにはいかないからな。

そういえば恋のピッキングスキルは昔家で教えてもらったらしいけど、なんでだ?護身術とかならまだわかるのだが…今更だけどあの家の考えることは分からない


「よし、開きました」

一分もしないうちに解錠した。このスキルやっぱり凄いな。

扉を開けて中に入った。住居不法侵入?なんとかなるだろ。まあ、これは事情があるから、うん。多分なんとかなる

家の中を探索し、彼を見つけた

「これは…」

流石に絶句する。さっきの彼女よりも多くモヤが出ている。ドアを閉め切っているからもはや見ることができなかった

この形状の部屋は…ここか?

推理したようでとりあえず壁沿いに歩いて窓を開け、ようやく換気することができた

「師匠…」

「先輩…」

「新…」

3人とも同じような反応をしている。

愛香はとりあえず彼の鼻をつまんでいる。これで起きてくれればいいけど、さっきの彼女の反応を見るに無理そうだ

やっぱり、鼻を数十秒つまんでいたが起きなかった


では調べるか。

一つ気づいたのは、2つの家で黒いモヤが出ていく方向が違うこと

窓から出たあとは彼女は北へ出ていったのにここでは南の方に出ていく。

風の違いというわけではないだろう。そこまで離れてないのに風向がここまで違うのはおかしい

いや、そういうことが

黒いモヤが違うのはそういうことか。言われてみれば、ここへ来る途中も数回モヤが出ている家を見つけたが、モヤの出る向きは少しずつ変化していた。

そして私の推理が真である証拠として、夢の内容がある。あの内容も意味があってやっていたのだ。

犯人が集めている理由は分からないけど、ここまで多くの人を被害に合わせている時点でまともじゃないのは確か。人が苦しむのをなんとも思わないのか。

そしてその場に行けば、犯人の手がかりも掴めるかもしれない

スマホで地図を調べ、そこに二本の線を入れる。そこの交わる場所が怪しい。


「犯人の手がかりがある場所がわかった。そこに行くぞ。」

「純様、どういうことですか?」

「謎が解けたんだ。恋」

家から交わった地点まで走る。悪戯な夢を早く終わらせないと

「犯人の動機はおそらくこの黒いモヤを集めること。多分このモヤはその人の苦しみの量に応じて変化する。だから、夢を見させた。あの夢は最初幸福を与えてから絶望に落とすことで、より苦しみを集める仕組みだ」

なお過去の夢なのはより苦しみを与えるため。過去=一度経験したことがあるもの。それなのに悲劇を変えれなかったら自分を責めてしまっておかしくない。初見よりも多くの苦しみを取らせようとしていたのだろう

「なるほど純様。それなら最後の時空神とのくだりは本当は自称神を名乗っていただけのやつということですか?」

「ああ、神がこの計画に加担しているとは考えにくすぎる。もし神が加担しているなら、こんな回りくどい方法は取らないだろうからな」

「おっと、ここだ」

着いた。ここが交わっていた場所にある廃ビルだ。


鍵は開いてないか

「ところで、どうしてここだと分かったんですか?」

「ん?ああ、それはただ二人から出ていたモヤの流れる線が交わった地点だったからだ。」

モヤを集めているとなると、それぞれの地点からモヤが流れていると思った

「恋、ピッキングで開けられるか?」

「…難しいですね。」

開けられないか。まあ仕方ないか。

「私が破壊しましょうか?」

「やめてくれ」

元魔王の子が言ってきたけど、ここでは駄目だからね。

大事になる。それに、普通に器物破損だ。今更感もあるが

使えそうなやつないか?

あの子がいたら瞬間移動で超簡単に潜入できるのだが、今いない

私の武器の力は開けるのには論外だし恋のやこの子達のはどれも破壊はできるけど…的な感じだからな。破壊は流石にやめたほうがいい。

となると残っているのは製薬の彼か?一部を除いていろんな薬が作れるから、なんとかすることはできそうだ。

だが、なんの薬を作ればいいのだ?中に入る方法…

そのとき、ビルの壁の一部が崩れているのが見えた。壊れている部分は小さすぎて、人間が通ることはできない

「君、小人化薬とか作れるか?」

自分でも無茶なことを言っているのはわかる。でも武器の力で何でもできるならできるかなということだ。

作れるけど作るのにものすごい時間かかりそうだが、仕方ない

「あ、できますね。5分ほどあればその解毒剤も含めて作れます」

早くないかな?

