第36話 救出作戦(後編)

 そして、北村が園崎家のインターフォンを鳴らすとすぐに扉が開いて江頭が出てきて案内してきた。なので、俺らは驚きながらも中に入ると和装をした園崎奏太と山路晃誠が玄関の前で佇んでいた。


「お待ちしてましたよ。北村香苗さん」


「こちらこそ、お待たせして申し訳ありませんね。園崎奏太さん」


 俺は、北村が園崎と睨み合いながら挨拶をしているのを見て動揺が増してきた。そして、園崎は俺達を連れて森さんが居る例の場所へと案内すると伝えてきたので俺らは園崎の後ろに着いて行った。


「ここが例の場所だよ」


「これが、シェルターなのか……?」


 園崎は、頑丈で体育倉庫みたいな大きめの建物をしたシェルターを俺らに見せてきた。そして、森さんの様子が分かる様に監視カメラが中に設置されており、シェルターの隣には監視ビデオが設置されていた。


「それで、本当に森さんを返してくれるのでしょうね?」


「えぇ、返しますよ。ただ、一つだけ条件がありますけどね」


 その条件とは、今回の一連の流れを世間にバラさない事だった。園崎は、このゲームで森さんを苦しめたり山路の前で土下座をさせたりした事で満足しているとの事だった。


 しかし、森さんが園崎から解放された事で後から誰かに報告するのでは無いかと園崎は警戒していた。なので、北村に森さんが警察や公の場でこの事を暴露しないか見張ってて欲しいと要求を出してきた。


「勿論、この事は私達が協力して口外させない事を約束します」


「はぁ!? 何言ってんだよ!?」


「そ、そうだよ!? 北村さんは、森さんが傷付けられてるのに無言で返すのかよ!?」


 俺は、友美と共に北村が園崎の要件を反論せずに受け入れた事に怒りをぶつけた。だが、北村は森さんに対して同情してはいけないと言ってきて訳が分からなくなった。


「彼女はね、山路さんや複数の男性を騙してきたのよ。それに、男女平等と言う意味を分かってないのよ」


「北村さんは、物分かりが早いね。つまり、晃くんは森渚沙の被害者なんだよ」


「それにしても、やり方が間違ってるとしか言えねぇんだよ」


「そうね、連れ去り事件として報告されても仕方無いわね。それに、もう少し違うやり方もあるのかもしれないわね」


「いや、やり方は間違えて無いよ。だって、森渚沙も加害者なんだからね」


 園崎によると、森さんは同意の上で恋人になった振りをして男性と肉体関係を持った直後に無理やり彼女にされて襲われたと周りに捏造していた。


「森渚沙の場合はね、まだ立て直しが効くと思うけど森渚沙に騙された男性の殆どは耐え切れずに自殺へと追い込まれてるんだよね」


 俺は、森さんの過去を聞いて何も言い返せなくなった。それに、園崎は俺らが疑わない様にしっかりと証拠も残してあるそうなので余計に反論できなかった。


「取り敢えず、本人に会わせるよ」


 園崎は、そう言って目の前のシェルターのドアを開けた。すると、鬱状態である事が一目で分かる様な表情をしている森さんが壁に背中を付けて寝そべっていた。


「森さん、大丈夫か!?」


 俺は、すぐさま森さんに駆け付けて肩を摩りながら声をかけた。しかし、森さんは硬直状態で反応が無かったが、息はしているので死んではいなかった事に少しだけ報われた気持ちになった。


「なぁ、この鎖は外されるのか?」


「そうだね。江頭さん、外してやって」


「分かりました」


 すると、江頭は森さんの右腕に縛られていた鎖を解く為に鍵を取り出して施錠を解いた。そして、江頭と福永の二人が北村の車まで森さんを運んで行った。


「ねぇ、君は平本武尊と言ったよね?」


「そうだけど?」


「最後に忠告しておくよ。これから、北村家にお世話になるなら主従関係はしっかりしておいた方が良いよ。それに、森さんはただ自分の行いが返ってきただけだから自業自得だよ」


「そうだな。だけど、いずれお前らもやった行いは必ず返ってくるからな。あぁ、今から楽しみが増えたぜ」


「そうだね。君達が、どうなるか陰で見守ってあげなくちゃね」


 俺らは、そう言った後に苛立ちを園崎に見せながら踵を返した。北村からは、少し控えめにしろと小声で注意を受けたが、俺の内心はそれどころでは無かった。それに、園崎も俺の言葉に少し敏感になっていたので言った甲斐があったと思い込む事にした。


 それから、俺達は森さんを連れて北村家が運営している都内の病院へと迎った。そして、森さんを病院に預けて最後に長谷川さんを救出する事になった。


「後は、長谷川さんだけか……」


「武尊君、その前に何か言う事あるでしょ?」


「え? 俺、なんかしたっけ?」


「はぁ……。あのね、さっき園崎奏太さんにとんでもない事を言ってたでしょ」


「あ、あれか? あれはだな、ただむかついてしまったからと言うか、何と言うか……」


「気持ちはわかるけど、程々にしてくれるかしら?」


「あぁ、ごめん」


 北村は、俺らが存続するには園崎家の力が必要である事を実感していた。しかし、北村も園崎のやり方に苛立ちを感じていたそうだ。なので、俺は北村も同じ気持ちだった事に安心感が募ってきた。


「北村さん、それで長谷川さんはどうやって助けるの?」


「そうね。この人達は、話し合いだけでは通じなさそうわね」


 北村は、嶺城慶太の素行の悪さを前持って知っていたので長谷川さんに同情していた。それに、北村が一番に警戒していたのは嶺城の妻である嶺城菜々子みねしろななこと言う存在であった。


「確かに、長谷川さんはそいつに目をつけられた事が原因で虐めに発展したんだよな」


「そうよ。それに、彼女は一流ホテルの社長を務めてるからね。ある程度の事は権力でねじ伏せれるのよ」


「そうだよな。それに、長谷川さんを苦しめておいて自分達だけは幸せな気分を味わってるのは可笑しいと思うんだよな」


 俺は、自分達だけ幸せな人生を送っている嶺城達の事が許せずには居られなかった。しかし、それは北村も同じ事を思っているとの事だった。


「でもね、私には最高の考えがあるわ」


「それって、どんな考えなんだよ?」


「それは、私に黙って着いて来たら分かるわ」


 北村は、不気味な微笑みを俺と友美に向けながら車に乗った。俺は、北村がどんな考えをしているのかは分からないが、取り敢えずは長谷川さんを助ける為の作戦だと言う事だけは把握できた。そして、俺らも車に乗って長谷川さんが監禁されている廃工場へと迎った。

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