第26話 遭難

 あれから、十時間以上が経過しても友美は帰ってくる様子は全く無かった。なので、周りは夕方になって暗くなり始めていた。


「友美、まだ帰って来ないのか」


 俺は、自分から連絡をかけてはいけないと思っているので友美から電話がかかってくるのを待っていた。しかし、全く連絡がないので友美の事が心配で胸が苦しいのを何時間も耐えていた。


 そして、俺は一人で獲得した食料を食べて気持ちを落ち着かせようとしていた。しかし、朝と昼に獲得した食料が三人分も余っているので他の三人が食べていないのが心配になった。


「長谷川さん達……。本当に大丈夫なんだろうな」


 俺は、このゲームで死人が出る事は無いと信じていた。何故なら、フェミニスト君は万が一の為に五台の監視用ヘリコプターを飛ばしていると言っていた。なので、流石に殺人とか遭難などがあったら中止すると思っている。


「それにしても、この弁当は本当に簡易的なんだな」


 俺は、弁当の中身がお腹いっぱいにならない事に少し不満に思った。弁当の中身は、白ご飯の上に金平牛蒡とちくわの磯辺揚げに白身魚のフライが乗っていた。


 ちなみに、食料は時間になると監視用のヘリコプターからゲームスタッフが降りてきて弁当を配置していた。俺は、近くに居るのでその状況を目にする事ができた。


 しかし、俺はこの弁当を食べ切ってもお腹がいっぱいにならずに余っている弁当を食べたくなってしまった。俺は、それぐらい精神的に不安になっているのを自覚しながらも余っている弁当に意識が向いてストレスが溜まっているのを感じていた。


「くそ……。友美、早く帰って来てくれ」


 俺は、そう思いながら拠点道具を漁って気を紛らわす事にした。すると、LEDランタンを見つけて光をつける事にした。そして、寝袋を取り出してその中に入って身体を横にした。


 そして、俺はスマホを取り出して友美に連絡をしようと考えた。しかし、電話をかける勇気が出なかった。なので、俺は他の連絡ができる参加者を適当に見ていた。


「あ、北村……。北村が居るんだった」


 俺は、北村に電話して協力を仰ごうと思って通話ボタンを押そうとした。しかし、敵に協力を仰いで良いのか疑問が頭をよぎって押すのを躊躇った。


「仮に電話をして、本当に北村は協力してくれるのか……?」


 北村は、俺を騙してこのゲームに参加させた張本人である。その北村が、弱った俺の頼みを聞いてくれるのか自信が無かった。それに、仮に協力できたとしてこの場所がバレたら意味が無いと思った。


「そう言えば、位置情報はどうやって知れるんだ?」


 俺は、嶺城が俺を脅す時に長谷川さんの位置情報を貰った。なので、位置情報に関するシステムがあると思って色々と調べた。しかし、訳の分からないボタンがありすぎて頭がパンクしそうになった。


「くそ! イライラする!」


 俺は、何もできない状況に不満が溜まって地面を叩きつけた。しかし、その地面はかなり頑丈に作られている事が分かるぐらいに固かったので少し痛かった。


「それにしても友美の奴、遅すぎる……。何をしてんだよ」


 すると、外から雨の音がしてきた。俺は、その音を聞きつけてすぐに飛び起きて雨具を探した。すると、拠点道具の箱から四つ分のレインコートを見つけた。


「これを、着ていくしか無いか」


 俺は、我慢の限界でレインコートを着た後に友美を探す事に決めた。俺は、友美から来ては駄目だと言われたが、もう耐えきれずに友美達の分のレインコートを持って探す事にした。


 しかし、外に出ると大雨と強風が同時に俺を襲ってきた。なので、俺は一度中に入って友美に思い切って電話をかけた。しかし、何分経っても友美の声は聞けなかった。


「くそ……。こんな時に、友美はどうなってるんだよ……。ん?」


 すると、俺はスマホの画面から遭難要請と言うボタンを見つけた。なので、俺は恐る恐るボタンを押すとフェミニスト君が画面に現れて俺とカメラ通話をする事になった。


「もしもーし。今、強い雨が降ってて外の状況は悪化してるね。それで、遭難要請のボタンを押してくれたと思うけど誰を探した方が良いのかな?」


「塚田友美を探してくれ」


「塚田友美さんだね。分かった、約二分ぐらい待っててね」


 フェミニスト君は、そう言った後に俺との電話を切った。俺は、長谷川さん達は嶺城の管理下に居るので友美の位置情報だけで良いと思った。そして、数分ぐらいが経過した時にフェミニスト君から友美の位置情報を貰った。


「ここってどの辺だ?」


 友美は、俺の現在置より少し離れた場所にあった。なので、俺は皆んなのレインコートを持って友美の所に迎った。しかし、その場所は崖崩れになっていて遠回りをしなくてはならなかった。


「もしかして、あいつは遭難になったんじゃないだろうな」


 俺は、思い切ってその崖から尻を地面につけながら滑り落ちた。その場所は、かなり危険で土砂崩れに巻き込まれてもおかしくない場所だった。友美は、そんな所に居ると位置情報が示されていたので迷っている暇は無かった。


「友美ー! どこだー! 返事してくれー!」


 俺は、滑り落ちながら大声で友美に問いかけた。しかし、友美の気配を感じる事は無く位置情報から通り過ぎてしまった。なので、今度は崖を攀じ登って探した。それでも、友美の姿は見当たる事はなかった。


「友美ー! 返事をしてくれー!」


 俺は、もう一つの手段としてフェミニスト君に確認を取る事にした。しかし、フェミニスト君に確認を取っても友美の現在地は今ので当たっていると言われた。


「僕達も探してるんだよ。だけど、塚田友美さんの姿は見当たらないんだ」


「何だよそれ。どこに行ったのかも見てないのかよ?」


「実はね、皆んなが来て貰ったジャージには万が一の為にGPSを付けてるんだ。だけど、その場所に迎っても居なかったよ」


「そうか……。ちゃんと探してはいるんだな」


 俺は、このゲームの運営側がちゃんと探している事を聞いて少しだけ信頼する事にした。と言っても、友美を見つけない事には意味が無いので完全には信用できなかった。


 なので、俺は友美に電話をして少しでも早く友美を見つけようと考えた。すると、俺の近くに着信音が鳴り響いたので俺は思わず振り向いてしまった。


「嘘だろ……。友美の携帯だ」


 俺は、友美の携帯が崖崩れの途中に落ちていたのですぐに辺りを見渡した。しかし、友美が近くに居る気配が全く無かったのでこの事をフェミニスト君に報告をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る