第5章 署が襲われても警察業!

「石山さん、倒してきたぞ」

異少課の部屋で仕事をしていた石山さんに報告する

ちなみに石山さんは会計っぽい仕事をしていた、中学生だからそこまで分からないが

「早くね?」

まあそうなるのも無理はない、確かに早すぎた

いつもなら1・2時間はかかって当然なのだから

「俺が一回倒したことあるやつだったから」

「ほー」

「まあ、死体は俺が回収しとくな」

ドアを開けてその場所へと行った、そして俺らは暇つぶしでババ抜きを始めた


ドンドンドン

ババ抜きの一回目が終盤にさしかかった頃、ドアを叩く音がした

石山さんか?でも石山さんは鍵を持っていたはずだが…

ドアを開ける、奥にいたのは見知らぬ男だった

「あの、どんなy」

「反省しろ」

話が噛み合っていない、というかまず誰だ?

「あなたは…?」

彼はその質問には答えなかった

愛香と翔もその近くに来た、二人も念の為という感じだろうか

「お、お前は確か…!」

翔が突然声をあげた、翔の知り合いという感じか?

「お前が嘘つきだったとはな」

「いや、俺は嘘ついていない」

何やら揉めている、この状況なんだ?

「さ、贖罪の時間だ。皆来な」

彼が指を鳴らすと、部屋の中に大量の魔族が現れた

部屋はみるみるうちに壊れていった

そして現れた魔族には共通点がある、それは

俺らが倒したことがある魔族であるということだ

それは偶然なのだろうか


武器を取ろうとする、しかしそのスキをつかれた

俺は何かの魔族の攻撃を受けてしまった

痛い、しかし今は痛がっている場合じゃない

愛香に翔、そしてこの警察署を護らねば…

「神代先輩!」

「師匠!」

攻撃をくらった俺を二人は涙目で見てくる

だが、魔族にはそんなことは関係なかった

「お前ら、後ろ!」

痛む体でなんとか声を出す、愛香と翔の後ろに魔族が攻撃を仕掛けてきていた

翔が慌てて盾で防ごうとした、しかし手遅れだったようだ

クソッ

愛香と翔も攻撃をくらってしまった

愛香と翔がくらったのは前に倒したウラクフの攻撃

あのとき任務の前に石山さんから攻撃力が高いことを注意されていたウラクフの攻撃だ

立てるかも分からない


「すぐに決着はついたみたいだな」

「お前らがしたこと、後悔しながら死ね」

このままでは皆殺られてしまう、でもどうすれば…

武器自体は取れたので、動けない体で電磁の力を使うが、特段効果はなさそうだ

少し攻撃を遅らせることはできるかもしれないが、相手の攻撃を避けることができない

「皆、何とか逃げさせます‥」

愛香が攻撃されたときに落とした短剣を手を伸ばして拾い、それを使って三人を瞬間移動させた

「チッ、逃亡か。卑怯な奴らだ」


愛香の瞬間移動でなんとか部屋から出られた

瞬間移動先は警察署の駐車場、異少課の窓から見える場所

瞬間移動する場合、見えてる場所以外に飛ぶにはその場所の特徴を思い浮かべる必要がある、だがそれには少し時間がかかる

愛香は、その時間すら惜しかった

そこで、見えていた駐車場に飛んだのだった

早く助けを呼ばないと

だが、この警察署は正面入口の反対側にある、そして周りが高いビルや木で囲まれている

そう、この場所はあまり人に見つかりにくい場所なのだ

助けがないと皆死んでしまう

愛香はもともと深い傷を負っていたところに瞬間移動を使ったため、気を失っている

翔も気を失いかけている

俺が何とかしないといけない

今にも倒れそうな足で新は立ち助けを呼びに行った

少ししたところで、二人の人が近寄ってきた

「新!?」

「先輩!?」

視界がぼやける、声で誰かはわかったが、それについて考えることもできずに俺は倒れた


「おい、大丈夫か?」

目が覚めた、あれから数十分は経ったようだ

どういうわけか体が軽い、傷がかなり癒えていた

前にいたのは繁、そしてあのときに異少課に来たコックの彼

「ああ…」

「お、起きたな!」

彼はとても喜んでいた、ところで彼は何故俺の名前を知っていたのだろうか?

俺は教えたことはないはずだ

「先輩、大丈夫…?」

繁は心配するような目で俺を見てくる、繁の性格的に、傷ついている人をほっておかないからだろう

「大丈夫だ」

まだ少し痛むが、襲われた当時よりは断然いい

笑って答えてみせた

「無茶しないでよ…」

彼女はか細く言った

「あの二人も多分あと少しで目を覚ますよ」

あの二人も何とかなったのか、自分だけ助かってあの二人が死んでしまったらどうだったか

少なくとも、俺は正常を保てなかっただろう

二人のところに行くと、まだ気を失ってはいたが、くらった傷がほぼ癒えていた

やはり繁とコックの彼が助けてくれたのだろうか


「繁、ありがとう助けてくれて」

状況的に見て癒やしてくれたのはこの二人だよな

お礼をするのは当然だ

だがこんな短時間で傷は癒えるようなものじゃないよな

まあ今はそこを気にするより助かったことに感謝するのが先だ

「いや、お礼ならお兄ちゃんに言ってよ、私は何もできなかったから」

繁は癒やしたことには関係ないのか、でも見てくれただけでも助けることの一部だと思う

そこで違和感に気づいた

? お兄ちゃん?

凪が助けに来てくれたのか?

でもなぜここに?

「繁だってずっと見守っていだろ」

「それだけでも助けたことにはなると思うから、自分は何もしてないとか言うな」

コックの彼も俺と同じ考え方のようだ

だがそこより気になることがある

繁と呼び捨てにしたことだ

呼び捨てにするということは、元々知り合いである可能性が高い

そして俺の名前も知っていたことなども含めると…

彼は凪なのではないか?

そう思った


「もしかして、凪か?」

コックを指して尋ねる、確かめておきたい

「ああ、そういえば脱ぐの忘れてた」

顔は変装だった、そしてその裏からいつも学校で見る凪の顔が出てきた

「ほら凪だよ、さっきまで変装しててごめんな。ちょっとこっちの事情がな。」

彼は凪だった、それで彼が俺のことを知っていた理由などは解けた

しかしわからないのは、なぜこんなところで変装までしてバイトしていたかだ

ここでバイトをする理由…特には思いつかない


「ところで、どうやって俺を助けたんだ?」

少なくとも普通の薬を塗ったぐらいではこんなに早く治るわけがない

そういえば、親善試合のときも異常な薬を飲ませていた

確か繁は異世界の武器を持っていた、それから考えると凪も異世界の武器を持っていてその力を使ったという可能性が高い

「ああ、それはこれを使ったんだ」

彼が見せたのは謎の道具だった

舟型の容器と車輪状の道具、だがこんなもの見たことがない

どちらも青銅のようなもので出来てる

「これは、薬研だ」

薬研?どこかで聞いたことがあるようなないような…

「薬研、簡単に言うと薬を作る道具だな」

あ、思い出した

昔、薬の博物館に行ったときに見たような気がする

それで薬を作って治療していたのか、でも道具があるからといって薬を作れるとは限らないような…

いや、これが異世界のものだとしたらその力で使えているということもあり得るか…

「あ、これは新達のと同じく異世界の道具だから。ちなみに力は製薬で一部を除いていろいろな薬を作れる」

やはりそうだったか、製薬なら薬飲まして治すのもおかしくないか

ん?待てよ

新達と同じく?俺らが異世界の武器持っていることも知っているのか?

というか何故異世界のだということを知っているんだ?

