第10話「妨害」
第一王子の依頼を受けた俺たちは、互いの連絡先を教えあった。俺たちは宿の名前を伝え、ダットン隊長は近衛軍の兵舎の場所を教えてくれた。所属は近衛軍らしい。
その翌朝。
俺たちは冒険者ギルドに魔石を売りに行った。魔石買取カウンターで受付嬢に買取を申し込む。解体を伴う買取カウンターと違って、こちらは総合カウンターの一番端にある魔石専用の窓口だ。
「魔石の買取を頼みたい、折半で」と言って、アフロディーテが二人の冒険者カードを提出する。
買取依頼書に魔物名と個数を記入して受付嬢に出した。受付嬢は書類を確認して目を見開いた。そして、大きな箱を乗せた台車を押してカウンターから出てきた。
「こちらに入れてください」
アフロディーテが何も無い空間から箱の中に魔石を落とす。一番大きい魔石はケルベロスのものだ。受付嬢は台車を押してカウンターの中に戻り、数人がかりで箱の中身を確認している。
「久しぶりにみたよ」と男性職員がケルベロスの魔石を持ち上げた。
受付嬢が買取明細書を俺たちの前に出す。アフロディーテと一緒に確認する。
『ケルベロスの魔石は金貨10枚か』
『日本なら100万円です』
買取明細書の合計額は金貨142枚だった。
『日本円で千四百二十万円か。凄いな!』
ドニプロダンジョン探索用の準備をする。依頼を達成したら金貨百枚、日本円で一千万円が入る。更に、入手したアイテムから二個を無条件で貰える。競争相手がいるので負ける訳にはいかない。武器屋で俺のクロスボウのボルトを買ったあと、ダンジョン用の食料を買いに市場に行く。
「旦那様。尾行されています」
とつぜん、アフロディーテが言う。
「どんな感じだ?」
「数は三人、全員が男性で小型の刃物を所持」
「狙われる覚えは無いんだが?」
「とりあえず、人混み紛れて逃げよう」
「旦那様、前を塞がれました。同じく三人です」
六人に前後を挟まれたと聞いて、俺は少しだけ不安になった。
「アフロディーテ、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。殺気が漏れている時点でチンピラ確定です」
「周りの人に迷惑をかけてはいけない。人のいない場所に誘い込むぞ」
「わかりました」
アフロディーテの先導で横の路地に入った。しかし、それは敵の誘導だった。俺たちは逆に誘い込まれたのだ。路地の出口を男たちが塞いだ。後ろを振り返ると入り口も塞がれていた。
アフロディーテは、俺を土壁で囲んだ。まるで土の箱の中にいるみたいだった。暫くして土壁が消えた。路地を塞いでいた男たちは全員倒れていた。アフロディーテが収納からロープを出して全員を縛る。
ちょうど、巡回中の衛士が路地を横切ったのが見えたので、襲撃者を託そうと思った。
「アフロディーテ、衛士を見つけたから知らせてくる」
アフロディーテが何か言ったが、よく聞こえなかったので俺は衛士を追いかけた。
『一瞬、衛士と目が合ったような気がしたんだが、気のせいかな?』とだけ思った。
衛士に追いつき、俺は声をかけた。
「すみません、向こうの路地で悪い奴を捕まえたので来てもらえませんか?」
衛士が俺の方を向いて、ニヤリと笑った。
「うぐ!」
いきなり後ろから口を塞がれた。
「この盗人め! 漸く捕まえたぞ。連行しろ」
そのあと、何かの臭いを嗅がされて、俺は意識を手放した。
目が覚めたら、見知らぬ天井だった。ベッドは無い。
手足を縛られ、床に転がされていた。おまけに、口も布で塞がれている。
そのまま時間が流れた。
『腹が減ったなあ。アフロディーテは無事だろうか?』
何もできない状態で、ぼんやりと考えていたら、いつの間にか寝ていた。
とつぜん、部屋の外から凄い音がした。何度も響く音と、その度に起こる衝撃に壁が震える。音が止んで少し経った後だった。壁がピキピキと音をたてて凍り、一瞬で粉々に崩れ落ちた。
「旦那様、ご無事ですか!?」
アフロディーテが部屋に飛び込んできた。
アフロディーテは俺を見つけると、すぐさま拘束を解いて抱きついた。そして、何度も謝った。
「アフロディーテ、俺はもう大丈夫だ。それより謝るのは俺の方だ。一人で飛び出して、済まなかった」
俺が軽率にもアフロディーテから離れた結果が、今回の事を招いたのはわかっている。
「もう、二度とお前の側を離れない」
俺はアフロディーテを強く抱いた。アフロディーテも抱き返す。
「ウオッホン!」
わざとらしい咳払いが、俺たちの邪魔をした。
「お邪魔したくは無いが、詳しい事情を聞きたい」
見ればダットン隊長が立っていた。
俺は仕方なしにアフロディーテから離れて、壁から外に出た。
そこは倉庫が立ち並ぶ場所だった。広い道には巨大な氷柱が何本も突き刺さり、大きな穴がいくつも空いていた。所々が黒焦げになっていた。
俺たちは近衛軍の兵舎で事情聴取を受けた。
市場で尾行された事、偽の衛士に拐われた事、気がついたらあの部屋にいたと話した。
それから、アフロディーテの説明を聞いた。
戻って来ない俺を探していたら、子供に手紙を渡された。明日の朝に指定の場所に来いと書いてあった。ダットン隊長に連絡して指定の場所に行ったところ大勢の男たちに囲まれた。
「四十人は、いたぞ。それが、あっという間だったから驚いたぞ」とダットン隊長が口を挟んだ。
男たちを全員倒したあと、俺を救出したという訳だ。
大体の事情は分かった、だが、分からない事もある。
「俺たちを襲ったのは何のためですか?」
「襲ったのは、たぶん第二王子の関係者だろう。理由はドニプロダンジョンだ」
「俺たちを捕まえて、ダンジョン探索を阻止するためですか?」
「いや、お前を人質に取ってダンジョン探索をさせないつもりだったようだ」
ところが、アフロディーテが話し合いの前に、問答無用で攻撃して全員を倒してしまった。
「お前たちの事は『王家の試練』を担当する管理官に届けてある。どこからか情報が漏れたのかもしれん」
俺たちは、ドニプロダンジョン探索が終わるまで近衛軍の兵舎に泊まることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます