第2章 中学校でも警察業!

「このようにして、分母に根号がない形に表すことを有理化という。ここテストに出すから」

「おい、神代、おい起きろ!」

「す、すいません‥」

俺達異少課が火山に行った次の日、学校にて

「最近どうしたんだ?授業中寝てばかりで」

「いや、昨日夜ふかししてしまってな」

任務で夜ふかししてしまったので、正確には俺は悪くないのだが

「ちゃんと家で寝ないと評定危なくなるぞ。ただでさえ評定ヤバいんだから」

「わかったよ、凪‥」

彼の名前は根高凪

3年前にひょんな事で出会った俺の友達

少し不思議な行動をとることがあるが、頭の良さと仕事ぶりからクラス中の人から頼りにされている

「ほい、これが今日のノートだ」

「いつもありがとうな」

「困ったときはお互い様っていうだろ」

俺のほうが助けられてばかりなのだが


それから数時間後

「じゃ、俺はバスケ部行ってくるから」

「今日俺の料理部顧問がいないから、俺先に帰ってるな」

「じゃ、待たな」

凪と帰りの挨拶をし、体育館に急ぐ

今日は俺がバスケ部の準備の当番で、早く準備しないといけないからだ

「先輩、遅いですよ」

「すまん、先生の話が長くって」

「すぐ準備するな」

「私も手伝いますね、そっちのほうが早いですし」

「分かった、ありがとう」

彼女は根高繁

友達の凪の妹

この中学校は人数の問題でバスケ部が男女分かれていないので、先輩後輩の仲である

バスケは男勝りに上手く、他のバスケ部員からもその上手さは認められている


「お兄ちゃんから聞きましたよ、先輩最近よく眠れてないんですって」

「いや、単純に夜ふかししただけだから」

「夜ふかしなんてだめですよ、一日の疲れが取れません。最低でも8時間は寝てください」

「と言われてもね、色々忙しいんだよ」

ほぼ石山さんが急に振ってくる無茶な任務のせいだが

「ならこれ使ってください。この、アロマスプレーを」

「アロマスプレー?」

「眠っている間も香りが脳に届くので、熟睡できるらしいんです」

「でも、こんなものもらっていいの?」

「大丈夫です、手作りですから。中のオイルも貰い物ですし。何より先輩に安眠してほしいんです」

優しいな。

「分かった、ありがとう」

「ところで先輩、バスケの準備終わりましたね。でもなんで誰も来ないんでしょう?」

「さあ、俺もわからん」

「君たち、そこで何してるの?」

とある先生が来た

「いや、バスケ部の準備を‥」

「バスケ部、今日はないじゃないか」

「?どういうことですか」

「バスケ部の顧問の先生が子供のワクチン接種のためにと早退したから今日のバスケ部なくなったじゃないか」

「聞いてないんだが」

顧問の先生が親バカで、授業中に子供の話をするほどだということは知っていたが、急に早退するか普通?

「とにかく、早く帰れ」

「はい」

「分かりました」


繁と別れ、警察署に行く

「あれ、今日早くないかお前」

「急に部活がなくなったので」

「まあ都合いい。ちょっと今から任務だ。お前の学校の七不思議を調べてこい」


「? どういうこと?」

理解が追いついてない。

「そのまんまの意味だ、お前の学校の七不思議を調べろ」

「いや、なんで」

「まあいい、順を追って説明する。俺の知り合いの中学生がお前の学校にいてな。小説やVチューバーについて語る仲なんだが」

「なるほど、つまりはオタク仲間と」

石山さんオタクだったのか

「そいつが今日集会に参加しなくてな。今日はそいつが楽しみに待っていたライトノベルの発売日で、一緒に読むことになっていたんだ。そいつが来ないなんておかしい。もしかしたら、七不思議に巻き込まれてしまったのかもしれないだろ。だから、調べてこい」

なぜその理論に至ったのだろうか


「いや、それたまたま来なかっただけなんじゃ‥」

「とにかく、調べてきてくれ、あいつが心配なんだ。もし巻き込まれてなかったら、ここ警察だから簡単に探せるのに、まだ見つからない。巻き込まれたしかないだろこんなの」

「いや、俺行きたくないんだけど」

関係ないだろ異小課と

「給料は出す、とにかく調べてきてくれ。それに、お前の弟子はやる気みたいだぞ」

後ろを見ると、翔が念入りに計画を練っていた

いつもは計画なんて練らないのに‥

「てか、翔は俺の中学校の生徒じゃないんだが」

「大丈夫だろ、夜中に忍び込めば。きっと危険はないはずだから」

あやふやなんだよ

「師匠、七不思議調べに行きましょう」

「うわっ、びっくりした。突然話しかけるな」

「そんなことより、師匠、七不思議調べに行きましょうよ」

「なんでお前そんなにやる気なの」

「こういうホラーなやつ大好きなので」

「決まりだな、3人で行ってこい」

愛香巻き込まれてる

「いや、俺行くっていってないんだが」

「行け、これは命令だ」

俺は何も言いかえせなかった

最近石山さんがブラック企業の上司っぽくなってる気がする、気のせいではないのだろう


「私まで勝手に巻き込まないでください!」

ですよねー

「ゴメン、石山さんに命令されたから」

「石山さん後でしばいてきますね」

「怖い怖い」

深夜0時、誰もいない学校の前で集まる

「ところで、どうやって入る?」

「愛香の瞬間移動で良くない?」

「いや、それは無理なんです、中の様子が分からないと‥」

愛香の瞬間移動は基本的にその場所の周りの様子が分かっていないと使えない

今まで任務で飛んだ場所は、愛香が行ったことがあったり、その場所の写真を見せてもらったりで様子が分かっていた

しかし、ここは愛香にとって初めてなので仕方がない

「窓でも破壊しますか?」

「やめろ、色々と問題になる」

「なら、ピッキングで開けませんか」

「ピッキングなんて、使える人いないだろ」

「私使えますよ」

「使えるの!?」

「はい、私ハッキングやピッキングなどの知識はあるので」

誰だ教えたやつ

「開きましたよ」

愛香はものの10秒で、学校の扉を開けた

「さ、調べに行きますか」






「ここで、いいんだよな‥」

「うん、大丈夫」

中学生二人がこんな夜に会話していた‥


俺の中学校に伝わる七不思議

1 体育館で泣く子供


体育館のバスケ部の部室には、子供の鳴き声が聞こえる

その声を聞いたものは、とある部屋に連れ去られてしまうらしい‥

「まずはこれから調べるか」

理由は特にない、ただ順番通りに調べれば調べたやつが分かりやすいと思ったからだ

「これ、幽霊、じゃないですよね‥」

そういう愛香の足は震えていて、声も震えている

こういうホラーなやつ苦手なのだろうか

ま、こういうのはそっとするのが一番‥

「お前ビビってるの、ダッサ」

「黙れ」

殺気だった声で愛香が言う

そして、瞬間移動で翔を天井から落とした

「次言ったら屋上から落とします」

翔、もう少し人の気持ちを読んでくれないかな‥


体育館の鍵を愛香がピッキングで開け、バスケ部の部室に着いた

部室には、バスケットボールやユニフォームが散らかっている

が、特に変わったところはない

「何も聞こえないな」

「そうですよね子供の声が聞こえるとかおかしいですもんね」

「なら、次行くか‥」


「パパ大好き!」


「え、なにか言った?」

「いや、私は何も」

「俺も言ってないぞ師匠」

おかしい、確かに子供の声が聞こえたはずなんだが


「パパ、抱っこして!」


「え、」

「この声」

「やっぱり、七不思議は本当だったのか!」

愛香はもうビビって部室の隅で震えている

そして翔は、とっても喜んでいた

「とにかく声がするところを調べましょうよ。」

「愛香、大丈夫か」

「だ、大丈夫です」

全然大丈夫そうに見えない、無理に大丈夫に見せているようだ


「声がするところ‥ここか?」

声がする方向に向かうと壁につきあたった

「いや、これは壁の奥から聞こえてるな」

壁には穴があった、それも小さな穴が数個

おそらく、壁の向こうの声がここまで届いたのだろう

この壁の向こうには用務員室がある

そこに声の主はいるのだろう

「二人共、隣の部屋に行くぞ。そこに声の主がいるはずだ」

「俺は行くぞ、幽霊とかなら会いたいし」

翔はすぐに行くことを決めた、ホラー好きだから行きたいのだろう

愛香は大丈夫だろうか‥

「私も行きますね」

「ここに1人なのも怖いので……。」

「さ、開けるぞ」

ドアをいきよいよく開ける、するとそこには‥

たくさんの子供の写真、そして子供の声が流れている録音機があった

「これ、ヤバイやつなんじゃないですか」

「いや、これ‥」

ここに写っている子どもたち、バスケ部顧問の子どもたちだ

社会の時間に毎回写真を見せてきたから覚えている

「これ、バスケ部顧問の子供の写真だ」

「え、それってどういう」

「これ、たぶん顧問が子供に会えない寂しさを紛らわすために作った部屋だ」

用務員室といっても、最近は用務員が突然やめたのでここを毎日使っていたバスケ部顧問の先生がよく使っていた

「え、ありえないですよ。こんなところに写真や子供の声を流す録音機おくなんて」

「いや、顧問の先生は‥凄い親バカなんだ。子供の声をいつも聞きたいと思っても不思議じゃない」


つまり七不思議の1つ目は

親バカ先生による録音機が原因

これで1つ目は解決した






「最後はこれを屋上に運べば終わり」

「分かった、そっち持ってくれ」

「あれ、あそこ光ってない?」

「本当だ、なんでなんだろう」

「え、これヤバくない」

「「うわっ!」」

七不思議1つ目を調べていた頃、別の場所で事件が起きていた‥


七不思議は残り6つ

七不思議2  職員室の血


職員室の机の一つに、血が流れている

それは、ここで死んだ武士のものらしい‥


それを調べるため、職員室に来た

「え、これって‥」

愛香が驚いた顔でこっちを向く

その指の先には、机に、血のような赤い液体が流れていた‥

「こっちは本当なのか‥」

さっきの体育館は特に問題なかったが、こっちは本当に七不思議‥

俺は赤い液体をよく見た

「ん?」

これ、よく見ると、血じゃない

そして、ほのかに香るこの香り‥

「これ、トマトジュースだ」

暗いから間違えたが、完全にトマトジュースだ

そういえばこの机を使っている教頭先生、トマトジュース大好きで、職員室でもいつも飲んでたな‥

七不思議2 解決



七不思議3 人の肉を喰う女


この女は家庭科室に現れ、人の肉を喰う

この女に見つかると、肉として喰われてしまう‥


家庭科室にて

「人の肉なんて、絶対美味しくないって‥」

「とりあえず、なんか怪しいものないか‥」

「師匠、これ!」

翔が大声で呼ぶ、その先には‥

加工された、大きな肉が吊らされていた

「これって、人肉‥」

「ん、何だこれ?」

足元にメモ用紙が落ちている、それを拾い上げた


牛丼の作り方

まず、牛肉を細切れにして‥


「え?」