5分で製造された薬とか手抜き感が半端ない。予想以上だ。


「完成しました」

5人は小人化薬を飲んで小さくなり、隙間を通っていく。

何とか全員入ることができた。障害もなくてなにより。

「これが解毒剤です」

解毒剤を飲んで全員元に戻った

ところで今更だけど、体が縮むのはまだありえない事ではないが、なんで着ていた服まで縮んだんだ?

考えても分からない。あの製薬はほぼどんな薬でも作れるから、そういうものだったとしておこう


「あいつか」

入ったところの部屋のドア、そこからこのビルの中で怪しげなことをしている人が見えた

髪の長い女性、顔は見えないが、一般の人とは思えない。 

背には大きな黒い鎌をせおっていた。そう、まるで死神が持つ鎌、デスサイズのようだ。こんなに大きな鎌が普通にあってたまるか

足の下には儀式の魔法陣があり、その周りには黒っぽいモヤが大量に集まっていた

「これは…ひどいですね」

ドアから離れ、近くにあったボロボロの椅子に座った

「よし、まずは作戦を練って…あれ?一人いないような…」

ここにいるのは私、恋、元魔王の女子、製薬の男子の四人。盾使うやつどこいった?

「おいお前、よくも…」

声が聞こえた。今ここにいない人の声だ。ただ一つ嫌なのは、ドアの向こうから聞こえてきていたことだ

やつはすでにドアから出、女に喧嘩を売っていた

「なんでもう行ってるの!?」

予想外すぎる。もうこうなったら仕方ない

「よし、全員突撃するぞ」

探偵である以上、見殺しにはできない。


「あら?どちら様?まあ、大勢でいらっしゃったのね」

「俺は神代新師匠の弟子!大木翔だ!師匠の代わりにお前を倒す!」

尊敬というものだな。勝手に行ったことについては内心怒っているが、そういう事情があったのか

恋が私のことを尊敬するように、彼にも尊敬する人がいたということか。まあ恋はここまでのはやらない…よね?多分

「フフフッ。分かりませんわね。そんなこと言われても。」

「はぁ…とぼけるのもi」

「私はめちゃくちゃやったから、覚えてないのですのよ。」

自白したしこいつ


純様が言った通りここに怪しい女がいた。さっき自白と思われることも言ってくれたし本当だろう。

純様が言ったことを疑うわけではない。純様が言ったことは全て真であると思っている。純様に間違いなんてないと思っていたが、実際見ると改めて純様の推理力の凄さがわかる

今更だけど私いらないんじゃないか?いやいや、純様が私を頼ることはある。推理力では勝てないけど、お屋敷でなぜか覚えた多彩なスキルを使って助けられるんだ。私はいらない子じゃない。

