第8章 悪戯な夢中編 愛香と大事な故郷

月曜日

新が夢で過去の世界に初めて行った日、だが過去世界へと行ったのは彼だけではなかった

異少課の抹茶オタク、彼女もまた、過去世界へと行くのだった


「ただいま」

「お帰り、愛香ちゃん」

愛香は家に帰った。彼女は今訳あって、伯母さんと二人で暮らしている

「異少課は楽しかったかい?」

「うん」

そして、この伯母さんは彼女が異少課で働いていることを知っている。というのも当たり前なのだが、家族がいつも家にいない新ならともかく、家族と一緒に暮らしているのに隠し通すには無理がある

まあ愛香はそもそも隠そうとはしてなく、最初異少課に就いたときに家族に言っていいかまず聞いたのだが。(異少課では家族にはここで働いていることを言っても良いことになっている)

伯母さんは最初から、「そうかい、頑張りな」と止めずに応援した。愛香の実力を知っていて、愛香ならできると思っていたらしい

「学校の準備も終わったし、そろそろ眠ろうかな」

愛香はベッドに横たわり、そうして部屋の電気を消した


夢の世界(過去の世界)に入った。といっても彼女はこれが夢であることにはまだ気づいていない

彼女はとある村の家、古めかしい感じが漂う家の中にいた

「あれっ?ここ…?」

「何で?」

この場所って…やっぱり。間違いない。私が昔よく見た光景

ここは外居村。私の故郷。そして今いるのは私の家だ

外居村は長野県の今では外町通りなどがあるところの近くの森を越えたところにある。

外界との交流をほぼ絶っているその村では、独自の文化が発達していた

「愛香、帰ってきたぞ。」

お父さん!?

愛香は母親を赤ちゃんの頃に亡くしてしまい、父親に育てられてきた。そのため、兄弟姉妹がいない愛香にとって、一番の家族が父親なのである

「今日はいいもんが取れた。ほら、イノシシだ。ってあれ?なんで泣いているんだ?イノシシ好きだろ?」

私はいつの間にか涙を流していた。お父さんと会えた嬉しさからくる涙だ。

手で拭おうとしたが、それでなんとかなるようではなかった

「お父さん…あれ、してくれない?」

「あれだな。ったく、愛香は甘えん坊だな。食事のあとでならいぞ」

どうしてか久しぶりに会えたお父さん。あのことがしたかった。


イノシシなんて久しぶりに食べた気がする。こっちにいたときはよく食べていたというのに、あっちに行ってからはイノシシを狩ることも無くなったからな…

あっちも楽しいけど、故郷も楽しいな

イノシシ肉をご飯と一緒に抹茶をかけて食べた。


「愛香、先お風呂入ってきな。すでに沸かしてあるから」

「分かった」

この村には最新のものなんて全然ない。古くからの伝統を保ってきた村だ。

そのため、お風呂と言っても、薪でお湯を沸かすタイプだ。電気もガスも無いこの村で、彼らは生活していた。

「でもやっぱり、なんでここにいるんだろう…」

私、こっちに戻るようなこと無かったよね…

どうして?

お風呂の中で、彼女は考え込んだ

だがそれでも、答えは出てこなかった


お風呂から出て、動きやすい服装に着替えたら、彼女はまた居間に向かった

テレビもないこの村だが、本はある。その本を読みにきた

「懐かしい…」

本を適当に手に取ると、本の中に落書きされているページを見つけた。彼女が小さい頃にした落書きだ。

私、こんな感じだったんだな…絵、今の私とちっとも変わってないや。でも、それで何を描いてあるのか分かる。

文字を綺麗に書けない人が、逆に汚い字でも何が書いてあるのか分かるやつだ。それが絵でも同じようになるのである。愛香は美術が苦手であるから、自分の昔の絵でも何が描いてあるのか読み取れたのだ

「これは私かな。そしてこれは…お父さん?」

お父さんと愛香が手を握っている絵。微笑ましい限りだった

昔、愛香が「私、大きくなったらお父さんのお嫁さんになるんだ!」と言っていたときに描いた絵だろう


「愛香、こっちも風呂入り終わったし、あれやってあげようか?」

「うん!」

愛香は足を伸ばして、お父さんの膝の上に寝転がった

そう、あれとは、「膝枕」のことである

愛香は昔疲れたりした日はお父さんに膝枕をさせてもらっていたらしい。でも今回の膝枕は疲れたからというわけではない

甘えというやつだ。

愛香が今住んでいるところに来た(お父さんと別れた)のは約2年前

要するに、愛香は2年ぶりにお父さんと再会したのだ。

愛香は確かに今伯母さんと一緒に暮らしている。でも、伯母さんには流石にプライドというもので甘えることはできていなかった。でも、お父さんは昔から膝枕をしてきた。今、そのことを頼んでもあまり恥ずかしくはないという理由で頼んだのだ。

「お父さん…」

数分後

「zzz…」

「寝ちゃったか。」

居間から愛香を起こさないようそうっと寝室に連れて行った

「愛香、お休み」

愛香を布団に寝かせ、そこに掛け布団をかけ、そこから離れた

そして、彼は仏壇へと行った

「佳奈…明日も愛香のことを見守っててくれよ」

2回手を叩き、そのままお参りした


深夜0時

「…」

愛香はなぜかこんな時間に目が覚めてしまった。たまにあるやつだ

今…何時?

