第23.5話 北村の過去
「武林と牧野、お疲れ様」
あれから、チーム・ブルーの代表者の二人が部屋に帰って来たのでリーダーの北村香苗は温かいコーヒーミルクを渡した。そして、代表者だった武林隣太郎と牧野隆史は北村から貰った飲み物を受け取った。
「香苗様、この飲み物って……」
「そうよ。これは、私の思い出が詰まった飲み物なのよ」
「そ、そんな……。ありがとうございます」
武林と牧野は、北村の好意に恐れながらも感謝して口をつけた。北村は、武林達が飲むコーヒーミルクを見てとある思い出に浸ろうとしていた。
それは、大好きな父親が北村とその兄弟の為にコーヒーミルクを注いでくれた事だった。北村は、父親が作るコーヒーミルクが大好きで父親から何度も作ってくれた。
北村の父親は、母親が東京都の私立大学の理事長を勤めているので専業主夫として家庭を支えていた。しかし、母親は子供との時間はあまり取れる事はできなかった。なので、北村は母親との良い思い出は全く思い出せなかった。それに、北村の母親に対するイメージは冷徹で鉄仮面な女性と言うイメージだった。
そんなある日、北村の母親は父親に不倫をしている事がバレて揉めているのを陰で聞いてしまった。父親は、今までの母親の不審な動きに悩んでおり、知り合いの伝で探偵事務所に相談する事を決意した。
すると、母親は複数の男性と肉体関係をもっており、その時は大企業の社長と不倫旅行に出掛けていた。北村は、子供ながらやってはいけない事だと認識しながら夫婦喧嘩を本人達にバレないように聞いていた。
『謝らないならもう良い! 裁判してやる!』
父親は、その言葉を残して子供達三人を連れて実家に帰った。そして、離婚裁判は父親が親権を獲得したが、父親に対する悪い噂が北村の周りに漂ってしまった。
『うわ、北村さんのお子さんだ。あそこの旦那さん、奥さんを騙して親権を勝ち取ったらしいよ』
『でも、あの人は専業主夫なんでしょ? だったら、親権を貰っても仕方ないでしょ』
『いやいや、違うわよ。あそこの旦那さんは奥さんを無理やり働かせておいて親権だけ貰ってるらしいのよ。酷くない?』
『えぇ〜? そんな男が居るんだね。そう考えたらうちの旦那の方がまだマシだわ』
北村は、母親がいなくなってからはそう言う有りもしない噂を耳にして我慢していた。そして、それが学校でも聞くようになり、担任からは『あの子の父親はヤバい人』として児童相談所にも行かされた事もあった。
しかし、その度に父親は周りの人に誤解を解く為に証拠を持って弁明していた。北村は、必死に弁明している父親の背中を見て惨めに感じた。しかも、その事が学校にも広まって虐めにも発展してしまった。
『た、ただいま……』
『な!? 大くん!? また汚れて帰ってどうしたの!?』
『何でもないよ……』
『何でもない子は泣かないよ。ほら、お姉ちゃんが聞いてあげる』
北村は、虐められる様になってから弟である
『お父さん、もう限界だよ』
北村は、泣きながら父親に虐められて辛い事を口にした。すると、父親も親戚の人達からも虐められている事を北村に話した。そして、この事は母親が仕組んだ事だと北村は耳にして憎しみが生まれた。
『苦労させてごめんな』
北村は、父親に泣きながら抱き着かれて謝罪された。父親は、自身のせいで子供が辛い目に遭っているのを知っており、どうすれば良いのか分からずにいた。
しかし、その事を聞きつけた父親の兄は北村の母親を問い詰めて白状させた。そして、母親は父親以上に悪者として世間に晒された後に刑務所で二十年も閉じ込められる様に仕向けられてしまった。
それから、二年が過ぎて北村家は少しずつ安寧の日々を過ごせていた。そして、兄の幸樹は東京都の難関大学を合格したり弟の大介は友達の家に泊まりに行ったりと毎日を堪能している姿を北村は微笑ましく思っていた。
『お姉ちゃん! 今日ね、マラソン大会で十位になったんだよ!』
『え、凄いじゃん!? 確か、あんなに大人数で走ったよね!?』
ある日、北村は大介が百人居る学年の中で上位の方に入った事を本人から報告を受けて喜んでいた。しかも、そのお陰で平本瑠璃と言う女の子から告白までされた。
『良かったね。その子を大事にするんだよ』
『うん!!』
北村は、大介の純粋な笑顔に安心しながら大介の幸せを願った。そして、兄の幸樹からは大学の授業で書いた論文がとある企業に目をつけられてその企業の社長から褒められた。
『お父さん、今度の日曜日にその方と食事をする事になったよ』
『おぉ! 良かったじゃないか!』
幸樹は、大学の先生を通じて社長と三人で食事をして関係を築く事になった。北村は、嬉しそうに父親と話す幸樹の姿を見て自身も頑張らなくてはいけないと思えた。
しかし、幸せに感じれた日々を過ごせたのも束の間だった。大介は、付き合っていた彼女に酷い仕打ちをされた。しかも、幸樹は同じ学部の女性から痴漢の疑いをかけられて全てが台無しになってしまった。
「あの女さえ、あの女達さえ居なければ」
「香苗様? もうすぐ、食事の時間ですよ?」
北村は、独り言を呟いた瞬間に同じチームメンバーの小田部歩美から声をかけられた。なので、北村は辛い過去を思い出しそうなのを堪えて皆んなと食べる食事の時間で忘れる事にした。
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