第5.5話 隠蔽工作

 あれから、平本武尊が家に帰ってくる様子を感じなかった母親の里香は学校に問い合わせていた。しかし、学校側も武尊の事は全く知っている様子は無かった。


「見つかり次第、こちらの方に連絡を入れますね」


「はい……。お願いします」


 里香は、学校側と連絡をして息子である武尊を探していた。そして、武尊の祖母である信子は里香の電話の様子を隣で見守っており、電話が終わったので里香に話しかけた。


「なんか……。学校の方も武尊がどこに行るのか知らないって」


「そうなのね。誰かに連れ去られたりしてないと良いのだけれど」


 信子は、武尊の事を一番心配している里香を励ましながら側に居る事を意識していた。すると、家が近くで昔から仲が良い塚田友美の母親である塚田佳奈子つかだかなこが訪ねてきた。


「佳奈ちゃん、どうしたの?」


「ねぇ、うちの娘を知らないかしら? さっきから連絡を入れても帰って来ないのよ」


 佳奈子は、娘である友美が帰って来ない事に心配して里香と同じく探していた。なので、佳奈子は友美と一番に仲が深い武尊と一緒だと予想して友人の里香に確認を取った。里香は、その事を聞いて自身の子供を探している事を佳奈子に打ち明けた。


「えぇ!? 里香ちゃんも!? 二人してどこに行ったのかしら!?」


「いやぁ、いつもの様に二人で夜遅くまでカラオケとか遊んで帰って来るのなら安心するのだけどね」


「そうだけど、今日ばかりはじっとはしてられないのよ」


 佳奈子は、家族全員で焼き肉を食べに行く約束をしていた。しかし、夜の八時を過ぎても友美だけが帰ってきていなかったので佳奈子も学校側に電話していた。


「それでも、学校の先生も知らないって言うのよね。はぁ……。どうしたら良いのかしら」


「だったら、佳奈ちゃんの家族もこっちに来て焼き肉パーティーでもしようよ!」


「いきなり過ぎてちょっと分からないわ。でも、その方が友美が帰って来ても夜飯は大丈夫そうね」


 こうして、平本家と塚田家は仲良く焼き肉パーティーを開く事になった。他の人達は、いきなりすぎて困惑していたが、里香と佳奈子が主催者としてパーティーを盛り上げた。


 しかし、夜の十一時を過ぎても武尊と友美は帰って来なかった。なので、家族全体が不穏な雰囲気に包まれながら里香と佳奈子は心配して学校にもう一度連絡を入れた。しかし、学校側も武尊と友美の居場所を把握する事ができていなかった。


「もう、警察に連絡入れる?」


「そうした方が良さそうね。だって、部活もしてないのにもう十一時だよ? 流石に帰って来ないとやばいよ」


 里香と佳奈子は、二人で話し合って警察に連絡を入れた。そして、担任の教師も協力して武尊と友美の捜索を開始した。しかし、夜の二時が経っても見当たる事は無かった。なので、後は警察に任せて里香と佳奈子は家に帰る事になった。


「あの子達……。どこ行ってるのよ」


 里香と佳奈子は、各々の子供を見つける事ができなかったので他の家族にも相談して話し合う事にした。しかし、両方の家族全員が慌てた様子なので話が進まなかった。


「とにかく、私達は自分達の家に帰る事にするわね」


「本当にごめんね」


 こうして、塚田家は焼き肉パーティーの後片付けを終えた後に平本家と別れた。そして、里香は改めて自身の家族と集まって話し合う事にした。


「とにかく、俺と毅彦君は明日がお休みだから朝方まで探す事にする。だから、信子達は子供達の面倒を頼む」


「分かりました。気を付けて行って下さいね」


 そして、祖父の克典と父親の毅彦は二人で暗い道の中で探す事に決まった。なので、信子と里香は不安で頭がいっぱいの中で二人を見送った。


「ねぇ、お母さん。お兄ちゃんは、帰って来ないの?」


「今、お父さん達が探してる途中だからね」


 すると、里香は四女の咲奈さきなに武尊の状況を気にしていた。咲奈は、他の姉妹と違って歳が幼くて誰よりも心配になりやすかった。なので、里香はそんな咲奈の頭を撫でて慰めた。


