第9話「依頼」
俺には何も聞こえなかったが、アフロディーテは立ち上がって森の方を指差した。
「あちらです」と言って、俺を見る。
もし、人が襲われていたら大変だ、と思った俺は言った。
「アフロディーテ、行くぞ」
俺はアフロディーテにお姫様抱っこをされて、小さな森に突入した。街道に出る手前で降ろしてもらい、二人で街道の様子を見る。
黒塗りの大きな馬車が大勢の人間に囲まれていた。武器を手にしているので、どうみても襲っているようにしか見えない。
護衛らしき人が馬車の周りで剣を構えているが、襲撃者の方がずっと多い。
「おい! 助けがいるか?」
俺の声に、 護衛の一人が気づいた。
「おお! 是非とも頼む」
「アフロディーテ!」
俺が名前を呼ぶと、アフロディーテが魔法名を口にした。
「アイスウォール」
次の瞬間、馬車と護衛を囲むように氷の壁が現れた。
分厚い氷の壁だ。襲撃者から守ってくれるだろう。アフロディーテは続けて魔法を使う。襲撃者たちの下半身が氷で覆われた。
「武器を捨てろ」
俺はクロスボウを構えたが、襲撃者たちは何の反応も見せない。俺はクロスボウを放った。一番近くにいた襲撃者の氷にボルトが刺さる。それを見た襲撃者たちは慌てて武器を手放した。
アフロディーテが氷壁を解除し、護衛が氷漬けの襲撃者をロープで縛っていく。
馬車の中から一人の男が降りてきた。
「助成、有り難く思う。名前を聞こう」
やや横柄な態度が鼻につくが、ここは大人の対応をした。
「ユウゴです。こちらが私の妻でアフロディーテです」
「ユウゴ殿か、此度の助成に改めて感謝を表明する。私はこの国、キャメロン王国の第一王子である」
「王子様でしたか。ご無事のようで何よりです」
「アフロディーテ殿……」
と名前を呼んだあと、エタンは言葉に詰まった。そして、内心で呟いた。
『美しい』
護衛隊長が報告する。
「王子、全員を捕らえました。あっ! 君たち、さっきは助かった。俺は護衛隊の隊長を務めるダットンだ」
「ん? うん、分かった。それでは、城に帰るぞ。ユウゴ殿も一緒に来てくれ。もちろん、アフロディーテ殿も」
俺とアフロディーテは王子の馬車に同乗した。室内は馬車と思えないくらいに広くて綺麗だった。馬車に乗る前に、俺達から王子に話しかけることは許されないと釘をさされていた。俺たちは王子の対面に座ったが、城に着くまでひたすら王子の質問に相槌を打った。ただ、ときおり王子の視線が、アフロディーテの胸元にいくのが気になった。
馬車は南門を通り抜け、城へと直行する。襲撃者たちは近衛兵に引き渡され、俺たちは第一王子の私室へと案内された。
「さあ、楽にしてくれたまえ。すぐにお茶の用意をさせる」
王子は俺たちの前に座り、横には護衛隊のダットン隊長が座る。他にも護衛四名がドアの近くに立っていた。
俺たちは豪華なソファーに並んで座った。お茶を飲んだら帰るつもりだった。
「ところで、君たちは冒険者なんだろう。魔物を狩ったりするのかい?」
「はい、二人とも7級冒険者です。もちろん、魔物は狩りますよ。昨日もダンジョンでオークとミノタウロスなどを狩りました」
「ほう、ミノタウロスを狩ったのか」
ダットン隊長の言葉を聞き、王子が隊長に尋ねる。
「そのミノタウロスという魔物は強いのか?」
「少なくとも7級の冒険者では狩れません」
「だが、二人は7級と確かに言ったぞ」
「ですから、実力はそれ以上と言うことでしょう」
「なら、あの件を任せてみたらどうだろう?」
「あの件? ドニプロダンジョンのことですか?」
「ああ、そうだ」
「それじゃあ、私から彼らに説明しましょう」
ドニプロダンジョンは、キャメロン王家が所有するダンジョンの一つで未踏破である。ダンジョン探索で未発見の貴重なアイテムを入手してほしい。報酬は金貨100枚、それとダンジョンで発見したアイテムの内、一人一個を無条件で与える。
『アフロディーテ、どうする?』
『王家所有のダンジョンなので、王家の許可がないと二度と入る事はできないでしょう。これは、いい機会です。是非とも受けてください』
『だが、一つだけ疑問がある。なぜ、7級の俺たちに依頼するんだ?』
「ダットン隊長。一つ、お伺いしても宜しいですか?」
「うん、なんだ?」
「なぜ、俺たち何ですか?」
「それは、王家の取り決めがあるからだ。実は、この話はもう一つの意味を持っている」
「弟の第二王子との王位継承が絡んでいるのだ」
「王子、そこまで話しても良いのですか?」
「そうしないと、彼らの理解を得られないだろう?」
「話が長いので簡潔に言う」
キャメロン王国を興した初代国王は元冒険者だった。彼は実力が無くて苦労していたが、ダンジョンで偶然入手したアイテムのおかげで強くなった。更に、強力なアイテムを入手して冒険者として大成した。やがて、貴族になった彼は戦争で功績を上げて第一王女と結婚した。そして、公爵となりキャメロン公国を興した。
その時の事を大事に思っていた初代国王は、王位継承権を持つ者に7級冒険者を指名させてダンジョンでアイテムを入手させることにした。そして、優秀なアイテムを持ってきた者に王位継承権の第一位を与える事にしたのだ。
「理解したかね?」
「はい、わかりました。相手がいる、ということですね」
「そうだ。第二王子が雇った7級冒険者が相手だ」
「パーティーでの参加が認められている。相手はたぶん限度一杯の五人で来ると思われる」
「俺たちは二人だけでいいです。あと、そのダンジョンが選ばれたのは何か理由があるのですか?」」
「そうか。君たちが良いのなら構わない。理由は無い。たまたま選ばれただけだ」
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