そこには、牛丼の作り方が詳しく書かれていた


「てことは、これ‥」

「牛肉、大きすぎない!?」

目の前の牛肉はスーパーで売っているようなものではない、食品工場が扱っているようなやつだ


でも、家庭科の先生が気分で買ったんだろう

家庭科の先生はその時の気分で行動を決める人だ

七不思議3 解決


七不思議4・5・6もこんな感じで解決した

どれも先生方が絡んでいた


「先輩、ここの先生方大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫ではないだろう」

もうここの先生は問題児が多い、生徒よりもヤバいことをしている人ばかりである

何で先生になれたのだろう‥


「次が最後ですね」

「ああ、これで終われる」


七不思議7 赤い階段の神隠し

学校の東階段には1つ赤色の場所がある

そこを踏んでしまうと、神隠しにあってしまう‥


「どうせ、これも先生方の仕業なんだろうけど。東階段はこっちだ、行くぞ」

「分かりました」

「分かった、師匠」

そして東階段へとやってきた。

「赤い階段‥」

「あれじゃないか、師匠」

翔が指差した先には、1つだけ他のところとは違い真っ赤に染まっている場所があった

そして、その近くに、何やら飾り付けに使うようなガーランドが落ちていた


「なんでこんなところに‥」

「誰かが落として行ったんでしょうか?」

「さあな、分からん」

「とりあえず、調査しますか」


俺達3人は調査するため階段の近くによった

階段は本当に真っ赤だ、トマトジュースなどの色ではない

「昼間はここは普通の階段だったのに‥」

「確か、ここを踏んでしまうと神隠しにあうんですよね」

「そうだ、絶対踏むなよ」

こういうとき、ふざけたやつだとわざとらしく踏むだろう

「翔、絶対踏むなよ」

「俺にだけですか、ひどくないですか師匠」

「いや、そっちなら間違えて踏みそうだし」

「大丈夫、俺を信じてください。」

不安だ


愛香は黙々と調査を続けていた、そして翔は上から調べることにしたらしい

翔は赤い段をジャンプで超えて、上の方を調べる


「こっちは何もなかった」

「そうか、帰ってこい」

翔が調べて数分、何もなかったらしく帰ってきた

下の確認を怠っていた


「え?」

翔はすぐに消えた。

翔が赤い階段の場所を忘れてしまい、赤い階段に乗ってしまったすぐのことだ

「もしかして翔、神隠しにあったんじゃ‥」

今までの七不思議は全て先生のやらかしたことだったが、これは違うらしい

「神代先輩、早く翔さんを助けに行きましょう」

愛香が駆け寄って来て言った、愛香にとって、翔は大事な同僚という感じなのだろう

「ああ、当たり前だ」

赤い階段に愛香と二人で乗る、その瞬間、目の前が突然真っ暗になった

翔、無事でいてくれよ

心の底から思う、あれでも同僚なんだから当然だ


暗くなって数秒後、その場所に着いたようだ

「師匠!」

「翔、無事だったか!」

目の前に翔が現れた、怪我一つない状態で

「師匠、なんで来ちゃったんですか、帰れなかったらどうするんですか!」

翔が怒った顔で言う、確かに帰れないかもしれない、それでも‥

「でも、お前一人じゃ絶対帰れないだろ。お前を一人にはできない、だから来た」

「師匠‥」

翔が目から涙を流したようだ、愛香がすかさずハンカチを渡す

「じゃ、絶対帰るぞ」

「当たり前ですよ」

「そうだ、絶対元の世界に帰ってやる」

三人で息を合わせ、帰ることを決意した


なんて思ってたら

「新! どうしてここに?」

「なんでこんなところにいるの‥ 凪」

そう、目の前にいたのは友達の凪だった

「あ、えっと‥明日までにやらないといけない仕事があって‥というか、なんでここにいるの」

まあ聞くよな

異少課のことはむやみに他人に話すなと石山さんから言われている

ここは誤魔化しておこう 


「こっちもちょっと用事があって‥」

「まあ、深くは聞かないでおく。赤い階段を踏んだろ?」

凪が深くまで聞くような人じゃなくてよかった

「ところで、君たちは誰なの?新の友達?」

凪は愛香と翔を指して聞く

「俺達は異少‥」

翔が言ってしまいそうだったので、咄嗟に足を踏んで止める

「どうしたんですか、師匠」

「どうしたもこうしたもない、異少課のことは口外しないと言われているだろ」

「あ、忘れていました」

こいつを殴りたくなった、この事件が終わったら説教でもしよう

「どうした?」

「あ、ちょっと話していて‥」

「分かった、待っている」

「あ、いやもう終わったから‥」

とりあえず異少課のことを出さないでおいてくれ、特に翔

「私は神代先輩の後輩で、波山愛香といいます、よろしくおねがいします」

愛香は完璧だ、翔は大丈夫だろうか‥

「俺は師匠の弟子の大木翔だ、よろしく」

師匠言っちゃだめだろ、そこを隠せ

怒りの気持ちが高まった

「俺は根高凪、新の友達だ、よろしく」

なんとか自己紹介は終わった、ここまでハラハラさせるものではないのだが‥


「てか、ここどこだ?」

自己紹介が終わったところで、軽く辺りを見回す

目に見えるところは一見元の世界と変わらないが、元の世界とは一部違った

「俺らは先にここに来てたんだが、特に情報はなかった」

「なるほど」

調べても情報はない、本当に見知らぬ世界なのか‥

「てか、俺らって言った?」

「あ、実はもうひとりいるんだ」

廊下の奥から人が来る、馴染みのある人

「先輩?なんで?」

「繁、ちょっと事情があるらしいんだ」

遠くから来た彼女はバスケ部の後輩だった

つまり、兄妹でこの世界に来たということなのか‥

本当に兄妹で何していたんだろう‥

「まあ、ざっとそういうことだ」

凪は妹の繁に今までのことを話した

「そういうことね‥私は根高繁、先輩のバスケ部の後輩、よろしくね」

「私は波山愛香、よろしく」

「俺は大木翔、よろしくな」

「二人共、よろしくね」


キーンコーンカーンコーン

突然、チャイムがなった

「5人集まったみたいだね」

スピーカーから声が聞こえる、放送しているのだろうか

「お前は誰だ?」

「だれかは教えれない、適当な名前で呼ぶといい」

質問に答えた、こちらの音声は向こうに聞こえているようだ

「君たちはここに飛ばされて暇なのだろう、少しゲームでもしていかないか?」

決して楽しそうではない声で誘う

「お断りだ、そんなことをしている場合ではない」

「もし君達が勝ったら、この世界から元の世界に返してあげるよ。ちなみに、こうするしか帰る方法はないからね」

こいつのことが信用できるかといえばそんな訳はない

ただ、このままでは帰ることができないのは事実なのだろう

繁と凪が先に来たのに、まだ特に進展してなさそうだから

「なるほど。癪だけどそれしかなさそうだな。」

「このゲームに勝って、元の世界に帰る。それでいいか?」

4人は頷いた

「参加してくれて嬉しいよ、早速ルールを説明するね。この世界には『魂の石』と呼ばれる黄緑の石があってね。それを探して、屋上にある祭壇に捧げてほしいんだ。魂の石を無くすと、永遠に出ることができないから注意してね。これでルールは以上だよ、それじゃあ頑張ってね」

