第38話 不倫

 それから、俺達は長谷川さんが居る廃工場へと迎っていた。北村は、嶺城慶太と話し合いで解決する為に次の計画を考えていた。だが、相変わらず詳しく教えてくれないので俺は少し気疲れを感じていた。


「さてと、次の作戦に行くわよ」


「次って、何処だよ?」


「まぁ、黙って着いて来たら分かるわよ」


「また、このパターンかよ」


 こうして、俺らは北村に振り回されながら次の指定場所である高宮の旦那が居る仕事場へと迎った。そこは、有名なIT企業の本社が構えているビルだった。


「ここが、高宮さんの不倫相手が居る場所よ」


「すげぇ場所だな」


「あのね、腑抜けた事言ってないで早く行くわよ」


「お、おう」


 俺は、不貞腐れながらも北村の後を着いて行った。北村は、移動中に高宮の旦那と面談できる様に許可を事前に得ていた。なので、今回もスムーズに面談できた事に驚いていた。


「初めまして、北村香苗と言います」


「あ、はい、初めまして。私は、高宮大輝たかみやだいきと言います」


「いえ、名刺は結構ですよ」


「は、はぁ……」


 俺は、高宮の旦那が何で初対面の俺らと面談になったのか不思議に感じているのを見ていて分かった。それに、北村は高宮の旦那が律儀に出した名刺を否定していたのを見て心の中では荒れているのだろうと分かった。


「高宮大輝さんに、少し見て貰いたいのがありましてね」


 北村は、そう言いながら高宮梢にも見せた嶺城菜々子が不倫している写真を高宮の旦那にも見せた。すると、高宮の旦那は顔色を変えながら俺らの事を聞いてきた。


「私は、ただ貴方が嶺城菜々子の事を本当に愛しているのかを聞きに来ただけです」


「い、いきなり、何ですか!?」


「良いから答えて下さい。それとも、北村宗次郎きたむらそうじろうの名前を出した方が良いかしら?」


「き、北村、宗次郎って? まさか、あの有名な……」


「えぇ、そうですけど?」


 高宮の旦那は、北村の伯父の名前を聞いた途端に素直になって答え始めた。それは、本当に嶺城菜々子と不倫している事と成り行きで始まっているので遊びである事の二つを語ってくれた。


「へぇ〜、女遊びだったんだね」


「あ、あぁ、そうだ。だから、浮気では無いんだ。許してくれ」


「絶対に嫌だわ。女遊びが火遊びよりも危険だと言う事を教えてあげるわ」


 北村は、自分の携帯をポケットから取り出して本人に差し出した。すると、その携帯から高宮梢の声が聞こえてきたので高宮の旦那の顔が青くなった。


「こ、梢……?」


「貴方、家に帰ったら本当の事を全部話して」


「あ、あぁ、すまない」


 こうして、北村が繋いでいた高宮梢との電話が切れた。そして、高宮の旦那は床に膝がつく程に崩れ落ちてしまった。北村は、その光景を見て追い討ちをかけるかの様に高宮の旦那を罵り出した。


「ふふふ。これから、貴方の人生がどうなるか楽しみだわ」


「な、なぁ、頼むよ。どうか、梢にも償うと言うから仕事だけは支障が無い様にしてくれ」


「全く、反省が足りて無いわね」


 北村は、懸命に縋り付く高宮の旦那に呆れながら今度は武林に電話をかけ始めていた。そして、武林の声は聞こえなくとも前から計画を立てている事が分かる程の速さで何かを進めている様子だった。


「まぁ、貴方が反省しない限り仕事の復帰は難しわね」


「そ、そんな……」


 そして、北村はそう言いながら踵を返して行ったので俺らも着いて行った。すると、ここの社員らしき人物が俺らの横を過ぎ去った後に高宮の旦那に大声で怒鳴っていた。


「うわぁ、なんか怒られてるぞ?」


「えぇ、自業自得ってとこかしらね」


「てか、何をしたんだよ?」


 俺は、北村が何をしたのか北村に質問したけど無視された。しかし、武林に電話して高宮の旦那が困る様な情報を流した事だけは確信できていた。


「なぁ、北村さん。貴方が、何をしたのか知らないけど隠してばっかりでは割に合わないんじゃないかな?」


 すると、俺の隣で今まで黙っていた友美が北村に物申してくれた。北村は、それを聞いて理解したのか顔色が少し変わった。


「高宮大輝って、週刊誌に載る程の有名な人なのよ。それに、妻は記者の人間だからそれなりに人付き合いは大切にしないと駄目なのよ」


「そうか! なら、北村はあいつの不倫を世間にバラしたんだな!」


「ちょっと違うわね。正式には、別の用件を晒しただけなのだけどね」


 北村は、高宮大輝と嶺城菜々子の不倫の件とは別に高宮大輝が会社の金を横領していた件をネットに晒した。だから、会社員の人が高宮大輝に怒っていたのだと北村は説明した。


「そう言う事だったんだな。でもよ、もうそろそろ俺達に何が目的なのか話して欲しいな」


「そうね。でも、もう少しだけ待っててくれるかしら?」


 しかし、北村はまだ話したく無いと言って車の方へと迎った。俺らは、残念ながら北村が何をしたいのか全く理解できずに次の場所へと行く事になった。

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