性行為しないと出られない部屋


────ガチャッ




「ちょぉっと待ってくださいよぉぉ!!」



はい、お馴染みの部屋ですね。説明は割愛ね。

そんなことより!!

何でコイツとこんな部屋に入れた!?

最悪なんですけど!!!


「…わぁお。」


ほら、こんな部屋にぶち込まれたというのにこの反応!!

そうだ。こいつは筋肉の事しか考えてない筋肉お化け!

困ったことは全て筋肉におまかせ!超脳筋!

性行為なんて運動としか考えていないような人間なのだ。

そんなムードもクソもない奴とそんなことできるか!ふざけるな!


「……はぁ最悪。もういいや。一生ここで過ごそう。…いやもういっそ死のう。1時間後には筋トレし始めたコイツの大量の汗で溺死する。そうなる前に死のう。天国で先祖に会った時に死因は他人の汗です。何て言えるわけねぇだろ。よし、死のう!」

「早まるな!命大事に!」

「おめぇぇぇぇのせいだよぉぉぉん???」


何喋っても癪に障る奴だ。

ダメだ。汗臭い。これは窒息も考えられる。


そもそも私達はカップルじゃない!!

ただの普通の人間と異常なマッスルだ。

こういうのって恋人同士か両片思いの人間同士が入るんじゃないの?

なに、嫌がらせなの??

私はたまたまこいつと小学校から高校まで一緒だっただけなんですけど。

確かに彼氏いないけど。こいつとくっつけって?

馬鹿か。たんぱく質からやり直せ。


「なぁ、この部屋カメラ無くないか?」

「…はあ、だからなんだよ。見られながらしたいのか?残念ながら私にそんな趣味はない。

これ以上喋るな。セクハラで訴えるぞ?」

「いや、違う。カメラが無いならどうやって行為をしたって判断するんだ?」

「は?そりゃ…。」


ん?確かにどうやって判断するんだ?

小型カメラが隠されているとか…。

いや簡素なベットしかないこの部屋にカメラを隠せそうな物は見当たらない。

ならば何を解錠の判断基準にするのだろう。


「声、とか?」

「壁は薄くなさそうだし盗聴できそうなものも見当たらない。声で判断するには難しいだろ。」

「壁の中に音声を認知する機械が埋めてあるとか…」

「なら大きな声を出す必要があるじゃない」

「そういうことする時は大きな声くらい出るんじゃ…」

「へ…。」

「お隣さんから壁ドンされるくらいの声量の人もいるし。」

「…。」


……知らねぇよ。したことないもん。

何でお前そんな詳しいんだよ。うぜえな。


「じゃあお前1回叫んでみろよ」

「え」

「お前から言い出したんだろ?」

「えぇ…。分かった…。スーーーー。う"ぉぉぉぉ"ぉぉぉ"ぉ"ぉぉーー!!」


…。


「…うるせぇな」

「君がやれって言ったんじゃん…。」

「でも何も起きないな。」

「やっぱり閉じ込められたショックで大きな声を出すかもしれないからそれだけじゃ扉は開かないようになってるのかもな」

「じゃあ他に何が解錠の条件になるんだよ」

「うーむ。ベットの振動…とか?」

「…。」

「試そうか?」


従順じゃねえか。さっさとやれ。


ガッタガッタガッタガッタ

ゴトゴトゴト

ドスドスドスドスドスパキッ


「むむ。ダメみたいだ…」

「ベットの足折れたんだけど?」

「どうしようか…。」

「無視すんなよ」

「でもベットのシーツの下に何かの装置があるんだよな…」

「なんだこれ。シート?」


「もしや発汗の量…とか?」

「え"。今試すなよ?最悪な環境になるだろ」

「えー、じゃあどうするんだ?」

「に、二酸化炭素濃度を上げてみるとか?」


私は何を言ってるんだろう。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」


隣で肺の中の二酸化炭素を全て吐き出している人間を無視して思考する。

どれも解錠条件じゃないならどうしたら良いんだ?

本当に行為に及ばなくては出られない部屋なのか?

いいや、わざわざベッドの下に装置を仕掛けるならきっかけくらいあるはずだ。

……!

そうか、一つ一つがダメなら…。



「「全ての条件を同時に満たすのはどう(だ)?」」



酸素不足で回らなくなった頭を何とか働かせてこいつも同じ答えを導き出したようだ。

意外とやるじゃねぇか。


「そうと決まれば…」

「やるぞ!!」


ガタガタガタガタグラグラゴトゴトハァァァァァバキガタドンドンガタガタバキバキゴトットントンバキグキッう"ぉ"ぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ"ぉぉガッタガッタドスドスドスドスハァァァァ"ァァァァァゴトゴトンコードンガタガアガタガタゴキゴキバキッドスドスドスう"ぉぉぉぁぁ"ぉぉぉぉぉぉ"ぉぉ"ぉ!!!





すぐ側の扉から音が聞こえた。

私達は謎の達成感と汗の匂いに満たされていた。

私たちはカップルではなくマッスルだ。

こんな形で出られるとは思っていなかったが、まぁいいだろう。

小学校からずっと一緒だったこいつと大学が離れてしまって、少し…寂しかったし。

久しぶりに会えて嬉しかった気持ちを隠すために冷たく接してしまったこと、あとで謝ろう。

いや、こいつはどうせ気にしてないか…。

だって筋肉のことしか頭にない筋肉バカだから。

だから、私の、この気持ちも…。





────カチャッ

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