第11話「ドニプロダンジョン」

ドニプロダンジョン探索の日が来た。俺たちはダットン隊長と一緒にドニプロダンジョンに向かった。

ダンジョンの入り口の前で、初めて相手の7級冒険者と会う。四人組のパーティーだったが、自己紹介は無かった。


「『王家の試練』の担当官を努めるジラルだ。詳細は事前の説明通り。お前たちの役目は、探索してアイテムを持ち帰る事だ」

ジラルは、冒険者一人一人を確認して元の位置に戻った。

「時間制限は無い。行ける所まで行っていいが、生きて戻って来い。全滅したら失格だぞ。では、開始!」


相手のパーティーは一斉に飛び出したが、俺たちは歩いて行く。時間制限が無くて、行ける所まで行くのなら体力配分は重要だ。

「あいつらが急いでいたのは、先に行って罠を仕掛けるためかも知れない。アフロディーテ、注意して行くぞ」

「わかりました。充分注意して進みます」


未踏破のダンジョンと言っても、ある程度の調査はしているらしい。ただ、事前に情報を与えない決まりになっているという。


  ダンジョンの入り口の階段を下りて地下一階に立つ。そこで、アフロディーテがダンジョンについて説明してくれた。

 ダンジョンには色んなタイプがあるという。普通のタイプのダンジョンは迷路タイプで、階層が広いので魔物が多く出る。ただし、単体で出現することが多いから新人冒険者が稼ぎやすい。


 それとは別に遺跡タイプがあり、こちらは階層が狭くて、ダンジョンごとに出てくる魔物が違うという特徴がある。

 もう一つある特殊タイプのダンジョンは階層ごとにフィールドが違うらしい。そうこのダンジョンの様に。俺たちの前にある一階層の景色は、まるで熱帯雨林のように鬱蒼と樹木が生い茂っている。

 

 この特殊タイプのダンジョンは罠が多い代わりに、宝箱の発見率が異常に高いのだという。ただし、天候がフィールドの影響を受けて変化するそうだ。

 とつぜん、襲ってきたスコールのせいで視界が悪い。1メートル先がよく見えない状況だった。アフロディーテが俺たちの頭の上に、氷の傘を作って雨を防いでくれた。

 だけど、俺たちの足に絡む背の高い草が、たっぷりと含んだ雨水で足を濡らす。俺の革のズボンが水を吸い込んで重くなる。アフロディーテの膝まである革のブーツも同じだと思う。


 特殊タイプのダンジョンに出る魔物は、通常タイプのダンジョンとは違うらしい。通常タイプのダンジョンは下に行くほど魔物のランクとレベルが上がるが、特殊タイプのダンジョンに出現する魔物は、階層ごとに別れておらずランクもレベルもバラバラだという。

 大木の上から蛇の魔物が降ってきたが、氷の傘に当たって滑り落ちた。すかさず、アフロディーテが胴体を切断した。すると、ポンという感じで宝箱が出現した。アフロディーテが宝箱を調べてから開けた。

「旦那様、ポーションが一本だけ入っていました」

 アフロディーテが鑑定する。

「解毒ポーションでした。収納しておきます」

 俺は了解と返した。

 

 降りしきる豪雨の中を進んでいく。アフロディーテが探知魔法を使っているから魔物の急襲は心配ない。

「旦那様、宝箱を発見しました」

 アフロディーテが大木の根元にある木の虚に手を入れて宝箱を取り出した。

「特殊タイプのダンジョンは、こうしてフィールドに宝箱が隠してあります」

「ほう、面白いな。さっそく開けてくれ」

「旦那様、黒い石でした。収納します」

「わかった」

 ダンジョンに入る前に、入手したアイテムは全て持ち帰るように言われていた。


 道無き道をアフロディーテの後ろに付いて歩く。雨が鬱陶しい、と思ったら嘘のように止んだ。ダンジョンの中なのに太陽の陽射しが俺たちに降り注ぐ。


「雨よりはよっぽどいいな」と俺が言うのとほぼ同時に、草を掻き分けて前方から何かが来た。アフロディーテが俺たちの前に氷の壁を作った。ビタンという音をたてて魔物が氷の壁に張り付いた。緑色の蛇だった。たちまち氷に閉じ込められた後に砕かれた。

 また、宝箱が出現した。どうやら、この特殊タイプのダンジョンに出る魔物は倒す度に宝箱を出すようだ。また、解毒ポーションだった。


 しばらく進むと沼が見えた。近づくと湿地帯のようになっていたので迂回することにした。水たまりから、いきなり攻撃された。水面に顔を隠して長い舌で刺突攻撃をしてくる。

しかし、攻撃を躱したアフロディーテに、氷の槍で串刺しにされ宝箱に変わった。

「青い石です」

「わかった。先に進もう」


 湿地帯を迂回して森の中に入る。今度は大きな蜘蛛の魔物が出た。ファイヤーボールでヒダルマになって消えた。スコールで水浸しの森に影響は無い。宝箱は予想通り『蜘蛛の糸』だった。森の中には昆虫系の魔物が多い。巨大な百足が出た時には、思わず声が出そうになった。


 しばらく行くと、羽音が聞こえてきた。人の子供サイズの蜂が五匹飛んでいる。俺たちに気づくと尻の針を突き出して攻撃してきた。針は俺の指よりも太い。あんなのに刺されたら、痛いじゃ済まない。五匹の巨大蜂は吹雪に囲まれて凍りついた。宝箱は五つ出た。

 

「一つくらい良いものが出るかと思ったけど」俺の期待を裏切り小壺に入った蜂蜜が五個出た。石じゃないだけマシだ、と思った。それよりも、足元が濡れて気持ち悪いので早く下に降りたい。

「アフロディーテ、下の階段は見つかったのか?」

「もう少し先にあります」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る