第4話 襲撃

「う、うー…ん……」

血を見たことで失神してしまっていた女子が目を薄らと開けた。

「お?目、覚めた?」

俺は相手に攻撃の意思がなさそうなことを確認すると、そろそろと近寄った。

「あ、はい。ありがとうございます…」

先程まで殺し合いの寸前だったからか、全く会話が続かない。

ゆるゆると頭を振りながら周囲を確認している女子に向かって、考えていたことを提案することにした。

「なぁ、もし良ければ岩手県と同盟組まない?」


「???………?」

相手の目が点になってしまっている。俺の言うことが理解できないようだ。

「いやあの、岩手ってどれだけ頑張っても東京とかには多分勝てないから、そういうところに対抗する為に組みたいってだけで他意はなくてだな…!」

「…組ませてください」

はい?今なんと?

「…ぜひ!怖かったんです凄く!」

激しい勢いで食いついてきた。俺は了承の返事が得られたことにほっと息を吐くが、これからのパートナーとしてここまで警戒心がないのはどうだろうかというなんとも複雑な気持ちになる。

「じ、じゃあこれからよろしく…

 俺は、岩手県代表だけど、君は…?」

女子はいきなり正座すると綺麗な礼をして、

「新潟県代表の永野 令夢です、よろしくお願いします。」

こうして俺は初めての仲間を得た。


ぴゅるぴゅると俺の手から液状の金属が流れ出る。その金属は令夢の足に絡みついてその箇所をかっちりと固定した。

「……なんで気絶する時に捻挫するんだよ…」

「すみません!」

青く腫れてきた足首から視線を外し、彼女の顔を見上げ、はぁとため息を吐く。

「あと、その敬語、お互いやめておこう」

「わかりま…違う、わかった!」

「…よし!これで怪我の手当も済んだし、行くか」

「行こう…っ…やめよう…」

いきなり顔を青ざめさせた令夢が首を振った。

「…え?」

「なんだか…嫌な感じがする…」

そしてきょろきょろと周囲を見まわして、ふいっと上を向いた。

「あ…」

それにつられて俺も月の浮かぶ頭上を見上げる。

眩く光る青白い月光の中に小さな黒い影。

その影はだんだん大きくなる。

「なんだよあれ…?」

その影は人型をしていて、なんだか光る物を持っている。

その影が十分に落下してきて、俺の目に


返り血に塗れたナイフを構える少女が映った。


「っ!逃げろ!!!」

側にいた令夢の手を引っ掴んで走り出す。

月の光の届かない路地を駆ける。

背後から爆弾とそう変わらない着地音が聞こえてきた。

手を掴んで引っ張っている令夢が引きずられる感覚が伝わるのを無視して力任せに引っ張る。

後ろをちらと振り向くと、鬼神の如く追いかけてきている返り血に染まった姿が見えた。

あれは、先程映っていた少女だろう。

暗闇の中でもギラギラと短刀が光っている。

俺の息はどんどん上がっていき、足を痛めている令夢は苦しげに呻くようになっているのに対して、

少女の動きは軽やかなまま、距離ばかりが縮まる。

(何かないか何か⁉︎打開策…!!)

(鉄で障壁を作る⁉︎そんな大量に出せない…!)

(何か逃げる方法!!…令夢は⁉︎)

「おい!何か!何か出せないのか⁉︎」

一歩後ろをついてくる令夢に必死に叫ぶ。

「え⁉︎新潟は…!米とトキくらいしか…!!」

ぜいぜいと掠れた声の応答。

しかし今は…

「上等だ!米って加工できるよな⁉︎」

「餅だ!柔らかくてとりもちみたいな餅をぶちまけてやれ!!」

無茶苦茶な作戦だが、やってみるしかない。

「え⁉︎えええええ……⁉︎」

「何だ⁉︎できないのか⁉︎」

「いや、食べ物を粗末にするのは…」

予想の斜め上の回答に転びそうになる。

「そこかよ!つーか言ってる場合じゃないだろ!」

もういい、貸せ!と構築された餅を奪い取る。

ずっしりほかほか、全殺しではあるが米の弾力のある感触、なんとも美味しそうな餅が手に収まる。

「後で食べさせろよ!」

餅を血塗れ少女に向かって投げつける。

少女はそれを短刀で切り裂こうとしたが、ずっしりとした餅を受けた瞬間、重さに耐えられず、短刀が弾き飛ばされた。

怯んだ隙に少しだけ距離が開く。

「よし!この調子で…!」

もう一つ先ほどより強く投げた餅が、少女に迫る。


しかし、少女は超人的な動きでそれを回避した。


その手に禍々しいナイフがポリゴンと共に構築される。

ぽこぽこぽこぽこ…

無限に生み出され続ける餅を壁の僅かな隙間や動いていない室外機を壊しながら蹴り、徐々に迫ってくる。

「…壁ジャンとかチートかよ!!!」

叫びながら餅を投げるが、全く当たらない。

餅が数え切れないほど転がるが、超人的な速度で動き回る少女には当たらなかった。

「もう…いい加減に…してっ!!!!」

突然大音量で叫んだか、と思うと、へろへろと令夢の投げた餅が少女に向かった。

「はぁ⁉︎当たるわけ…」


餅を易々と避けようとした少女の足に餅の山から転がり出た1つが絡みつき、

幸運なことに、そのまま少女は餅の山に頭から突っ込んだ。


少女の埋まった餅の山がうごうごと伸縮している。

鋭利なナイフでもしっかりとつかれた餅には刺さっても動かせないようで、少女は抜け出せずにいる。

「この隙に行こう…!」

そして俺たちは暗闇の中に走り去ったのだった…

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