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴った

もっと聞いておきたいことがたくさんあったが、放送はしてくれなかった


「とりあえず、周り調べてみるか」

「分かりました、師匠」

「俺もそれで」

この世界は全くわからないが、調べていくうちに少し分かった

この世界はほとんどか元いた学校と同じ見た目をしている

学校の敷地からは出ることができない

つまり、学校の敷地の中で黄緑色の石を見つければよいらしい

学校はまぁまぁ広いが、敷地内だけなので、根気よく探せば見つかるだろう


「そういえば繁さん」

「繁でいいよ」

愛香と繁が話している

「じゃあ繁、なんで帽子を室内でもかぶっているの?」

愛香が繁に尋ねた

繁、そして凪は室内でも帽子をかぶっている、これは今に限ったことではなく、初めて会ったときからずっとかぶっていた

「え、でもそれって普通なんじゃ‥」

俺が言おうとすると、はっと気がついた

何故か今まで、俺は凪と繁が帽子をいつもかぶっていても、特に不思議に思っていなかった

慣れというわけではない、最初からおかしいと思っていなかった

俺以外のクラスメイトや先生も、誰一人変に思うものはいなかった

しかし、今思うとそれはおかしいことである

なぜ今まで、不思議に思わなかったんだろう‥

「この帽子? ちょっとこの帽子が大事な帽子だから‥」

「そうなんだ、分かった」

帽子のことは気になるが、今はそれどころじゃない

魂の石、そう呼ばれている石を集めないといけない

最初は一階から探す

「なんで?」

目の前には、「スレイム」と呼ばれる魔族がいた

前に任務で倒したことがある、そこまで強くはない魔族だ

だが、今は凪と繁がいる

石山さんに、異世界に関係することは他人に言わないようにされている

ここで武器の力を使ってしまうと、説明がいろいろ面倒くさいことになる

「え、何これ‥」

繁と凪は驚いている、見たこともない生物がいるのだから

「神代先輩、倒しますか?」

「いや、ここで倒すと、異世界の武器のことがこの二人にバレてしまう」

「じゃあ、どうしろと‥」

そのとき、スレイムが攻撃を仕掛けてきた

俺達はどうすることもできない、それなら‥

「皆、逃げるぞ!」

スレイムの場所から逃げる、スレイムは足が遅いので追ってくることができない

「あれ、何だったんだろう‥」

繁が疑問に思ってた。そんな繁に凪がなんか言ってた。


その後も、幾度となく魔族に襲われた

その時その時で逃げ続けていた、そして、一階の最後の部屋を調べた

「ここにもないか‥」

「とりあえず、一階にはないことが分かりましたね」

「これをあと2回か‥」

俺達の中学校は3階まである、だから、あと2回探すのをしないといけない

部屋から外に出た、その時‥またスレイムに出会った

「師匠、早く逃げましょう」

「言われなくてもするさ」

スレイムから走って逃げる、だがしかし‥

「行き止まりかよ」

逃げた先は行き止まり、窓とかもないので逃げることができない

スレイムはゆっくりだが近づいてくる

「おれがあいつを倒す」

凪がゆっくりと言った

「一人で倒すなんて無茶だ!」

「いや、勝てないと決まったわけじゃない」

俺が止めたが、凪は絶対に倒そうとしている

「分かった、俺も行く」

「いいのか、ありがとな」

一般人である凪を危険な目にあわせるわけにはいかない

俺が倒さなければ

「どけ」

凪がそう言って突っ込む、俺もその後を追う

スレイムは攻撃しようとする、凪に向かって

「凪、避け‥」

俺が言おうとした、そのとき

すでにスレイムは凪の手によって倒されていた

「あれ、こいつ思ったより弱くないか。なら良かった。」

「え、何か使った?」

「いや、使ったといえばこの包丁ぐらいだけど‥」

そう言って包丁を見せる

いかにも切れ味が良さそうで、プロが使うような包丁だ

「何で包丁持ってるの、凪」

「いや、料理部の部長だから‥」

理由になってない

だが、結果的に大丈夫でよかった

「魂の石‥どこだよ」

「なかなか見つからないな‥」

「このままじゃ時間かかりそうだし、二手に分かれるか」

「そうするか」

「いいよ私は」

話し合いの末、翔と凪と繁が2階を

そして俺と愛香が3階を探すことにした


「敵多いな‥」

探し始めて数分後、敵の多さに驚いていた

一階はスレイムなどのそこまで強くない魔族だったが、この階にはかなり強い魔族がうようよいる

凪と繁がいないので武器の力で倒せるが、それでもかなり体力を消費する

「彼女たち‥大丈夫でしょうか‥」

「大丈夫だ、そう信じよう」

そして調べる最後の部屋となった

「くそっ、ここにもないか‥」

「これで3階は最後ですね」

俺達の学校は3階建てだ、つまり、

魂の石は二階にあるのだろう


「そっち見つかったか?」

凪が話しかけてくる、2階の探索は終わったのだろう

でも、こう聞くってことは、2階になかったんじゃ‥

「こっちはなかったぞ、そっちは?」

「いや、こっちもなかった」

やっぱりなかったか、魂の石はどこにあるのだろう

「え、どういうことなんだ」

「魂の石はどこにあるんだよ‥」

翔が言った

「もしかして、まだ探していないところがあるんじゃ‥」

「でも、1階から3階まで全て探したぞ」

「トイレの中とかは?」

「そこも全て見た」

魂の石、本当は無いもの何じゃないか‥

そんな予感がよぎった


「あの‥」

「どうした愛香」

「もしかして、校舎の外にあるんじゃないでしょうか‥」 

「それだ!」

飛ばされたところが校舎の中だからか、外は探索していなかった

学校内のどこかにある、それが、学校の敷地内という意味だったら‥

俺達はグラウンドに出て、魂の石を探す

しかし、グラウンドはまぁまぁ広いので、すぐには見つからないだろうが、探してみせる

「魂の石、もしかしてこれじゃ‥」

繁が大声を出す、まだ3分しか立ってないというのに

繁の手には、黄緑色の石が握りしめられていた

「これが、魂の石‥」

繁が握る石は、宝石のように光っていた