愛香は時間を見ようと、振り子時計が置いてある居間へと行こうとした

えっ…?

廊下で急激に謎の感覚に覆われ、視界が狭くなっていった

なん…で…


「ハッ!」

愛香はベッドの上で目が覚めた。自分の部屋の中の

さっきのは…夢?

懐かしい夢だったな…お父さんにも会えたし

現実でも…会えたらいいのに…

独り言をただぶつぶつと呟いていた

でも、やけにリアルな夢だった…まるで、自分があの村に戻ったかのように…。

って、そんな訳ないか…。

夢の世界を過酷な現実と比較させ、少し落ち込んでしまった

「愛香ちゃん。朝ごはんの準備ができたよ」

「分かった。今行く」

愛香は朝ご飯を食べたあと、新聞を読んでから学校に行く

政府がまた税金上げたの…仕方ないけど、もうちょっと下げてほしいな…

飲酒運転で事故…許せない

地方の心霊特集!?ちょっと怖いけど…見てみようかな。えっと、倒産したホテルに幽霊が!?絶対に行かないようにしよう

ちなみに愛香は怖いのは実際だと嫌いだが、怖い話を聞くぐらいならなんとかなるらしい

新聞を読んだあと、愛香は学校へと出かけた


次の日の夜

「えっ?」

また夢で昨日もいた村にいる

これ…昨日と同じ夢?

いや、昨日とは違う。

今いるのは家の中の寝室。昨日夢の中で寝たところだ

窓から日の光が差し込む

朝なのだろう


時計を見ると6時を指していた

居間へと行くと、お父さんが庭で薪割りをしているのを見つけた

「お父さん。おはよう」

「愛香。おはよう」

「朝ご飯は薪割り終わってから作るから、その間にいつもの特訓でもしてきたら?」

「分かった」

いつもの特訓か…最近できていなかったな

忘れていたというのが一番の理由なんだけど

もしかしたら体鈍っているかもな…異少課で身体使っているとはいえ…

久しぶりに、特訓するか


まずは麻をジャンプで飛び超える

この成長する麻を毎日飛び越えることで、脚力を鍛えるのだ

「ほっ」

2mほどの木を、軽々と飛び越えた

そんなに、鈍ってないかな。でもぎりぎりだったな…

次に、胸に笠を当てた状態で走り、それが落ちないようにして走る

「はぁっ…はぁっ…」

これはかなり落ちているな…2分ほどしかできなかった

もう少し頑張らないと。体力テストのシャトルランも100ぐらいしかできなかったんだし

最後は二重息吹の特訓だ

横隔膜を鍛え、持久力を高める効果があるらしい

吸うのと吐くのを特定の方法で繰り返す

これならいつでもできるな。授業中これしながら授業受けようかな


「よしっ、今日の特訓終了」

特訓内容が普通とは違うように思えるが、これで合ってる

なんでこんな特訓をしないといけないのかというと、この村が原因だ

外居村の村人は、全員が忍者なのである

この村は昔忍者が世間から隠れて住んでいた場所のようで、それが今まで続いているのである

今ではすっかり忍者の需要が無くなっているように見えるが、この村人たちは忍術や鍛え上げた身体などを生活に生かしていた

愛香も忍者の子供として、毎日特訓していた。とはいっても、そんなに才能は(他の村人と比べれば)なかったようだが


「ただいま」

「さ、朝ご飯できているよ」

忍者とはいっても、今日の朝ご飯は普通に目玉焼きとご飯という至って普通のものだ

そもそも、任務中でもないのにわざわざ変なものを食べる必要はない。よく食べてこそ身体能力を向上できるというものだ

「やっぱり、お父さんの作るのは美味しい」

何なんだろう、強いて言うなら、『親の味』というものだろうか

「ちゃんと食べろよ」

「食べるよ。失礼だな」

抹茶をかけて味わって食べた


「ところで、愛香は将来何になりたいんだ? やっぱり村長か?」

村長はここでは人気がある職業だ。村の長は現村長が急死するなど特別な場合を除けば10年に一度必ず変更される。伝統でそう決まっている

そして村長になれば村を盛り上げる施策を行ったり、新たな施設を作るなど村長権限で色々なことができるようになる。皆がなりたがるのも納得の職業だ

村長には掟により代わる年に10歳〜20歳の子供の中で一番忍術が上手い人が選ばれる

「いや、村長になったら大変なこともいっぱいあるだろうし、何より私よりあのエリートの彼がなるでしょ。無理だよ私じゃ…」

村長が代わるのは今から2年後

この村には2年後に10歳〜20歳の子供は2人いる。忍術が下手な私と、私より1歳年上で忍術がめちゃくちゃ上手いエリートと呼ばれている人だ

掟からしてなるのは彼のほう。彼は孤児で、幼い頃から山で忍術を毎日8時間以上特訓しているらしい

いつも山に入っているせいで、私はその顔を見たことないのだが

「そうか…なら何になるんだ?」

「私は、村の中でお店を開きたいな。何を売るとかは決めてないけど、店で村の人達を喜ばせたい」

これは昔から思っていたこと。店を開けば、沢山の人を幸せにできるよね

私はこういうのがやりたかったんだ


「ごちそうさま」

朝ご飯を食べ終わったら、昔みたいに昔通っていた小学校へと向かう

小学校といっても本当はお寺で、住職が子供達に勉強を教えているというものなのだけど

「愛香お姉ちゃんおはよう」

「おはよう、海人くん」

幼い子供と遊んだりするのも私の役目、小学校1年生の彼と住職の先生が来るまで遊んであげている

「お姉ちゃん、今日は鬼ごっこしようよ!」

「いいよ。じゃあ最初は私が鬼ね」

「1.2.3.4.5.6.7.8.9.10」

小学校1年生と当時小学校5年生の彼女が鬼ごっこをしてし大丈夫なのかという問題があるが、問題は別の意味でおこる

「どこだ?探すぞ〜」

10分後

「どこ?」

海人くんは愛香と違って普通の忍者として技などが使える

忍術が全く使えない愛香とだと、むしろ愛香のほうが不利なのである

「やった、いた。天井裏にいたのか」

「捕まえてやる」

3分後

「ハア…ハア…」

走るスピード、その他のステータスはあちらが勝っているのである

結果、運良く愛香が捕まえることはできたが、その後1分もせずに鬼になり、その後捕まえることはなかった


「お姉ちゃん、遅いよ」

子供の無垢な笑顔がずさりと刺さる

真実を言っているだけ、何も悪いと思っていない

そういう子供の言葉が一番傷つくときって、あるよね

「ごめんね」

心のなかでめちゃくちゃ悔しい

小学校1年生に負けるのは…うん


「君たち楽しんどるの」

「先生!」

先生がいつものように気配を消して近づいてきた

全く気づかなかった…

「さて、授業の時間じゃぞ」

「はい」

忍術の授業は久しぶりだ。

当たり前だが、今住んでいる家に来てからは忍術の授業なんてやってないからな。

