第37話 記者になった理由

 それから、北村は車を運転している使用人にとある場所へと迎わせていた。そこは、俺が思っていた長谷川さんが監禁されている廃工場では無く高宮梢が働いている新聞社だった。


「何で、こんな所に来たんだ?」


「だから言ったわよ? 私には、最高の考えがあるってね」


 北村は、そう言って誤魔化しながら新聞社の中へと入って行った。しかも、北村はしっかりとその新聞社から許可を事前に得ており、スムーズに高宮梢との会談が許された。


「それで、私になんの用なの?」


「それは、高宮さんが一番分かってると思うのだけれど?」


 北村は、そう言いながら高宮に一枚の写真を見せた。その写真は、高宮の旦那と嶺城菜々子が渋谷区のラブホテルに入って行く時の写真だった。


「そこで、私と取引しないかしら?」


「な、何なのよ貴方は!? それに、うちの旦那があいつと不倫してたって言うの!?」


「えぇ、そうよ。これは、半年前の写真でつい最近だと高宮さんがゲームに参加する二日前ぐらいにも同じ場所で見かけてるわ」


 北村は、高宮が取り乱す情報を躊躇なく見せつける事で冷静さを失わせようとしていた。そして、高宮はまんまと取り乱していたので駆け引きできる技量を持ち合わせていない事が一目で分かった。


「これは嘘よ!? 貴方達は、長谷川を助けたいからこんな嘘を作りあげたんでしょ!?」


「高宮さんって、人のプライベートにはズカズカ勝手に入って調べる癖に自分がやられると信じられない程に取り乱すのね。滑稽だわ」


 それから、北村は嘲笑うかの様に高宮が理不尽に書き上げた記事を複数枚読み上げた。それは、被害者女性支援団体が不正をした事を隠蔽する為の記事や有名女優が不倫した事を告訴した旦那への悪口を書いた記事などだった。


「やめてぇー!!」


「本当、貴方みたいな記者って脆いのね」


 俺は、北村が容赦無く泣き落とす光景を見て何も考えられなかった。そして、北村は泣き崩れる高宮の事を気にする事無く次の話題へと移った。


「そこで、貴方が恨んでる嶺城菜々子の秘密が欲しいのだけれど応じてくれるかしら?」


「な、なによ……。いつ、私があの人を恨んでるって言うのよ」


「ふふふ。ごめんなさいね、私は貴方達よりも情報収集能力に長けてるのよ」


 すると、北村は自分のポケットからもう一枚の写真を取り出して高宮に見せた。それは、高宮の幼馴染であるクラスメイトが元気に写っている写真だった。この人は、長谷川さんが不登校になってから新しく虐めの標的になってしまった安田花凛やすだかりんと言う女性だった。


「なんで、花凛の事を……?」


「それはね、貴方の当時のクラスを調べさせて貰ったからよ。その時、嶺城菜々子の虐めによって苦しめられた人がもう一人居た事に気付いたのよ」


 高宮は、北村にその子の事を聞かれて素直に答え始めた。安田さんと言う女性は、高宮と保育園の頃から友達として仲良くしており、高校まで一緒に暮らしていた。


 しかし、虐めがエスカレートして長谷川さんが不登校になった一ヶ月後に嶺城菜々子は安田さんの内気な性格が気に食わなくなってきてしまい、自然と虐めの標的になってしまった。


「だけど、怖くて助けられなかった……。菜々子はね、クラスの番長として居座ってたから私は菜々子に抗えなかったの……」


「貴方は、そうやって人のせいにして来たのよね?」


「へ……?」


「だって、そうでしょ? 嶺城菜々子が怖かったからとか長谷川さんが不登校になったのが原因だとか、ね?」


「ち、違うわよ! 私は、本当に怖くて助けられなかったの。それでも、花凛の事が心配だったから菜々子に隠れて相談に乗ってたの」


「だけど、嶺城菜々子はそれを見逃さなかったのよね?」


「えぇ、そうよ。あいつは、私達が陰で仲良くしている事を誰かに聞いたんでしょうね。いきなり、私の手で花凛を虐めろって言って来たのよ」


「だけど、それが原因で安田さんとは疎遠になってしまったのよね?」


「そうよ。私が、変にあいつの事を怖がってたからよ」


「そう言う事よ。やっと気付いたのね」


 北村は、人のせいばかりにして本当の事から背けていた高宮が自分のせいだと辿り着いた事に褒め称えていた。確かに、俺も人のせいにし過ぎているのが目立っていたのでそれだけ幼馴染の事が大切に思っていたのだと感じた。


「ごめんなさい……。私が、私が、あいつに勝てなかったせいで……」


 高宮は、安田さんの事を思い出しながら自分の失敗を悔やんでいた。そして、北村は高宮を励ます様に肩に手を置いて安田さんが写っている写真を高宮に渡した。


「でもね、安田花凛さんはプロダンサーを目指す為にアメリカに留学して元気にやってるわ」


「そう……。本当に、良かった」


「ふふふ。でも、貴方は安田花凛さんが何をしているのか知る為に記者になったんでしょ?」


「そうだったわね……。私は、すっかり忘れてたわ」


 高宮は、安田さんと疎遠になって連絡が繋がらなくなった事をきっかけに記者になって安田さんの情報を集める事を決意した。しかし、現実はそんな暇が無く他の事に追われる日々になってしまい、安田さんの事は後回しになっていたとの事だった。


 しかし、北村は安田さんが虐めから立ち上がって自分の夢に向かっている事を高宮に優しく告げた。高宮は、安心したのか泣き止もうとしながら北村に協力する事を約束してくれた。


 それから、俺達は高宮から嶺城菜々子に関する情報を集める事に成功した。そして、俺達は高宮といつでも連絡ができる様に連絡先を交換して共に嶺城菜々子を潰す計画を始める事に成功した。

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