「…神代先輩?」

「師匠?」

凪と色々と話していると、愛香と翔も目を覚ましたようだ

「凪が助けてくれたみたいだから、お礼言って」

「ありがとうございました」

「どういたしまして」

なんてやり取りをした


彼らが異少課で襲われていたころ、死体の回収に赴いていた石山さんは

「あれ、石山さん?」

石山さんは後ろからの不意の呼びかけに驚いた

「お、お前らここに来ていたのか」

石山さんの目線の先、そこには二人の女子がいた

彼女らは石山さんとまあまあ長い関わりがあるようだ

彼女らと久しぶりに会ったようで、石山さんは彼女らと話そうとした

しかし、そこで何かが破壊される音を聞いた

この音こそ、異少課の部屋で新達が襲われていたときの音である

「何この音?!」

一人は冷静さを失う、しかしもう一人の女子は

「落ち着け、これは何か壊れる音、おそらく食堂でガス爆発でも起きたのだろう」

冷静に状況を分析していた

「純様、分かりました」 

石山さん達がいるのは出入り口から遠いところ

純様と呼ばれている彼女がガス爆発が起きた可能性があるといい、彼らは警察署から脱出しようとするが…

「何で‥」

3階から1階へと通じる階段、それが壊されていた

「どうします純様?飛び降りますか?」

「いや、ここを飛び降りるのは危険だ」

この階段は出入り口から一番近い階段である

ここを飛び降りればすぐに脱出することはできる

だが、それを拒んだ

「ビル一階の高さは約3メートル、この階段は3階から1階まで壊れてるから6メートル落ちることになる。その時の落下速度は時速約40キロ、死んでしまうかもしれない」

純様と呼ばれていた彼女は素早く計算した

「ここから一番近い階段は?」

「それなら、この廊下の突き当りに…」

この警察署にある階段はここと廊下の突き当りにある非常階段の2つだけだった

(…?なんか違和感が…)

純様と呼ばれていた彼女は考えていた


もう一つの階段へと急ぐ、そこの途中にて…

「そこを右に曲がって…」

この警察署は元々入り組んだ構造となっている、逃げるのにも一苦労しそうだった

それに拍車をかけるように、アクシデントが降り注ぐ

「通れないのだが」

非常階段へと続く道、もう少しで非常階段なのにその道が壊れていた

だが運良く、階段はところどころ壊れてはいるが降りることはできるほどだった

「仕方ない、回り道だ」

回り道して、何とか階段のところへ着いた

ここへの道も壊されてはいたが、何とか通ることができた

そして階段を降りる、だがその下に見えたのは…

魔族のスレイムだった

「何で魔族がいるの」

「見つかるなよ。絶対に。」

落ち着きを忘れかねない状況だった

スレイムに襲われかねない、だがここを通らないと脱出できない

階段をスレイムにばれないように降り、一階まで着いた

あとは廊下の窓を開け、その窓から駐車場へと脱出した


駐車場にて新達は凪と話していた、話している途中、重大なことに気がついた

凪はコックとして働いていた、俺らのところに食事を運んでくれたコックだ

となると、俺達のことももうバレてそうだ。いやこれは仕方ない。


「あれお前らこんなとこにいたのか」

凪に口止めしておきたかったが、それを誰かが遮った

その声がした方向を見る、そこにいたのは石山さんと二人の女子高生らしき人だった

「石山さん!?」

石山さんがここにいるのは警察署だからおかしくはない、だが誰だよその二人

もしかして、石山さんJKに手を出したのか!?流石に違う…よな?

もしそうだったら色々とやばいぞ

「あの、石山さん…でしたっけ?」

「ああ、そうだが?」

「あの…」

凪が石山さんに話しかけている、凪にバレたのは確実だろうが、繁にはまだバレてないような気はする

石山さん、何とかいい感じに話しておいてください俺はもう諦めました

「繁」

凪は繁を手招きした、これは無理だ

石山さん、あとはよろしくおねがいします


石山さんと凪&繁が話しているとき、石山さんの近くにいた彼女らが近づいてきた

そういえば凪に気を取られていたが彼女らは誰なんだ

「ところで、君達が今の異少課か?」

…?異少課のことを知っているのか?

でもこんな刑事は見たことない、そもそも異少課を除くと一番若い刑事は23歳と聞いたことがある、それを5歳ほど下回っている

「あの、どちら様ですか?」

「うん? 君たちは私達のことを知らないのか?」

いや知らないが…でも何か知ってそうな素振りだったな

「いや、分かりません」

「アイツ…協力者ぐらい教えておけよ…」

アイツとは石山さんだろうか…

「私は山井純。異少課に協力している探偵だ」

「私は川崎恋。純様の助手をしてるよ」

「純様は本当に優しくて美しくて心が広くてそれに博識で探偵としての職務も簡単にこなすし推理力もあるし…」

「おい恋、やめろ」

「はい、純様」

翔が俺のことを師匠と呼ぶような感覚だろうか?

「で、元の質問に戻るがお前らは今の異少課なのか?」

「はい。ところで、『今の』ってどういうことですか?」

愛香が尋ねる、異少課は確か代々続いていたらしいから、前の異少課のときからいたのだろうか?

「ああ、私達は初代の頃からいたからな、今のと付け加えておいただけだ」

やっぱりそうだったか、俺の予想通りだった

だが初代だと? そんなに前からこの人たちいたのか!?

でもそんな年には見えない、高校生程度にしか見えない

「あの…初代っていつ頃ですか?」

「え、君たちの一代前だけど…」

?一代前?

代々伝わっていたんじゃないの?

だがよく考えればそうか、魔族が来た大地震が起きたのは3年前、一代前の人は皆高校生になって辞めてしまったのだ

異少課自体がいつできたのか分からないが3年前ならここが2代目でもおかしくはない

なんだ、何もおかしくなかったのか…

いや、それなら代々を使うな!

代々って何代も伝わっているときに使う言葉だよな!

自分自身でツッコミを入れてしまった


「そういや、君たちの名前聞いてなかったよね?教えて教えて?」

今度は助手が尋ねてきた

探偵のほうは真面目なのに、こっちはそうというほどでもないみたいだ

「俺は神代新です」

「私は波山愛香、抹茶大好きです」

「俺は神代師匠の弟子の大木翔です」

人のこと言える立場じゃないな、こっちもかなり性格が違う

そして翔、初対面の人に師匠を使わないでくれややこしくなる

「君たち、仲良さそうだね」

仲が良い…のだろうか?

良いか、多少喧嘩はするけど俺は同僚と言う名の友達だと思っているから

「ところで何でここに来ていたんですか?」

「えっと…」

「ただの暇つぶしだ、祭りやっていると聞いたからな」

なるほど、暇つぶしか

でも助手のほうが一瞬考えていたような…気のせいか

「ところで、何か困ったことはないか?困ったことがあったら、ここに電話しろ」

探偵事務所の電話番号が書かれた名刺を貰った、これは意外とよいことなのではないか?