「とりあえず、ここを見られたからには帰させるわけには行かないですわね。」

これ戦闘になるな。私の勘がそう言っている

「純様は下がっていてください!あいつ強いです。それに、多分あいつの鎌は異世界のものです。純様には悪いけど武器の力的にも無理です!」

純様は探偵。張り込みやら尾行やらはするから普通の人より体力はあるけど、それで何とかなるかといえばなんともならない。それに、純様の武器の力が戦いとは無縁の力だ。

私達が倒さなきゃ、純様のためにも 

「川崎さんだけに任せられるか!異少課として、警察官として、俺たちも加勢する!」

「私はそのつもりで来たから(私の恋する先輩を苦しめるなんて…絶対に許さない)」

「繁がそうなら俺もだな。妹の決定には俺も従う。最も、俺も最初からやる予定だったけど」

皆…翔君に繁ちゃんに凪君…ありがとう


元異少課のメンバーもこんな感じだったな。皆やる気満々で、悪を許さず、正義を貫く。

私がそんなことやっていいのか分からないけど、私はこいつを倒す。正義なんて私が使っていいのかわからないけど、こんな胸糞悪いやつを倒さずに逃げるのは無理だ。

一人では難しいかもだけど、異少課の三人もいる。中学生に頼るなんてあれな感じもするけど、年齢なんて関係ない。ただ彼らは強い

なぜなら異少課だから

メンバーのうち二人がいないのは痛いけど、今いる3人もチートじみた力を使える。盾から空気の球を出す。魔法の弾を撃ち込む。ほとんどの薬を作れる。

最強かよ。


「こいつ、あんな大きな鎌を軽々しく振り回しやがる…普通の人じゃないのは明らかだな」

翔君がその鎌を盾で受けた。その後ろに私がいて、さらに後ろに元魔族の兄妹がいる。

そして純様はかなり後ろにいる。純様は全く戦えない。純様、また後衛の二人にに攻撃が行くとかなり厄介だな。

さ、やるか

私は持っていた槍を取り出した。

「来るなら来な」

こっちの槍のほうがあっちの鎌より少しリーチが長い。これだけなら勝てそうだ。こっちは4人だし。問題は、武器の力だが

「離れてください!撃ちます!」

後ろから聞こえてきた、繁さんの声だ。遠距離攻撃ができる繁さん、かなり重要だ。

私、そして盾の彼は避けた。しかしそれが仇となった。

「悪夢を見なさい!」

避けた一瞬のスキを狙われ、女は繁さんのところまで走って移動した。

やばい。止めようと思ったが止められなかった。

「えっ?うわっ!」

鎌で繁さんが襲われた。

「止めろ!」

隣の翔君が、空気の球を撃ち、それにより女はそこから離れ元の定位置へと戻った。

運良く致命傷にはなってないようだが、首を切られ、傷口からは血が出ていた

「繁!いま薬作るからな!死ぬなよ!」

後ろでは凪君が繁さんの処置をしていた

「ウァァァァァァァ!」

…これ

繁さんはうめき声を上げていた。血が出ている痛みとは違う叫びだった。まるで悪夢を見たかのような叫びだ。

多分これがあの女の鎌の力。相手に悪夢を見させる力と言ったところか。この力を使って皆に悪夢を見させたんだな。


槍を使って攻撃する。女といい状況だ。女の鎌に比べて私は槍。いくら女が素早いからと言って、攻撃のしやすさでは私のほうが上だ。攻撃をくらいさえしなければ、なんとかなりそうだ

まだ武器の力は使っていない。使いづらいんだよな、この武器の力

今の所繁さんが一回くらっただけ、それに対し私は、数回攻撃を与えられている。こっちが優勢だ

「はぁっはぁっ…」

「繁、落ち着いたか!」

繁さんも落ち着いたみたいだ。私達が見た夢よりも回復しやすいのだろうか

いいことだ。これなら武器の力を使わずに勝てるかもしれない。できればこの武器の力使いたくないから。


「私を良くもここまでコケにしましたね。」 

相手も怒り始めた。お前に怒る価値ないだろと言いたいが今はそんなところじゃない。

女は鎌で攻撃してきた。しかし、今までより俊敏に

「俺が防ぐ!」

盾を翔くんは構えた。しかし、その盾を弾いて攻撃が当たった

「翔くん!」

「ヴァァ…ヴァァァ!」

槍でつき、離すことはできた。

盾を弾くなんて、おかしすぎるよ…

翔くんからは傷口から血が出て、また悪夢を見たのだろうか。悲鳴を上げていた

小さな盾ならまだ分かるけど、翔くんの盾は普通の盾。弾くにはかなりエネルギーが必要なはずだ

しかも、これは武器の力とは違うだろう。武器の力は一つにつき一つ。悪夢を見させるのが武器の力ではないとは考えづらいから、そっちが武器の力なのだろう。悪夢を見させるのと盾を弾くのが同じ武器の力とは考えづらいから、盾を弾くのは武器の力ではなくただ単にあっちが盾で防げないほどの攻撃をしたこととなる。

