第30話 暗闇の中で

「やっと着いたな」


 それから、俺達は自分達の元拠点に着く事に成功した。俺らは、暗闇だったので思っていたよりも時間がかかってしまったが、大雨や強風は昼頃よりも落ち着いていた。


「うわぁ、食料はもう駄目かもな」


 そして、俺らは拠点道具と食料を持って帰ろうとした。しかし、食料は湿っていて食べれそうな感じでは無かった。なので、弁当を纏めて一つの袋に入れて捨てる事にした。


「よし、帰ろう」


 俺達は、重い荷物である拠点道具を三人で協力して持った。俺は、この行為こそが男女が関係なく協力して持つ事で男女の仲も深められるのだと感じた。


「あの、牧野さん」


「牧野で良いですよ」


「あ、はい。なら、牧野に一つ聞きたい事があるんですけど」


「敬語じゃなくて大丈夫です」


「あ、うん、分かった」


「それで、何でしょうか?」


 俺は、話せる雰囲気だったので牧野に一つ気になった事を問いかけた。それは、牧野と北村はどんな関係なのかと言う事だった。俺は、このゲームに参加している人達が家柄的に繋がっていると聞いていた。


 例えば、園崎奏太は園崎家を守る為に創られた江頭家と福永家の娘と繋がっていると北村から教わった。なので、北村も武林と牧野の家系から守られているのでは無いかと思った。しかし、牧野は北村家が監修している孤児院で育っているので両親は存在しないそうだ。


「実は、武林さんと小田部さんも同じ孤児院出身なんですよ」


 北村の場合は、孤児院の院長と仲が良いのでこのゲームに参加するに連れて孤児院の子供達からメンバーを選別していた。そして、牧野達は他にも居るメンバーから選ばれたのでこのゲームに参加しているそうだ。


「あいつとは、元々仲良かったのか?」


「はい。香苗様は、昔はいつも孤児院に弟と一緒に遊びに来てくれてましたよ」


 北村は、今でも孤児院に出向いては子供達と夜遅くまで遊んでいるそうだ。しかも、北村の父親は孤児院の院長と知り合いと言う事もあるので孤児院に出向く事ができるそうだ。


「でも、孤児院はいくつまで居れるんだ?」


「それは、18歳まですね」


 牧野は、小さい頃に両親が事故で亡くなった事がきっかけで東京都の足立区にある児童養護施設『北村園』と言う所で育ったそうだ。ちなみに、牧野達は来年が孤児院を卒業する年になるそうだ。


「そうなのか。なら、孤児院を出たら北村の元で働くのか?」


「はい。一応、そうなってます」


 牧野は、孤児院を出たらこのゲームの運営委員に就職して寮で暮らすそうだ。そして、武林と小田部も同じ様に人生の設計が完成されているとの事だった。


「なら、牧野と一緒に働く事になるんだな」


「そうですね。私は楽しみにしてますよ」


 牧野は、俺が友美と一緒に運営委員会に就職する事を間近で聞いていた。そして、牧野は俺と友美が一緒の職場になる事を楽しみにしていると俺らに伝えてくれた。


「そっかぁ。そんな言われると俺も楽しみになるな」


 俺は、北村達と協力関係までに発展できた事で少しずつ安心を取り戻せていた。それに、チーム・ブルーの存在が分かった事で今までに感じていた不安は完全に取り払われた。


「危ないっ!?」


「うわっ!?」


 すると、俺は牧野から急に肩を押されて拠点道具を手放してしまった。そして、その勢いのまま俺の背後に居る友美にも巻き込んでしまった。


「友美、すまない」


「あぁ、大丈夫だ。それより、何があったんだ?」


 俺らは、なんで牧野がそんな事をしたのか分からなかった。しかし、ふと近くの木を見ると拠点道具箱の中に入っていた薪割り用の斧が突き刺さっていた。


「ちっ! 外れたか」


「惜しかったですね。後もう少しだったんですけど」


 すると、草むらの方から江頭と川添の二人が現れた。俺らは、それを見て嶺城のチームと山路のチームが関係を結んだ事が判明した。そして、江頭と川添は俺らを殺す様な目で眺めながら近付いて来た。


