第27話 一か八か
「え!? 塚田友美さんの携帯だけが見つかったの!?」
あれから、俺は急いでフェミニスト君に電話をかけた。なので、フェミニスト君は不審に思ってジャージに付いていたGPSの場所を確認した。すると、現場に居たゲームスタッフからジャージに付いていたGPSの機器だけが捨てられている事に気付いた。
「これは、流石に生死に関わりそうだね。とにかく、こちらも全力で探すよ」
フェミニスト君は、俺にその言葉を残した後に電話を切った。なので、俺は強い雨に打たれながらとある選択が頭に浮かんだ。それは、俺をこのゲームに参加させた北村に協力を仰ぐと言う事だった。
「くそ……。こうなったら、あいつに頼むしかないかもな」
俺は、決死の覚悟で北村に電話をかける事にした。すると、電話をかけてすぐに北村が応答してきた。
「武尊君、待っていたわよ。協力が欲しいんでしょ?」
「な、なんで……。それを?」
「分かるわよ。それより、助けて欲しいなら待ち合わせ場所を決めないとね。指定先を送るからそちらに来てくれる?」
北村は、そう言った後に電話を切って俺のスマホに指定先を送ってきた。なので、俺は不安で胸が苦しくなりながらも友美の為に北村に送られてきた場所へと迎った。
そして、その場所に向かうとレインコートを着た北村と武林の二人が立ち尽くしていた。しかも、その場所は俺らが拠点にしている『かまくら』と言う場所らしき所だった。
「待ってたわよ」
「なんでなんだ? なんで、お前は俺らがこうなる事を知っているかの様な反応なんだ?」
「そりゃそうでしょ。武尊君を、このゲームに参加させたのは私なんだからね。それに、他のチームを見たら分かるでしょ?」
北村は、そう言いながら建物の中へと入って行った。そして、武林が俺にも入る様に促して来たので入る事にした。その場所は、俺が想像していた倍以上の広い空間をしていた。
「さぁ、そこに座って良いわよ」
俺は、ずぶ濡れになったレインコートを着たまま土で固められた椅子に座った。そして、北村は俺の為に温かいコーヒーミルクを注いで持ってきてくれた。
「さてと、何から話そうかしらね」
「仲間を取り返したい。だから、お前に協力を頼みに来た」
「そうだったわね。なら、武尊君は私に何をしてくれるのかしら?」
俺は、予想していた通りに北村の質問を耳にした。北村は、俺が差し出す条件によっては助けないと当たり前の事を俺に伝えてきた。しかし、俺は何を差し出せば良いのか分からなくなってしまった。
「これが分からないと、私は武尊君を救う事ができないわね」
「なら、お前は何が欲しいんだ? 何が目的で俺にこのゲームに参加させたんだ?」
「私はね、武尊君の全てが欲しいのよ。武尊の身体や心、家族とかもね」
北村は、不気味な笑みを浮かべながら俺を見つめていた。俺は、まるで悪魔と契約を交わすかの様な窮地に襲われていると言う恐怖を感じていた。
「なんか、悪魔と契約を交わしている様だ」
「ふふふ。確かに、私は魔女なのかもしれないわね。でも、私みたいな友好的な魔女は居ないわよ?」
「どう言う意味だよ?」
北村は、俺を挑発しながらも自分が計画していた事を語り始めた。それは、俺がずっと気にかけていた俺の姉妹に対する復讐の事についてだった。
俺の妹である瑠璃は、北村の弟である大介君に酷い仕打ちをしていた。それは、大介君が瑠璃に対して性暴力を犯したと周りに言いふらした事だった。北村は、大介君がそんな酷い事をやっていないと分かっていたが、周りは瑠璃の方を信じていた。
「そのせいで、私の弟は部屋でずっと引き篭もってるわ」
「瑠璃の奴、俺が心配している時よりも先に人を陥れてたのかよ」
俺は、北村に瑠璃が家でどんな生活を送っているのかを簡単に説明した。瑠璃は、俺に対して生意気で自分が悪くても謝ろうとしない性格をしていた。それに、相手が悪くなる様にやってもいない事を言いふらしたりする癖がある事も北村に話した。
「そうなのね。家でやってる事は外でもやってしまうものなのね」
「本当にすまない。妹の代わりにはならないと分かっているが、兄として謝らせて欲しい」
