第21話 現実の壁

「それでは! 第二ラウンド開始!」


 それから、俺らはチーム・イエローの代表者と対決する事になった。代表者は、園崎家に仕える家系で育った江頭と福永の女性二人であった。この情報は、一時的に協力する事を自分から申し出た北村から貰った情報であり、園崎奏太は山路の為にこのゲームに参加した情報も貰った。


「それより、何で急に協力するとか言ったんだよ?」


「だから、さっきも言ったけど私には他にも計画があるのよ」


「いや、だから、その計画が知りてぇんだよ」


「はぁ……。まぁ、このゲームが終わったら落ち着いて話すわ」


 北村は、溜め息を吐きながらこのゲームが終わってから自分の事を詳しく話す事を俺に伝えてくれた。俺は、落ち込んでいる北村を見て待てない気持ちを堪える事にした。


 そして、今は塚田が対戦相手である福永と戦っていた。福永は、江頭と同じで園崎家を守る為に小さい頃から教育されてきたそうだ。だからこそ、塚田に引けを取らない程に体術が上手いのだと思った。


 福永は、力を頼りにしているより相手の動きを瞬時に見極める感覚を頼りにしている様な戦い方をしていた。しかも、程良く距離を取りながら相手にダメージを背負わせていた。


「塚田の奴、攻撃を仕掛ける割には空ぶってばかりだな」


「逆よ」


「はぁ? 逆って何だよ?」


「福永さんって子が空振りさせてるのよ」


 北村は、福永の戦い方を見て鬼の様な形相をしていた。福永は、先程の試合で長い時間をかけながら牧野の顎を一発だけ殴ってKO勝ちしていた。なので、北村はその過去を思い出してしまい、少しずつ焦りを覚えていた。


 しかも、それだけじゃなくて嶺城のチームとの試合でも同じ様に戦っていたので福永の体力はタフだと言う事が証明されている感じだったそうだ。


カン!カン!カァーン!!


「第二ラウンド終了!! それでは、五分後に第三ラウンドを始めます!」


 そして、俺は北村と一緒に塚田の方へと迎って声をかける事にした。しかし、塚田は福永の思惑通りになっているかの様な疲れ切った顔をしていた。


「塚田、大丈夫か?」


「いや……。厳しいかも……」


 塚田は、ゲームスタッフから貰ったタオルで汗を拭きながら心境を語ってくれた。俺は、塚田が余裕の無い表情を浮かべながら福永の厄介さを聞いて絶望的になった。


 福永は、北村の情報によると家柄の関係で実践的な戦闘を山程してきたそうだ。しかも、塚田はそれを聞いた時に絶句する程に納得している様だった。なので、塚田はどんなに道場で柔道を鍛えていたとしても実践経験がある奴とは実力の差があると思い知ったそうだ。


「とりあえず、この最終ラウンドも粘る事ね」


「あぁ、分かった」


 北村は、その言葉を残して塚田を試合へと送り出した。そして、最終ラウンドが始まるゴングが鳴り響いて塚田は福永に攻撃を仕掛けていった。しかし、福永はその攻撃を避けた後に回し蹴りを塚田に繰り出した。


「うがぁぁあああ!!!」


 すると、塚田は福永の回し蹴りが腹部に直撃して声を荒げながら蹲っていた。俺は、福永の回し蹴りが素早過ぎて良く見えなかった。そして、審判によって試合が終了して福永の勝利で終了した。


「やっぱり……。とんでもないわね」


「おい。これってどうなってんだよ!? なんで福永はこんなにも強いんだよ!?」


「仕方ないでしょ。これが実力なのよ」


 俺は、塚田がこんなにも苦しんでいるのを見て恐怖心が高まってしまった。しかも、小さい頃から塚田が世界で一番強いと憧れていた想いを踏み躙られた事の悔しさも同時に高まってしまった。


「くっそ……。やっぱり、このゲームなんてやりたくねぇんだよな」


「なら、辞める? 辞めると、もれなく三億円の借金がついてくるけど?」


「そもそも、何で負けたら三億円の借金なんだよ!?」


 俺は、このゲームで一番に理不尽だと思ったのが最下位になったチーム全員に膨大な借金を背負わせる仕組みだった。しかも、視聴者や俺のチーム以外の参加者は一つも否定する様な素振りを見せていなかったので不思議に感じていた。


「最初にも言ったけど、嫌だったら最下位にならない事よ」


「ふざけるなよ!? これで何が男女平等なんだよ!?」


「私は、少なからず平等だと思うけどね」


 北村は、そう言いながら昨日のイベントで俺が言っていた事を掘り返してきた。それは、俺が男女平等について何を思っているか皆んなに語った事だった。


「武尊君は、男女平等は生優しい物じゃないって言ってたわよね?」


「そ、それが、何だよ?」


「この光景こそが、貴方が言っていた男女平等だと思わないの?」


 すると、俺は塚田が福永や武林に攻撃された光景を思い出して何も言えなかった。何故なら、俺は北村の言葉に思わず納得してしまったからだ。


「そ、そんな……。筈じゃ……」


「武尊君、もしかして疲れてるんじゃない?」


「はぁ!? 誤魔化してないで何とか言ってくれよ!? 頼むよ!?」


「武林……。お願い」


「はい」


 俺は、こんなにも必死になってこのゲームの真実を知ろうとしていたが、北村は呆れ返った表情をしながら武林に声をかけた。そして、武林は無表情のまま俺に近付いてきた。


「な、なんだよ……?」


「悪く思うなよ」


 武林は、そう言って俺の腹部を殴ってきた。俺は、いきなりの事で苦しくなるのを感じながら視界が暗くなった。

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