「くそっ!」

元のステータスが高いのに、攻撃されたときに悪夢を見させるのか。きついな


翔くんは後ろの方で治療中だ。

私は攻撃系、防御がいないとかなりきつい。

攻撃しながら、相手の攻撃をかわさないといけない。

今私が落ちたら、後衛二人が狙われ、そして純様が狙われる。なんとしても、せめて翔くんが復帰できるまでは必死で粘らないと


「あなたも夢を見ませんか?楽になれますよ」

「断る!私は純様と一緒に入れる今が、この世界が幸せなんだから!」

槍で攻撃しても、よくかわされる。相手が怒ってからスピードが上がってきている。私は今の所なんとか避けれているけど、体力がいつまで持つか分からない

私の武器を使うべきか?いや、だめだ。今使うのは流石にリスキーだ。使って倒せるという保証もない。

私の武器の力。それは使ってから30秒間様々な自分の能力を5倍に上げることができるというもの。一見良さそうに見えるが、使うと1時間は気絶する。

つまり、無防備状態になってしまう。あの女以外に敵はいないだろうと思うが、この力を使って倒せないと私は確実に死ぬ。相手が私達に殺意を持っているのに、気絶した私を殺さないわけがない

まだ私は死ねない。死にたくない。純様の願いが叶うまで、私は純様と一緒にいて、純様を手伝いたい。そうすることが私の任務。

「くっ!」

鎌が手首をかすった。その傷からは血が出ている。

痛い…痛い。でもそんなんでくじけられない。手首を失っても、私は戦う。純様、そしてみんなのために。

今の状況で、守れるのは私だけだから。

なぜか悪夢は見なかった。かすっただけでは見させれないのだろうか


「ウァァァァ…」

うめき声はまだ聞こえる。繁ちゃんのときは回復したけど、未だに翔くんは回復しない。

個人差があるのだろうか。早く回復してほしい

「くっ…」

手首が傷んでいく。傷がある状態でどんどん動くから悪化していく

誰にも見せられないな。こんな状況


長期戦となりそうだ。

一対一ということだけは運が良かった。

私は武器の力がバフ技、全体攻撃はどうしてもできない。槍であることもあり、多数と戦うのは苦手なのだ

「これは、もう使うべきか?」

まだ翔くんは戻らない。このまま翔くんが戻るまで待つのは現実的ではない気がする。私が先にリタイアしかねない。リタイアだけは絶対にできない。

でも30秒間だけだ。かなりきつい。確実に戦闘不能にしなければいけないことを考えるとこの時間でできるか分からない。5倍状態なら数発当てれば倒せるだろうが、30秒で数発も当てられるのか?