「そんな事はどうでも良いのよ。私はね、武尊君よりも本人の口から謝って欲しいの」
俺は、瑠璃の代わりに弟の大介君に対しての謝罪を席から立って謝ろうとしたが、北村は強い口調で俺の謝罪を拒否した。それに、北村の言っている事は正しいと思ったので何も言える事は無かった。
「それにね、武尊君の姉にも復讐をするって決めてるのよ」
「な、何でだよ? 姉ちゃんも何かやってしまったのかよ?」
北村は、俺の次女の姉が自分の兄に痴漢冤罪をかけて自殺に追い込んだ事を告げた。俺は、この驚愕の事件は初耳なので頭の整理が追いつく自信は無かった。ちなみに、北村は俺の姉妹がやった罪は証拠として把握していた。
「私には、信用できる探偵社はいくらでも居るのよ。そして、その証拠も全て把握してるし裁判でも勝てる要素は沢山あるの」
「だったら、最初から裁判していれば良かったじゃないか?」
「それは、つまらないでしょ? 今時の女にはね、復讐するだけじゃ変わらないのよ」
「お前も女だろ」
「あんな女と一緒にしないでくれる? 私はまともな女なんだからね」
「どこがだよ」
俺は、北村の様子を見て女の敵は女だと言う言葉が頭に浮かんだ。そして、北村は俺の姉妹を陥れる為に俺の事を自分の物にしたいと考えているそうだ。しかし、俺は北村の所有物になりたく無いと抵抗した。すると、北村は俺の依頼を却下しようと言ってきた。
「さぁ、どうするの?」
「俺は、友美と二人で結婚する事を決めたんだ」
「なら、塚田さんも私の所有物になるってのはどうかしら?」
「は、はぁ!?」
北村が言うには、俺の物は北村の物なので俺が友美と結婚するとなれば北村は友美も所有物になると言う事だった。しかし、俺は北村の言っている事があまり理解できなかった。
「要するに、お前は俺の家族は全員がお前の家族だと言いたいのか?」
「まぁ、そんな所かしら? 武尊君が、新しく塚田さんを家族として受け入れるなら塚田さんとその家族は私の物になると言う事ね」
「でも、俺は……。お前の物になんか……」
「なら、そのまま出て行ってくれる? 私の物にならないのならね」
「そ、それは……」
「なら、覚悟を決めるべきだわ。別に、武尊君を奴隷になんかさせないわよ。ただ、私とこのゲームの運営役を担って欲しいのよね」
「え? そんだけ?」
「そうよ。別に、武尊君の人権を奪ったりはしないわよ。武尊君が誰と結婚しようがどうなろうがあまり気にしてないわ。ただ、仕事はこのゲームの運営会社に就職して貰うって所かしらね」
俺は、北村の意外な要望に少し戸惑いを隠さなかった。しかし、北村は俺をこのゲームの運営側の一人として働いてくれれば他は気にしていない様だった。
「とにかく、私がこのゲームの最高管理責任者になるから武尊君には支えて欲しいわ」
「働くなら、このゲームの運営係員になれって事か」
「そう言う事よ。武尊君のチームを最下位にさせる事で借金を理由に自分の物にできると言う算段だったのよ。でもね、武尊君が今ここで私の物になると言うのなら私達が協力してあげても良いって事よ」
「確かに、お前のチームは圧倒的に強いもんな」
「そりゃ、そうなる様に優秀なメンバーを組んだからよ。それで? 武尊君はどうするの?」
俺は、北村に改めて質問された事で頭を切り替えて自分の考えを率直に伝えた。それは、北村の物になるのと同時に友美を助けて欲しいと言う事である。
「武尊君に、そんな風に頼まれたら断れないわね。でも、そんなに畏まる事はないわよ。私が言っている所有物はただの揶揄表現だからね」
俺は、北村に微笑まれながらも自分の決断を悔やむ事は考えない様にした。もしも、俺のこの決断が友美の為になるのならば後の事は北村に任せると決めた。
もちろん、姉妹の事は自分のやった罪は認めさせるしか無いと言う北村の意見には賛成していた。なので、俺と北村は協力関係を結ぶ事になって共に動く事が許可された。
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