第30.5話 スパイ生活

 それから、牧野は川添達に誘われて敵地に足を踏み入れた。敵地では、嶺城慶太が率いるチーム・グリーンと山路晃誠が率いるチーム・イエローが一緒に居た。


「あれ? 牧野君が本当に来たよ」


 園崎は、自身から嶺城達と組んで平本武尊のチームを潰す提案をしていた。そして、それが叶った事で今度は次の作戦として北村香苗を裏切れる理由を持っている牧野隆史をチームに招き入れる事を企んでいた。


「園崎さんよ、あんたの計画通り牧野隆史を連れて来たぞ」


「ご苦労様。牧野君、こっち来て」


 園崎は、山路の片腕を握りながら牧野を自身の近くへと誘導した。牧野は、嶺城と同じチームである高宮梢が記者である事を利用して嘘情報を流したのだ。そして、それに騙された高宮は嶺城と園崎に報告をした。


「さてと、裏切り者の牧野君は僕達のチームに入るって事で良いよね?」


「勿論だ。俺は、北村を最初から裏切る為に参加したんだ」


「そうなんだね。なら、今頃は北村さん達も大騒ぎをしてる所だよ」


 牧野は、北村と打ち合わせをしている内容を園崎にも話した。この内容は、どんなに個人情報を探られても不思議な点は一つも見当たらない様にしていた。


「そうなんだ。その女の子、お気の毒だね」


「しかも、あいつはその子が死んだ後も存在を隠蔽したり死体を雑に扱ったりしている」


「うわぁ、あの人ってそんな一面を持ってたんだね」


 園崎は、親身になって牧野の話を聞いた事で辻褄が合う事を把握した。なので、牧野は園崎にもバレる事は無くそのままチームへと入る事にした。


「取り敢えず、牧野君が仲間に加わったから次のイベントに向けて話し合おうよ」


 こうして、牧野は園崎に疑われる事が無く次の話へと進める事ができた。そして、次の話し合いは他の人達も混ざって最終イベントの事について触れる事となった。


 最後のイベントは、『チーム対抗戦争対決』と言ってどんな危機的状況でも男女で協力して戦場を駆け巡る事を目的としていた。そして、相手の基地や兵士を絵具弾が入った銃で倒して行くと言うルールになっている。


 ちなみに、絵具弾とはゴム弾よりも柔らかく作られており、対象物に当たると色の着いた液体が飛び散る仕組みになっていた。なので、絵具弾によって痛みや怪我は全く無い様に運営委員会は設定している。


「僕が思うには、牧野君を先頭に攻め込む事を考えているよ」


「何でなんだ?」


「だって、牧野君の方が相手の事を理解できてるでしょ?」


「だが、相手がどうやって攻め込む作戦を立ててるのか分からない」


「大丈夫だよ。警戒しなきゃいけない人は武林って人だけだからね」


 園崎は、相手の事を理解している牧野を先頭に福永と江頭と川添の四人で敵地に乗り込む事を提案した。牧野は、北村がどうやって攻めるかまでは話し合っていなかった。しかし、園崎はそんな事を気にしていなかった。


 何故なら、園崎は豊富な実践経験の持ち主である江頭と福永の二人に対して警戒すべき相手は武林隣太郎だけだと考えているからだ。そして、相手よりも自身達の方が前線で戦えるメンバーが多いので強みをかんじている。


「それに、牧野君には自分の手で復讐を果たして欲しいからね」


「そうだな。心遣いに感謝する」


 そんな感じで、園崎は裏切った振りをしている牧野を仲間として受け入れた。そして、話し合いが終わってからは各々が自由に過ごしているので牧野は誰にも気付かれない様に北村にメールで報告した。


「あら? 牧野から連絡が来たわよ」


 北村は、牧野からの連絡に気付いて皆んなにも報告した。牧野からは、長文で次のイベントで園崎が考えた計画について書かれていた。なので、北村はそれを元に作戦を立てる話し合いを始めた。


「牧野は、本当に俺らの味方で居てくれてるんだな」


「だと良いんだけどね」


「何だよそれ。牧野は、スパイ能力に長けているって言ってたじゃないか?」


「そうよ。でも、相手が相手だから一筋縄ではいかなそうなのよ」


 北村は、相手の戦力を見て自身が圧倒的に不利である事を把握していた。何故なら、北村家の次に権力を持っている園崎家の長男である園崎奏太が居るからだ。なので、北村家の内部情報を探られている危険性が高いと判断した。


「これは、もうただのゲームじゃ無いのよ」


「もしかして、権力者同士の争いって奴か?」


「そんな生ぬるい話じゃないわね」


 北村は、園崎が権力を活用して牧野が言っている事が嘘である事を把握しているのでは無いかと警戒していた。そして、このゲームの結果次第では今後の事がどう言う風に変わるのかも悩んでいた。


「取り敢えず、攻め込むグループと守るグループに分けないといけないわね」


 北村は、相手の戦略を元にチームの構成を考えた。まずは、敵地に攻め込むグループとして武林と塚田友美の二人を選んだ。そして、残りのメンバーは拠点を守る事になった。


「え? 二人だけ?」


「そりゃそうでしょ。ただでさえ、牧野君があちら側に居るんだから守りは固めておかないといけないでしょ?」


 北村は、牧野がスパイとして敵側に居る以上は人員を削ぎたく無いと告げた。それに、武尊のチームは素人とも言える人達ばかりなので攻め込むには荷が重いと考えていた。


「それにね、このイベントの状況によって最終イベントの内容が変わってくるのよ」


「何だそれ?」


 その刹那、参加者全員の連絡用スマートフォンの画面からフェミニスト君が姿を現した。なので、武尊は誰よりも一番に驚いた姿を見せてしまった。フェミニスト君からは、サバイバルゲームが終了した報告と最終イベントの案内が言い渡された。


「んな!? 今は夜中だぞ!?」


「今日がこのゲームの最終日なんだから、こんな時間帯になるでしょうね」


 そして、サバイバルゲームの終了時間である夜の十時が過ぎたのでフェミニスト君によって最終イベントのルール説明が行われる事となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る