第21.5話 決死の覚悟

 あれから、北村香苗は武林隣太郎と共に緊急処置室で平本武尊を運んだ。そして、北村は武尊を運んだ後に塚田友美が担架で運ばれて来たのを見て声をかけに行った。


「うぅ……。く、くそぉ……」


「あら? 塚田さん、また担架で運ばれて来たの?」


「うるせぇ……。それより、何で武尊がベッドで寝てんだよ?」


「ごめんなさいね。彼は、また気絶しちゃったみたいなの」


「クソッタレ……。どうせ、お前が仕組んだ事なんだろ?」


「それは、ご想像に任せるわ。武林、行きましょ」


「はい」


 北村は、そう言って武林と共に緊急処置を後にした。そして、塚田は痛みを感じている腹部を抑えながら武尊が居るベッドへと近付こうとした。すると、長谷川尚輝と森渚沙が慌てた様子で緊急処置室に入って来た。


「塚田さん!? 大丈夫ですか!?」


「お、おう……。二人とも、すまない」


「そんな事は良いですよ!? それより、身体の方は大丈夫なんですか!?」


 森は、運営から設置されたモニターで塚田の痛がっている様子を目撃したので長谷川と共に不安が高まってしまった。そして、長谷川は近くで寝ている武尊を見て嫌な予感を感じながら塚田に質問した。


「あぁ……。武尊は、あいつらのせいで気絶している」


「またですか……。それにしても、僕達は我慢の限界です」


「そうですよ! 塚田さんや平本さんに任せっきりで辛いです!」


「そんな事言われてもな……。もう、このイベントは棄権するしかない」


 塚田は、諦めた様子で長谷川と森に気持ちを打ち明けた。しかし、二人は納得する様子を見せる事は無かった。そして、森は長谷川と事前に相談していた事を塚田に話した。


「次からの試合、私達に出させて下さい」


「は、はぁ!? 何言ってるんだよ!?」


「これは、二人で話し合った結果です。もう僕達は、二人だけに残酷な試合を押し付ける事はできないんですよ」


 塚田は、長谷川と森の決死な覚悟をした顔を向けられながら決意を語られた。そして、森は震える右手を左手で抑えながら塚田に認めて貰える様に本心を語り始めた。


 森の本心は、このゲームから逃げ出したくて辛くなっていた。しかし、同じチームになった人達が自身よりも苦しい思いをしながら勝とうとしている姿を見て逃げ出しづらくなった。だからこそ、森はただ見ている事も辛くなってしまった。


「他人に任せる事ばかりじゃ、もう嫌なんですよ。だから、代わりに試合をさせて下さい」


「僕からもお願いです。どうか、僕達に譲って下さい」


「長谷川さんは分かるけど、森さんは抵抗があるんだよ」


「な、何でですか!?」


 塚田は、森さんの体力測定や戦闘力を自分なりに解釈していた。それは、森が女性だからとかではなく、何よりもこのイベントに向かないと思っている事を本人に語った。


「それでもやりたいんです! 『男には負けると分かっていても立ち向かわないといけない時がある』って言葉があると思うのですが、それって女にもあると思うんです!」


「それが、今だって言いたいんですね?」


「そうです! だから私にも出させて下さい」


「まぁ、先程の意見は森さんの主観だと思うけど……。そんなに言われたら認めるしかないですね」


 塚田は、森と長谷川の強い覚悟を目の前にして認めるしかできなかった。そして、森は塚田に許可を貰えたので次の試合に向けて準備を始めた。


 しかし、ゲームマスターであるフェミニスト君の計らいによって武尊が出る筈だった試合は棄権になった。なので、チーム・レッドはこのイベントだけで『400ポイント』が失う事になった。


「それでは! 最終試合を開始しまーす!」


 こうして、長谷川と森は塚田と武尊の代わりにチーム・グリーンの試合に参加した。まず第一試合目は、嶺城と長谷川が対決をする事になった。嶺城は、自身が仕掛けた長谷川が参加する事をフェミニスト君から聞いて二番手から一番手に換えた。


「長谷川、ついにこの時が来たな」


「そうだね。僕の人生で最も決着をつけなきゃいけない君と戦えて光栄だよ」


「怖くないのか?」


「怖いよ。それでも、ここで引く訳にはいかないんだ」


 しかし、嶺城は長谷川の決意を馬鹿らしく思っていた。嶺城は、日本を裏で牛耳っている北村家を支えている貴族の一つである嶺城家の長男であった。なので、庶民である長谷川と比べて劣っている要素が無いと慢心していた。


「あの時みたいに、もう一度お前を虐めてやろうか?」


「絶対に……。負けないから」


 長谷川は、嶺城にそう言われて学生時代の頃を思い出した。嶺城は、長谷川を虐めた主犯格であり、同じチームに居る者は長谷川を一緒に虐めたメンバーだった。


 しかし、長谷川は嶺城のせいで辛い過去を思い出しても怯える事はなかった。そして、試合開始のゴングが鳴り響いたのと同時に長谷川と嶺城は殴り合いを始めた。


「おらおら! もっとこんかい!」


「うぐっ!?」


 長谷川は、嶺城に何度も殴られながらも必死に耐えていた。そして、嶺城は力任せで殴り続ける事で長谷川をリングの端へと追いやる事ができた。


「おら! もっと抵抗せんかい!」


 しかし、長谷川は両手で頭をガードして守る事で精一杯だった。嶺城は、それを見て心の中で余裕が生まれていた。しかも、同じチームである川添達も長谷川の弱さに笑っていた。


「うおぉりゃゃぁぁああ!!」


 長谷川は、目を瞑りながら思い切って嶺城に攻撃を仕掛けた。嶺城は、その攻撃に反応できなくて顎に直撃してしまった。すると、嶺城は顎が外れてしまい、審判から試合の中断を宣告された。


「え、な、何で……?」


 長谷川は、試合が中断した事に頭の整理ができていなかった。そして、周りで観ていたチーム・グリーンのメンバーは長谷川を野次って精神的に追い詰めようとしていた。しかし、それを聞いていた塚田は怒りながら一番に声が大きかった川添の胸ぐらを掴んだ。


「テメェらさ、自分らが仕掛け人だからと言って調子に乗るのも良い加減にしろよ」


「はぁ? 二回も試合に負けた分際がイキってんじゃねぇぞ」


 塚田は、図星を突かれながらも舐め腐っていた川添の顔面を殴った。そして、威力が強すぎて倒れてしまった川添に塚田は揶揄って挑発をした。


「な、なんだと!? テメェ!?」


「うわぁ〜。庶民の私に殴られたからってピィーピィー泣いてやんのぉ〜。ダサっ!?」


 川添は、富裕層である川添家の次男として庶民を見下している部分があった。なので、塚田に言われた事で理性を失って塚田に突っかかってしまった。しかし、塚田は川添の怒鳴り声に負けないぐらいの声で川添を黙らせた。


 それから、嶺城は治療係のゲームスタッフのお陰で何とか顎を戻す事ができた。しかし、嶺城は馬鹿にしていた長谷川にやられた事が何よりも心残りだった。


「ぶっ倒してやる……。長谷川!!」


 そして、長谷川と嶺城は最終ラウンドまで粘り続けた。二人は、顔や身体が何箇所も傷付いていた。嶺城は、見下していた長谷川に傷付けられた事に苛立ちながら戦っており、長谷川も嶺城の攻撃を必死に耐えながらも避けたら攻撃したりしていた。


「試合終了ー!!」


 こうして、長谷川と嶺城の戦いは終わって判決の時間になった。結果は、嶺城が圧倒していたので嶺城の勝利になった。しかし、嶺城はこんな勝ち方に満足していなかった。


「長谷川、次こそは圧倒的な差でお前に勝ってやるからな」


 嶺城は、そう言いながらリングを出て行った。そして、長谷川も疲弊しながらリングの外へと迎った。すると、森が涙目になりながら長谷川を出向いた。長谷川は、そんな森に申し訳ない気持ちになってしまいながらも次の代表である森の事を応援した。

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