第5話

人が多いところにモンスターが沸くのならば、なぜ室内には湧かないのか。


そうした疑問からどこかの団体で調査が行われていたらしい。結果としては結論が出せなかったのだが、分かったこともいくつかある。

一つ、定期的に人が出入りする室内には害のない程度のスライム以外はモンスターが湧かない。逆に言えば長期間空き家になっている場所にはモンスターが沸きかねないため注意が必要である。

二つ、部屋環境により条件は変わるが、そこが屋内であったり定期的に利用する建物であったとしても、何らかの外的刺激によって著しくモンスター出現の条件を満たされた場合、その部屋のサイズに収まる大きさのモンスターが一定数出現する可能性がある。

三つ、人が定期的に訪れる場所であっても、屋外である場合にはモンスターが出現する可能性がある。(スタジアムやコロセウムなど)

四つ、屋外であるとき、天井を覆うものや街灯等の照明がある時、出現頻度や出現するモンスターに変化が見られる(モンスターの減少や大柄なモンスターの減少)。

五つ、モンスターの出現自体は上記のようになっている様子だが、出現後の移動傾向については謎であり、定期的に人が出入りする場所であっても移動することがある。


などなど。


どれも可能性の段階ではあるものの、暗闇であることや人の出入りに応じてモンスターは生まれる可能性が満たされるようだった。


これを考え始めたのはほかでもない。最近、誰もいないはずの隣部屋からゴトゴトっと物音がするようになった。新しい入居者でも入ったかなと思ったが引っ越し業者が来る様子も清掃業者が来る様子もないし、そもそもこの辺りの地区は路上にまだモンスターがいることもあるためなかなか人が近寄らない。

もしかしたら、モンスターが湧いているのかもしれない。壁を破るような様子も外に出ているような音も聞こえないため放置しているが。


しかし、本当に隣の部屋にモンスターが湧いているとして、このまま放っておくことが出来るだろうか。空間に溢れたモンスターは外に出ることがある。外に出た後、その部屋がまたぎゅうぎゅうになるまでモンスターが湧く。湧いて、溢れて、また湧いてその繰り返しではないだろうか。それなら早めに駆除しなければこちらにも危険が及ぶ。駆除をするとして役所や業者や知人なんかはもちろん頼めない。役所はひっきりなしに連絡が殺到しているらしく、対応までの期間が不明だ。業者はまだ駆除方法も確立していない段階なので、ボッタクリだったりいい加減な仕事をやる業者で溢れている直近の国際問題というやつだ。

そう、やるとしたら自分の手でだ。とはいえ果たして自分に出来るだろうか。

もちろん正攻法だと不可能だ。なら、搦め手を使えば勝てるだろうか。もしかしたら、勝てるかもしれないが、危険に身を晒すことにはなる。

ステータスカードも持っていない身である。自分に備わった能力はおろか強いか弱いかさえハッキリしない。これで立ち向かって死んだらどうする。まあ死んでも悲しむ人はそこまでいないだろうし、こんな状況、ほぼ陸の孤島だ。見つかるまでもかなりの期間が空くだろう。


とはいえ、本音のところは違う。いろいろ言い訳しているけれどやりたいことがある。

モンスターと対峙したい。戦いの中で命を輝かせてみたい。敵を打ちのめしたい。モンスターを殺してみたい。

それなりに自分だって子供だ。成人済み男性と言われようとも子供心は消えない。ファンタジー物でも何でも構わず、主人公ってものに憧れたりする。ここからオンラインの授業を受けて、親からの仕送りで細々と代わり映えのしない日常を生きていくのも悪くはないが、たまには刺激が欲しくなるものだ。


うん。準備をして、様子を見て、なるべく死ぬことがないようにするならモンスターを駆除してみたい。そうだ、そうしよう。せっかくの大学生活なのだから命を張るなんていい社会経験になる。そうと決まればホームセンターに行くか。いやどんなモンスターに遭遇するかわかったもんじゃない。買うならネットショップ。


まず買うものは軍手、いや軍手は前に使ったのがあったな…次に武器に適してそうで扱えそうなのはシャベルかな。

財布を開く。口座を見る。



商品をカートに入れて…。


しまった最寄りがモンスターにあふれていて配達までの期間が不明だ…。

…家で探すか。






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