第39話 決戦

 それから、俺達は北村の使用人の車で嶺城家が保有している海沿いの廃工場へと迎った。北村は、何も言わずに変な所へと行かせるので騙されている気分で居たが、今回ばかりはそうは言ってられない状態であった。何故なら、本当に廃工場らしき場所に着いたからだ。


「ここが、長谷川さんが居る場所なのか?」


「そうよ。それに、相手方もお待ちかねみたいね」


 すると、廃工場らしき建物の扉から赤坂美智子と川添龍之信の二人が出て来た。そして、北村と使用人は走りながら攻め込んで行ったので俺と友美は唖然としていた。


「武尊君! 早く行きなさい!」


「お、おう!」


 俺は、北村に叫ばれながら注意された事でどんな事態なのか少しだけ把握した。なので、俺は友美を連れて長谷川さんの所へと走った。


「行かせるか!!」


 すると、川添龍之信が動きを止めていた北村を振り払って俺の後を着けて来た。しかし、今度は友美が川添の相手をして俺を行かせる様にしてくれた。


「武尊、長谷川さんを頼んだよ」


「あぁ、分かった」


 俺は、友美達の想いを受け止めて長谷川さんを探す事にした。そして、俺は目の前にある奥の部屋に入った。すると、そこには全裸で壁に貼り付け状態になりながら気絶している長谷川さんと嶺城夫婦が居た。


「よぉ……。やっと来たか」


 嶺城慶太は、俺の顔を見ると手に持っていた鉄の棒を引き摺りながら迎って来た。俺は、嶺城慶太が攻撃を仕掛けてくる様な形相をしていたのですぐに受け身の体勢を取った。


「うぐっ!?」


「ふははっ! 何で避けないんだよ。面白く無いじゃねぇか」


 俺は、嶺城慶太の攻撃が右腕に強打したので抑えながら距離を取ったが、嶺城慶太はやる気満々で俺に攻撃を仕掛けてきた。なので、俺は避けながらも長谷川さんに近寄った。


「来るな!」


 すると、ずっと様子を見ていた嶺城菜々子が銃口を俺に向けてきた。俺は、その事に驚いて身体を動かす事ができなかった。そして、嶺城慶太は笑いながら嶺城菜々子の隣に立った。


「こいつは、俺の妻だ。スゲェだろ?」


「あぁ、心の腐り具合がハンパねぇな」


「はぁ? お前舐めてんのか?」


「そうだね、慶太。この子がどう言う立場なのか分からせないとね」


「あぁ、そう言う事だ」


 すると、嶺城慶太は俺に近寄って鉄の棒を振りかぶってきた。俺は、それに反応して即座に避け切れたが、今度は嶺城菜々子が銃を発砲してきた。


「あ、危ねぇ!?」


「ふははっ! 菜々子はな、昔は警察学校で銃の訓練をしていたんだ」


「そうだよ。だから、貴方の急所なんてすぐに撃てるんだからね」


 俺は、菜々子の銃の技術に身体が勝手に敬遠しているかの様に震えを感じた。しかし、北村が銃の発砲音を聴いて駆け着けて来てくれたので少しだけ安心した。


「嶺城菜々子さん、貴方と話し合いがしたいのだけれど」


「もしかして、この私を堕として銃を取り上げようとしてるでしょ?」


「そうよ。でも、それよりも貴方達二人が居るから聴いて欲しいのよ」


 北村は、そう言って嶺城慶太の前で嶺城菜々子が高宮梢の旦那と不倫している事を躊躇なく暴露した。嶺城菜々子は、旦那の前だからなのか慌てていた。


「け、慶太!? 違うの!? これはね誤解であって、本当は……」


「ふははっ! やっとか!? やっとこの時が来たのかよ!?」


 嶺城慶太は、自分の妻が不倫している情報を耳にした途端に笑いながら取り乱していた。しかし、それは溜め込んでいた不満が爆発しているかの様に見えた。


「け、慶太……?」


「菜々子、俺は知ってんだ。お前が、俺に隠れて梢の旦那と不倫している事をよ」


「え、いや、私は、そんな不倫だなんて……」


「菜々子、誤魔化さなくて良いんだ。俺は、お前さえ居てくれればそれで良い」


「え、ちょ!? 何をするのよ慶太!?」


 嶺城慶太は、妻である菜々子に抱きつきながら奥にある窓へと迎って行った。しかし、菜々子は何事なのか訳が分からなさそうにしていたが、それでも嶺城慶太は関係無く開いている窓へと押して迎っていた。


「け、慶太、い、いやぁー!!」


「え、ちょ、おい!?」


 すると、嶺城慶太は妻の菜々子と共に開いている窓から飛び降りるかの様に消え去った。俺らは、いきなりの事で絶句しながらもその窓へと駆け寄った。しかし、そこは崖からの海になっていたので溺れて行く二人を眺める事になってしまった。


「そう言えば、ここって海沿いだったな」


「そうね。それよりも、あの人があんな簡単にボロを出すとは滑稽ね」


 北村は、菜々子の事を見下しながら長谷川さんに縛られている縄を解こうとしていた。しかし、俺はそれどころでは無いと思ったのであの二人を救出する事を北村に促した。


「何を言ってるのかしら? あれは、嶺城慶太が望んだ事なのよ」


「で、でもよ、嶺城菜々子はそんな風には見えなかったぞ?」


「そりゃそうでしょうね。あの人は、自分が大好きなんだから」


 北村は、嶺城慶太が何であの様な事を望んでいたのかを知っていた。しかし、北村はそれについて詳しく教えてくれなかった。俺は、色々と気になって仕方ない気持ちを堪えながら長谷川さんの救出を手伝った。


 そして、近くにあるボロ布で長谷川さんの身体に巻き付けて北村の車へと運んだ。すると、友美と使用人は川添と赤坂の二人を気絶させていた。


「おぉ、武尊! 長谷川さんの救出に成功したのか? すげぇな!」


「あ、あぁ、それはな、嶺城夫婦は飛び降りたからな」


「ん? どう言う意味だ?」


 俺は、嶺城慶太が菜々子と一緒に海の方へと飛び降りた事を報告した。だからこそ、長谷川さんの救出に成功したのだが、何故か俺はスッキリできなかった。


「そ、そうか……。北村さん、本当にそれで良いのか?」


「そうね。少なからず、嶺城慶太が望んでいた事だからね。それに、夫婦の問題に私達が干渉する必要は無いわよ」


「何だそれ。北村さんは、いっつもそうやって誤魔化してるよな」


「ごめんなさいね。今は、まだ何も言えないのよ」


 北村は、友美に言われて少し落ち込んだ様子だったが、何かに縛られているかの様に何も言えずに車の中へと入って行った。俺は、北村が何か言いたそうにしているのを感じ取りながらも長谷川さんを車の中へと運んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る