第15話「ダンジョンボス前編」

地下三階層に降りた。

そこは墓場だった。輝く満月のおかげで、よく見えた。

目の前に木製の柵が並んでいる。柵の中央辺りに入り口らしきものが見えた。その横には小さな小屋が建っていた。


「なぜ、 墓場なんだ?」

「特殊タイプのダンジョンには、こういうフィールドもあります」

「それは、分かったけど、やっぱり出るのはアンデッドか?」

「はい、主にアンデッドがでます」

『あまり嬉しくない報告だ』

と俺は思った。


墓場の奥に大きな洋館が建っていた。洋館の前には大きな木が、玄関を挟んで三本ずつ並んでいた。木の頂きは二階の窓に届いている。洋館の上に出ている満月が、屋根を照らしていた。


「旦那様、ここで終わりのようです。探知魔法で調べても、下りの階段を発見できません」

「わかった! 遂にダンジョンボスと対決か」

ダンジョンボスの事は聞いていた。ダンジョンボスは倒してもいいが、ダンジョンコアは破壊しないように注意を受けていた。


柵の中央部分に向かう。近づくと柵の出入口に鉄の鎖が見える。鎖には時代がかった南京錠が掛けられていた。


アフロディーテが小屋の中に入り、鍵を持って出てきた。その鍵で出入り口の鎖に掛けられた南京錠を開ける。


「柵は木製みたいだから、壊して入ればいいんじゃないか?」

「柵は見せかけです。特殊な結界が掛けられているので、壊す事はできません」

「それで鍵がいるのか」

「鍵は結界を解除するアイテムになっています」

「なるほど」


鍵で鎖を外し、柵を動かして墓場に入った。

出てきたのは、予想通りにスケルトンとゾンビ。でも、それは予想もしていない数だった。

ざっと数えても50体を超えていた。


「ホーリーライト」

アフロディーテが右手を上げると、頭上に強い光を放つ白い球が現れた。

「聖なる光を放つ球です」

と説明してくれた。


聖なる光を浴びたアンデッドたちは、体が消えていく。白い煙の塊になって空に上っていった。

数十体もいたアンデッドが全て消え失せた。

「凄い威力だな」と感心していると、アフロディーテが裏技を教えてくれた。

「聖水を振りまきながら駆け抜ける、という方法もあります」


墓場の真ん中にある道を通って洋館にたどり着く。

玄関には鍵がかかっていた。

「アンロック」

「ガチャリ」と音がした。

アフロディーテが玄関の扉を開ける。


洋館の中に入ったが、暗くてよく見えない。

「トーチ」

さっきと同じような白い球が俺たちの前方に浮かんでいる。

光量は、さっきの球より少ないが、持続性はこちらの方が上らしい。

『そう言えば、ホーリーライトはすぐに消えたな』

アンデッドが消えると光球もすぐに消えたのを思い出す。


そこは広いロビーだった。正面に幅広い階段が見える。その階段は途中の踊り場で左右に別れていた。 ロビーは吹き抜けになっているので、二階の左右にある廊下が下から見えた。


とつぜん、白い蝙蝠が階段の踊り場に現れた。

アフロディーテが手を斜めに出して、自分の背中に俺を導く。こんな事は今まで無かったので、俺は緊張した。


「おやおや! 招かざる客が来たようじゃ。エリザベスの館に、何しに来た」

いつの間にか白いドレスを着た女性が踊り場に立っていた。長い白髪を腰まで垂らした女性は、赤い目をしていた。ドレスの横のスリットは深く、腰の辺りまで切れ込んでいる。腰から太腿、そして足の先までが見えていた。


「お前たちも、さっきの奴らのように、館を荒らしに来た盗人かえ?」

女性特有の少し高い声で話しかけてきた。見た目は若いのに話し方がババ臭い。

「旦那様、あれはヴァンパイアです。ランクはBです」


「ヴァンパイアって吸血鬼のことだよな」

「そうです。満月の光を浴びると魔力が増幅すると言われています」

「アフロディーテ、大丈夫だよな?」

「旦那様、お任せください。吸血鬼ごときに引けは取りません」


「ほう! なかなか大きな口をたたく女じゃな。しかし、妾は女の血を好まん。そっちの男をいただこう」

「ヴァンパイア風情がほざくな!」

アフロディーテが珍しく怒鳴った。

「何と生意気な女じゃ。お前から先に奴隷にしてやろう」


吸血鬼の目が赤く光った。それと同時に、アフロディーテの前方に銀色の円盤が現れた。

「ほう! 妾のチャームを弾くか。なかなか、やりおる」


「サモン、ワーウルフ」

吸血鬼が唱えると、階段の下にある床に魔方陣が現れた。


青白く光っている 魔方陣の中に、狼の頭を持つ人型の生き物が出現する。服を着ていないので、体中に毛が生えているのが分かった。

「ワーウルフ、獣人変化をする狼男です。ランクはC」


「グアオ!」

狼男が一声、雄叫びを上げて走り出した。俺たちの方へ凄い速さで迫ってきた。

いきなり、狼男の両腕が肩の部分から後方に飛んだ。

「グワァ!」と叫び、前のめりに倒れる。


両腕を肩から失った狼男が床の上で転げ回っている。

その状況に俺は違和感を持った。

『あれだけの傷なのに出血してない』

俺はアフロディーテに尋ねた。

「あいつ、血が出てないんじゃないか?」

「そうです。狼男は再生力が非常に高いので出血がすぐ止まるのです」

「じゃあ、なぜ転げ回っている?」

「油断して近寄るのを待っているのです」

「間抜けなヤツ」


「ウォン」

立ち上がった狼男が、力を込めて一声吠えた。すると、狼男の両腕が再生した。

「ニョキ!」という感じで、一瞬で生えたのだ。


「なんだ、ありゃ?」

俺はひどく驚いたが、アフロディーテは平然としている。

『きっと大丈夫だ』そう思わせる安心感があった。


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