異少課のことは口外厳禁だ、でも彼女達なら異少課に関する相談ができる

頻繁に使うことになりそうだな…

名刺をポケットに入れた


新達異少課メンバーと探偵事務所の二人が話していたとき、凪は石山さんと大事なことを話していた…

「石山さん、単刀直入に聞きますが、異少課の人と言うことでよろしいですね?」

食事を出しにいく名目で異少課に潜入したときは部屋にはいなかったが、警察署のコックとして働いてそのように聞いた

新達を『お前ら』と呼んだり、新が『石山さん』と呼んでいたことからも、名前を覚えるほどには関わりがあると推測できる

新達が異少課メンバーなら、彼も異少課の人で間違いないだろう

「いや…異少課?ちょっと分からないな…」

まあ流石にここで『はいそうです』とは認めてくれないか

俺は今は変装してないからただのそこらへんの学生と思われている、そんな人に機密事項教えないか

ここで認めたら刑事として終わっている

だが、ここで引き下がるわけには行かない

「私は新達が異少課のメンバーであることをすでに知っています、あなたが異少課のことを隠す必要はありませんよ」

新達が異少課のメンバーであることは確実だ

自分自身が異少課の部屋に潜入したときに「異少課って魔族を…」の質問に「ああ、俺らは…」と答えた

異少課と聞いたのに俺らと答えた、異少課メンバーである以外こうは答えないだろう。そもそも異少課の部屋にいた時点で確実ではあるが


「え、ちょっと待ってお兄ちゃん、話がよくわからないんだけど…」

ああそうだった、そういえば繁には異少課のことを何一つ教えてなかった

仕方ない、新が入っているとはいえ絶対にいいところとは言い切れない

むしろ俺らにとって悪いところかもしれなかった

でもそれは違った、彼女の答えは心底からそう思っていたのだろう

たった一回の質問、それだけでも分かったんだ

「繁、このことをよく聞いてくれ…」

繁に異少課のこと、新達が異少課に入っていることなど、ありとあらゆることを話した

「そうなの…お兄ちゃんが言うことだもん、信じるよ」

こんな怪しさ満載でも、繁はちゃんと信じてくれた

「で、あなたは異少課の人で間違っていませんよね?」

もうここまで来たんだ、流石に言ってくれるだろう

「ああ、そうだ」

やっぱり、認めてくれた

やっと本題に入れる


「単刀直入に言います、俺を異少課に入れてはくれませんか?」

元々はこれを言うためにいつか異少課の部屋に繁と突撃する予定だったが、運良く彼と会った

ここでこのことを言っていいだろう

「お前がか?」

「はい」

俺にはここに入る必要があるんだ、繁のために

ここはこの世界であっちの世界を知っている数少ないところだ

ここにいれば、いずれ元に…

「悪いが今は無理だ、そもそもここは今財政難だ、人数が増えると給料が払えなくなる」

給料か…

今まではバイトで何とか凌いでいたとはいえ、異少課に入るとバイトできなくなるよな…

繁との二人分養う金、それだけでも出てくれないと…

いや、何とかできるいい方法を思いついた

石山さんに俺が考えた方法を伝えた

「…それなら金の面ではいいか」

金の面では石山さんからの了承を得ることができた

この調子なら、何とかできる気がする


「だが、ここは異少課だ。異世界の武器を持っているんだろうな?」

武器とはあれは言えないよな…いや戦いで使うことができればそれは武器だ

薬研だって、武器ということもできるだろう

「はい、これです」

何も隠さず薬研を見せた

「製薬…様々な薬を作る力か…」

そこだよな…これは薬を作る力、攻撃に使うのは難しい

それに、製薬ではダメージを与えられる薬は作れない

つまり、薬を作って敵に飲ませてダメージを与えるというやり方もできない

「攻撃には使えなそうだな、戦いでそれを使えるのか?」

やはりそうなるか…

だが、それを打開する方法ならすでに考えてきてある

「確かに攻撃には使えません。しかし、これを使えば彼らの攻撃力を格段にあげることができます」

そう、薬で作れないのは直接ダメージを与えられるもの、バフやデバフの薬は作ることができる

新達は無論強い、だが新達の力がさらに強くなれば、怖いものなしになるだろう

「よし、分かった」

「こっちの権限で異少課に入れる、それでいいな」

よし、入ることを認めてくれた


「ちょっと待って、お兄ちゃんどういうこと?」

あとは繁にこのことを説明するだけ、繁もここに呼んだのは繁にもこのことを聞いてもらいたかったからだ

繁に入る理由などを説明した、そして最後に

「繁、異少課入るから帰るのが遅くなるかもしれないが…ごめんな」

前もってこのことは伝えておくべきだったと後悔した

元々の予定では頼みに行く前に繁にこれらのことを伝えるはずだったが、急遽今になったから仕方ないといえば仕方ないのだが

「お兄ちゃんの馬鹿」

馬鹿か…でもそれも繁のためだ、たとえ馬鹿扱いされようが兄妹仲が悪くなろうが、繁の願望が達成できればそれで良い

そうだ、これは腹をくくらなければならないことなんだ…

「ごめん…」

謝りはしても、繁の気持ちは変わらなかった

「なんで、なんで…」

「なんで、自分だけ張り切ろうとするの…」

…?てっきり遅く帰る日が増えることを咎められるのかと思ったのだが

「え…どういうこと?」

「まだ分からないの!お兄ちゃんが戦いに向いていない力しか使えないことは妹のわたしが一番良く知っているんだよ!それなのに…なんで私のために無茶しようとするの…」

繁の顔を見ると、涙で溢れていた

繁の言いたいことは分かったが、何と声をかければ良いのかわからなかった

「あのお願いです石山さん、私も異少課に入れてください!」

繁は涙目で懇願した

俺的には繁にはこんな危ないことはしてほしくない、だがこれが繁の本望だというのなら、それを止めることはできない

「いや、でもお金が…」

「お金なんていらないですから!」

「よし入れ」

ちょっと待って、石山さん金にかなりうるさくないか?

繁が石山さんにいいように使われないか心配だ。まあそうなったらこいつにかなりのデバフ効果を与える薬を飲ませてやるだけだが

「お兄ちゃん、一緒に頑張ろうね」

繁の涙はもう止まっていた、そして俺はほろりと涙が流てきていた


「でも繁、良かったのか?」

繁が決めたこととはいえ、元は俺が入るから決めたということだろう

それで本当にいいのか、不安になる

「いいよ、それに私嬉しかったんだ」

嬉しい?

「私、最近お兄ちゃんを雑に扱ってた感じがしてね、それに最近急に帰るのが遅くなっていたからお兄ちゃんに嫌われているんじゃないかって思ってたんだ」

そんなことはない、繁のことを嫌うなんて何があってもないだろう

最近帰るのが遅かったのは異少課の調査として食堂のバイトをしていたからだ

決して嫌いになったわけではない

「でもね、お兄ちゃんは私のためにたくさんの仕事をしていた、お兄ちゃんが無茶なことしようとしていたからさっきは馬鹿なんて言っちゃったけど…本当はお兄ちゃん、大好きだよ」

…!

「お兄ちゃんと私は同じ境遇なんだから、私達は協力しあわないといけない…でしょ」

繁がここに入ってきて良かったのか心配だったが、杞憂だったようだ


凪繁が感動的なことをしてた頃、新は少し話して和んでいた

新たに探偵とその助手の二人が協力してくれたので、(正確には元から協力していたが俺らが知らなかっただけなのだが)色々と楽になりそうだ

「よし、これでいいな」

あっちの話(凪達と石山さんの大事な話)も終わったようだ

そういえばなにか忘れているような気が…ま、思い出せない時点で大したことじゃないからいっか

「おいお前ら、大事な話があるからこっち来い」

石山さんに呼ばれ、俺らは石山さんのところにに向かった

「で?話って何だ?」

正直に言って手短に済ませてほしいのだが

長々と延々に聞かされるのは嫌だ

「異少課の人が増えた」

え?増えた?

新しく人を雇ったということだろうけど…さっきまで石山さんと凪繁が話していたこと、そしてその話が終わってすぐこの報告をしたことから考えると…もしかして

「俺は根高凪、新しく異少課に入ったから、改めてよろしくな」

やっぱり凪か…でも凪には異少課のことはもうバレてしまっているから…凪が異少課に入ってもらうことでかえって安心になったのか?

凪は確か薬研だったよな、それで本当に戦えるのか?

「私は根高繁です、新しく異少課に入りました。これからよろしくおねがいします」

ちょっと待って、なんで繁まで入っちゃってるの?

繁は知らなかったんだよね多分、もしかして知ってたの?

どっちにしろ、友達と部活の後輩が一緒のところで働くって…すごい気まずいような気がする

俺は異少課のときは学校と違う感じでやっている、愛香と翔は学校のときの俺を知らずにここに入ったから、こっちを受け入れるだけで済んだ

しかし、凪繁は学校での俺を知っている

そうなると、異少課で一緒に働くと学校では絶対に出さない自分が見られてしまう

そうなるとかなり気まずいのだが

でも、それは個人的な問題か

自分自身の感情で、勝手に不満をもってはいけないか

それに、もとから知っている人だと、馴染むのにも時間がかからないだろう

そうしてみると、実はいいことだった…のか?


