第40話 北村香苗の伯父
あれから、一週間が経過して俺達は何事も無くいつもの日常を過ごしていた。ちなみに、あの後は長谷川さんを森さんと同じ病院に預けた事で今では二人とも体調を取り戻しているとの事だった。
「お、武尊じゃん。おはよう」
「あぉ、友美か。おはよう」
そして、俺はそんな事を思い出しながら通学中に友美と出会った。俺らは、学校に復帰してから最初はクラスメイトに質問攻めされる日々を過ごしていたが、今ではかなり落ち着いてきている。
「そう言えば、今日は学校の創立記念日だから午後の授業は楽だよね」
「確かに、今日はそうだったな。確か、体育館で誰かの話を聞かなくちゃいけないんだよな」
俺は、友美に言われて今日の事を思い出していた。今日は、俺らの学校の創立記念日と言う日らしいので誰かお偉いさんが来て全校生徒の前で何か話す事になっていた。
「誰が来るんだろうな」
「そんなの、どうでも良いに決まってるだろ」
「確かに」
そして、俺達は学校に着いて午前授業や昼の時間を共に楽しく過ごした。それから、午後の授業になったので体育館に集まって誰かの話を二時間も聞く事になった。
「北村、今日は誰が来るのか知ってたりするのか?」
「私の伯父よ」
「え、あ、は!?」
俺は、北村が隣に座っていたので何となく誰なのかを質問した。すると、北村は自分の伯父が来る事を知っており、それを俺に包み隠さずに伝えてきたので思わず驚いてしまった。
「何でお前の伯父が来るんだよ? てか、それを知ってて今まで黙ってたんだよ?」
「やっとよ」
「は? な、何がだよ?」
「やっと、言える時が来たのよ」
俺は、北村が少しだけ笑みを浮かべているのを見て違和感を覚えた。そして、俺は北村の伯父である北村宗次郎が本当に出てきた事に少しだけ震えを感じた。
それから、北村の伯父の講演が終わって教室に戻った所で北村から帰りは友美と二人で接待室に来て欲しいと言われた。俺は、その時になって北村が笑みを浮かべていた意味を理解できた。
そして、帰りのHRも終わったので北村に呼ばれて友美と三人で接待室に入った。すると、そこには校長先生と北村宗次郎の二人が現れて待っている素振りを見せてきた。
「待っていたぞ、香苗」
「伯父様、お待たせしました。この子達が、私の言っていた子達です」
北村の伯父は、北村が俺らの事を紹介してきた事に反応して俺らに近寄ってきた。俺は、伯父さんの圧力に屈しながらも頑張って自分から名乗り上げた。
「初めましてだな、平本武尊君。それと、塚田友美さんだったかな?」
「はい、初めまして」
俺は、自分よりも高い身長に整った顔立ちと太い声をした北村の伯父さんを見て奥歯を噛む程に緊張してきた。しかし、隣に居る友美だけは何故か落ち着いた雰囲気を醸し出していたので余計に緊張感が増してきてしまった。
「さぉ、三人とも座りなさい」
それから、俺らは北村の伯父に勧められて客室用のソファに腰をかける事になり、俺は友美と北村に挟まれている真ん中の位置に座る事になった。
「さてと、早速だけど本題に入ろうか」
すると、北村の伯父は鬼の様なオーラを発しながら俺と友美に用件を言い出した。それは、俺らが男女平等ゲームの運営委員会に就職するにあたっての事だった。
「もし、君達が香苗の通りにすると言うのならここの学校では無くて別の学校に編入して貰わなくてはならない」
北村の伯父によると、今の学校は学力的には真ん中辺りの平凡な学校なのでこの学校よりもかなり学力が高い学校に編入して貰うとの事だった。しかし、編入試験は伯父さんのコネを使って無しになるそうだ。
「まぁ、せっかくこの学校で友達が出来たのに急に寂しくなるのは気が引けると思うから編入に関してはいつでも構わない。半年後でも構わないし一年後でも構わない」
