第5話「初めての宿泊」

受付嬢は小さな紙を出しながら言った。

「買取受付のマロンです。解体依頼は初めてですか?」

「アフロディーテです。はい、ここの利用は初めてです」

アフロディーテが返事をすると、受付嬢が説明してくれた。



「この伝票を持って、そこにある扉の中に入ってください。そして、中にいる係の者に伝票を渡してください」

言われた通りに中に入る。

カウンターの上の案内板には『解体場』と書いてあるらしい。


「おう、そこに出してくれ」

大柄な男が言った広い場所に五体のオークを出した。

「ほう、お嬢さんは魔法収納持ちか。その若さで大したもんだ」


十人の職員が一斉に解体を始めた。三十分もかからずに、オーク五体は解体された。魔物の解体を見るのは初めてだったので興味深かった。

「ほら、これがオークの魔石だ。肉はどうする?」

 アフロディーテが同時通訳してくれた。


『オークの肉って旨いのか?』

『普通のお肉よりも美味しいと言われています』

『じゃあ、貰おうかな』

「10キロは持ち帰りで、後は買い取りしてください」


オークの肉を収納した後、魔石五個と伝票を持って買い取り受付に戻った。

「魔石と伝票をお預かりします。精算するまで少々お待ちください」

俺たちは隣接する酒場でフレッシュジュースを飲みながら待った。ジュースはオレンジに似た味がした。


暫くして、買取カウンターからアフロディーテの名前が呼ばれる。

「Cランクのオークの魔石が五個で金貨10枚、五体の肉の買い取り価格が金貨25枚です」

税金と冒険者ギルドの手数料、それに解体料金を引いた残りの金貨31枚と高級部位のオーク肉10キロを受け取った。

今回のオークは五頭とも若い雄だったらしい。肉質も肉の量も雌に比べると落ちるので、価格は雌の半値以下だと言う。


『金貨31枚は日本円換算で310万円くらいです』とアフロディーテが教えてくれた。

ギルドを出て市場に向かう。服屋で下着と普段着を買った。買い物は全てアフロディーテに任せる。俺が女性用の下着を買えるはずもない。


 日が暮れたので宿を取る。 綺麗な外観をした大きな宿に入った。

「部屋はご一緒で宜しいですか?」

「はい。それでお願いします」

 宿の手続きは全てアフロディーテがしてくれた。俺は言葉が分からない。


高級な宿だったようで二人で金貨四枚を支払った。

宿で夕食を終えて部屋に向かう。

そこで、初めて部屋が一つだと知った。


部屋の前に立ち、上ずる声で聞く。

「アッ、アフロディーテ」

「はい。何でしょう。旦那様」


「部屋は、一つなのか?」

「そうですよ、旦那様。この世界に慣れるまでは経費削減です」

「経費削減! そうだね。大事だよね、経費削減は」


『でも、宿代は金貨四枚を前払いしたよね?』

とは、言えなかった。


「こんな所で立ち止まっていると他の人の迷惑です。入りますよ」

アフロディーテに腕を捕まれて部屋に引っ張り込まれた。






部屋に入ってすぐに、料金が高い理由を知った。お風呂付きだったのだ。 お風呂の存在を、俺は素直に喜んだ。

 この世界の道路は舗装されていないので土埃が凄い。風が吹くたびに土埃が舞うのだ。

それに、疲れていたからお風呂は有難い。


「旦那様、先にお風呂を使ってください」

アフロディーテの言葉に甘えて、先にお風呂に入った。



 お風呂から出て部屋を見回す。 ベッドが二つあったので安堵した。

  それも束の間、アフロディーテが片方のベッドを軽々と持ち上げた。 そして、もう一つベッドの横にくっ付ける。


「アフロディーテ、何を?」

「離れて寝るのは寂しいです、旦那様」

俺の腕に、豊満な二つの胸を押し付けて上目遣いで言うアフロディーテに、抗うことなどできるはずもない。

『柔らかい』と思うのが精一杯だった。


 アフロディーテはお風呂から出るとすぐにベッドに入ってきた。当然のように俺の隣に寄り添う。 二つ並んだベッドが意味をなしていない。

アフロディーテの寝顔と匂いに心臓が落ち着かない。体温が異常に高いのはお風呂上がりのせいだけじゃないだろう。


 アフロディーテが寝返りを打って横向きになった。俺の右腕に寝息が当たる。 寝巻き代わりの薄い生地の服は胸が大きく開いている。溢れる谷間は、表現できないくらいの物凄い状況だ。俺は仰向けになって無理やり目を閉じた。それでも下半身は収まらない。


 神様は「妻にすればいい」と言った。アフロディーテも詰所で「妻です」と断言した。

ならば一緒に寝るのは当然ではないか。俺たちは夫婦なのだ。理屈で分かっていても、心が納得しない。


俺には拘りがあった。

俺は、まだアフロディーテに何も告げていない。男としてのけじめを着けてからにしたかった。

『それまでは我慢だ』と自分に言い聞かせた。決して、童貞だから尻込みした訳ではない。


 俺は眠れない夜を利用して考えた。その結果、一つの結論に達した。

『アフロディーテと暮らす家が欲しい』

 朝食の時に、アフロディーテにそう話した。

「旦那様、嬉しいです」と言って、アフロディーテは俺の腕に抱きついた。

『柔らか~い』


 その時にアフロディーテが言った。

「お金を稼ぐにはダンジョンが一番です。希少なアイテムを入手できれば高値で売れます」


 俺たちはダンジョンに行くことにした。

その前に、冒険者ギルドで地元のダンジョンの事を調べる必要がある。最新の情報を仕入れるためだ。


 朝食を済ませて冒険者ギルドに向かった。受付のナディアにダンジョンの事を聞く。情報料として銀貨一枚を支払った。



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