第2話 たい焼き屋さんの遅刻を救え!

 「はい、10分後の8時、鯛焼き本舗さんですね。ご希望は3名、開店準備の代行と。…それでは時間ぴったり、うちの兄弟チームを派遣させますので」


 それでは失礼いたします、と受話器を置けば、後ろで様子を伺うスタッフの息遣いを感じます。


 うちはいわゆる〝代行サービス〟を請け負う市民団体。

 完全ボランティアなので自由参加型、けれど意外に積極的な仲間が多く助かっております。


 今回のご依頼主は、腹痛でたい焼き屋さんをオープンできないというご店主。

 創業以来、一度も休まずやってきたことが誇りなので、何としてもいつもの時間に開店したいとのご依頼です。


 「『自慢の』兄弟チームといえば、もちろん私達の出番よね?」


 自信たっぷりなハムスターさんが名乗り出てくれました。そうです、その通りでございます。

 すぐ側にはしっかり者のお兄さん、遅れて慎重派の弟さんがやってきました。

 今回は機動力抜群のハムスター兄弟とたい焼きのお話。その小さい体で細かい作業はお手のもの…?


 さて約束の時間から30分後。

早々にお店のレシピを見つけた三兄弟でしたが、問題発生。

肝心の中身につめるクリームのレシピが、劣化で読めないのです。


 「たい焼きの中身が〝あんこ〟ってのは分かったけど、どんなものだろう?」と弟さん。

 「たい焼きは甘いよなあ」とお兄さん。

 「あん、って言うくらいだし、杏子じゃないかしら、あんず」とお姉さん。


家族会議は加速していきます。


 「たしかに!あんことも読めそうだぞ!」

 「でもあんずは時期じゃないぜ、兄ちゃん」

 「近所のスーパーになら乾燥あんずが売ってるはずよ!あたしが買ってきてあげましょう!」


 お姉さんはそう言い残し、ピュンッとひとっ飛び。お店から転がり出して行きましたが、弟さんは何やらモヤモヤしています。


 「乾燥あんずはなかったから、あんずジャムにしてみたわ!」

 「天才だよ姉ちゃん!」

 「それとペレットも買ってみたの、半生タイプだから、一緒だと美味しそうでしょう?」

 「やばいよ姉ちゃん...」

 「グルメなお姉ちゃまを信じなさい!」

 まずい事になりました、ぺレットとはつまり、ハムスターが好んで食べる木の実等をすり潰して固め直したものです。

 お姉さんの独断で、このままではハムスター用たい焼きになってしまいます!どうするハムスター兄弟!


 さらに3時間が経ちました。

 腹痛が落ち着いた店主さんが、たい焼き屋さんに到着します。


 「一体この行列は…?!」


 「〝あんこ〟のレシピが読めず、独自の〝あんこ〟をつくりましたの!あんずジャムとペレットの「姉ちゃん、違いますよ、あんずジャムとクリームチーズです。姉がハムスター用のペレットを買ってしまったので、こちらはご自宅の小動物用たい焼きというのを、勝手ながら別でつくりました」


 「お兄ちゃまはSNSの名手なんです!宣伝しましたら、バズ!いたしましたの!」


 お姉さんが見せたスマホの画面には鯛焼き本舗さんの宣伝が載っています。店主は驚きすぎて腰を抜かしてしまいました。


 「いいお仕事でしたでしょう!」


 お姉さんの雰囲気に気圧されたのでなければいいのですが、彼女の言い分も尤もで、お兄さんのネット上での頑張りもあってお店は大反響でした。


 後日鯛焼き本舗さんには、ご自宅の小動物用たい焼きがグランドメニューとして用意されるようになったようですが、それはまた別のお話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遅刻代行ボランティア zuzu @zuzu_izaz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