昔は学校でこれ習うのは当たり前だと思っていた。転校して驚いたものだ

忍術が下手な私にとっては、ちょっと嬉しかったけど

「はい。今日の授業はおしまい」

久しぶりの授業。もはや忍術関係のところは全然覚えてなかったな

習ったことはある気がするけど、それが何なのかとかは、全然覚えてない

そして、寺から出て家に帰っていった


家へと帰る途中、森の近くを通っているとき

「カン!カン!」

金属音が鳴り響いていた

「エリートさん。今日も修練しているのかな」

この森はエリートの彼の特訓の場所らしい。

彼の姿は見えなかったが、多分修練しているのだろう

凄いな…

好きなものに一生懸命になるのってすごい

私にとっての一生懸命になれるのは今は警察業だけど、このときには全く無かったな

「私が好きなものって、警察業なんだな」

最初は暇つぶしかつ面白さで始めた警察業だけど、今は単なる暇つぶしとは違う

神代先輩に、翔さんに、凪さんに、繁

探偵の二人や上司の石山さん。

皆との関わりが楽しいと思える

やっぱり、好きだな

そよ風が森の木々を揺らす中、愛香は森を抜けた

「あれっ?」

帰る途中、また視界が揺らぎ、倒れた。

そして、目が覚めたときには家の中だった

やっぱり夢だった。不思議と続く夢

不思議なこともあるんだな


部活動が終わって異少課に行くと凪さんや繁がソファに座っていた

「あれっ?神代先輩は?」

「今一人で任務に向かっているって」

なるほど

「宿題やるか」

特にすることもないので、宿題を早めに済ませておく

ちなみに繁とは学校が違うもののたまたま同じところをやっていたらしく、教え合いながら宿題をした

凪さんは食堂へと行った。食堂のアルバイトを兼業しているらしい。そこまで頑張れるのは凄いな

思わず感心した


少しして、翔さんも異少課に来た

翔さんが通う中学校はここから少し遠くにあるらしい。来るのが遅れても仕方ない

「そうだ。夏休み入って最初の土曜日に皆で行きたいところあるんだけど、皆予定ある?」

翔さんが聞いた。

「私は大丈夫ですよ」

「私も大丈夫、お兄ちゃんも多分大丈夫だとと思うけど後で聞いておく」

「師匠には俺が後で聞いておくわ。いつか多分」

夏休みか、予定はなんにもないんだけど

普通の人は夏休みに帰省とかするんだろうけど、私はできないからな…

「ところで、どこに行くの?」

「坪井温泉っていうホテルの廃墟に行こうと」

…。

気のせいだよね多分

「ちょっと待って。多分聞き間違えたから」

「坪井温泉というホテルの廃墟に行くよ」

聞き間違えじゃなかった

このホテルの名前。そして廃墟であること

昨日見た新聞に出てきた心霊スポットだ

「いや、昨日新聞読んでいたときに地方の心霊特集やっててな。それ見て思ったんだ。肝試しやりたいなって」

完全に肝試しする気満々だ

嫌だ嫌だ嫌だ

そういうホラー本当苦手なんだから

てか翔さん知ってるはずだよね!神代先輩の中学校の七不思議解いたときに

「肝試しとかやりたくないんだけど」

「でもでも、よく言うじゃん。『夏だ!海だ!肝試しだ!』って」

「それは言わないと思う」


確かにあのホテル海の近くにあったらしいけど

「どっちにしろ、肝試しとか楽しそうじゃん」

そうだった翔さんはこういうホラー大の大好きだった

「でもでも、繁もホラーとか苦手だよね?」

「いや、怖くはない。元々の世界では呪いとか日常茶飯事だったから」

…価値観の違い!

あれ?これとなると私だけホラー苦手なの

凪さんだけは分からないけど繁が言うことから多分凪さんもホラー苦手じゃないと推測できるし

「まあ、愛香は来たくないなら来なくていいよ。無理して来させるのもおかしい話だし」

「分かった。その日はもう一人で仕事している」

一人で仕事するのも辛いかもだけど心霊スポットに行かなくて済むならマシ

中学校七不思議はほぼ先生がやっていたことだったから怖くなかったけど、ガチホラーは無理

見るだけでいいんだよそういうやつは

その後凪さんが来たので凪さん、翔さん、繁の3人で計画を練っていたけど、私は興味がなかった

行かない人だもん。仕方ないよね


仕事は終わり、今日も家へと帰ってきた

「ただいま」

「おかえり」

夕食を食べ、風呂に入り、明日の準備をする

そうして、今日も眠りについた


昨日と同じように故郷の家の中にいた

2日間まではたまたま同じような夢を見たんじゃないかとも思ったけど、これはもうなにか仕組まれているんじゃないかな

でも、またお父さんたちに会うことができるなら、多少仕組まれていてもこっちのほうがいいんだけども

ずっと、こんな夢、見ていたいな…


今は日曜日らしい。特訓などを済ませたあとは、適当にそこらへんを散歩していた

「おはようございます」

「おはよう」

この村の人達は良い人だらけだ

この村は全員忍者で、忍術を使って産業を成り立たせている。それなのに、忍術が全然使えない私に休みの時間などに忍術を教えてくれてる。忍術は難しいけど、少しずつ理解していた。

朝ご飯を買いに行くがてら、店で店主のおばさんと立ち話をしていた

「そういえば、噂で聞いたんだけど、この近くの森に未知の獣が出たらしいよ」

「怖いですね。未知の獣ってどんなのなんですか?」

「ごめんね、噂で聞いただけだから、そこまでは分からないのよ。でも、危険なことは確からしいのよ。愛香ちゃんも気をつけてね」

未知の獣…魔族かな?