いや、宝石以上だろう

このような石が自然にできたのなら、すごいことだ

「これで、帰れるんですよね?」

「ああ、だが、油断は禁物だぞ」

魂の石を持って、屋上に行く

途中魔族に絡まれたが、凪が包丁で退治した

普通、魔族は異世界の武器でしか退治できないはずだ。何故包丁で魔族討伐できるのだろうか‥

そんなことを考えていながら、屋上に続く階段を登っていた


「開けるぞ、何かいるかもしれないから、気をつけろよ」

「分かっているよ」

愛香、そしてその他の人達もうなずいた

重いドアを開けると、目の前には八つの祭壇があった

そのうち七つは様々な色の石が捧げられており、一つだけ石が置かれていなかった

「置くぞ」

ゆっくりと言い、そして石を置く

これにより、全ての祭壇に石が捧げられている状態になった

「おい、石をおいたぞ、早く帰らせろ」

大きな声で呼ぶ、放送をしていた人を

「もう少し待て、その後にここの記憶を消して帰す」

放送で聞こえた、あの声で返事が来た

八つの石同士は光を通し、魔法陣のようなものを作り出していた 

黒い地面に、白い光で描かれる

この魔法陣が、元の世界に帰ることに関係あるのだろうか

ただ、そのことを考えながら、魔法陣ができるのを待っていた

魔法陣が出来上がった、すると同時に

「ぐはっ!」

急激な痛みが襲ってきた、俺だけでなくここにいる5人全員に

俺を含めた全員が苦しんでおり、のたうちまわっている

そして、こういう痛みに慣れていないからか、凪と繁は少し経つと動かなくなってしまった


「帰すって言うのは‥嘘だったのか‥」

「いえ、嘘ではありません」

目の前に男が現れる

そして、男は5人に薬を飲ませようとしてきた

「させない!」

すかさず愛香が瞬間移動で薬を吹き飛ばす

愛香、翔は苦しんでいたが、任務で痛みに慣れているからか、行動不能状態にはなっていなかった

愛香が薬を吹き飛ばしたその瞬間、痛みはなくなった

この薬が痛みの原因だったのなら、完全に俺らを殺す気だったのだろう

「どういうことだ、俺らを帰せ!」

痛みがなくなり、異少課の三人が立ち上がる

まだ凪と繁は気を失ったままだった

「ふざけるな、せっかく無傷で帰してやろうとしたところを」

男は怒っている、俺らに怒られる筋合いはないのだが

「無傷なんて嘘を言わないで!」

「師匠に傷をつけることは許さん」

二人も怒った

「嘘ではない、今飲ませようとしたのは記憶を消す薬だ。ここでの記憶を消してから平和に帰すつもりだった。そこのお前が邪魔をしなければな」

男は愛香を指差した

この男は記憶を消すだけと言ったが、信じられない

わざわざ記憶を消してから帰す必要なんてあるのか?

「私、もしかしてやったらだめなことしちゃった‥?」

愛香が小さな声で弱く言う、さっきの威勢とは程遠い声で

「いや、あの状態なら飛ばしていい」

愛香を擁護する、自分が愛香の状態だったら間違いなく同じことをしていた

あの状態なら普通そうする

「俺もそれでいいと思うよ」

翔も俺の意見に賛同した

「お前、記憶を消すとかいったがなぜわざわざそんなことをするんだ?記憶を消す理由がないとさっきのことは信用できない」

男に問うた、それに男は答えた

「ま、教える必要もないが教えてやる。俺は魂の石を集めていた、それがバレたくないから記憶を消そうとした、以上だ」

魂の石、俺が探しだした黄緑の石

それがなぜ大事なのかは分からない、だが一応筋は通っているような気がする


「ま、記憶を消すのがだめなら仕方ない。貴様らには消えてもらう」

男がさっきまでの態度から変えてゲームのラスボス的な口調になった

「やっぱり最初からそれが狙いだったのか」

帰さずに、迷い込んだ中学生を殺してしまうことが狙いだったのか

俺はそう考えた

「もういい、これ以上お前の質問に答える義理もない」

俺の質問には答えなかった

すぐさまビーム的なものを俺達に撃つ

それを3人とも当然のように避けた

「翔、その盾で凪と繁を守っとけ!」

「愛香は俺と奴を倒すぞ!」

俺は二人に指示をした、大きな声で

愛香は短剣、俺は剣を構える

翔はそこから離れたところに凪と繁を運び、盾を構えた

愛香・翔・凪・繁、こいつらを殺そうとしたんだ

絶対に、倒してやる

「行くぞ!」

男に電撃を当てて痺れさせる、そこに愛香が瞬間移動で近づき攻撃する

たった一発、愛香が攻撃しただけで、男の動きは鈍くなった

こいつ、そこまで強くないのか?

「ただの中学生かと侮っていたら、違うのかよ‥。異世界の武器を使うのか、面倒くさいな」

男のこの言葉に、3人とも震えた

こいつ、俺らが異世界の武器を使っていることを見抜いたのか‥?

「静かにして!」

愛香がまた瞬間移動を使う、しかし俺が電撃をまだ使っていないので、男に避けられてしまう

「異世界の武器でくるなら、こっちも異世界のもので倒してやるよ」

男はそういって、俺達から距離を取る

「さあ来な、俺が改造したカイラス!」

男と俺達の間に、白い鳥の魔族が現れた

白い魔族は急降下して攻撃してくる

翔のところを襲ったが、翔が盾でなんとか防いでいた

「魔族の改造なんて普通できない、そう思っているだろ」

改造、そういえばその問題が残っていた

だがこの口調、もしかして、できるのか‥

「だがな、これを見ろ」

男は鞭を取り出した

「ただの鞭じゃない、魔族を改造できる鞭だ」

「さ、かかってきな。今の所2対3だ、お前らのほうが有利だろ」

男は挑発するような物言いをした

「ふん、お前に言われなくてもやってやるよ」

カイラスが急降下してくる、そのところに電撃を浴びせる

そのところを、剣で攻撃しまくった

改造されたからかやたら体力が高かったが、そこまで時間かからずに倒せた 

「あとはお前だけだ、さっさと倒してやる」

さっきの愛香の攻撃がはいったとおり、男自身はそこまで強くなさそうだ

魔族がいない今、止めをさしてやる

「発明家は、たった一つのもので満足しない」

男が意味ありげに言う

発明家というのは改造した魔族を作っている男自身のことを言っているのか?

