第3話「愛は魔道具より強し」
移動している最中に、アフロディーテが【念話】を送ってきた。これは、言語の同時通訳をする時、俺とアフロディーテの思念を繋ぐために神様が授けてくださった能力だ。
『ユーゴさん、前方に複数の生命体がいます。魔力紋から判断して一つは人族のものですが、もう一つはゴブリンのものです』
一見すると、アフロディーテは美しい女性だが、本質はナビゲーションシステムだ。そのため、この世界に関する全ての知識を神様から授かっている。『魔力紋』とは、この世界に生存する全ての生き物が保有している魔力の指紋みたいなものだ。
『救援が必要か?』
俺はアフロディーテに聞いた。
『人族四名の内一名は動いていません。ゴブリンの数が二十体と多いので、早めの救援が必要と思われます』
『分かった。俺を下ろしてアフロディーテは救援に行ってくれ』
『承知しました』
アフロディーテが静かに俺を下ろす。
「アフロディーテ、頼む!」
「承知しました」
アフロディーテが救援に向かったあと、俺は周囲を警戒しつつアフロディーテの後を追った。。
僅か数秒で現着したアフロディーテは、ゴブリンを次々に上空へ放り投げた。二十体のゴブリンが空高く舞い上がる。そして、そのまま落ちてきて地面に激突した。少し遠かったからハッキリとした高さは分からないが、たぶん30メートルを超えていたように見えた。
俺が現場に着いたのは全てが終わった後だった。。俺の足で、走って五分ほどの距離だった。
現場に駆けつけて、倒れている女性に声をかける。
「大丈夫ですか?」
女性の右足の膝上辺りから血が流れていた。けっこう深い傷だ。
俺は呪文を唱える。
「ハイヒール」
女性の傷が一瞬で消えた。
革鎧で身を包み大剣を背負った男が俺の横に立つ。
「救援、感謝する。おかげで助かった。俺は護衛パーティーのリーダーでジルだ」
「ご無事で何よりです。俺はユーゴと言います。こちらはアフロディーテです」
いつの間にか、俺の横に戻ってきていたアフロディーテを紹介する。
「私は魔法使いのミランダよ。ユーゴさん治癒魔法をありがとう」
残りの二人からも自己紹介を受けた後、お礼を言われた。
荷馬車の持ち主から、お礼の言葉と申し出があった。
「領都までは、まだ距離があります。良かったら馬車に乗ってください」
アフロディーテはたぶん平気だろうけど、俺は平凡な日本人だから途中でバテると思う。
女性のアフロディーテを歩かせて、俺だけ馬車に乗る訳にはいかないので一緒に乗ることにした。
ジルたちが、二十体のゴブリンから魔石を回収した後に出発した。
「ここは領都から離れているから魔物が多いのよ」
と、馬車の後ろを歩きながら警戒しているミランダが教えてくれた。
その言葉通りに、また魔物が襲撃してきた。
「オークだ」
「気をつけろ。五体いるぞ」
『鑑定しましたが、このパーティーのメンバーはC級なのでCランクのオーク五体は危険だと思われます』
『分かった。アフロディーテが行ってくれ』
「ジルさん。ここは俺たちに任せてくれないか」
俺は荷台から、馭者台にいるジルに大声で言った。
先ほどのアフロディーテの強さを見ていたジルはあっさりと許可した。
「済まない。お願いする」
「アフロディーテ、やっていいぞ」
アフロディーテは馬車の馭者台から飛び出すと、ほぼ同時に氷結魔法を放った。五体のオークは下半身が氷漬けになって身動きがとれない。次の瞬間、風魔法の『ウインドカッター』がオークの五つの首を続け様に刎ねた。
「なっ! 混合魔法。しかも無詠唱」
ミランダが驚愕している。
Cランクのオーク五体を瞬殺したのを見て、他のメンバーも驚きのあまりに言葉を失ったようだ。
アフロディーテはオーク五体を魔法収納で回収してから馬車に戻ってきた。
「凄い。一発のウィンドカッターで五体を仕留めるなんて」
「アフロディーテさん。もの凄く強いのね。驚いたわ」
アフロディーテは小さく頭を下げた。
俺はジルに告げた。
「オークは収納したから後で渡すよ」
「いや、倒したのは君たちだから、その必要はない」
俺は頷いて馬車に乗った。
その後も、ゴブリンが襲ってきたが、五体だったのでジルたちに任せた。
魔物の襲撃はあったがすぐに片付いたので、日が暮れる前に街に着くことができた。
馬車の移動速度は歩くより少し速いくらいだ。
それでも、思ったよりも早く着いたのは、アフロディーテが距離を稼いでいたからだ。
お姫様抱っこは無駄じゃなかった。
高い土壁に囲まれた街には大小の門があった。大門に並んだ俺たちの番がきた。
俺とアフロディーテはこの街に初めて来たから、詰所で調査があると言う。
ジルたちと別れて詰所に入る。ジルが別れ際に言った。
「何かあったら冒険者ギルドに伝言を入れておいてくれ」
狭い部屋に案内され、勧められて椅子に腰かける。並んで座った俺たちの前に一人の門番が座る。椅子は後一つ有った。
真ん中にあるテーブルの上に、何故か水晶が置いてある。
『アフロディーテ、あの水晶は何で置いてあるの?』
『あれは、簡単に言うと【嘘発見器】です』
『便利なものが有るんだな』
『魔道具の一種です』
『魔道具とは?』
『魔法陣に魔石を組み込んだ道具です。魔力が無い人でも魔法の恩恵が受けられます』
この世界は、電気や電子機器が無い代わりに魔道具が普及している。灯りや水道、そして火力コンロなどは魔道具になっているという。
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