警察署の屋上にて一人たたずむ男、彼は警察署の駐車場を見ていた

彼は異少課を襲った犯人であり、何故か異少課に強い憎しみを抱いているようだ

「あんなところにいたか、奴らめ」

彼はそのとき逃げた新達を見つけたようだ、だがそこに突撃して仕留めようとはしなかった

今なら殺れるよな…いや、あの近くに無関係の人達がいる。そいつらを巻き込むわけには行かないか

まあ、今やらなくても彼らは刑事だ、どうせ取り返しにくるだろう

そのときに仕留めるか、魔族の恨みを込めて

このときは、新が凪から助けてもらっていたときである


そして30分後

「全然あいつら来ないんだけど!」

ブチギレてた

確かに普通なら凪に助けてもらったあと警察署を取り返しに行こうとする、普通なら

色々と起きてしまい、新達は異少課で襲われたことを忘れてしまっていたのである

「あいつらいつになったら来るんだよ!」

「もしかして、俺のことを忘れてる?」

正解

今彼らの脳内には新しく入った凪繁のことや探偵の彼女達のこと以外はまったくない

「仕方ない、やるか」


新達は凪繁が入ることとなり、それで改めて自己紹介をしていた

学校の異世界で自己紹介はしたが、そのときには異少課関係のことを言っていなかったからである

「じゃ、焼肉でも食べに行かない?」

近くに美味しい焼肉店がある、そこで凪繁の歓迎会の意味を込めて食べに行こう

そう言って、彼らは警察署を後にした…

「待て待て待て!」

警察署の屋上から聞こえてきた大きな声、それによって彼らは再び止まった

「誰?」

「俺を倒すんじゃないのかよ!俺は異少課を襲った犯人だぞ!」

それでやっと新、愛香、翔は異少課が襲われたことを思い出した

「そうだ、異少課が襲われたんだった!」

「は?異少課襲われてたの?もしかして署内の惨状ってそれが原因か?」

石山さんは今やっと知ったようだ、そこに探偵の彼女が口を挟む

「多分そうだな、最初ガス爆発だと言ったが、その可能性は極めて低い、ガスの匂いが全くしなかった」

「だが、そんなことが起きていたとはな…」

そして、新入の凪繁は…

「先輩があんな怪我をしてた、許さない」

「俺は繁のやりたいことをやる、繁がしばきたいのならそいつをしばく」

各々が色々な考えを展開していた

だが、アイツをとりあえず倒すことは確定した

「すまん、焼肉はまたあとだ。アイツを先に倒す!」

意気込みには気合が入っていた


「じゃ、行って来い」

警察署を奪還しに行くのは5人、俺、愛香、翔、凪、繁だ

ちなみに探偵とその助手の二人は今武器を持っておらず来なかった。異世界の武器を持っているには持っているのだが、今回は暇つぶしで来ていたから持ってきていないらしい。仕方ないね


警察署の入り口から入ると、中は悲惨な目にあっていた

ロビーが色々と壊されており、壁の一部だけが残っていた

「酷い…」

さっさと奴をしばいて、こんなことやめさせないとな

入口近くの階段が壊されていたため、わざわざ遠くの階段を使って上に行く羽目となった

その階段へと向かう途中、魔族と出会った

ウラクフだ

「さっきの借り、返してやる」

「先輩の言うとおりですよ、大人しく降参したほうが身のためです。もし断るなら…」

「私が撃ちましょうか?」

俺が倒そうとしていたが、その前に繁が炎と氷が出せる銃で一瞬でウラクフを葬った

早っ!


「そういえば、それって結局何だったんだ?」

銃だということはわかる、多分異世界のやつだ

だがあのときは結局聞くのを忘れていたので、今聞く

「これですか?これは私の銃です」

魔弾か、あの炎も氷も魔弾というやつか

「へぇ〜 どんな力出せるの?」

「魔弾の力だよ、色々な属性の弾が出せるんだ」

なんか愛香に話すときと俺に話すときで話し方が違うな

やはり俺を先輩として見ているからか?

それなら俺がとやかく言うことじゃないのだが…


その後、3階まで来てツイナと戦っていたとき、大事なことに気がついた

ツイナは愛香が瞬間移動の力で倒した、そこで瞬間移動の力があったことを思い出したのだ

「なあ、今気づいたんだけど…」

「愛香の瞬間移動で、屋上まですぐに行けない?」

翔や愛香は確かにという表情をしている、なんでこんなことに気づかなかったのだろうか…

というか、今思ったが愛香の瞬間移動最強すぎんか?

「じゃ、行きますね」

短剣を握りしめ、愛香は屋上を思い浮かべた

そして、屋上へと瞬間移動した

やっぱりできたか、さっき瞬間移動使ったし、ココはいつも仕事をしている場所

愛香はたまに屋上へ行っていたから飛べて当然なのだ


「お前ら、待ってたぞ」

屋上から遠くを眺めていた彼は、何か憎しみがあるかのように声を上げた

「どうせ瞬間移動でも使ってここまで来たんだろうけど、ま、それもいいんだけど」

瞬間移動のことも分かっているのか…これは戦いづらくなりそうだな…

「てか、なんで俺らのことを襲った」

俺らが襲われる理由はないはずだ、石山さんが襲われる理由ならブラック企業上司気質だからまあまああるのだが…

だとしても、彼は石山さんが部屋にいないにも関わらず俺らのことを襲った。石山さんに恨みを持っているわけではないようだ


「まだシラを切る気か、証拠はすでにあるんだよ!」

いきなりのブチ切れに驚く、いやだから何の件の証拠だよ

まじで分からん

「そいつなら俺に一回会ったから分かるだろ、もっともそいつは初対面の俺に嘘までついたがな」

彼は翔を指さした

「あれはマジで本当だ! 俺は本当にやってないぞ!」

そういえば、翔は異少課が襲われたときもこいつとあったことある的な表現していたな

「翔、こいつと会ったことあるのか?」

「はい…こいつが俺一人で任務で倒す予定だった魔族が死体となっていて…それを『お前が殺したのか?』と聞いてきました」

ある程度わかったが…魔族の死体を殺した人を普通調べようとするか?

そいつに何かをしたかったのか?

「で、本当にお前がやったのか?」

「いやいや、俺が見つけたときにはもう死体となっていました」

翔が言っていることは本当だろう、翔がこの状況で嘘を付く必要性がない

となると、魔族の死体を見つけ、それを翔が殺したと勘違いして俺らを襲いに来たということか

俺達関係ないじゃんかやっぱり

「俺らは魔族が殺された件に関わってない」

「嘘をつけ、こっちには証拠があるんだよ」

証拠だと?やってもないのに証拠があるとはどういうことだ?

まあこじつけ的ななにかなのだと思うが

「これは被害にあった魔族の死体の写真だ、そしてこっちは数時間前お前らが討伐した魔族の死体の写真だ」

「どちらも止めとなったであろう傷の形が一緒だ、同じ刃物で止めを刺さないとここまで同じにはならない」

数時間前…あの警察署に出たオルクのことか

確かあのときは愛香が止めを刺し、俺らは何もしていなかった

こいつの話が本当なら、翔が見た死体は愛香の短剣で殺されたということになる

どうしてだ?

「多分それも勘違いだと…」

「そうだ、そもそも長野県までわざわざ倒しに行く必要性なんてないだろ」

あれ、長野県の事件だったのか…

まさかね、アレのことじゃないよね


アレとは勿論、この前俺が倒したオルクのことだ

いやアレの止めは俺が刺した、愛香はさしてないか、なら違うか

いや待てよ、あのときは愛香と入れ替わってて…

俺が愛香の短剣で止めを刺したんだった

いや多分偶然だそう信じておこう

「ふん、オルクの死体に付いてた傷は特殊な形の刃物の傷だ、同じものが2つあるとは考えにくいだろ」

待ってオルクだと、俺が倒した魔族もオルクだったよな…

「でも俺らはやってない!それにその日は師匠も愛香も休みを取っていて、俺しか異少課にいなかったんだぞ!」

待って待って、今までに何度か休みを取ったことはあったけど、愛香と俺が両方休みを取ったのは一回しかない

親善試合のときだけだ

確定したこれ

てかどうしてその日に翔があのオルクの討伐任務を受けるんだよ、どんな確率だよ!