俺は、伯父さんの提案にどうやって答えようか迷っていた。しかも、行く事が前提となっているので余計に迷いが増していた。しかし、俺は北村と約束している大事な事なのですぐに決められなかった。
「すみません。すぐには、決められないと思うので三人で話し合いたいのですが……」
「すまないが、これに関してはすぐに決めて貰いたい。私にも時間と言う物があるからね」
「分かりました。なら、明日からでも構いません」
「ん? 明日でも良いのか?」
「はい。僕の事を気遣って頂きまして誠にありがとうございます。でも、僕は大丈夫です」
「私も、武尊がそう言うなら大丈夫です」
「そうか、二人がそう言ってくれるのは凄く有難い。だけど、親御さんにはまだ話さないで欲しい」
そして、伯父さんは後の事は北村に話させると俺らに伝えて校長と部屋を出て行った。そして、先程まで無言だった北村が俺らの方に向いて口を開いた。
「いきなりの事でごめんなさいね」
「全く本当だよな」
「北村さん、それより今まで黙ってた事聞いて良いんだよね?」
「えぇ、そうね。全部話すわ」
北村は、伯父さんの許可が降りるまで何も喋る事ができなかった。しかし、北村はやっと今日から許可が降りたので安心したかの様に今まで黙っていた事を話そうとしてくれた。
「まず最初に、あの人は私の伯父で北村宗次郎って言う政治家の人なの」
「せ、政治家か……。だから、あんなに自信満々だったんだな」
北村によると、伯父さんは今の総理大臣である
「だからこそ、武尊君と会うのも少し時間が掛かっちゃったのよ」
「やっぱり、立場を確立する為にも慎重になるんだろな」
俺は、北村の伯父さんが俺らと会うのも時間を掛けたり俺らの親にはこの事を話してはいけなかったりで大変だなと感じていた。だからこそ、北村は伯父さんに合わせなくてはならないのでプレッシャーを感じているのだと我ながら感じていた。
「取り敢えず、伯父さんの事は分かった。と言う事は園崎奏太や嶺城慶太も伯父さんの支持者って言ってたから政治家の息子なのか?」
「嶺城家は違うわね。だけど、園崎家はあってるわよ」
「北村さん、そう言えば嶺城慶太はどうなったの?」
「嶺城さんは、もう亡くなってる事になってるわ」
「ん、どう言う意味だ? 死んでは無かったのか?」
嶺城慶太は、妻の菜々子と共に海に飛び降りた後に菜々子を殺したそうだ。そして、川添と赤坂の三人で行方を暗ましたそうだ。
「え? 殺したのか? てか、嶺城は何がしたかったんだよ?」
北村によると、嶺城慶太は菜々子と結婚してからは毎日が奴隷の様に菜々子からのモラハラを受けてきた。そして、父親からも次期会長としての圧がかかっていた。
「あの人は、昔みたいに不良グループと連んで自由にしたかったらしいのよ」
「なるほどな。だから、三人で自由に生きる事にしたんだ」
「だけど、わざわざ長谷川さんを利用する必要なかったんじゃ無いの?」
「何かきっかけが欲しかったのよ」
「だからなのか……。ちょっと気に食わねぇけど嶺城会に見つからない様に暮らしてると良いな」
「そうね。一応、伯父様が嶺城会と穏便に済ませる為に手筈を整えてくれてるからバレる心配は無いと思うわ」
「そうか。まぁ、色々話したい事は沢山あるけど、取り敢えずここから出ようぜ」
「そうね。聞きたい事があったらいつでも話すわ」
こうして、俺らはお互いにスッキリした気分で接待室を後にした。そして、伯父さんから連絡が来るまではどうなるか分からないけど、取り敢えず至難を乗り越えた気分を感じる事ができた。
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