神様に貰った異世界ナビゲーターは俺の理想の嫁でした!

生名 成

第1話「カップアイスを食べた神様」

コンビニで買ったカップアイスが溶ける前に、家に着きたいと急いでいた。近道になる公園の階段を早足で降りる。

とつぜん、ガラスが割れるような凄い音がした。目の前の空間が裂け、真っ暗な闇が現れた。しかし、車も人も急には止まれない。バランスを崩した俺は階段を踏み外して、裂け目の中に落ちていった。



気がつけば仰向けに寝ていた。なぜ寝ているのか分からない。とりあえず、ゆっくりと上半身を起こした。すると、目の前にいたお爺さんと、丸いちゃぶ台を挟んで目が合った。頭は禿げているのに白い顎髭は長かった。体にはダブついた白い布を纏っている。そして、 美味しそうにカップアイスを食べていた。


何故か、ちゃぶ台の上に俺のエコバッグが置いてある。

「それって、俺のアイスじゃ……」

俺の声を遮るように、お爺さんがちゃぶ台の横に飛び出して、いきなり土下座をした。

「許してくれ。アイス付きで人間が来たのは初めてなんじゃ」


「やっぱり、俺のアイスか」

「申し訳ない。誘惑に負けるなど、神としてあるまじき行為じゃ」

「えっ! 神様ですか? どうして神様がここに?」

「いや、それは逆じゃ。お主が儂の所に来たんじゃよ」

「あっ! そうなんですか。それは失礼しました」


「いや、別にお主のせいではない。お主は次元の裂け目に飲み込まれたのじゃ」

「次元の裂け目ですか?」

「そうじゃ。偶にある事じゃが、なぜか日本人だけがここに落ちてくるのじゃ。早い話が『神隠し』と言うやつじゃ。と、言っても儂のせいではないぞ」


「それで、ここはどこでしょうか?」

「ここは次元の狭間にある儂の管理空間じゃ。お主はもう、元の世界には戻れない」

「戻れない!」

俺は衝撃のあまり気を失った。


気がついたら、また仰向けに寝ていた。今度は勢いよく上半身を起こした。また、神様と目が合う。神様は、まだ俺のアイスを食べていた。プラスチックで出来た透明のスプーンを口に咥えている。

「元の世界に戻れないなら、人生最後のアイスだったのに」


俺の嘆きを聞いて、神様が再び土下座をした。

「またまた、申し訳ない。アイスが溶けたら勿体無いと思ったのじゃ」

「一度ならず二度までも、いくら神様でも酷くないですか。人生最後のアイスなのに」

「誠に申し訳ない。だが、お主の人生は終わりではないぞ」


俺は意味が分からず首を捻る。

「お主を、儂が管理する世界に転移させる事ができるのじゃ」

「本当ですか? 俺はまだ、生きられるんですか?」

「もちろんじゃよ。いわゆる『異世界転移』というやつじゃな」


「良かった。それならアイスが食べられますね」

「いや、申し訳ないがそこまで文明が発達しておらん」

「じゃあ、アイスは?」

「まだ無理じゃな」


俺は項垂れた。でも、よく考えたら俺はそこまでアイスが好きな訳じゃない。

「そう、落胆せんでもいいぞ。アイスはまだ無いが、魔法なら有る。上手くいけばアイスを作れるかも知れん。いや、是非とも作って欲しい。もう一度、食べたいのじゃ」

魔法と聞いて、俺は喜んだ。

「魔法! それは凄い。是非、その世界に行かせてください」

『魔法、それは男の夢。日本では決して叶えられない憧れ』

 正に、俺の心は狂喜乱舞の世界。絶対に行きたい。いや、俺は絶対に行くぞ。


俺の食いつきに、神様は引きぎみになった。

「まあ、待て。アイスを食べたお詫びに、一つだけ特典を与えよう」

「特典とは?」

「例えば、さっき言った魔法が使えるようになれるとか、特別な才能が使えるとかじゃな」


俺は特典の詳しい説明を聞いた。

水火風土の四属性魔法に光と闇の魔法。それから身体強化や鑑定などの魔法。魔法だけでも、多くの種類があるという。


例えば、アイスを作るなら氷結魔法が必要だが、氷結魔法は水魔法と風魔法の混合魔法なので両方の魔法を覚える必要があるらしい。


「アイスの件はもういいです。神様が管理する世界に行ってから、俺が困らないような特典が欲しいです」

 あまりにも選択肢が多すぎて、俺は一つに選べなかった。だから、便利な物より、困った時に対処できる物を選ぶことにした。

「儂が管理する世界で困らない特典とな?」

神様の説明によると、異世界で困るような事案はこうだ。

先ずは、言語などの異世界の知識。それから、お金。最後に、外敵からの攻撃。


「異世界の知識となると……?」

神様が考え込んでしまったので、俺は一つの提案をした。

「神様、ナビゲーションシステムは有りませんか?」

「ナビゲーションシステム? そうか、その手があったか!」


 俺が提案したのは、ゲームの世界のチュートリアルに出てきて、ナビゲートしてくれるAIのようなものだ。俗に言う『天の声』だ。

ゲームの序盤で操作方法等を説明してくれるナビゲーターみたいなものが側にいれば便利だと思った。異世界の知識を持つナビゲーターがいれば、必要な時に知識を教えてもらえると考えたのだ。


「よし、それでいこう」

 神様は、俺のために異世界用のナビゲーターを創造してくださった。

それは信じられないくらい綺麗な女性だった。俺は、たちまち一目惚れしてしまった。

「お主の記憶を素にして創った。人の姿なら、一緒にいても問題はなかろう」

 それは、確かにそうだと思う。いかにもメカニック的な丸形の空中浮遊ロボットや羽の生えた小さな妖精が、俺の周りを飛び回っていたら異常に怪しい光景だ。その点、人型(ひとがた)なら何の違和感も無い。



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