勘違いとか勝手に言ったけど翔が関係者であること以外合っとるじゃんか

横を見ると、愛香は確実に気づいたようだ

凪繁は、確信は持てないが薄々自分達のことじゃないかと感じているみたいだ

そして翔のただ一人だけが俺らがやったことを知らずに庇い続けてる、マジでごめん

とにかく、このことをどうするべきか、その結果はすでに出ていた


翔はまだ俺らのことを庇い続けている、本当に無関係なのだが、このことを言っても信じようとはしないだろう

そもそも、彼は証拠を持っている、その証拠がちゃんとしてある証拠のため、それを覆すのは難しい

それなら…

「悪い、翔」

翔が言い合っていたところを強引に入り、その言い合いを終わらせた

「お、とうとう認める気になったのか?」

「ああ、そのオルクを殺したのは俺だ」

愛香、凪、繁は『本当にそのことを言っちゃうの?』という驚きの顔をしている

だが彼らより一番驚いていたのは翔だった

そりゃそうだ、自分が必死にそうじゃないと信じていたというのに、そしてそのため庇っていたというのに

それをいとも簡単に壊されたのだから、驚いて当然だろう

俺がこのことを正直に打ち明けた理由、それは極めて単純だ

このままどうにかやったとしても、あっちが証拠を持っているという事実に変わりない

つまり、その証拠を何とかする必要がある

だが、あの証拠を何とかする方法などあるかどうか分からない

それに…

翔があんなに庇い続けてる姿はもう見たくなかった

翔は今回の事件に無関係だ、それなのに一番苦労しないといけないなんておかしすぎる

ただ、それだけの理由だ


「ようやく認めたか、もう少しで強制的に認めさせるところだったが、手間が省けた」

強制的…こいつそこまでして俺らが倒したことにしたかったのか

だがなぜだ、なぜそんなに執着しているんだ

「おいお前、なんで俺らのことを襲った」

「ふん、そんなことも分かってなかったのか。だが、それが分からず死ぬよりはそれを知って後悔しながら死んだほうがあいつらの無念も晴らせるだろう。教えてやるよ」

無念?

「お前らは俺らの仲間を好き勝手に殺した、それの制裁をするのは当たり前のことだ」

「だから俺はお前らを殺す」

仲間を殺した…どういうことだ?

もしかしてあの学校の異世界にいた男のことか?いや、さっきまで言っていたことを組み合わせると…

こいつは、あのオルクの仲間か

つまり、この男が外町通りで事件を起こしていたということか

そう言えば、あの事件はまだ謎があった

オルクは穴に人を貯めていたが、そんなことをする理由がない

つまり、誰かがそうするようしつけたということ

こいつが、あの事件の黒幕か、そしてそれを邪魔した俺らを殺そうとしているわけか

「クソ野郎だな」

相手に聞こえるような大きな声で言ってやった

「分かった、お前にも俺が償いをさせてやるよ」

誘拐だけで済んだとはいえ、一歩間違えれば死にかねなかった

黒幕はしばいておいたほうがいい

「やる気になったか、だがちょっと待て」

…え?

「お前らはここで帰ってくれ、無関係な一般人を巻き込みたくない。警察がそんなことをするとはな。」

お前らとは凪繁のこと、おそらくついさっき異少課に加入したから、一般人だと思いこんでいるのだろう

だが少し気になった、一般人を帰してしまうのか?

クソ野郎だと思ったが、ここで一般人を一緒に殺すというわけではなく、逃がすというのか


「俺は帰らないよ」

「私を一般人扱いするな」

凪繁は怒っている、やはり一般人扱いされたことが気に障ったのか

ついさっき入ったばかりとはいえ、異少課のメンバーだからな

「お前らは一般人だろ」

「いや、私達も異少課のメンバーだよ!」

「俺もだ、お前の勝手な推測で物を語るな」

凪繁は戦う決意をしたようだ

「ああ、凪も繁も俺らと同じ異少課だよ!」

異少課と俺は認めている、当たり前だ

「まあいい、だが後で文句は言うなよ」

臨むところだ


彼は杖を振るった、そうすると彼の周りに魔族が現れた

やはりこいつも異世界の武器を持っているのか、多分その力は『召喚』的なやつだろう

これは中々骨が折れそうだな…

というのも、どれだけ倒しても奴が召喚すれば無限ループだ

「お前ら、あの三人を倒せ、だが他の二人には最低限の攻撃だけを与えろ」

「決してあの二人を殺すな」


奴は様々な種類の魔族を召喚した、だが何故かその魔族達が今までに俺らが倒したことのある魔族ばかりだった

偶然か? どちらにしろそれは都合がいい

すでに倒したことがあるやつなら、大抵弱点や攻略法がわかる

知らないやつと戦うよりもずっとやりやすい

翔は最前線で敵の攻撃を盾で受け、そのスキに俺が剣で攻撃を入れる

愛香は瞬間移動を駆使して翻弄しながら攻撃し、繁は遠距離から攻撃をする、そして凪は後ろで薬を即席で作っていた

聞いた話によると、凪は攻撃をすることができないらしい。凪は回復&補助担当だから後ろにいるほうがいい

幸いなことに、凪繁はあまり襲われていない、それをしてもいいだろう

少し魔族を倒した、そこでできれば当たってほしくない予想が当たってしまったことに気がついた

奴は杖を振り、無くなった分を補充してきた

やっぱりか

でも、それを回避する方法を俺は知っていた

「愛香、力だ、力を使え!」

そう、学校の異世界のときは疲労のせいで瞬間移動が使えずに失敗した方法だ

簡単に言うと、直接奴を叩くという方法

瞬間移動はたとえそれを使うことが相手にバレていたとしても、それでどこに飛ぶのか知る由もないから避けづらい

奴は召喚をするが、逆に言えば直接攻撃をしてはこない

つまり、奴が召喚できないようにすればいいだけの話だ

奴が召喚してくるのは弱いとはいえ、大量に相手するのは分が悪いからな

ま、今回は学校のときと違って瞬間移動使えるというかさっきまで使っていたからな、この方法で確実だ!

この発言が、フラグとなってしまうことを、このときは知る由もなかった


「分かった、アレね」

愛香は瞬間移動を使って彼の後ろに移動した

不意打ちを狙った、はずだった…

カキーン!

大きな金属音が屋上に響いた、何が起きたのか理解できなかった

あの瞬間移動をした愛香を、彼はその方向に体を向け、杖で短剣を弾いたのだ

「えっ…」

驚いて声も出ない、愛香の瞬間移動を迎え撃つことなんてできたのか!?

瞬間移動を勘で避けることは何とかできるかもしれないが、それを迎え撃つなんて無理なはずだ

実際、俺が最初に愛香と戦ったときも、電気の罠を愛香が来そうな場所に設置して何とか勝ったぐらいだ

迎え撃つなんてすると、それより前に瞬間移動した愛香に攻撃をされる

「まだまだ!」

愛香は弾かれたことにもめげず、また瞬間移動を使って攻撃をする、それでも愛香の攻撃は全て杖で防がれた

愛香は不規則な場所から現れているというのに、まるでそれが分かっているかのように無言でその方向に奴は杖を構える

最初の一回は勘で何とかなったのかとも考えたが、こんなに続くのはおかしい

やはり、何かを使っているのか…?


「はぁ…はぁ…」

愛香は疲れたのだろうか、少しの時間にあんなにも瞬間移動を使ったから疲れるのも当然だろう

俺はまだ魔族を倒している、奴の召喚はとどまる気配がない

ジリ貧だ

「危ない!」

ふと見ると、愛香のところへ魔族が襲いかかっていた

だが、愛香は先程ので疲れて遅くでしか動けそうになかった

いてもたってもいられず、そこへ行こうとしたが、魔族がそれを阻んだ

クソッ!

「愛香、動くなよ!」

後ろから響いたのは繁の声だ、さっきまでは銃に弾を込めていた繁は、込め終わったのか銃で愛香の周りの魔族を狙っていた

バンッ!