「大丈夫だから、お風呂入って寝なさい」


 里香は、咲奈の前で泣きたい気持ちを隠していつも通りに振る舞った。しかし、里香の心境は最悪なので信子はそれを察知して咲奈達が見えない所で励ました。


「私のせいで、きっと武尊は友美ちゃんと家出をしたんだわ」


「里香、そんな事は無いよ。武尊は、絶対に帰って来るからね」


 里香は、信子の優しくて頼りになる声が聞けて少しだけ癒された感じがした。しかし、里香の脳内では武尊ばかりに負担をかけさせていた事に気付いてやれなかったと自身を問い詰めていた。すると、三女の瑠璃が里香を気にかけて話しかけた。


「大丈夫だよ。瑠璃も早く寝なさい」


「嫌だね。私は、皆んなが寝るまで寝ないよ」


 瑠璃は、兄の武尊が帰って来なくなる事に違和感を覚えていた。普段は、兄の存在が嫌で無性に苛立ってしまうが、本当に一生帰って来なくなる事が実際に起きてしまうと同じ家族として不安では収まりきれない程に頭の中で混乱すると自覚していた。


「瑠璃、あんたは明日も学校でしょ?」


「それでも寝ないよ。だって、お兄ちゃんが帰って来るまで寝れないもん」


「なら、せめて自分の部屋に居なさい。お兄ちゃんが帰って来たら、説教しなきゃいけないんだからね」


「分かったよ。お兄ちゃんが帰って来たら教えてね。私も説教するから」


 瑠璃は、母親を元気づけるかの様に伝えて自身の部屋に入った。里香は、瑠璃が本当は兄である武尊の事が好きなのだと言う事が伝わって嬉しく思っていた。ちなみに、瑠璃は兄の武尊の事が好きと言うよりも母親の里香が辛い思いをしているからこそ気にかけていた。


 それから、朝方になって克典と毅彦の二人が帰ってきた。そして、寝らずに帰りを待っていた里香と信子は玄関へと走って迎い入れた。しかし、肝心の武尊と友美は見つかる事はなかった。


 克典と毅彦は、武尊が行きそうな遊び場所や近くの公園などを探し回っていた。それに、友美の父親も娘を探す為に克典達に協力をしていた。しかし、見つける事ができずに帰って来てしまったので里香達に目を合わせ辛い気持ちで頭がいっぱいだった。


 すると、警察から武尊と友美の居場所を把握する事ができたとの連絡が入った。里香は、その事を聞いて慌てて警察に居場所について質問した。


「いや、それが武尊君と友美さんは二人の意思で男女平等ゲームに参加してるらしいんです」


 里香は、警察の人から何を言われているのか理解できなかった。しかし、警察によると男女平等ゲームに参加する為に二人で集まって北村香苗と言う女性の家に行っていたと里香は告げられた。


「ちょ、ちょっと、訳が分からないんですけど……。そもそも、『男女平等ゲーム』ってなんなんですか?」


 里香は、警察の人から男女平等ゲームの内容を伝えられた。警察の人は、里香に男女平等ゲームは教育的なゲームで個人の意思で参加できると伝えた。


「でも、そんな事言われた覚えはありません」


「しかし、本人の意思であると言う証明書も見つかっておりますので何とも言えないんです」


 里香は、それでも武尊の声が聞きたくて本人と会わせて貰う様にお願いした。しかし、警察の人からは許可が降りる事は無くゲームが終わるまで会える事は無いと里香は言われた。


「武尊……。早く、戻って来て」


 里香は、電話を切った後に泣き崩れてしまった。それを見た信子達は、一斉に里香の元へと駆け寄った。しかし、その警察官は北村香苗の伯父の従者だと言う事を里香達は知る由も無かった。

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