大丈夫かな?もし魔族ならこちらの武器では太刀打ちできないような気がする…

村に現れないよう祈るしかない


散歩から帰ってからは少し遅い朝ご飯を食べ、そこからは家の中で本を読んでいた

スマホがないので暇つぶしが読書ぐらいしか思いつかないのである

この村にスマホなんて近代的なものあるわけ無いし、仮にあったとしてもネットに繋がるかどうか怪しい

そもそもこの村の人はスマホという存在すら知らないだろう。外の情報に疎い村だから

へぇー…ほぉー…

この本何度も読んだことがある本なのだが、2年ぶりに読むと内容を全く覚えてないから初見のように楽しめる

こういう忘れはいいな、大事なことの忘れはやめてほしいけど

本を読むのに夢中になって、いつの間にか昼ごはんの時間になっていた。


「今日は魚だぞ」

近くの川から取ってきた七輪で魚を焼いたもの。

塩(と抹茶)があると最高なんだよな

ちなみに外部から完全に孤立しているわけではなく、たまに行商人がやってくる

そのため、塩などの一部のものはこの村でも手に入る

勿論、行商人が持ってこれないようなものは手に入れることができないが

「いただきます」

食べる前は勿論これだ

「ごちそうさまでした」

魚に少量のしょっぱさが合わさり抹茶との相性が最高になっていた

「ところでら何か片付けで手伝うことある?」

「なら、七輪を片付けてくれ」

「分かった」

火事にならないよう、注意を払って片付けをした


また本を読んで1時間ほど経ったとき

「ゴンゴンゴンゴン」

玄関の扉が大きな音で叩かれた

「どうかしたか?」

お父さんが出たところ、玄関には村のおじさんが立っていた

「緊急事態なんだ。詳しくは後で話すから手伝ってくれ」

玄関から少し離れたここでも聞こえる。これは只事ではないみたい

かと言って、私にできることなんてなにもないのだろうけど

「分かった」

お父さんはそう言うと、家から出ていった

私は、ただ家で本を読み続けていた

3時頃、お父さんはまだ帰ってきてなかった

さっきまで読んでいた本も読み終え、やっぱりやることがなくなってしまった

家の中にいても何もすることないし、外を少し遠くまで歩いていこうかな

玄関にメモを残し、持ち物を何も持たず、村の外れまで歩き出した

「人がまるで消えたみたい…」

いつもならこんな小さな村でも通りは数人がいつもいるようなものだが、今日は、誰もいなかった

それほど、重大な『何か』が起こったのだろうか。その可能性が高いだろう

たまたまいないだけという可能性もあるが、商店の人も休憩時間じゃないのにいないのは、たまたまではないだろう。緊急で出ていったに違いない


少し離れた川原で休憩していた

この場所が今日行こうとしていた場所だ

「川のせせらぎ、鳥のさえずり、魚がピチピチと跳ねる音…」

私はこの場所が好きだ。

いろんな自然の音が、自分の身も心も癒やしてくれる。落ち着いた気持ちにしてくれる

それから、川で色々なものを観察した

鳥が飛んでいる様子を遠くから観察したり、魚が泳いでいる様子を見たり

また、川原の石を積み上げることもやった。これが意外と難しい

石なんてそれぞれ違う形をしており、積み木とかを積み上げるのとはわけが違う

特にここは川の上流、ゴツゴツした大きな石が転がっているのだ

いつの間にか1時間ほど、石積みに格闘していた

いい石ないかな…

積みやすい石を探して川原を少し歩く

近場ではすでに取ったし、何より今の状態だと少しの衝撃で倒れてしまいそうだ

多少平らな程度では倒れてしまう。真に平らな石でないと

「あれっ?これ…どうして?」

川原に石に紛れてとあるものが落ちてあった

それ自体ならよくあることだ、実際川原にはゴミが少し落ちていたのだし

でも、そんなんじゃない。落ちていたのは…

「これっ?私の短剣じゃない。どうしてこんなところに…」

そう、愛香がよく使う短剣。瞬間移動が使えるあの短剣。あれが川原に落ちていた

愛香が短剣マニアであるわけではもちろん無いのだが、それでもこれがいつも使っている短剣だとわかる。この短剣には異世界の独特な装飾が施されていた

この世界に1つしかない装飾を


それから日没ぐらいまで時が進んだ

短剣が何故か落ちているという不思議なことがあったが、その短剣を拾ったあとはまた石を積み上げる遊びをしていた

単純作業って何故か夢中になれるようなところがある

「日が沈みそうだな…そろそろ帰ろっかな。そうだ、これ使って帰ろう」

短剣を使い、家まで瞬間移動した。

「やっぱり、これ私の短剣だよね。これで確実になった。」

瞬間移動なんてこの世界で普通できるわけない。この短剣がこの世界のものではないのは確実だ。


「お父さん…まだ家に帰ってないんだ」

玄関にはお父さんの靴は無かった。行く前に書いたメモも読まれた形跡がなかった

メモを捨て、お父さんが帰ってくるのを待った

30分ほどして、ようやくお父さんが帰ってきた

「何があったの?」

「いつもあそこの山で修行している子、いたろ」

その子って…エリートさんのことかな。いつも山で修行している人を私は彼以外知らない

「そいつが未知の獣に襲われて行方不明なんだ」

「最後にその子の姿を見た人によると、その子が未知の獣と一緒にいて、助けようとその獣を倒そうとしたら、獣が彼を連れて逃げていったみたいなんだ。それで逃げたやつを探していたんだけど、いつの間にかどこに行ったのか検討も付かなくなったらしい」

怖…

多分魔族の仕業なんだろうな

普通の獣なら村の人が総出で探したのにまだ行方不明なのはおかしい。魔族が何らかの方法で逃げたんだろうな

エリートさんも可哀相に

魔族へは異世界のものでないと攻撃与えられないから、いくら忍術がうまくても魔族の前では無意味となってしまう

彼が、本名すら知らない彼が、生きていることを願った

魔族による被害者をあんまり出したくない


お父さんとの会話の途中、またいつもの視界の揺らぎが訪れた

はぁっ…はぁっ…

そしてまたいつものように、私はいつも寝ているベッドの上にいた。目が覚めた。

「愛香ちゃん。朝ごはんもうできたわよ。」

いつもより長い間眠っていたみたいだ。いつも起きる時間より明らかに遅い

いつもより夢の内容が多かったからかな

そういえば、夢の中で川原で短剣を拾ったシーンあったけど、あのときは忘れていたけど、昔あそこで実際に短剣を拾ったんだった

やっぱり、過去を投影しているのかな?