銃から出た炎が、愛香の周りの魔族を焼き殺した

そのスキに、凪は愛香を回収しに走っていき、愛香を抱えてさっきまで凪が薬を作っていた場所へと持ち帰った


そのとき、奴はさっきまでとは違う命令を出した

「まさかお前らもグルだったとはな…」

「命令変更だ!あいつらも含めて5人全員を倒してしまえ!」

奴はさっきまでは凪繁を出来るだけ襲わないよう命令していたというのに、それをすっかり破棄するかのように命令を変えてきた

凪繁も襲われるようになったことは割ときつい。

というのも、凪は攻撃をできない、繁は遠距離の攻撃専門だ

つまり、一度近距離から襲われると、どっちもやられてしまう可能性が高く、危険なのだ…


繁は動きながら魔族に向け弾を撃ち、凪は薬がもう少しでできそうなところまで来ていた

倒しても倒しても魔族がわんさか召喚される、ある程度倒していて、何かに気づいた

あれ…これどんどん強くなっていってないか…

ステータスが上がっているというわけではないのだろうが、頭脳が強くなっているきがする

何というか…何故か新しく出た魔族は、その前に俺が倒した方法で倒そうとしても、それをかわされてしまうことがある

学習している、というのだろうか

でも、それならおかしい。新しく召喚された魔族には、その技が初となっているはずなのだ

「くそっ、またか…」

また攻撃をかわされた、前の同じ魔族はこの方法で倒せたというのに…

いや、待てよ。もしかして本当に学習しているのか?

奴の武器の力は召喚だと思っていたが、それは俺が勝手に予想したものだ。外れていたとしてもおかしくない

今までにも召喚にしては不可解な点があった

召喚される魔族が俺らが倒したことがあるものしかないこと

魔族がやられた途端に召喚をいつもしていたこと

そしてさっき思ったことだ

3つの考えから導き出した、もしこれが本当だったら、これら3つの疑問が全て解消される

奴の武器の力は召喚ではない…復活だ

復活だとしたら、俺らが倒したことがあるやつを復活させていたと考えられるし、魔族がやられた途端にまた呼び出しているのも、やられた魔族を復活させているとすれば特に問題はない

そして3つ目の疑問、これは復活したときに前世の記憶が残っているからだろう

そして、これがわかったことでもう少しわかったことがある

復活だとしたら、召喚と違って2つ以上を呼び出す事ができないということだ

つまり、奴を倒さない限り減らしても増やされるが、逆に元々の状態以上に増やすことはできないということだ

だが、逆に言えば奴の武器の力が分かったところで、そんなことしかわからなかったのだが…


「はぁはぁ…」

もうどれぐらい戦っただろうか、累計で50は軽く超えているだろう

愛香は凪の薬で疲労回復をし、それでまた瞬間移動で不意打ちを狙うが、それをいともたやすくかわされることが続く

愛香の武器は短剣、近くまで行かないと攻撃が当たらないというのに、杖で跳ね返されると打つ手がない

途中で繁が炎や氷の魔弾で直接攻撃をしようとしたが、魔族が盾となり攻撃を当てることは出来なかった

数回一気に撃ち込めたら当てられるかもしれないが、繁のは残念ながら連射ができないタイプの銃だった

今考えられる一番良い方法、それは相手のSP切れを狙うことだろう。だがこちらもSPが切れてしまいそうだが…


「なんで…なんで…」

愛香はどれほどやっても杖で弾かれてしまう、今までに瞬間移動が使えなかったことは何回かあったが、使えるのに全く攻撃ができないということは初めてなのだろうか

「お前の瞬間移動なんて当たらない、大人しくやられたらどうだ?」

愛香を煽っているのか?今すぐ吹き飛ばしてやりたいのだが

「誰が…敵を目の前にして…諦めるか…」

「ふん、執念は強いみたいだな、でも俺に攻撃を当てることはできない、お前らの武器の力は大体把握している」

愛香が勝とうと必死で抵抗しているのに、奴はそのプライドをズタズタに壊そうとしているのか?

でも今現在愛香以外は近づくことすらできない、愛香も杖で弾かれて攻撃を当てられない

「お前瞬間移動は一瞬で移動できるとか思っているんだろう、でもそれは違う」

違うだと、俺らは何度もお世話になっているが、そうだとずっと思っていたんだが

どこが間違っているんだ?

「瞬間移動…本当は目的の場所まで超高速移動をする技だ。お前らにはとうてい見えない速度だから、知らなくても当然だがな。

「でも、俺はお前の移動が見える。だからお前が瞬間移動を使ったことも、どこに行こうとしてるかも、バレバレという訳さ」

瞬間移動は超高速移動する技だと…本当なのか?

もしそうだったら奴がさっきまで瞬間移動しても行き先で待ち構えられていたことが納得できる

となると、困ったな…超高速移動を見ることができる視力、瞬間移動を終えて襲いかかるまでにその場所に杖を構えることができる反射神経を持ち合わせているということだ

鬼畜すぎんか?


「ふん、ただそんなものか」

突然、薬を作っていた凪が言い出した

そんなもの…凪にはそんなものだと思っているのか?

「は?俺のことをそんなもの呼ばわりか!?」

こいつ、煽り耐性ないのか?

それぐらいでキレんな

「実際そんなものだろう、お前の身体能力はすごいのは認める。だがな、そのことを敵に流すということも足すと±0なんだよ」

確かに、自分の力を何故か敵に教えてくれるんだよな。

自分で墓穴を掘るようなこと言っちゃうのはまあ残念なのかもな。こちらとしては都合いいが。


「ふん、お前から殺してやろうか?」

こいつ完全にブチギレてないかな?煽り耐性ぐらい少しはあれよ

かといって、瞬間移動が無意味となるんじゃ勝つ方法あるのか?

てか何で今のタイミングで凪は多少煽るように言ったんだ?策でもあるのか?

頭の良い凪がその場の感情だけで煽った可能性…多分ないな

それより凪を集中的に狙われるのはやばいんだが、翔を凪のところにでも向かわせるか

「ふん、頭を使わないなんて愚かだな、お前戦うの向いてないぞ。頭を使わないやつはほぼ確定で負けるんだよ、この世界ではな」

確かに、頭を使って作戦を考えて倒す。これは今までもよくやってきたこと

力量の差があっても作戦勝ちすることはある。愛香の実技試験のときに俺が戦ったときも、愛香の瞬間移動に押されたが、罠を仕掛けて倒すことができた


「黙れ黙れ!」

「愛香、こっちに来てくれ」

奴の言葉には耳も貸さず、愛香を呼んだ

愛香は戦いを一時中断し、凪のもとへ瞬間移動で来た

「これを飲みな、そうしてもう一度同じことをしてみろ、攻撃が当てられるようになっているはずだから」

謎の薬を愛香に飲ませる、凪の薬だから安全安心だとは思うが、少し心配だな…

てか、何の薬だ?

「ふん、なんとでも来るがいいさ、集中して受け止めてやるからよ!」

愛香は薬を飲み終え、そこで瞬間移動でさっきまでと同じように近づく

しかし、それを感知した奴はその方向へと向かう

瞬間移動してからは短剣を奴に向けて刺すだけだ

グサッ!

愛香は短剣で、服の一部を切り裂き、そこには短剣の傷ができた

途中まではさっきと同じだった、しかし結果は変わった

凪が飲ました薬のおかげだろう、だが何を飲ましたんだ?

「…えっ?」

服の一部が切られたことに、奴は驚いた

杖を構えて受け止める前に短剣が入った、さっきまでとは違って

「おいお前、何をした?!」

「言うわけ無いだろ、俺とお前は敵同士だ」

凪がさっき戦い中に自分の攻撃を教えてくる人は馬鹿だと言った、自分でそのことを破ろうとはしないだろう

「ふざけるなふざけるなふざけるな!」

「絶対お前らに謝ってもらう。そのためなら何だってしてやる」

誰が謝るか、むしろ俺らにお前が謝れ

人が暮らすところを襲い、様々なものを壊した罪。それを反省してほしい


愛香はまた瞬間移動をした、それを奴は間一髪で避けた

「なるほど、タネが分かってしまえば簡単なことだ」

タネって…凪が愛香に飲ませた薬のことか?分かったのか?