となると、たった一つで満足しないとは‥

そのとき、はっと言葉の意味に気づいた

そして、後ろを振り向いた

「愛香、危ない!」

愛香に叫ぶ、愛香はこれを聞いてすぐに後ろを見て攻撃を避けた

俺達の後ろには、大量の魔族がいた

「これで約100対3だ、形勢が逆転したな」

男は嬉しげに言った

大量に現れた魔族、男は約100といったが、実際もっと多そうだ

一体一体が改造でそこそこ強くなっているというのに、この数だ

愛香と俺が剣を振り、そこに翔の空気球が加わって倒していく、しかし、このままではこちらの疲労がきつそうだ


「やっぱこういう、一人のボスをパーティー組んで倒す感じ、いいよね。お前らは一人じゃないんだけど」

男はこちらの様子など考えもせずに話す

こちらは魔族を倒すに連れ疲労が溜まっていくのに、あっちは魔族の群れの後ろで壁にもたれかかって傷を癒やしていた

はっきり言って今すぐぶん殴って倒したいが、そんなことをできる暇ではない

「まず、あなたから倒す」

愛香が瞬間移動を使おうとした

瞬間移動、それならこの魔族の群れを無視して直接攻撃できる

しかし、愛香がいくら瞬間移動を使おうとしても、使うことができなかった

「え、なんで、なんで瞬間移動できないの‥」

愛香は涙目だ、瞬間移動は瞬間移動先の様子や状態が分かっていれば使える

この場合、愛香が見ているところに飛ぶのだから使えて当然なのに‥

「君、その力が使えなくて不思議に思っているよね。それはね、SPが切れているからなんだよ」

SP、武器の力を使うのに必要な想像力のことだ

だが、今回より愛香が短時間で何回も瞬間移動したことはある

なぜ、今回だけ‥

「SPって言うのはね、疲労の量が多くなると最大値が減るんだよ、知らなかった?それに、そもそもその力はかなりSP使うみたいだからね、最大値が使用SPを下回っているんだ。ゲームで強い技が序盤は使えないのと同じ原理さ」

この男が言っている内容、嘘のようには見えない

「疲労を回復できたら君達が技を使えるかもね、この状態で回復できたらだけど」


愛香を少し休ませて、瞬間移動であいつを倒すのがいいのだろう

だが、この状態では無理だ

この大量の魔族はとてもじゃないがオレ一人では捌ききれない

翔は動けない二人を守っているから、俺の手伝いはあまりできない

どうしろと‥

とりあえず、剣だけで魔族を倒すことに決めた

魔族の数は流石に無限ではない、有限だ

それなら、時間がかかるが一体一体始末していけばいい

だが、SPを使う技は使えない

SPは温存しておきたい

「愛香、SPを使わずに魔族を倒せるか?」

「ちょっと難しいかもだけど、何とかなるよ」

愛香は俺と違って短剣だ、いつもは瞬間移動で近づいていたがそれが使えないと、魔族は退治しづらいのだろう

だが、退治しないといけない

たった二人だけでも、それ以上は無理なのだから

俺達は魔族を切って切って切りまくった

それと同時に、疲労もたまり、動きも遅くなっていった‥


一方そのころ、翔は盾で凪と繁を守っていた

「俺だって、戦いたい。師匠だけに、戦わせたくない」

そう思っていた、しかし、盾で守るのは俺しかできない

この二人は師匠達と違って一般人だ、しかも師匠の大切な人だ

それを守るのも、師匠のためだ

魔族の攻撃はどんどん過激になっていく

盾で守るだけの翔でも、疲労が溜まっていた

このままじゃ、ダメかもしれない‥

翔の手は汗だくになっていた

翔は、この二人が動けるようになれば、遠くに逃がすことができる

この戦いに巻き込まないですむ

そんなことを考えていた


「君達なかなかしぶといね。なら、これならどうだい?」

男は高らかに笑ってまた魔族を呼び出す

今まで見たことない魔族だった

火山にいたドラゴンのような魔族に似ていたが、それより強者の貫禄を放っている

「さ、爆発させな」

男がそう言うと、魔族は火を吹いた

その火が地面にあたった途端、大爆発した

盾の後ろにいた翔は無事だった

「師匠、愛香、無事ですか!」

大声で叫んだ

あの爆発、盾越しでもかなりの威力を感じた

煙で前は何も見えない、ただただ彼らの無事を祈るだけだ

煙が徐々に晴れる、視界がだんだんと良好になる

自分の近くには魔族の死体、爆発に巻き込まれてしまったのだろうか

自分が改造した魔族を自分で倒す、あの男に情けの感情はないのか‥

このときまでは、そんなことを考えれる心の余裕があった

煙がなくなり、辺りが完全に見えるようになった

ついさっきまで師匠達がいた場所を見て、その周りも見た

「師匠‥」

見える場所に、師匠も愛香もいなかった

「師匠、なんで‥まだ、強さの秘訣、教わってないのに」

悲しみの気持ちが心を覆う、さっきまでは守ることに精を出していたが、その気持ちすら今の心になかった

「師匠‥」

目には自然と涙が流れる、周りの暗さが、その悲しさを際立たせていた

「あとはお前だけか、さっさとくたばれよ」

男は非情にも悲しんでいる翔に戦わせようとする


そして翔は、師匠のことを考えていた

このままやられれば、師匠と同じところに行ける

この世界で悲しむこともなくなる

翔は、正常に物事を考えていられなかった

「突撃しろ」

男が魔族に命令を出す、魔族は特に考えることなく突撃してくる

いつもの翔なら、盾を構えて攻撃を受け止めるだろう、爆発まで受け止めれた盾だ、この程度なら造作もない

だが、そのことをしなかった

ただ、盾も構えず、立っていた

魔族はどんどん近づいてくる、この攻撃、普通に食らったらひとたまりもない

攻撃を喰らうまであと数秒もなかった


ドスッ!

突然、横から突き飛ばされた

よろめいて倒れる、攻撃を紙一重でかわした

突撃してきた魔族は、すぐに誰かによって倒された

「何やってるの!」

よく聞いた声が聞こえる、異少課に入ってから聞いてた彼女の声

「愛香?」

目の前には彼女がいた、いつも優しい彼女

自分が怪我するかもしれないのに、突撃して俺が攻撃を受けるのをやめさせた

「本当に、何でこんなことを‥」

彼女の目にも、涙が溜まっていた

大事な仲間を、心配するときに流す涙が

「だって、師匠が‥」

俺がゆっくりと言う、そのことを聞いた愛香はただ一言

「あなたの師匠、神代先輩は、今あなたが痛むことを悲しんでいるんじゃないんですか」

そう、たった一言で答えた

「え‥」

師匠が、俺のことで悲しんでいる‥

ただ一方的に慕っている、そんな感じの俺を?

