第24話 アイデアを売り込むにもコネと金がいる
「あー、面白かったー! こーいうのってあり得ないから面白いんですよねー」
「……あり得ないから怖いんじゃないの……ていうか、なんで秘密兵器は平然としてんのよ!」
実に二時間近くに及ぶジャパニーズホラー観賞会だが、反応は三者三様といったところだった。
完全にあり得ない、娯楽作品だと割り切ってゲラゲラ笑いながら見てた由希奈に、耳を塞いで体育座りで部屋の隅っこに蹲っていた葉月、笑顔で固まっているまゆ、そして葉月に指摘されたように平然とした顔で画面を見つめていたこよみといった具合だ。
まゆと葉月がホラー苦手ってのは設定資料集にも書いてあったし、このイベントも何度か通過してたからわかりきってたことだが、こよみが平然としてるのは少し意外だな。
俺? 俺は心頭滅却すれば火もまた涼し、みたいな顔で腕組んでたけど内心めちゃくちゃビビってたよ。
魔法少女西條千早ならこうするだろう、というイメージが頭の中になければ即死だった。
こういう時に平然と、何事もなかったかのように構えてこそ先輩キャラとしての風格は保たれる……いや、意外と怖がりな一面も出した方が親しみやすかったりするのか? わからんがまあロールプレイを貫けたからよしとしよう。
「……ぁ、ぇ……げ、現実の方が、怖い……ので……」
葉月から逆ギレじみた詰問を受けたこよみが返した答えは、なんとも言い難い、世知辛い話だった。
人間が一番恐れるのは同じ人間だとはよくいったもんだよ。多分そういうことじゃあないんだろうけど。
真面目に考えるなら、リアクションこそ違えど、こよみの中では由希奈と同じで現実は現実、フィクションはフィクションと割り切れているんだろう。その背景まで考えれば切ない限りだが。
「……あっそう……」
「こよみちゃん、意外とホラーは平気なんですねぇ……」
葉月とまゆの怖がっていた組も意外そうな目で見ている辺り、パブリックイメージってあるもんだな。
「……ぇ、えっと……はい……」
「こんなの現実であるわけないじゃん? こよみちゃんの言う通り、現実の方がよっぽど怖いよー?」
魔法が存在してる世界で幽霊の話を非科学的だと笑い飛ばすのもなんだかアレな感じだが、まあそういう考え方もあるよな。
俺も参考にしとこう。なんの参考になるかはわからんが。
とりあえず手元の腕時計型デバイスで時刻を確認してみたら、ちょうどランチタイムを過ぎた辺りだった。
店は閉め切ってるからいつもの役人四人組の姿も当然のように見えないが、大佐がパソコンに向けてあれこれ喋ってたから、リモートで済ませてるんだろう。
セキュリティとか色々大丈夫なのか不安になってくるな。
まあ、迂闊にハッキングなんてかけた日には「M.A.G.I.A」や公安、防衛省に速攻で逆探知されて豚箱行きだろうから多分大丈夫なんだろうが。
それはそれとして、大佐が役人と直接会って会議するという手間が省けたのは、こっちとしちゃ好都合だ。
早速二時間前の思いつきをなんとか「M.A.G.I.A」の上層部に売り込むべく、俺は感想会議を始めてる輪から抜け出して、大佐の元へと歩き出す。
アイディアを売る時に必要なもんはなにか。それは身も蓋もないかもしれないが、金とコネないしそのどっちかが必ず必要になってくる。
発明で特許を取りたいとかそういうことじゃなく、単純に一般人が国家直轄の秘密組織、その兵器工廠に踏み込むという無理ゲーに近い所業を実現するための話だ。
特級魔法少女には現場における作戦権が与えられてたり、ある程度の自由行動が許されてたりはするものの、立場的には役人より下の、いってしまえば下っ端に過ぎない。
当然、逃亡すれば追っ手として他の魔法少女や公安、自衛隊ないし国家の暗部とかそういう連中に四六時中狙われて、最悪そのまま同族の魔法少女に命を奪われることだってあり得る。
そんな殺伐とした魔法少女事情がまかり通ってるこの世界で、特級とはいえ所詮は組織の下っ端に過ぎない人間が「M.A.G.I.A」の秘密工廠にいきなり「画期的なアイディア」を持ち込んでみろ。
まず間違いなくアイディアの出所を疑われるし、今まで兵器開発とは無縁だった人間がそんなもんを思いついたとなれば、十中八九監視も厳重になるだろうしで、ろくなことがないのは確定している。
だから、大佐という人間を、「M.A.G.I.A」の内部事情に極めて精通している人材を巻き込む必要があるわけなんだよな。
「大佐、突然で済まないが、少々時間をもらえないだろうか」
「構わんが……なんの用だ、西條千早?」
「ここでは少しばかり都合が悪い、地下のミーティングルームを借りることを所望する」
「……構わんよ、それじゃあ場所を変えるとしようかね」
「助かる」
未だに幽霊の実在と非実在について熱い議論を交わし合っている四人を置き去りにして、俺と大佐は地下のミーティングルームへひっそりと姿を消す運びになった。
さて、ここからが難関だ。
思いついたアイディアを上手いこと売り込めれば上等だが、疑いの目を向けられるのは確実だろう。
それでも尚、そのアイデアが、俺という存在が「組織にとって有益」だと判断されればそれでいい。
なんせ反乱を起こすつもりは全くないんだ、あくまでも「現場の思いつき」を上申する都合、パイプとして「上層部へのコネ」がある人間を利用しようってだけの話だ。
なに、これからも仲良くしようじゃないか、大佐。人類の未来のためにもな。
◇◆◇
「さて……ここを借りるということは、外に漏れたら相当まずい話だと見ていいな?」
ミーティングルームの上座に座るなり、目つきを鋭くした大佐がそう問いかけてくる。
「肯定する。そしてこれは現場からの上申でもある」
「誰の一存だ?」
「此方という個人による、一魔法少女たる西條千早によるものだ」
悲しいことに臨界獣という人類の危機を前にしても、組織内で足の引っ張り合いをしているのは人類という種族の宿命みたいなもんなんだろう。
現場からの上申にさえ誰かの息がかかってることを疑わなければいけない大佐には心底同情するが、これはあくまで俺の思いつきだ。
それを信じてもらえるかどうかは別として、正直に、洗いざらい、誰との関係もありませんと明言しておく。変に誤解されても困るからな。
「……わかった。それで、上申の内容は」
「中原こよみの魔力運用に関して」
ぴくり、と大佐のこめかみが疼く。
こよみの魔力運用に関する話は十中八九上層部を巻き込んだ話になるだろうし、最悪話が関連省庁にも行きかねないから無理もない反応だ。
できれば俺も「M.A.G.I.A」の中で話を完結させたいんだが、こればかりは済まないが大佐の手腕に全てを丸投げすることになる。
「中原こよみの魔法征装の使用に関しては関連省庁及び閣僚による採決を得る必要がある、それは君もわかっているだろう?」
「肯定する。だが、此方の提案がもしも許可されれば、より強力な臨界獣が現れた際にも副次被害を抑えつつ、中原こよみの魔力を運用することが可能となる」
「……そんな夢のような話があるものか、西條千早。疲れているんじゃないのか?」
んー、見事なまでの塩対応だな。
だが、とりあえずその反応は想定済みだ。
なんなら仮眠をとってもいいぞ、と露骨にこっちをあしらおうとする大佐の気を引くべく、俺はその言葉を口に出す。
「……『地球産の魔法征装』を作る。それが此方の考えていることだ」
「……正気か?」
魔法征装は基本的に魔法少女の変身プロセスと密接に関連している代物だ。
一応「M.A.G.I.A」もその再現を目指してこそいるし、その産物が魔術兵装なのだが、技術的な制約が激しく、肝になる魔力を三級や二級の魔法少女といった、外部から引っ張ってこなきゃいけないのが現状だった。
その制約をすっ飛ばして、いきなり魔法征装の作成に着手することができるのか?
答えはできる。ただし、相当な綱渡りになるだろうけどな。
不敵に笑ってみせた俺を睨み返す大佐から一歩も退くことなく、こっちの要求を、アイディアを叩きつける。
ここから先は、どれだけ「西條千早」という人間が信頼に値するかというのを測る勝負だ。しくじったら最悪俺の首に爆発物が付きかねないし、凍結処分も待ってるんだろうが、やるしかないんだよ。
言葉通り人類の未来のために、これから起こる惨劇を回避するためにもな。
クソゲー世界に転生してしまったTS魔法少女ちゃんは今日も生き残りたい 守次 奏 @kanade_mrtg
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