遅刻代行ボランティア
zuzu
第1話 もしも待ち合わせ場所にリスがいたらどうする?
「はい、5分後の10時、さざなみ駅前ですね。お顔については、はい、〝可愛い感じ〟で。では、うちの自慢のリスを向かわせますので、」
それでは失礼いたします、と受話器を置けば、後ろでソワソワしているスタッフの息遣いを感じる。
うちはいわゆる〝代行サービス〟を請け負う市民団体。完全ボランティアだから参加も自由だけど、意外と積極的な仲間が多いことも特徴だ。
「可愛い感じって、どんな感じかしらねぇ」
うちの看板スタッフ、シマリスさんが大きな黒目をくりくりさせる。どんな感じも何も、そのままで十分可愛いですよ!今夜はそんな彼女とのお話。
今夜は彼女と出掛ける約束だった。
しかし10時きっかり待ち合わせ場所に現れたのは、
「あなたの彼女の妹です!」
リスだ。リスが僕に向かって話しかけている。間違いなく僕を呼んでいる。
「すいません、彼女を待ってるんで」
「ええ、そうですとも。でもわたし、あなたの彼女の妹なんですよ!」
これは新手の詐欺だろうか。愛くるしい瞳が僕に訴えかける。いや、可愛かろうと騙される余地はないぞ。そこにいるのはリスで、僕の彼女は人間だ。
「お姉ちゃんとわたし、ちょっと似てないんです。でも笑うとおんなじ場所に、
えくぼができるんですよ!」
ほら、とリスは口角をキュッと上げて、頬袋の凹みの部分を指差してみせた。なるほど、凹みが人のえくぼみたいだ。毛並みは艶たっぷりのふわふわで、思わず触ってみたくなるが、ここは心を鬼にして考えよう。
この子が彼女の妹というのなら、一つ聞いておかなくちゃならないことがある。
「…因みに、ご兄弟は何人いるんでしたっけ?」
「えっと…六…七人姉妹ですね。家族が多いので、賑やかになりますよ!」
七人とは!かなり多いなぁ。彼女とリスと、それ以外にどんな家族がいるか想像してみる。案外、面白いかもしれない。
しばらく妹のリスと話していると、申し訳なさそうに彼女がやってきた。彼女の方も、あんまりに可愛いリスがいるもので、面食らった顔をしていた。
折角の〝妹さん〟との対面なんだから、今夜は三人でいくのもアリかもしれない。
すると妹の、あくまで妹を貫き通すそのリスは、三人の会食を随分喜んだ。
「私いいお店知ってますよ。デザートに、おいしいドングリパンケーキのメニューがあるんです!」
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