第2話「二人で異世界に」
「神様! 流石です。最高です」
俺の記憶を素にして創ったのか、どうりで俺の理想の容姿だと思った。 俺は手放しで神様を褒め称えた。金髪碧眼で肩越しの長い髪。細い手足に、際立つ大きな胸と引き締まった小さなお尻。くびれた腰が目立つスリムな体は、正に俺の理想像だった。
「基本的には普通の人間と同じだから、妻ということにすればいい。年齢は16歳にしておいた。儂の管理する世界では、16歳で結婚できるからな」
「妻!! 本当にいいんですか?」
「そう入力済みじゃ。妻ならば、一緒にいても不自然ではないじゃろ。それより名前をつけてやれ」
「アフロディーテ、でお願いします」
俺は彼女の美しさを見て即決した。ギリシャ神話の美の女神の名前だ。
「外敵からの攻撃は、アフロディーテの戦闘力を勇者並に強くしておいたから大丈夫じゃろ」
アフロディーテは、全ての魔法が使えるらしい。しかも、莫大な魔力量と膨大な知識量を持っている。おまけに近接戦闘は勇者並みだ。
アフロディーテさえ居れば、魔物や他者からの襲撃も怖く無いし、言語等の知識も問題無い。お金についても、向こうの世界は魔物を倒すと金になるから大丈夫らしい。
「それじゃあ。転移させるぞ」
「はい、お願いします。神様、アフロディーテを付けてくださり、ありがとうございます。本当に感謝しています」
「なんのなんの。ほんのアイスの詫びじゃよ。もしも、アイスが作れたら教会で祈ってくれ。必ず会いにいく」
「では、送るぞ」
俺は頷いた。
一瞬だけ閃光が走り、気がつけば草原に立っていた。
広大な草原は膝まである草に覆われている。右手に森と左側に山が見えた。
アフロディーテを見ると薄い水色のミニのワンピースを着ている。その服は、アフロディーテの白くて長い足と深い胸の谷間を強調していた。
気がつけば、俺の服も変わっている。こちらの世界に合わせてあるようだ。神様が気を利かせてくれたのだろう。
俺は名前を呼んだ。
「アフロディーテ」
「はい。ご主人様」
初めて聞くアフロディーテの声は、柔らかい音色のようだった。
「アフロディーテ、ご主人様は恥ずかしいからユーゴと呼んでくれ」
改めて俺は、アフロディーテに自己紹介をした。
俺の名前は神無月優吾だ。養護施設で育った。養護施設の前に捨てられていたらしい。両親は分からない。手がかりになる物は無かったようだ。10月に拾われたから施設長が神無月の姓をつけた。 家電メーカーの工場のラインで、組み立て工員をしていた。年齢は25歳になるが彼女は居ない。アパートで一人暮らしだった。
「アフロディーテ。前にいた世界で、俺は一人ぼっちだった。お前は俺の初めての家族だ。仲良くしてくれ」
「ユーゴ様。アフロディーテはずっとお側にいます」
「ありがとう、アフロディーテ。でも『様』は硬いから、さん付けで頼む」
「分かりました。ユーゴさん」
「それじゃあ。アフロディーテ、町を探してくれ」
「では、あの山に登って周囲を調べます」
アフロディーテが凄い速さで走り出した。
だけど、スカートの裾が短すぎて、アフロディーテのお尻がチラチラと。見てはいけないものが見えてしまった。白だった。
アフロディーテが行った後、俺は辺りを見回していた。どこまでも広がる草原には、人も生き物も見えない。川などの水源も無いから、先ずは水の確保が必要だなと考えた。山と反対側には森があった。
「あそこなら、水が有るかも」と思っていた時に、とつぜん後ろから声がした。
「ユーゴさん」
名前を呼ばれて振り返る。さっき行ったばかりのアフロディーテが、そこにいた。
あの距離をもう往復したと言うのなら、アフロディーテの 走る速さは人間の領域を遥かに越えている。
肉体的には人間と変わらないが骨と筋肉等の必要な部分は、体の負荷に耐えられるように神様が少しだけ強化した、とアフロディーテは言った。
神様と人間の尺度にどれくらいの差があるか分からない。でも、アフロディーテを見ていると、神様の『少し』はきっと人間の『物凄い』に当たるのだと思う。
驚きのあまりに返事を忘れた俺の名を、アフロディーテがもう一度呼ぶ。
「ユーゴさん?」
名前を呼ばれただけでドキドキするのは、俺が童貞だからか? 冷静を装い結果を尋ねた。
「どうだった、アフロディーテ。 町は見つかったか?」
「はい。東の方角に町らしきものを発見しました。そして、そこに繋がる街道も見つけました」
「よくやった、アフロディーテ。これで野宿をせずにすむ。すぐに町へ向かおう」
しかし、町まではかなりの距離があるらしい。俺の歩く速度だと夜までに、町に着かないと言う。
「なるべくなら今日中に町に入りたい。いい方法がないか?」
「お任せください」
アフロディーテはそう言って、俺を『お姫様抱っこ』すると即座に駆け出した。
綺麗に均されている街道をかなりの速度で移動している。飛ぶように動く景色を目で追い切れない。 俺を抱えて結構な距離を移動したはずなのに、アフロディーテは全く疲れていないようだった。
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