あの薬実際に何の薬だったんだか、それはまだ俺も分かってないんだよな…

それが分かったのか、意外とこいつもただの脳筋野郎というわけではなくちゃんと考えて行動する系なんだな

「お前が飲ました薬、それは…反射神経を良くする薬だな」

「薬を飲ましたとはいえ瞬間移動は武器の力、それを変えるというのは無理がある。とすると残った可能性は瞬間移動後に何かをしたということ、今見たとき手首を動かす時間が変わっていたように見えないから、反射神経を早めてすぐに瞬間移動から攻撃に移れるようにしたんだろ」

「ああ、そうだな」

認めちゃったよ、まあここまで言われていたら認めるしか方法なかったんだろうけど

「なら、こうすればいいだけよ!」

遠くにいた魔族を半分自分のところへ引き寄せた。多分、そうして瞬間移動さしてもすぐに攻撃するのを難しくするためだ

あそこまで密集していると、瞬間移動で攻撃しようにも他の魔族に当たってしまう…

「自分から密集してくれるとはね。お陰でやらやすくなったよ」

不意に後ろから聞こえた声、その声の主は繁だ

そうか、繁の武器の力は魔弾、それはまあまあ広い範囲を攻撃できる

それが密集して余計やりやすくなったのか…まさかのこれがいいことだったとはな

繁は密集しているところへ狙いを定めた

繁の撃った弾は、奴の周りの魔族を巻き込んだ

ほとんどの魔族が凍てついた、氷の魔弾の効果だ

「くそっ!」

奴はすぐに杖を振るって新たに呼ぼうとする、しかし新たな魔族が呼ばれることはなかった

「やはり凍らせられただけなら無理なのか…」

そう、奴の武器の力は多分復活、逆に言えば、死んでいないものには使えないということだ

繁は凍らしただけであり、殺したわけではない

最終的には死ぬかもしれないが、それはすぐではなくまあまあ時間が経ってからだ

奴は杖を構える、奴も復活が使えないことを悟ったのだろう

「さあ、かかってきな」

そう言うと奴は、自分の変装を解き、その姿をあらわにした

「えっ?」

その姿に驚いた、奴の頭には耳がついていた

だが普通の耳ではない。奴の頭には狐の耳が付いていた…

この世界にこんなやつがいるとはとうていおもえない。となると残る可能性

奴は、元々が異世界の魔族である可能性だ

異世界の魔族だとしたら、その杖を持っていることも合点がいく

「そんな、嘘だろ…」

「なんで…なんで…」

皆驚いていたが、繁と凪は他よりも驚いていた

やはり魔族に会うことに慣れてないからか?でもそういう驚き方じゃなかったような気がするが…

「さあ人間共、お前らが魔族にしたこと、噛み締めながら死んでいくんだな!」

人間共、自分は人間ではないかのような言い草だ

やはり、奴は魔族なのだろう

愛香はすぐさま瞬間移動で近づく、しかしさっきと違ってすぐさま攻撃を受け止められた

いや、受け止めたのではない、弾き返した

カウンターと言うやつだ

「やっぱり、あの変装は窮屈だな。動きづらいったらありゃしない」

動きづらいだと…人間状態でもかなり動けていたというのにか

こいつは、魔族に戦いを任せていたから弱いのかと思ったが、意外と強いのかもしれない


「やってやるよ」

確かにこいつは素のステータスは高い、だが武器が杖だ

それなら、俺らが勝つ可能性のほうが高い

カキーンカキーン

俺の剣と杖がぶつかる、そして出てくる金属音

距離を出来るだけ近づけた、そこですかさず電磁の力を使う

カウンターだがなんだろうが、痺れさせてしまえば問題ない

電撃を奴に向けて撃った


しかし奴は数メートルほど高く跳び、その電気を軽々と避けた

「電気攻撃なんて、当たらないんだよ」

奴は空中から、重力を利用して杖を俺に向けて振るう

スピードのある杖が、俺の頭目掛けて迫ってきた

「神代先輩!」

愛香が瞬間移動でその杖に攻撃して杖をずらしたので、致命傷にはならなくて済んだ

しかし、頭ではなかったが手に杖が当たった

手が全く使えなくなってしまった

「師匠!」

「神代先輩!」

翔と愛香は新の安否を確認しに近寄った

普通に大怪我だ、骨折しているのかもしれない

この戦いにもう、俺が参加することはできないだろう

「まずは3人まとめて送ってやる」

奴は愛香や翔の気持ちを考えもしないでその場所へと杖を振り下ろす

翔がその杖を盾で防いだ、ここにいる人の中で防御ができるのは翔だけなのだ

「ふん、盾で受け止めたか。だがそれもいつまで持つかね?」

「おい、お前」

そこに繁が口を挟む。その繁の声はいつもと違っているように感じた

「何してくれてんだ」

繁の声には怒りがこもっていた。当たり前だ

繁にとって新は恋している相手、そいつが殺されかけていい顔をするやつはいないだろう

もしかしたら一部いるかもしれないが、繁がそんな人ではないことは明白だ

「同郷のよしみで攻撃するのはためらったが、先輩を殺そうとしているのなら容赦はせん」

「同郷?何を言っているんだ君は?」

繁そして多分だが凪はこいつと同じ故郷だということ

だがおかしいことが一つある

それは奴が魔族であるということだ

魔族は元々この世界にいたものではないのだ

「そのまんまの意味だ、私のことを知らない魔族がいることにびっくりしたよ」

「どうせいつかは見せなきゃならないんだ、ならいつでもいい」

凪はそれにグッドサインを送った

繁はいつも付けていた帽子を手で握った


あの帽子は繁が今まで絶対に外そうとはしなかったやつだ

そしてそれは異常なぐらい外そうとはしなかった。俺が知っているだけでも、バスケ部の試合中、親善試合のときの戦いのとき、学校の異世界で夜に会ったときなど、いずれのときも帽子を被り続けて、外そうとはしなかった。

少なくとも、俺は凪と繁が帽子をしていないところを見たことがない

繁は大事な帽子だから外さないと言ってはいたが、大事だからといって帽子をずっと被り続けるか普通?

そういえば、学校の異世界で愛香に言われて帽子のことは気がついたな。なんでそれまでおかしなことだと気づかなかったんだろう?


凪と繁、二人が帽子を被り続ける理由、それは同じものだった

彼らは、とあることを隠していたのだ

これが知られるわけにはいかない、そのためにずっと帽子を被り続けていた

そして、帽子を怪しまれないように、凪は毎年、帽子を被っていても特に気にもとめなくなる薬を飲ませていたのだ

飲ませ方は簡単だった、給食室に侵入して給食の一部にその薬を混ぜたのだ

それ以外には全く副作用はない薬、飲まされたことには誰も気づかなかった

外で帽子を着けているのはそこまで怪しまれないから、今の今までバレてこなかったのだ

そこまでして隠したかったものとは何だったのだろうか

繁は帽子を手に取り、その帽子を皆が見ている前で外した

繁にはそれが最適解だと感じたのだ

ここにいる皆は、自分自身の秘密を知っても大丈夫だと感じたのだ

凪にもグッドサインを貰ったのだ、大丈夫だと凪も感じていたのだろう


「え?」

驚きが隠せなかった、繁の帽子の下には普通ありえないものがあった

繁の頭からは、小さいが人目で人間のものではないとわかる…

猫耳 が付いていたのだ

え?あ、いや、え?

自分の感情が整理できていなかった

「魔、魔王様?!」

魔王様? 全く状況が理解できないのだが

愛香、及び翔も俺と同じように理解できていなかった

「ホク、お主やめろこんなこと。」

え?ホク?いやなんでわかるの名前?

過去になにかあったのか? それより魔王様って一体?

繁の口調も妙に違うし、一体全体どうなってるんだよ?