川原で短剣を拾ったのも本当のことだし、エリートさんが襲われたのも本当のことだ。

私の過去と夢の内容が同じすぎる


「どうかしたの愛香?」

学校での親友の結ちゃんと朝の時間話している。

異少課メンバーは男が多いし、女子でも繁は元魔王だから私達と常識が違うことがあって、話の内容が合わないことがある。探偵さん達2人は先輩だし、そういう話をしづらい。

そのため、ちゃんとしたガールズトークを楽しめる唯一の時間である

「結ちゃん、どうもしてないけど…なんで?」

「いや、最近愛香がなんか雰囲気変わったような気がしてさ。ごめんね。気のせいだったかも」

「いや、私は本当に変化を起こしたのだと思いますよ」

後ろから急に話しかけてきたのは千洋ちゃんだ。

千洋ちゃんは影が薄い。忍術の修行を一応していた私でも戸惑うことがある。

「千洋ちゃん?」

「単刀直入に言います。愛香、もしかしてですが大事な人に出会ったのでは?私の占いがそう告げてきたのです」

千洋ちゃんは両親が占い師で、それで水晶玉を使って占いをすることができる

いつも日課として私達のことを占ってきて、それで何か異常があったら伝えてきてくれる

かと言っても、それを防ぐ方法までは分からないから、防げるのは稀なのだけど

「あー…確かに再会したかも」

夢の中で

「え!?もしかして…愛香彼氏が…」

「違う違う違う。夢で家族に会っただけだから」

彼氏とか…作る気ないし…

「誰であれ、もう一つ忠告があります。これも占いで出たのですが、楽しいことは長くは続かないようなのです」

心配するように、千洋ちゃんは言った


異少課で翔さんが読書感想文の書き方について尋ねてきたりしたが、今日はこれと言って特に何も起こらなかった

抹茶の本なら読書感想文めちゃくちゃ書けるだろうに

抹茶を世界で初めて作った偉人の本で書くよう勧めたけどやんわりと断られた

今日も寝て、夢の世界へと旅立った


今日は、なんだかいつもと違った

確かにいつもと同じように故郷での村だけど、ちょっとおかしかった

まず、スタート地点が家の中ではなく、森の中。そして、目の前にいるのはお父さんではなく、知らないおじさんだった

「おい、何を手止めてるんだ!さっさと手を動かせ!」

え?

片手はこの前見つけた私の短剣を握っていた

「えっと…どういう?」

「ふざけてるのか!」

おじさんの剣幕にびっくりした

でも、そもそもどうしてこんなことになっているのかさっぱり分からない

目の前に傷が多く残っている木があるから、多分短剣の修行をしていたのだろうけど…

でも、私は普段1人っきりで特訓しているし…そもそもおじさんが誰なのかすら知らない

「次期村長なんだから、村長の器にふさわしいほどの忍者になれ!」

次期村長?

「いや、次期村長なんて私は…」

「…仕方ないだろ。俺だってこんな忍術下手な人にやらせるのはあれだと思うけど…でも、あの彼が行方不明になった今、お前しか次期村長になれる人がいないんだから!」

…!

そのとき、一つのことに気づいた

元々この村には2年後に10歳〜20歳の子供は2人いた。そしてそのうちの一人のエリートさんが昨日の夢でいなくなった。

必然的に、私しかやることができないのか

「分かりました。がんばります」


「うっ…はっ…」

夕方までずっと修行。昼飯(兵糧丸と水渇丸。忍者食の一種)を食べる時間は少し取らせてくれたが、それ以外はずっと修行していた

異少課で疲れることはまぁまぁあったが、そんなのとは比べ物にならないほど疲れている。体のあちこちが痛む

というか今更だけど、なんで痛むんだろう?ここ夢だよね?

「よし、今日は終わりだ。明日もここに来いよ。」

この疲れた足で、家まで帰った


「愛香…大丈夫か?」

家に帰るとお父さんが心配してくれた。

「大丈夫大丈夫、平気平気」

口ではそう言ってはいたが、愛香自身は全然大丈夫ではなかった

体中のあちこちが痛んでいる。こんな状態で実際大丈夫なわけがない

でも愛香は、お父さんに心配させまいとわざと嘘をついた

「愛香、嘘は良くない」

しかし、お父さんには嘘は見破られていた。愛香が嘘をつくのが下手なのもバレた理由だが、一番の理由はお父さんだからだ。

子供のことを真っ先に思っている親が、自分の子供の違和感に気づかないことはないのだ

「お父さん…」

「辛くなったらお父さんに言いなさい。仕方なく村長候補にさせられているんだから。もし嫌なら、村長さんに言ってどうにかならないか直談判してくるから」

親の優しさと言うやつなのだろうか

嫌なことでも受け入れないといけないこともあるけど、それとは逆に受け入れてはいけない。本当に嫌なら嫌って言わないといけないこともある。


「さ、こんな辛気臭い話は終わりだ。ちょっと待っててな。今日の夜ご飯は腕によりをかけて作るから」

誕生日でもないのに、豪華な料理を作り始めた。愛香の暗く沈んでいた気持ちを変えるために

「よし、できた」

大皿が何枚もおいてあり、様々な料理が並んでいた

愛香は抹茶をかけて腹一杯になるまで食べた。

そうして食べ終わったとき、視界が揺らいで現実世界に戻った


金曜日

「明日あの歌発売されるな〜楽しみだな〜」

家へと帰ってきた愛香は、スマートフォンで好きな歌手のCD情報を見ていた

「明日は土曜日だし、目覚ましかけて早く起きよっと。それで、早く並ばないと。売りきれないように」

そのCDは限定販売らしい。下手したら買えないかもしれない。

目覚ましをかけ、眠りについた


今日も昨日と同じく森の中から始まった

「今日は、瞬間移動と思われる技を使ってから敵を攻撃する練習だ。先日、その短剣で何故か瞬間移動ができることが分かったからな。それなら、いくらお前でもなんとかなるだろうと思ってな」