混乱している俺に、愛香はさらに言う

「あなたがミスでこっちに来てしまったのに、神代先輩は当たり前のように助けに来たんですよ。それなのに、あなたのことを心配してないと思うんですか!」

涙ながらに言った


「俺、間違っていた」

師匠がこんなにも俺のことを見ていたなんて、ただ勝手に上がり込み、勝手に師匠扱いしている俺

そんな俺でも、師匠は大切にしていたんだ

「絶対にあの男を倒す、絶対に死なない」

そのことを強く決意した

「大丈夫か?」

俺の後ろから声がかかった、いつも聞いていた

俺が一番尊敬している人の声

「えっ、師匠‥!」

目の前には師匠、神代新がいた

さっきまで天国に行ってしまっていたと思っていた師匠、それが今、目の前にいる

「生きてたんですね」

「ああ、繁に助けてもらった」

師匠は隣の繁を指差した、爆発する前までは倒れていたはずの彼女を

「ちなみに私は凪さんに助けてもらいました、彼はどっかに行ってしまったんですけど」

凪・繁、二人のおかげで二人が助かった

心の中で二人に感謝した

「繁、ありがとう」

師匠はお礼の言葉を伝えていた


爆発が起きる少し前、新は魔族と戦っていた、そのときに爆発予告をされた

「爆発、だと‥」

ここで爆発を受けるのはまずい、かなりのダメージを負うことになる

下手したら、ここで死んでしまうかもしれない

その爆発を避けなければならない、しかし、走って逃げてもここは屋上、そうそう遠くまでは逃げられない

「愛香、瞬間移動は使えるか?」

そう聞いた、しかし愛香はただ首を縦に振った

爆発を避ける方法が思いつかない中、ついにドラゴンのような魔族が火を吹いた

もう、無理か‥

そう思ってしまった

そのとき、繁が横から来た

「繁!」

そのような声をかける前に、体を繁に掴まれた

そして、繁が床を勢いよく蹴る、それと同時に、俺達の体は宙に浮いた

高さは数メートル程だろうか、下を見ると、爆発が起こっていた

あと少し遅ければくらっていた、爆発の威力が強かったので、もしかしたら俺が死んでしまっていたかもしれない

繁は元いた場所から離れてグラウンドに着地した

「先輩、大丈夫?」

繁が心配そうに見てくる

「大丈夫だ、お前は?」

中学3年生を掴んで跳んだ、一年生にできることとは思えない、ましては女子に

「私は大丈夫です」

笑った顔で彼女は答えた

「てか、どうやって飛んだんだ?」

中1の女子が中3を掴んで飛んだ、普通じゃできないだろう

繁に質問したが、繁は答えなかった

「まあいいや」

そのことも気になるが、先にあいつを倒さないといけない

翔や愛香が待っているだろう

そして、走って屋上まで登った、繁は危険だから置いていこうとしたが、何度言ってもついてきてしまった

そして今に至る


愛香は俺と同じように、凪に空を飛んで助けてもらったそうだ

一体、彼らは何者なんだろうか

「おい、何をしている、さっさとあいつらを倒せ!」

男は今まで黙ってこちらの様子を見ていたが、ついにしびれが切れたのか襲うよう命令してきた

「私が、あいつを倒す」

繁は怒って言う、だが、繁にこの戦いに関わってほしくない

これは魔族と人間の戦い、一般人が介入するのは危ない

「繁、下がっててくれ、俺達が倒す」

「いや、私も戦います」

こうなってしまうと、どうしようもない

だが、なんとかしないと‥

「ごちゃごちゃうるさい、もう1回爆発しろ」

男はあのドラゴンのような魔族に命令を出し、火を吹いて爆発させるようにした

「皆、こっちに避けて!」

あの爆発はまともに喰らうとだめだ

あれを耐えるには、翔の盾を使うしかない

続々と盾の後ろに集まる、だが、繁だけは盾の前で立ったままだった

「繁、こっちだ!」

何度も繁に呼びかける、しかし、繁には聞こえていないのかこっちに来る気配はなかった

「私達を傷つけたこと後悔させてやる」

繁はいつもとは違う感じだった

「凍れ!」

繁がたった一言叫んだ

その後すぐ、辺りの魔族が氷漬けになった、爆発する火を放った魔族を含め、全ての魔族が凍った

男のところまでは凍っていなかったが、それでも大部分が凍った

「え?」

自分には何が起きているのか分からなかった、目の前で凍るよう唱えただけで、全てが凍ったのだから当然だ

「さ、あとはあの男だけです」

繁が言う、この言い方からして繁が凍らしたので間違いないだろう

正直頭が追いついていなかったが、さっき飛んで助けたことを思い出して無理矢理納得した

何はともあれ、あとはあの男だけだ


「どうした!?」

後ろから凪が来た、少し遠くにいたのだろうか

「繁、またやったのか‥」

「いいじゃん、これは仕方ないんだし」

繁と凪が話していた、またやったのかということは、前にもやったのかと思った

「そうだ新、これ使え」

凪はコップに入った透明な液体を見せた

「疲れが回復する」

「あぁありがとな」

凪の料理には、疲れが回復するなどの特殊な効果を持つものがある

これもその一種なのだろう

何で持ってるかとかそんなのはいい。

その液体を3人共飲んだ、今までの疲れが取れる

あの男を倒す準備ができた


「お前だけだ、魔族はもういないぞ」

男に向けて言い放つ

さっき、繁が謎パワー使って周りの魔族を全て倒した

あの男は離れていたので無事だったのだろうが、今から倒すだけだ

「お前を、倒す」

力強く言い放った

「俺は、お前らなんかに倒されない。さ、返り討ちにしてやるよ」

男が今までとは比べ物にならないほどの強者のオーラを放った

俺は電撃を撃ち、痺れさせ、その間に近づいて倒す

最初と殆ど同じやり方だが、それでも効果はあるだろう

そう、思っていた

「そんなの喰らうと思っているの?」

男はそう言った、男には電撃が何度撃っても当たらなかった

最初は電撃を喰らっていたのに‥

「この宝石の力はやはり凄まじいな」

男は懐から宝石を取り出した

その男は、どことなく感謝しているように見えた

「それ、電撃を吸収でもするもんなのかよ‥」

俺が小さな声で言う、その声を男が聞いたのか

「これは一つの武器の力のダメージを無効化するものだ、お前の攻撃なんて塵も同然だ」と言った

その男が言っていることが本当なら、電撃をいくら撃っても意味がない、それどころか、SPが削られるだけでむしろこっちが不利になる

「なら、翔、お前の技を使えばいい」

翔にあの男に聞こえないよう小さな声で言った、一つの武器 なら、別の武器の技を使えばいい

空気球、それなら奴にダメージを与えられるはずだ

「撃ちますよ!」

「あっ。」