仮に6発とすると5秒に一回だ。今1分に一回当てるのも厳しいのに無理すぎる

やっぱりなんとかしのぐか。最後の切り札だ


それから30分経過

「はぁ…はぁ…」

相手の攻撃を受けかねない状況が続いている。間一髪かわしてかすり傷にとどめられているが、30はかすり、10の傷口からは血が出ていた

「私がこんな状況なのに、あっちはほぼバテていないな…相手もバテるならなんとかかわし続けられるけど、こんなのは聞いていない」

そして翔くんはまだ戻ってこない。くらったダメージの回復はできていそうだけど、夢からは覚めてくれない

これ以上逃げ続けてはだめだ。最後の切り札を使うときが来たようだ。

でも今は使わない。少し準備してからだ

「繁さん!凪君!どちらでもいいから相手の動きを少しでも止めてくれない!」

今の状況で使っても30秒間やつに逃げられれば勝ち目はない。やつの動きを封じておくのは必要不可欠だ

「それなら私が!」

繁さんが大きな声で応えた。繁さんはやつの靴ギリギリを狙って氷の魔弾を撃った

地面と一緒に凍らすことで、足の動きを完全に封じる魂胆なんだろう。今一番欲しかったことだ

逃げられないようにするには、足を動かされないのが一番。足が動かなければ逃げることができない

私の聞き方が説明不足だったようにも思えたが、全然そんなことはなかったようだ

「ありがとう!これで倒せる…」

私は武器の力を使った。これから30秒間でケリをつけなくては


「えっ?何!?」

やつは驚いている。足首が凍らされている。

足を動かそうにも動けないようだ。本当に良かった

鎌を振り回しているが、槍のほうがリーチが長いので、攻撃を喰らわずに一方的に攻撃できる

「はぁっ!」

1回目の攻撃

そして2回目、3回目、4回目、5回目と続く。

残り15秒。相手もだいぶ弱ってきた。使う前はめちゃくちゃ慎重になって、できるだけ使わずにいたが、杞憂だったみたいだ。

そのとき、私は純様の助手になった際に教えてもらったことをすっかり忘れていた

「慢心するな。決めつけるな。油断するな。ありとあらゆる可能性を考えろ。」

この推理にも戦闘にも応用できるよう名言。それにより、私はさっきこの増強の力を使うか悩んでいた。

しかし、相手が弱いと決めつけてしまった。そして慢心し、油断した。


「こんなクソガキに、負けるわけには、いかないのよ!」

「なっ!」

こいつ、自分の鎌で下の氷を斬りやがった

やばい。時間がない。相手に逃げられたら面倒だ。くそっ

「許しませんよ」

こいつは逃げずに攻撃してきた。だいぶ弱っているだろうに。攻撃を選んだのは私の力が時間経過でなくなることを知らないからか。


槍で鎌を防ぐ。残り時間は12秒のみ。鬼畜だ。

スキさえ晒してくれればいいのに。相手の攻撃のでは緩まない。当てることがままならない。

今か?いや駄目だ。

時間だけが進んでいく

あと6秒

今しかない!

相手が鎌を攻撃するために上げた。この一瞬しかない

私は槍で攻撃した。

これで倒れてくれ。戦闘不能になってくれ。

お願いだ。神様仏様。

その気持ちが天に届いたのか。それは分からないが、今の攻撃で相手は倒れた

良かっ…た

30秒経った。

安心した。気絶しても死なずにすむ。

後のことは純様や異少課の人たちに任せて、私は休もう

煤けた色のコンクリートでできている廃ビル。その床に女は倒れ、そしてすぐに戦っていた恋も倒れた

女が倒れたことにより、女が使っていた鎌の悪夢を見せる力も止まり、悪夢から人々は開放された

6日間に渡った事件は、犯人が倒れ、被害は終わった


「……んぁ」

「起きたか、良かった。出血酷かったんだぞ」

気がつくと山井探偵事務所にいた。

えっと…あれ?なんで私はここにいるんだったっけ?

確か…廃ビルで戦っていて…ああ、思い出した

戦っていた最中に、私が増強使って、そして気絶したんだった

「純様がここまで運んでくれたんですか?」

「ああそうだ。というか恋、出血酷すぎだ。薬作ってもらってなんとかなったとはいえ、彼がいなかったらかなり危なそうだったぞ!自分の身をもっと大事にしろ!」

「それは…ごめんなさい」

「分かったならいい。もう私を心配させないでくれよ」

体に30ほどあった傷も、今見るとほぼ完治していた。薬の効果が強すぎる

それにしても疲れた。今回の戦闘私ばっか戦っていたからな…近接攻撃ができるのが私しかいなかったから仕方ないけど

「ところで…私が倒れたあとどんな感じだったんですか?何かありました?」

「特にこれといったことは起きていないけど、一応話すか。」


「恋が倒れたあと、私が恋の様子を見に行ったんだ。そういえばあの二人めちゃくちゃ焦ってたな。目の前で人が急に倒れられると、焦るのも仕方ないけど」

私が武器の力を説明してなかったせいだな。説明する時間が無かったから仕方ないか

「で、彼に傷を治す薬を作ってもらって、その間にあの女の様子を見ていた。もしかしたらまだ動けるかもしれなかったからな。まぁ、そんなことなかったけど。ちなみにこのときに悪夢を見ていた盾の彼も目を覚ました」