「昨日のうちに修行方法は考えておいたからな。ここに書いてあることを順番にやってくれ」

この人…なんだかんだ言ってちゃんと私ができるよう修行内容考えてくれたんだ

最初は無理矢理にでも修行させようとしてくる鬼スパルタ教師だと思っていたけど、そんなことはないみたい

休憩をあまり与えてくれないのは相変わらずなんだけど

「えっと…敵の頭上の空中に瞬間移動してそこから頭を攻撃する練習…」

「そうだ。どんな生き物も頭は大事だからな。身体を攻撃するより効率的に敵を倒せるんだ。それに、落ちながら攻撃すれば、その分スピードも出すことができて、大きなエネルギーを与えられる」

練習はハードだった。でもこれは異少課でも使えるだろう。体より頭のほうが倒しやすいことも多々あるのだ

異少課でも使おうとしていたため、必死に練習した。


昼飯の時間になった

2人で食べていると、急に尋ねてきた

「村長なりたいのか?それとも嫌なのか?」

「嫌というほどではないけど、なりたいとも言えないかな」

前にも言ったが、村長になったからって必ず楽しくなれるわけではない。それに私にはやりたいことがあった

「嫌じゃないならいいか。俺は護衛として村長のことをよくわかっているけど、村長になると楽しいぞ。」

この人が村長の護衛の人だと初めて知った


「服部、状況はどうだ?」

「村長!?どうしましたこんなところに…」

昼ごはんを食べていると、そこへ村長がやってきた

面識は特に無いけど、流石に村長なので分かる

村長は様々なことを行った。特に子供の教育に関して様々な施策を行っていた

この村長が就任する前は村には学校が無く、義務教育のためわざわざ山を超えたところまで行かされていたらしい。一応国民の義務のため仕方なくそうなっていた

しかし村長が就任したことで、村の寺を学校として使えるようになったらしい。

「ちょっと伝えたいことがあってな。ここだと彼女に聞かれてしまうかもしれないから、少し離れたところで話すから、来てくれないか?重要な話なんだ」

「分かりました村長。お前、食べ終わったらちゃんと書いてある修行しておけよ。」

「分かりました」

2人は森の奥へと入っていった。

それほど重大な話なのか。気になるけど…誰にも聞かせてはいけない話だろうから、ちゃんと修行して待っておこう


「ここまでくれば大丈夫だろう」

「村長、ところで話とは…」

村長の護衛兼右腕として、若い村長を補佐してきた

今回も、村長のことを補佐してみせる

「彼女、それなりの進展はあったか?」

「彼女って…」

「服部がさっきまで教えていたあの娘だよ」

ああ彼女か。

「教える前より少しは技量が良くなってきていると思います。忍術が普通の人より全然使えないのですけど…」

「そっか。それでは本題だ」

「次期村長についてだが、風魔のやつになんとか継がせたいと思っているんだ。風魔のやつは元々継がせる予定だったあの彼の次に忍術がうまい子供だったからな。あの彼が行方不明になってしまったからな…」

風魔…この村には風魔の苗字の人は数人いるけど、多分あの子だろうな。行方不明の彼の次に強かったのは彼だろう

「風魔って…風魔海人君のことですか?」

「そうだ」

「え?でも、掟では次期村長にはなれないんじゃ…」

掟では代わる2年後に10〜20歳の子が時期村長になる

彼は2年後8歳だ。掟によって次期村長にはなれない。次の次ならなれるが

「確かにそうだな。流石に掟を無視するのはあれだからな。でも今修行中の彼女は忍術が全く使えないらしいから、彼女に継がせたくはないんだよな」

「それに、掟を守って次期村長を彼にする方法ならあるから。その次の掟を使ってね」

え?