翔が男に空気球を撃つ、男に見事に当たり、男はその場に倒れた

その間に近づく、この男を倒してやる

そのとき、男はあがくように鞭を振り回した

剣が鞭により弾かれ、男を倒すことはできなかった

「俺はこんなところで倒れない」

男はそう言って立ち上がる、近距離でお互いに相手を見る

「鞭なのに、なんで?」

俺は驚いていた、こちらは剣、相手は鞭、どう見てもこちらのほうが強い

なのに、剣が弾かれた

「ネウス様のためだ、アンダス団としてお前を殺してやる」

アンダス団、この言葉に強い衝撃を受けた

アンダス団は大事なアイツを殺した組織だ

絶対に許さない

そのときに理性なんてなかった、ただ許さない、その思いだけだった

「ネウス様だが何か知らんが、お前らは許さない」

怒りに自分を任せた

鞭と剣が何度も当たる

強く握りしめ、何度も止めを刺そうとしているのに、それが弾かれる

それでも、それを繰り返す

そして、ついにその時はやってきた

男が避ける最中に足をひねった、それでスキができた

「倒れろ!」

大声で叫び、男に剣を振り下ろす

その剣は見事に男に当たり、男は床に倒れた

俺らのことを襲おうとしていた男を倒した

「終わった」

笑顔で皆に伝えた、一仕事終え楽になった

皆もその言葉を聞いて安堵した

「お前そんなすごかったんか?」

凪が尋ねた、本当のことは言えないので、はぐらかしておくことにした

誤魔化せてないほど戦ってたけど。


そのとき、愛香が大事なことに気づいた

「ところで、どうやって帰る?」

皆今このことに気づいた、確かにこの男は倒した、しかし、これで元の世界に帰れるというわけではない

皆が悩む、そのときに翔が声をあげた

「これに帰り方書いてませんかね?」

翔の手には手帳が握られていた

「これ、あの男のポケットに入っていたものです」

男が動けないことをいいことにポケットを漁ったのか‥

だが、今は助かった

翔から手帳をもらい、それを見る

手帳にはこのようにかいてあった


任務内容 

中央中学校の赤い階段から異世界に行き、そこで魂の石を8個集め、共鳴させてそこからエネルギーを集めること

しかし、魂の石はSPが低い人が触ると効力を失うので気をつけろ


あの男は任務を受けてこの世界に来ていた、しかし自分では魂の石を触れないから中学生にさせていたということか‥

そこから手帳を読み進め、ついに帰り方が記されているページにたどり着いた


元の世界への帰還方法

屋上へ行く扉の前で「開け塩!」と言えば元の世界に帰れると思われる


開けゴマみたいなノリだが、手帳に記してあることを信じるしかない

俺達は扉の前に行った

「開け塩!」

すると、扉が開いた、階段ではないところにつながっていた

「これで帰れる」

皆でその扉に入った

入ると、いつの間にか移動していた。元の赤い階段の近くに

「帰ってこれた!」

皆嬉しいからか喜んでいた

七不思議を調べに来ただけなのに、こんなことになってしまった

疲れたが、収穫もあった

この手帳だ、これを調べればアンダス団のことももっと分かるかもしれない


「私達は少ししてからここから出る」

繁が言った、そう言って、繁と凪は階段を上がっていった

もちろん、赤い階段を避けて

「俺達は帰ろう」

「はい」

帰ろうと、廊下を玄関に向かって歩き始めた

そのとき、石山さんからメールが来た

“七不思議解明できた?”

俺は“七不思議は解明しました”と返す

すると、“調べたところ、8個目の不思議(トイレの花子さん)があるからそれも調べておけ、終わったら寿司奢るから頑張れ”と返信が帰ってきた

本当にやりたくない、今日はもう終えたい

だが、寿司食べたいので8個目の不思議を調べに行った


石山さんから聞いた8個目の不思議 トイレの花子さん

学校の七不思議では大抵あるやつ

女子トイレじゃなく男子トイレであること

そして、花子さんと呼ぶと奇妙な音がなること

それ以外は普通のトイレの花子さんと殆ど同じだ


とりあえずトイレの花子さんが出るトイレに向かう

愛香は流石に連れてこれなかったので、翔と二人でトイレの前に立つ

そして、トイレの花子さんを順番通りにした

そして、3番めの個室の前にて、「花子さん、遊びましょ」と言った

すると、中から声が聞こえてきた

「えっ!」

この時間にトイレから声が聞こえてきたのだ、驚いても仕方がない

翔はワクワクしていたが

「紙、くれ‥」

「は?」

紙?

とりあえず持っていたティッシュペーパーを上から投げた

数分後、個室から人が出てきた

しかし、それは花子さんとは違うであろう、中学生の男だった

「誰?」

その人に尋ねた

「俺は佐貫基、剣道部部長さ」

答えた、そしてこれで気づいた

この人が、石山さんのオタク仲間の中学生だ

石山さんから名前を聞いていた

しかし、念の為質問する

「今日大人とライトノベル一緒に読む約束していた?」

「そうだが、それが何か?」

完全にこの人だ

紙がない、という理由で来れなかったのか

そんな理由で七不思議調べるはめになったことに納得できない

その後、トイレの花子さんについて調べたが、ただ用務員がここのトイレの紙の補充を毎回忘れるから入った人が紙がなくて悲鳴をあげているのだとわかった

調べ終わったので、そのことを石山さんに伝えた

石山さんは彼の無事を聞いて安心したようだ、他の人にはただのオタク仲間でも、当人には大事な仲間だったのだろう

仕事を終え、家へ帰っていった


一方、繁と凪はある教室を片付けていた

「本当にいいのか? ここまで用意したのに」

「いいの、サプライズでしたかったのに、先輩にバレちゃったから」

何やら話をしていた

「今回は繁の告白成功できると思ったんだけどな。ここに新がいるなんてな‥」

そう、繁は新のことを好きなのだ

彼女は明日ここで告白する予定だった、そのため教室を飾り付けていた

そして、凪はその手伝いをしていたのだ

その途中、下からガーランドを運んでいる最中、あの異世界に飛ばされてしまったのだった

「てか、新達。あっちの武器持っていたよな?」

「それ、私も気づいていた」

彼らは新達の武器がこの世界のものではないことを知っていた、何故か

「それより、秘密、いつあいつに話すんただ?」

彼らには秘密があった、帽子のこと、凍らしたこと、空跳んだこと‥

「いつか話すよ、付き合うなら、話さないといけないから」

「応援しているぞ俺は」

その数分後、彼らは学校を出て家に帰っていった。

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