第7話「ダンジョン踏破」
ダンジョンの入り口からすぐの所に小部屋がある。階段の横にある小部屋の転移陣を使って十階層まで一気に飛んだ。転移陣の側にある階段を下りて十一階層に立つ。今日の目標はオークの肉だ。
『いっぱい狩って、早く家を建てるぞ』
今回、俺が気合を入れているのには訳がある。武器屋で買ったクロスボウとボルトを試せるからだ。練習場でいくら訓練しても、実践には敵わない。動かない的では命中率が上がったが、動く的は試していない。ボルトの装着速度などの問題もある。
昨日はアフロディーテの後を付いて歩くだけだった。戦闘ではアフロディーテが魔法攻撃で片付けてくれる。接近を許すと俺の危険度が上がるから、魔物が近寄れないように遠距離攻撃で始末していた。
アフロディーテの探知魔法で魔物の位置を知る。先に魔物を発見できれば先制攻撃が可能になる。そうなれば、俺のクロスボウも生きてくる。
「旦那様、オーク三体の群れです。前方50メートルの所にいます」
了解と言って、俺はクロスボウにボルトを装着した。ボルトは鉄製で通常の矢の半分以下だ。ちゃんと矢羽があるので命中率は高い。
「あと30メートルです」の声でクロスボウを構える。
このダンジョンの壁は明るい。トーチなどの照明魔法がいらないから、こちらの位置を知られる事が無い。
5メートルの幅があるダンジョンを、三体のオークが横並びで歩いてきた。
『右のオークを攻撃するから、旦那様は左をお願いします』と念話がきた。
アフロディーテの方を見る。頷いたのを確認してクロスボウを発射した。鉄製のボルトの重みが加わっているので貫通力が高い。オークの分厚い胸を貫いた。俺はすぐさま次のボルトを装填した。
叫び声を残して左のオークが倒れる。その時、右のオークの首は、胴体と泣き別れていた。
中央のオークは動けない。アフロディーテが足元を氷漬けにしていた。
「旦那様、トドメを」
俺のためにオークを動けなくしてくれた、アフロディーテの優しさが嬉しい。
オークの頭にボルトが刺さり立つ。頭蓋骨が硬いせいかボルトは貫通しなかった。
頭に刺さったボルトが抜けないからアフロディーテに抜いてもらう。
『頭の攻撃は無しだな』と思った。
オーク三体の魔石をアフロディーテが回収したので先に進む。ダンジョンの中の魔物は死んだ瞬間に魔石を残して黒い煙になる。
アフロディーテがオークの下半身を氷漬けにして、俺がクロスボウで仕留めるという必勝パターンが完成した。
十五階層の『ハイオーク』のボス部屋に着く頃には、二十体のオークを仕留めた。
ボス部屋に入ると、ハイオークが二体のオークを従えていた。
ハイオークが持つ巨大な棍棒は、オークが持っている棍棒の五倍くらいはあった。
アフロディーテが冷凍魔法を使う。下半身を氷漬けにされたオークたちが、抜け出そうともがくが、氷はびくともしない。
俺が両脇のオークにボルトを射ち込んでいたら、ハイオークが棍棒で足下の氷を砕いた。必勝パターンが崩れた瞬間だった。
驚いて動きを止めた俺とは違い、アフロディーテは即座に魔法で仕留めた。
「魔物を舐めていた」と俺は反省した。
アフロディーテなら魔物を簡単に倒せる。わざわざ氷漬けにしたのは俺のためだ。
『この先はもっと強力な魔物も出てくるだろう。アフロディーテに、もっと自由な戦闘をさせなければ遅れを取るかも知れない』と考えた。
「アフロディーテ、強い敵はお前に任せる。今後は好きに倒していい。範囲魔法も自由に使ってくれ」
「わかりました、旦那様」
俺たちがボス部屋を出るまではリポップが無い。ここで昼食を摂ることにした。
アフロディーテがオークの高級肉を焼いている。俺はその間にテーブルなどをセットした。食器を並べ飲み物を用意する。
塩味だけなのに絶品なのは高級肉だからか、口の中で蕩ける肉に驚きながら食事を終えた。
まだ時間があるので先に進むことにした。十六階層からはBランクのミノタウロスが出る。オークがDランクだからかなり強いはずだ。
『それでも、アフロディーテの相手では無いのか』
腰から下を氷漬けにされたミノタウロスが叫びながらもがいている。その氷の厚さはハイオークの時の比では無かった。
俺はミノタウロスの胸にボルトを射ち込む。生命力が強いミノタウロスは三発射ち込まないと消えなかった。
十八階層のナーガは冷凍魔法と相性が悪かったようで、アフロディーテの範囲魔法『ブリザード』で動けなくなった。後は、クロスボウの的だった。
十九階層はサイクロプスだ。身長が5メートルくらいある、大きな一つ目をした巨人だった。雄のオークの体くらいはある棍棒を両手で振り回して襲いかかってきた。
アフロディーテは分厚い氷の壁を一瞬で作った。サイクロプスは勢い余って氷壁に激突し、ひっくり返った。
仰向けになったサイクロプスの体に、アフロディーテが作った多数の氷槍が降る。
アフロディーテが魔法を消すと血塗れになったサイクロプスが絶命していた。
最下層にきた。ボス部屋にいたのはケルベロスだ。三つの頭を持つ巨大な犬で、体高5メートル、体長は10メートルもあった。厄介なのは三つの口から出る魔法だ。アフロディーテが冷凍魔法を使うと右の口から火魔法を吐き、火魔法を使うと左の口から水魔法を吐いた。そして、中央の頭が俺に視線を向けた。
戦闘中のアフロディーテの隙きをついて、ケルベロスの中央の頭が俺に向かって瘴気を吐く。瘴気を浴びて倒れた俺にアフロディーテが気づく。すると、戦闘中にも関わらず俺に駆け寄り、しゃがみ込んだ。その時、ケルベロスの前足がアフロディーテを襲った。爪の攻撃を受けてアフロディーテの背中から血が飛び散る。アフロディーテは風の障壁を張ると、自分のことより俺の治療を優先した。手当が早かったので命は助かったが、立ち上がれない状態だった。
アフロディーテは首だけで振り返りケルベロスを睨みつけた。立ち上がってケルベロスの方に体を向ける。その背中に酷い傷が見えた。そして、怒気を含んだ声で叫んだ。
「お前だけは、絶対に許さない!」
風の障壁が巨大な竜巻に変わり、ケルベロスの体を取り囲んだ。アフロディーテの長い髪が風に巻かれて逆立つ。アフロディーテが手を差し出すと、渦の中に無数のウィンドカッターが現れた。飛び交うウィンドカッターにより、まるでミキサーの中の肉塊の様にケルベロスは引き裂かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます