隠しステージ1 宮城代表視点
「くっそー…これどこまで続いてんだよ…」
宮城県代表として月都・慧土に降り立った高科 誠は優しく夜風の吹き抜けるタワーの螺旋階段を登り続けていた。
ここは月都の中心、夜の闇に溶けそうないつかの栄華は見る影もない寂れきったタワーだ。
「高い場所に…陣取って…戦況を…ハアッ…見たいだけ…ゼェゼェ…なのに……!」
数えきれないほどの階段を登り続けている彼の呼吸は乱れに乱れている。
「………はぁ…もう無理…疲れた!」
階段がちょうど途切れたのを見計らい、少し休憩をとる。割れて床に散らばっている大小様々な硝子の破片が月光を宿して煌めいている。
そんな破片を踏み締め、汗だくになった制服の上着を脱ぎながら窓枠から遥か下の地上を見下ろす。
「うっわ…高い…落ちたら間違いなく死ぬわ…」
地上から見た時と何も変わらないのは空に浮かび、全く動かずに狂った様に輝く満月だけ。
見下ろす地上もただただ真っ黒な草原のように見えて、人の姿は一つも見つけられない。
「これじゃー戦況もクソもないな…」
誰かと命を賭けて戦うことに覚悟が決まらない誠は戦闘を避ける為に無い知恵を絞ってここまで登ってきたのだ。
「ここだけ戦ってないみたいで静かなんだよなぁ」
戦略を考えればすぐにでも向かうであろう中心のタワーは静まりかえっており、人の気配はない。
「もうすぐ最上階か…隠れる場所を探してきたけどここにいるのが一番安全かも」
登ってくるような奴もいなさそうだしな、と頷きながら背筋が凍る高さから地上を見下ろした。
涼しい夜風が頬を撫でる。
「…何してるの?」
はっと振り向くと、背後にはいつの間にか少年が立っていた。暗がりで顔はよく見えない。
(気配はなかったのに!)
動揺を押し隠し、油断なく身構える誠。
反対に相手は昔からの友人に会ったように歩いてくる。
だんだんと誠のいる窓際に近づいてくるにつれ、その姿が月光に晒される。
白かった。
髪も服も、輪郭さえ白で描かれているように。
白い、眼だけが赤く光るその少年は、薄らと笑みを浮かべて近寄ってくる。
その目は輝いているはずなのに恐ろしく空虚で闇がわだかまっているように見え、本能的な恐怖を感じた誠は大声をあげる。
「よ、寄るな!!攻撃するぞ!!!」
ピタリと足を止めた少年は顔から薄い笑みを抜け落ちさせ、のっぺりとした無表情になった。
「…なんでそんなこと言うのかなぁ……」
そう言ってぐしゃりと髪を掴む。動作ひとつひとつに狂気を感じ、後ずさる。
しかし、誠の背後はもう窓で逃げる場所はなかった。
「くっそ…こうなったら一か八か…」
もはや戦闘は避けられないと察した誠は光のポリゴンと共に大きな日本刀を生成する。
日本刀の振り方など知らないが、底光りのする刃に唾を呑み込み真っ直ぐに相手に向ける。
自身の髪をくしゃくしゃとかき回していた彼は向けられた刃先をじっと凝視した。
見開いた彼の目は瞬きもせず、ただただ自分を害そうとする凶器を映している。
そんな時が凍りついたような時間が誠には長く我慢できなかった。
ちゃきりと日本刀を握り直し、刺突の態勢に入り、当に突っ込もうとする時、
「何をーーー」
「『ねぇ、知ってる?』」
両手を組み合わせ、その隙間から彼の赤い眼が
ぐいっ
気づけば誠は、粉々に割れたガラスの破片が周りを漂っていて、自分の足元には空気の感触しかなくて、自分の足元の方に月があって。
何をされたかもわからないまま、ビルの窓を破り、宙に放り出された身体は重力にとらわれ、真っ逆さまに落ちていく。
もう遠くなり始めている自分が先程まで立っていた窓際から彼が顔を出しているのが見えた。
赤い眼と再び視線が交差する。
(ああ、綺麗だ)
月から月光に紛れ、落ちてくる光が違う事なく誠の胸を貫いた。
自分が創り出した日本刀、深々と胸に刺さり、彼の眼の色を溢している。
それが周囲のガラスに反射し、痛みを忘れるほどの美しい光景が誠の周りに広がっていた。
静かに目を瞑って意識を手放す。
静かな都市に一つ、衝突音が響いた。
四十七月都遊戯 チェシャぬこ @whiterabbitcheshirecat
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