背筋が凍った

その次の掟というのは、『ただし、その年に10〜20歳の子供が一人もいない場合、10歳未満の子供から選出する』というものだ

この掟を使うということは、つまり…

彼女を、いなくさせるということだった


「村長!私は反対ですよ!彼女を亡き者にしようとしているんですよね?」

「お、察しがいいな。そうだよ。流石服部だな」

やっぱりか

「私はそんな理由で殺害なんてしたくないんですよ」

「大丈夫だ。彼女を殺していい仮の理由ならすでに考えている。それなら殺す必要があったから殺してしまったことになるから、多少和らぐだろう。最近あまり雨が降ってないから、雨乞いの生贄とする予定だ」

「それに、なんと言われようと彼女を亡き者にしないといけない。私が今までの8年間次世代の教育に力を入れていたのは服部も分かっているだろ。この村の村長ができるだけ優秀な人じゃないといけないんだ。あんな忍術もまともに使えないような奴に継がせてはいけなんだ!」

「で、ですが…」

「村長命令だ服部。大丈夫だ。誰もお前を咎めようとはしないよ。私が保証する」

村長命令なら、普通護衛の俺が逆らうことはできない

「はい…」

俺は嫌だが仕方なく納得せざるを得なかった

「じゃあ、今からやってきてくれ。私は先に帰っておくから」


愛香は食事を食べ終わったあと、言われた通り修行をしていた

修行を始めて30分ぐらい経って、教師の人が帰ってきた

しかし、どこかその様子が変に見えた

「…今日の修行は中止だ。ついてこい」

どういうわけか急に修行が中止になった。村長との会話で何か起こったのだろうか

言われるがまま、森の奥へと行った

「ここって…」

連れて行かれたのは祭りや儀式などで使われる湖。誰もいなく、ただ鳥の鳴き声が聞こえていた

「誰かが着いてきている…ということはなさそうだな」

「あの…どうしてここに?」

「今から言うことを聞け」

その彼の目はいつにもなく真剣だった

「お前は生贄として選ばれた」

「生贄!?嫌だ、死にたくない!」

こんな状態で死んでたまるか

「待て。生贄として選ばれたが、お前が生贄となる必要はない」

「…どういうこと」

「私は生贄なんて間違っていると思うし、何より生贄なんて建前で、本当はただ自分の思うことを叶えるために人を殺すんだ。そんなのがあってたまるか」

「そこで提案だ。といっても確実に従ってもらうが。」

「お前は村に戻るな。森を抜けて山を降りて、そこにある町で波山加奈子という人の家を訪れろ。俺が昔お世話になった人で、確かお前からすると伯母に当たる存在だ。昔色々あって村を出てしまった彼女だけど、多分助けてくれるから」


つまり、彼は私を助けてくれようとしてると、森の奥で村長と話していたから、多分村長の命令だというのに、そして彼は村長の護衛だというのに、それでも私を助けてくれるんだ

「分かった、けど…お父さんと一緒に行きたい」

「仕方ないが無理だ。もし一緒に行ったら、流石に疑われる。公にはお前は死んだことにしないといけないからな。」

そうだよな。仕方ないか。

無茶だと思って言ったんだ。でもお父さんと一緒に行きたかったな…

「最後にお前の父さんに言い残していくことはあるか?」

「さようなら。また会う日まで そう伝えて下さい。」

それから私は無我夢中で走った。

森を抜けたかという瞬間。辺りが何も無くなり、白いなにもない空間に閉じ込められた


「え?どこ?」

さっきまで森の中にいたよね?

そもそもこんなところ実際にあるのか?こんな地平線まで平坦でなにもないところなんて…

「残念だったよ。せっかくチャンスをあげたというのに」

誰もいないところ、それなのに声が聞こえた。

「どこ?誰?」

「私は時を操る神。時空神とでも呼んでくれ。そしてどこから話しているかというと、脳内に直接語りかけている。」

神様…

長野県に昔よく行った店に手伝いに行ったときに神様とは会った。時空神がいても何らおかしくはない

そして神様なら、脳内に直接語りかけるというゲームでよくある話し方でも全然おかしくない

「それより君、チャンスをあげたというのにそのチャンスを使わず同じ結果にしてしまったな」

「どういう?」

「簡単なことだよ。君はこの5日間夢で過去の家族と会っていただろ。でもそれは夢なんかじゃない。過去の世界に寝ている間にワープさせていたのだよ。証拠として、5日間に体験したこと、すでにやった覚えがあるだろ」

確かに、今までに体験したことは全部やってる。思い出すのが今更だけど

「でも例えそうだとしても、私はこれで良かった。お父さんとは会えなくなったけど、仕方なかった。」

「そうだった。君はこの物語の結末を知らないんだったね。君はあのあと伯母さんのところに行って、故郷の村には一回も戻ってないんだから。」

「教えてあげる。というか見せてあげるよ。」


何もない空間に突如一つの鏡が出てきた。といっても、それを見ている自分自身を映し出すわけではない

「これでその後を見ることができるよ」

私は鏡を覗いた

映っていたのは2つ。一つは、助けてくれたあの護衛の人が切腹している映像。もう一つはお父さんが捕まっている映像だった

「これは…」

「一人は、村長の命令を聞き入れずましてや偽造したことがバレて切腹。もう一人はお前が逃げた代わりに親として捕まっている。」

「どちらもお前が逃げず生贄となったいれば起らなかった。自分の幸福のために、助けてくれた一人を殺し、親がその責任を取って捕まった。そんなの、殺人鬼と変わらないよ」

淡々と神様は言った

殺人鬼…

「嫌!嫌!」

悲しき悲鳴が出続けた

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