「それから、私が恋をおぶってここまで連れてきて、それで今いるベッドに寝かせたというわけだ。それからは依頼主にわたす事件内容のレポートを制作しながら、恋が起きるのを待っていたという感じだ」

「ちなみにあの女に関しては私はあのあとは知らん。異少課の人たちに押し付けて帰ったから。犯人の後始末は警察の仕事、私の仕事じゃないからな」

本当に何も起きていなかったな。平和で何よりだ

「そういえば、純様は私が気絶している間ずっとそばにいたと」

「まあそうなるな。一時間だけど」

気絶中も安心できる。私にとって一番安心感を与えてくれる人だ

「ありがとうございます」

「礼はいい。それより、レポート制作手伝ってくれ。一人じゃ手が回らん」

二人は今日中依頼主用レポート制作に追われたらしい。だがその分、かなりの依頼料が入ったようだった


翔は悪夢を見ていたが、ある時急に悪夢は終わり、目が覚めた

「あれ?俺は何して」 

「翔起きたか、どこか痛いところとかないか?」

凪が目の前にいる。廃ビルでなんか戦っていて…その後が思い出せない

「あれ?あの女は?戦っている最中だったんじゃ…」

「あ、それならもう終わったぞ」

凪に戦いの結果がどうなったかなどを教えてもらった

「じゃ、ちょっと待っててくれ。もう一つやらないといけないことあるから」

凪は何かを持って近くのところに行った

「なるほど、俺はずっと倒れていたのか。師匠がいなくてよかった。師匠にこんな姿見せられないな」

師匠がいたら師匠に攻撃が集中するところだった。しかも俺のせいで。そんなの耐えられない。

俺の仕事は防御。他の人にはできない、唯一無二の仕事だ


凪が戻ってきた

「そうだ。戦ってくれた川崎さんにお礼を言いたいんだけど、どこにいる?」

「あ…今は無理だな。川崎さんはもう帰ったから。それに、今は起きないみたいだから」

無理か、仕方ない。

「じゃ、帰ろうか。翔も起きたし」

「分かった。お兄ちゃん」

異少課へと戻っていった。ただ繁はなぜかあの女を背負った状態で

「こいつも持っていこう。罪を償ってもらわないと」

連れて行く理由より、少女が大の大人を背負って行く状況のほうが驚いている。

最近忘れ気味だったけどやっぱり元魔王なんだな。改めて実感した


異少課へと戻ってきた。なお女は殺人を扱っている課に出してきた

「はぁ…疲れた」

今になって疲れがどっと来た

「お兄ちゃん…ここで眠っていいと思う?」

「いいよ。俺が許可出す。俺も寝たい」

ソファにもたれかかって、3人共眠った


「すみません!寝坊しました!」

3人が眠って少ししたあと、瞬間移動で愛香がやってきた

時刻は11時、普通なら遅刻のレベルだ

愛香は女が倒れたときに目が覚めた。そして時間に気づき、ご飯や着替えなどを急いで行って来たのだ

「って…全員眠っているみたいですね。起きるまで待って、そこから謝りましょう」

悪夢は愛香のせいでないのだが、当の本人はそのことを知らなかった

それから約10分後

「はぁ…はぁ…ごめんなさい」

息を切らして新がやってきた。

「神代先輩!どうしたんですかそんなに汗かいて…」

「寝坊しちゃって、すまんかった。俺が寝ている間に何か起こらなかったか?」

「神代先輩もですか?実は私も寝坊しちゃって…ここに来たのもついさっきなんです。」

2人は3人が起きるまで待った。


「…師匠!それに愛香!無事だったみたいですね」

「「すみません!遅刻しちゃって…」」

「ああ、それは…」

翔は事件の内容を語った

「大丈夫だったのか?そんな事件3人に任しちゃって」

「いや、大丈夫でした。探偵の二人も手伝ってくれましたから」

後でお礼言っておこう。そう思った新だった

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