「いや違う、お前は魔王様じゃない。俺が憧れた魔王様が人間の肩を持つはずがない」

「お前は魔王様の偽物だ。勝手に魔王様を騙るんじゃねー!」

状況が理解できていないが、何だかバトルへと戻ったみたいだ


「ここで降伏してほしかったんだがな、戦おうと言うのなら容赦はせん」

繁からいつもと違うオーラを感じた

怒りとかそういうオーラではなく、根本的に違うオーラを

「お兄ちゃん、あれやっていい?」

凪は指でOKだと表した

「炎の精霊よ、我に力を授け、その者に降り注げ」

詠唱が終わったときに、空は一気に赤くなった

夕方になったとかそういう意味ではない

奴の真上に、大きな炎が現れたのだ

そしてその炎は、奴の頭めがけて降り注いだ

「これって…魔王様にしか使えない魔法…じゃあやっぱり…」

奴は炎が当たりその場で倒れた


「あ、あの…」

繁の様子に途中から何も口を挟むことができなかった

戦いが終わった、奴は念の為屋上のフェンスに手錠でくくりつけておいた

「分かった、俺が全て話す」

後ろで様子を見守っていた凪は、繁に薬を飲ませたうえで俺に説明をしてきた

「俺達は、元々この世界の生まれじゃない」

そういうと、凪も帽子を外し、頭に付いてある猫耳を見せた

やはり、繁がそうなら凪も…とは思っていた

あの猫耳、魔族のものでは…とずっと思っていたのだ

凪は帽子を被り直し、説明を続けた

「繁は元々魔王だったんだ。俺達一族の掟により、魔王は代々女が引き継ぐことになっていたんだ」

「そして、俺はその補佐官として二人で魔王の仕事をこなしていたんだ」

魔王…にわかには信じられないような話だ 

しかしこの世界は信じられないようなことが度々起こる。それに、ここでわざわざ嘘をついてまで俺達に話す必要は無いだろう

「分かった」

「分かったって…こんな話信じてくれるのか?」

普通の人だったら信じないだろう。俺も異少課に入る前だったら冗談と軽く流していた

でも異少課に入って、噓のような現実をいくつも見てきたのだ

「勿論」

「ありがとう…」

「それで、あいつの名前はホクと言う狐の魔族で、元々は同じ魔王城で働いていた仲間だったんだがな…」

そういうことか

奴が変装を解いたとき、凪と繁は他の人とは違うような驚き方をしていた

アレは奴が魔族だったことに驚いていたんじゃない、さっきまで戦っていた相手が知り合いであったことに驚いていたのか

二人共戦いたくはなかった、それで自分達が魔王とその兄であることを分からせ、降伏させようとした

でも奴に本物じゃないと言われてしまい、しかたなく倒したということか


「でも、なんでこっちに来たの?」

愛香が質問してきた

こっちに来た理由…自分の意思で来たというわけではなさそうだが…

「とある日に部屋で二人で仕事していると、部屋の中の時空が急に歪み始めて、気がつくとここにいたんだ」

時空が歪むか…確か石山さんは異世界への門が三年前に開いたと言っていたな

異世界への門が開くというのが異世界とこっちの世界が繋がったと考えればおかしくないのか

口では簡単に言ったが、実際は壮絶だったんだろうな

「こっちに来て数ヶ月は戸惑い続けてたが、どんどん慣れていったんだ。でもここにいる途中で、魔族がどんどん乗っ取られていることに気がついたんだ。」

乗っ取られている、アンダス団のことを言っているのか

「俺らは二人だけでもこの組織を潰したかったが、それはあまりにも無茶すぎた。仲間が必要だった」

「でも2週間前、新がスマホを落としたとき、偶然ここを知ったんだ。新がここで働いていることも含めて…」

2週間前って、親善試合の日か

スマホを落としたとき…あ、あの親善試合が終わったあとのときか

確かあのとき石山さんからのメールが来ていた

偶然その通知を見てしまったのか、あのとき凪がスマホを拾ったから見る時間はあった

「それで俺はここの食堂でバイトとして働き始めた。異少課が、俺たちが入っても良さそうな場所か調べるためにな」

となると、あの食事のときの質問…あれは凪繁が入っても大丈夫か見極めていたのか

となると、あのときは愛香が答えたが、違うことを言っていたら凪繁は入らなかったかもしれないのか


「ところで、さっきの技は…」

繁が起こした謎の詠唱をすると炎が降り注いだあの技、繁の魔弾の力とは違うような感じがした

それに奴は魔法とかどうとか言っていた、武器の力とは違うのだろうか?

「アレか、アレは繁が使える魔法だ」

「魔法?武器の力じゃなくて?」

愛香がさっき俺も考えていたことを言ってくれた

「それは…」

「それは私が説明する」

凪の言葉を遮って繁が言葉を発した

「繁、回復したか」

「魔法は魔族が使える技、そして私が使ったのは火雨という魔法」

火雨…

炎が雨のように降り注ぐからだろうか?

「魔法は基本一人一種類しか使えない、そして魔法だと身体的負担がかなりかかるの」 

それでさっき凪から薬をもらっていたのか

あれは回復薬的なやつだったのか

「だから魔法を武器に入れて媒介として使ったの。そうしたら、負担がかなり軽くなったし、自分以外の魔法も使えるようになった。でも私はまだまだ未熟だからそんなことも出来ないんだけどね」

武器の力というもの、それは元々誰かが武器に入れた魔法だったのか


「さ、もうすぐで起きそうだから、怒ってくるね」

聞きたいことはまだまだあったが、奴が起きるのならそっちが最優先か

手錠で繋がれているとはいえ、逃げないとは言い切れないからな

逃げられたらすぐに痺れさせるまでだが

奴は逃げ出そうとはせず、ただ捕まっていた

降参したということなのだろうか

「で、なんで襲ってきたんだホク。お前はそんな好戦的じゃなかっただろ」

好戦的では無かったのか、なら一体なぜ…

オルクが関係しているのは明白なのだが、事情があまりわかってない

「魔王様…」

「なんで、なんで魔王様は…あのオルクを…俺の友達を殺したんですか!」

手錠で繋がれているから暴れはしなかったが、それがなければ暴れていてもおかしくないような気迫だ

だが、彼の目には、涙が流れていた

彼は昔を思い出して泣いていた

友達…

あのオルクを利用していたわけではなかった、対等な友達だったのか

考えてみれば、戦っている最中に感じた怒りが理不尽な怒りとはまた違っていた

なんとなく…自分がアンダス団に向ける怒りのようだった

友達が殺されるのは辛いことだ。その辛さは俺も経験済みだ

「ホク…」

繁は口を閉ざした

こんなとき、どのように言えばいいのだろう

正直に「あっちが襲ってきたから殺した」と言っていいのだろうか


「ホク聞け、オルクは…」

「人間のことを、襲っていたんだ」

凪は正直に言った

「そんなはずはない!オルクが、あんなに人間との共存を望んでいたオルクが…絶対に、ありえない」

「嘘じゃない!これを見てくれ」

凪はスマホを渡した、そして写真を見せた

それはあのときのオルクが人を大量に穴に集めていた写真だ

「そんな…」

「でもオルクは自分の意志でやったんじゃない、多分何者かに操られていたんだ。そもそもオルクは草食性、人間を襲うわけがない。そして普通使えない技を使ってきた、誰かにそうされたかのようだった」

あのオルクが操られていただと?

でもそんなことをするようなところ、多分アンダス団だろう

「オルク…」

悲しみの時間は終わり、再び懇願してきた

「この手錠、外してくれないか。俺はもう武器は持ってない、誰も襲わないし、逃げもしない」

どうしようか

口ではなんとでも言える、嘘の可能性が高い

「いいよ」

え?

考えているうちに、愛香が手錠を外していた

愛香は人を信じやすいからだろう

早い、早すぎるよ 

「魔王様、勝手なことを言ってすみません。そして皆様、理不尽に襲ってしまって申し訳ありません」

「あ、俺はもう良いけど」

「私も、先輩と同じ気持ち」

自分と境遇が似ていたんだ、今から怒る気持ちにはなれない

「そして、さようなら」

彼はすぐに走り出した、でも彼が走る先は手すりだった

「どこに行くつもりだ?」

その手をがっしりと凪は止めた

「自分の命を勝手に絶とうとするな、まず自分が壊したものを弁償してからだ」

「そして、オルクが大事なら俺のことを恨め、そして殺そうとしろ。そうすれば、お前が生きていく意味が生まれるだろ。」

生きていく意味か、俺はアンダス団を潰すことが生きる意味だった。今は違うが

「そんなこと…俺には」

「魔王の兄の命令だ、それを断ろうというのか?」

「ありがとうございます…凪様」

彼の目にはまた涙が溜まっていた

感動の涙であった

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