第25話 怖い者知らず

「はぁ……。はぁ……。何とか、手に入れたんだがな」


 あれから、俺は友美と協力して拠点道具と食料を獲得して足場の悪い場所を抜け出した。しかし、意外にも拠点道具がたくさんあり過ぎて一人で持つのは困難だった。


「大丈夫か? 少し休もうぜ」


「あぁ、友美、すまねぇな」


「良いって事よ。それより、長谷川さん達はどうなってるかな?」


 俺らは、足場の悪い場所を抜け出して少し先の場所で休んでいた。そこは、丁度良く日陰になっているので休む場所としては最適な場所であった。


 しかし、肝心な長谷川さん達から連絡が来てない事に少し不安が募り始めた。なので、俺は長谷川さんに電話して状況を伺った。すると、電話に出てきたのは長谷川さんでは無くてチーム・グリーンのリーダーである嶺城だった。


「よぉ、あんたのチームメイトを二人とも捕まえたぜ。返してほしいなら、手に入れた拠点道具を全部よこせ」


「はぁ!? 嶺城、テメェ!?」


「おっと、あんたは確か高校生だったよな。口の聞き方に気をつけねぇとお前まで痛い目を見ちまうぜ」


「本当に返してくれるんだろうな?」


「あぁ、返してやるよ。お前が逆らわずに渡す物を渡せばな」


 すると、嶺城は要件だけを言い残して勝手に電話を切りやがった。そして、俺が悔やみながら悩んでいると嶺城から長谷川さんの位置情報が送られてきた。


「武尊、どうしたんだ? 長谷川さんではなさそうだったけどよ」


「あぁ、その通りだ。長谷川さん達は、嶺城達に拘束されてるらしいんだ」


「はぁ!? そんなのアリかよ!?」


「いや……。それが、ルール上では問題が全く無いんだ」


 俺は、フェミニスト君が言っていた事を思い出して友美に話した。すると、友美もフェミニスト君が言っていた事を思い出して怒鳴るのを断念した。


「けどよ、どうすんだよ?」


「いや、これに関しては嶺城の指示に従うしか安全策が思い浮かばない」


「そうか……。だったら、ここは私に任してほしいんだ」


「な、何か良い策でもあるのか?」


 友美は、そう言いながら俺のスマホを手にして嶺城から貰った長谷川さん達の現在地を覗き込んだ。すると、俺らが居る距離からあまり離れてない事に気付いた。


「やっぱり、私達が二人組になる事を計算していたのかもな」


「だとしてもだ、ここは嶺城の言う事を聞くしかねぇよ」


「そうしなくても良い様にしてやる」


 すると、友美は自分の考えを俺に話してくれた。友美は、食料の支給品を受け取る際に防空壕みたいな場所を見つけた。そこを、俺達の拠点にして拠点道具を嶺城にあげるとの事だ。


 拠点の道具とは、四人スペースのキャンプ用テントに四つある寝袋とLEDランタンなどが大きなケースに入っていた。なので、一人で持てる様な大きさでは無かった。そして、食料は簡易的な弁当が四つ分あった。


「でもよ、本当にその場所が防空壕とは限らないだろ? それに、そうだとしても中は住めたもんじゃねぇぞ」


「あれ? 確か、この無人島ってつい最近改装されたってフェミニスト君が言ってたぞ?」


「え、マジで?」


 友美によると、フェミニスト君はこのゲームの為に数千万円かけて作り上げたそうだ。なので、友美が言っている防空壕みたいな場所も住みやすい様になっていると思った。


「こうなったら、俺がその防空壕を見てくる」


「いや、私も行かせてくれ」


「だがな……」


「武尊、私達はこれからも一緒に生きて行くんだぜ。だから、武尊が一人で抱え込んでしまったら未来の妻として失格になっちまうぜ」


「そうだった。すまない」


 友美は、そう言いながら優しく微笑んで獲得した食料と拠点道具を一緒に持ってくれた。俺は、友美が未来の妻として受け入れてる事に凄く嬉しく感じた。


 そして、俺達は友美の言っていた場所に辿り着いた。そこは、寒気がする程に落ち着いた場所だった。しかし、『防空壕』と言うよりかは土で作られた『かまくら』と言う感じの建物だった。


「確かに、住めそうな感じだな」


「だろ? 一回、中に入ってみるか?」


「あぁ、もちろんだ」


 俺は、友美と一緒に建物の中を覗いた。すると、暗いながらも中はしっかりとしていて住めそうな建物だった。なので、俺はこの場所を拠点とする事に決めて嶺城に拠点の道具を渡す事にした。


「武尊、何を言ってんだ? 最初から、あんな奴の言う事なんか聞くつもりはねぇぞ?」


「はぁ? なら、長谷川さん達を置き去りにするつもりなのかよ?」


「それも違うね」


 すると、友美は俺のスマホを使って嶺城に電話をかけ始めた。俺は、友美が何を考えているのか分からなかったので止める事はできなかった。


「ん、何だ? 降参するのか?」


「よぉ、よくもうちのリーダーを困らせたな」


「何だ? 女の声だが、もしかして塚田とか言う奴か?」


 嶺城は、電話に出た声が女性だったので驚きながらもしっかりと対応していた。しかし、友美は嶺城に喧嘩を吹っ掛ける様な口調で提案を断った。


「と、友美!? 何言ってんだよ!?」


 俺は、焦って小声で友美の耳元に問いかけながはスマホを取り上げ様とした。しかし、友美は気にかける様子は全く見せずに真剣な眼差しで嶺城に話しかけた。


「ほぅ。どうやら、自分の仲間を見捨てる様だな」


「はぁ? 誰が見捨てると言ったんだよ? 力づくで仲間を取り返してやるからそこで待ってろって言ってんだよ」


 友美は、そう言って電話を切った。俺は、友美の考えが知れたので少し安心した気持ちになった。しかし、友美は長谷川さん達を助けるのに自分だけで行くと俺に言い出した。


「何でだよ? 俺も行くに決まってんだろ」


「リーダーのお前が来たら、それこそ相手の思う壺だ。だから、私が対処した方が良い」


「で、でもよ……」


「不安になる気持ちは分かるが、二人で行ったらこの場所を誰が守るんだよ」


「そりゃ、そうだけど」


「武尊、私を信じてくれ。私は、あの怖い者知らずに怖い者を教えに行くだけだ」


「分かった。だけど、絶対に帰ってくるって誓ってくれ」


「あぁ、絶対に誓うよ。武尊の未来の妻として誇りを持って行くよ」


 友美は、そう言って俺に背中を向けて長谷川さん達の方へと迎った。俺は、大切な人を戦場に送り出した人の切なさが少しだけ分かった気がして胸が張り裂けそうになった。

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