第5話 ステータス
「…っ!はぁっ!ゲホゲホガハッ!」
どれくらい走り続けたかは分からないが、俺たちが限界を迎えて倒れ込んだ場所は閑静な住宅地だった。
「し、死ぬかと、思ったぁーーー!」
「一回死んだ、俺一回死んだ……」
疲れ切っていても、暗がりに転がり込んで警戒することは忘れない。
見上げる空には狂ったように明るい月が先程と全く位置を変えずに輝いている。
「どうかしたのか?」
ぴょこりと目の前に青い炎が浮かんだ。
それはくるりと回って尖った大きな耳、小さいが素早く動きそうな身体、青く発光する尻尾を形作る。
「うわっ!雪じゃん!今までどこにいたんだよ…」
雪は音もなく地面に降り立つと蒼い眼でこちらを不満げに見遣った。
「しかたないだろう。ぼくはおまえののうりょくのいちぶなんだ。ぼくがけんげんしているだけでおまえののうりょくはせいげんされる。」
「ああ、そこの獣の言ってることは合ってるぜ。」
少年のような声が唐突に聞こえた。
「エド!」
「だーかーらー!!俺様は!エドじゃねぇ!
佐渡だ佐渡!新潟県民のくせに佐渡ヶ島も知らねぇのか⁉︎」
紅白の鮮やかな美しい小さな鳥が喋っていた。否、叫んでいた。
「紹介するね、この子はエド、トキだよ!」
「お前、俺様のことトキだって分かってて佐渡って呼ばねぇのか…」
俺はトキがげんなりした顔を初めて見た。
「いや待て、トキって絶滅したんじゃないのか?」
「たしかににほんのときはほろんだ。しかしいまちゅうごくからゆずりうけたときがいる。」
まぁこいつはほんものの『とき』だがな、と呟きながら雪が解説してくれる。
「まぁ私の仲間だと思ってくれれば!」
令夢が笑顔で佐渡の足を掴んでぶら下げる。
恨みでもあるのだろうか。
「お、おー、仲間が増えるのは、良いことだ…」
「すまんな…俺様が不甲斐ないばかりに…」
「…なにしたのだおまえ……」
しばらく休憩を取ることにして各々が座り込む。
俺は襲撃のせいで見ることができないでいたスマホを取り出す。
電源をつけるとホーム画面が明るく光る。
電池のマークには『∞』と書かれている。
「うわヤバいこのスマホ欲しい…!」
パスワードは特にかけられていないようだが、セキュリティは大丈夫なのだろうか…
「でも、あまりアプリも入ってないな。」
時計、電卓、検索機能など基本的な機能は完備されているようだが、SNS系アプリは全て起動できなかった。電話も各都道府県のものしか入っていない。
「あぁ、これが見たかった。ステータス…」
『 ステータス
鈴水 修(17) 岩手県代表
固有能力 遊戯者(プレイヤー)
?????この能力は秘匿されています
チップ 12枚
技 南部鉄器 雪狐召喚
仲間
星野 令夢(17) 新潟県代表
固有能力 幸運 (ラッキー)
ありとあらゆることが自分の都合の良い
様に動く
チップ 23枚
技 米加工壱 朱鷺召喚 』
ステータスには俺ともう一つ、令夢のものも映っていた。
『固有能力』が何かは分からないが、令夢はとんでもない能力を持っているのではないかとぼんやり考える。
俺の不意打ちを避けた時も、襲撃で偶々餅が役立ったことも、幸運だったと考えると全てが収まる。
「…最近人気の主人公最強系か?」
脱線していく思考を引き戻し、『ランキング』と書かれている所をタップする。
『 ランキング
1、東京都代表 135枚
2、愛知県・岐阜県連合 95枚
3、神奈川県代表 91枚
| 』
「少ない県から奪うのが最短クリアか…やりたくないな…」
大都市から奪ってやるのがベストだが、俺達の戦力ではまだ勝てそうにない。
「まずこのゲーム、ハッピーエンドないんだが…」
ぶつぶつと呟きながら今後の作戦を地面に描きながら考える。
令夢は佐渡と雪を抱え込んで寝てしまっている。
佐渡と雪も温かいのか眠ってしまった。
「マルチバッドエンド、30人は絶対に犠牲になるゲーム。プレイヤーに勝ち目は、ない…
……クソゲーにも程があるだろ…」
死んでしまう30人に自分が入らないようにもがくしかない現状に苛つき、スマホを投げ出す。
寝てしまおうかと目を閉じようとした時、
スマホのバイブ音が耳に響いた。
(???)
岩手県代表 状態 正常
所持チップ 12枚(クリア不能)
現在地 月都南西部(東京世田谷区辺り)
固有能力 遊戯者
備考 新潟県と同盟を組む
岐阜県の襲撃から逃れる
システムバグを所持
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