「よぉ、元気にしてたか?」


「生憎、お前らのせいで元気には居られなかったよ」


「ふん。協力関係に結ばれたからって虚勢まで張らんでも良いだろ」


 川添は、俺が現在一位のチーム・ブルーと協力関係に結ばれているので強気で居る事に気付いていた。しかし、俺も川添達が協力関係を結んだ事で強気で居る様に感じた。


「もしかして、お前らも協力関係になったのか?」


「大正解だ。俺らは、チーム・レッドを潰す為にこのゲームに参加したんだからな。利害が一致してる者同士で組むのは不思議では無いだろうがよ」


 川添は、そう言いながら木に突き刺さった薪割り用の斧を引き離した。確かに、俺のチームには友美以外の三人が無理やりゲームに参加させられている。だからこそ、嶺城と山路は関係を築ける理由がある事に気付いた時には恐ろしさで頭がいっぱいになった。


「それよりさ、牧野隆史」


「なんだよ?」


「お前、北村に恨みでもあるらしいな?」


「え!? 嘘だろ!?」


 俺は、川添が牧野に対しての質問に思わず驚いて確認してしまった。しかし、牧野は動じる事なく微笑みながら俺らに北村に対しての恨みを語りだした。


「北村は、私にだけ態度が冷たいんですよ」


「は? 何だよそれ?」


 俺は、先程よりも牧野の目の色が死んでいる事に鳥肌が立ってしまった。しかし、牧野は小さい頃に好きだった女の子が北村によって自殺をしてしまった事を今でも恨んでいた。


「だけど、北村はその子を自殺に追い込んでも見て見ぬふりだったんだ」


 牧野は、その女の子を救えなかった自分が許せなくて悩んでいた。しかし、北村が気にする事なく普通に過ごしている事が何よりも許せなかったそうだ。


「とにかく、もう行くわ。牧野、着いてこい」


 すると、牧野は川添達に呼ばれて敵側に付く事にしたそうだ。俺は、牧野が裏切る事よりも北村が牧野を裏切る様な事をした事に苛立ちを覚えた。なので、俺らは牧野を追いかける事ができなかった。


 それから、俺らは二人で拠点道具を持って北村が居る拠点まで急いで迎った。そして、着いた時に俺は一番に北村に近付いて牧野の事について問う事にした。


「お前! 牧野が裏切ったんだがどうしてくれるんだよ!?」


「あら? 何の事かしら?」


 しかし、北村は何食わぬ顔で俺の質問を一蹴してきやがった。なので、俺は牧野が言っていた事をそのまま伝えた。すると、北村は安心したかの様な瞳で本当の事を教えてきた。


「彼はね、スパイ映画が大好きなのよ」


「それが、何の関係があるんだよ?」


「私は、彼と一緒にスパイごっこをしてた時期があったのよ」


「確かにありましたよね。私も良く騙されてましたよ」


 北村は、牧野が小さい頃にスパイ映画に影響された事でスパイごっこを一緒にやっていたそうだ。それに、武林はその事を思い出して牧野からスパイごっこの対象者として騙された事もあったそうだ。


「な、ならよ、牧野が小さい頃に好きだった女の子が自殺したって言っていた事は嘘だって言いたいのかよ?」


「あれも嘘よ。だって、北村園に居る女の子は小田部さんしか居ないのよ」


「はぁ? なら、小田部さん以外は男だけって言いたいのかよ?」


「だって、北村園はこの三人しか居ないのよ」


 北村は、牧野がこのゲームでスパイをする時に打ち合わせの内容を元にやる事を北村と話し合っていたそうだ。それに、牧野が川添達に北村の事を恨んでいると言う嘘情報を流していたそうだ。


「なんだ……。打ち合わせ済だったのかよ」


「ごめんなさいね。もっと早く伝えるべきだったわね」


 北村は、いつも通りに俺達の協力関係を崩す事は無いと伝えてくれたので俺はかなり安心して足を崩してしまった。

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