第20話 不戦敗

「平本君、大丈夫ですか?」


 それから、俺は緊急処置室と言う所で目が覚めた。そこには、長谷川さんと森さんが俺のベッドの近くで目が覚めるのを待っていた。そして、隣のベッドには塚田が背を向けながら横になっていた。


「塚田?」


「塚田さんは目を覚ましてますけど、少し元気がないのでそっとさせといて下さい」


 塚田は、先程の試合で気絶した事を悔やんでいるので恥ずかしくて俺に顔を合わせたくないそうだ。


「何だよそれ……。俺なんか、戦う前から気絶しちまったんだよ」


「まぁまぁ。そんな事を言わずにさ、二人共が無事に覚ましてくれて良かったですよ」


 長谷川さんは、仲間割れが起きない様に俺と塚田を慰めていた。俺は、長谷川さんの気持ちに救われながらも試合の事を思い出した。あの試合は、俺らが『不戦敗』として試合に敗れてしまい、北村のチームにポイントが入る事になったそうだ。


「そうだよな……。結局、俺が倒れちまったせいで塚田の分まで頑張れなかった」


 俺は、悔しくなりながら想いが高まって涙が溢れてしまった。俺の中では、塚田は誰にも負けない強い女性だった。しかし、あんなにも派手にやられているのを間近で観た事で頭の整理が追いつかなくなってしまった。


「武尊……。すまない」


 すると、塚田が身体を起こして俺に話しかけてくれた。塚田は、俺が過呼吸になってしまう程に辛い思いにさせてしまった事を反省していると俺らに告げた。


「塚田……。俺、このゲーム辞めたいよ」


「もし、ゲームを辞めたら不戦敗になって三億円の借金を背負う事になるよ」


 俺は、このままでは精神的にトラウマを植え付けられそうで嫌になった。すると、フェミニスト君が現れて俺らに忠告をしてきた。フェミニスト君は、俺らが試合に出られない間に三試合も進めていたそうだ。


「またお前か!? テメェ!?」


「塚田さん!?」


 塚田は、長谷川さんに止められながらもデリカシーの無いフェミニスト君に怒りをぶつけようとしていた。しかし、フェミニスト君は気にしている様子は全くなかった。


「なぁ……。聞かせてくれよ、このゲームは誰が考えたんだよ」


「このゲームはね、日本政府が作り上げた男女平等参画の一つだよ」


「正式には、私の伯父が作り上げたゲームなのだけどね」


 すると、北村がフェミニスト君の背後から出てきて説明を付け加えた。今の日本政府は、北村の父方の伯父が独裁者として裏で牛耳っているそうだ。だから、こんな理不尽なゲームを作り上げる事ができたのだと納得した。


「やっぱり、このゲーム……。何かがおかしいと思ってたんだよな」


「ふふふ。その割には、馬鹿みたいに頑張ってたじゃ無い?」


「うるせぇ。頭の整理が追いつかなかったんだよ!」


 俺は、このゲームの裏情報を聞けた事で色んな意味で気持ちの整理ができた。だから、北村は武林や牧野みたいな強者をチームに組ませる事ができた。そして、俺や塚田を無理やりゲームに参加させても誰も咎めなかった。


「だとしたら、嶺城や山路は誰の差し金なんだよ?」


「あの人達は、私の伯父を支持している人達の子供さんなのよ」


「と言う事は、北村と同じ身分の奴って事の様だな」


「仕方ないでしょ。こちらにも、近所付き合いと言う物があるんだから」


 嶺城や山路は、北村の独裁政治を支持している貴族の息子であるそうだ。なので、北村は森さんと長谷川さんがこのゲームに参加するのを防ぐ事はできなかったそうだ。


「本当なら、長谷川さんと森さんの枠には武尊君の妹達の筈だったのよ」


「でも、嶺城と山路が横槍を入れたせいで思い通りにはいかなくなったって事か?」


「正解よ。最悪、一人だけでもって思ったのだけれどね。今度は、塚田さんに邪魔されてしまったのよ」


「え? 塚田、どう言う意味だ?」


 俺は、俺らのチーム全員が北村達の被害者だと思っていた。しかし、塚田だけは自分の意思でこのゲームに参加したと本人の口から告げられた。


「武尊、今まで黙っててすまない」


「そんな事は良いんだ。それより、本当の事を言ってくれ」


 塚田は、俺の事が気になって駆け付けると北村と対峙する事になった。北村は、俺を襲った後に今度は瑠璃を襲う事を計画していた。しかし、塚田はそれを防ぐ為に自分が犠牲となってゲームに参加する事を申し込んだ。


「最初は断ったのだけどね、武尊君を襲う所を携帯で撮られたから仕方無く参加させたのよ」


「塚田、そうなのか?」


「そうだよ。私が武尊の妹を救おうと思ってした事なんだ」


「そうだったか。だから、お前が喧嘩に負けたんだな」


「そ、それは余計なお世話だ」


 俺は、塚田の本心を聞けたので少し安心する事ができた。しかし、北村は俺の姉妹に復讐する為に仕掛けた事が塚田によって邪魔されたので納得がいってない顔をしていた。


「だけどね、まだ私には本当の狙いが残ってるのよ」


「本当の狙い?」


 しかし、北村は俺の疑問に答えずに緊急処置室から出て行った。俺らは、話の途中だったので慌てて北村を追いかけようとしたが、フェミニスト君に停められてしまった。


「まぁまぁ。とりあえず、君達はどうするの?」


「うるせぇ!! どいてくれ!!」


「うわぁっ!? ちょっとぉ!? 君が逃げちゃうと不戦敗になっちゃうよ!?」


「はぁ!? 辞めるわけねぇだろ!! 途中で諦める様な負け方なんぞ、してたまるか!?」


 俺は、感情的になりながらもフェミニスト君の挑発を一蹴して北村の所へと迎って真実を詳しく聞こうとした。しかし、北村はゲームスタッフの人混みに紛れて姿を消し去った。


「もう居ない……。だと……?」


「武尊、もう良いよ」


「塚田?」


「それよりさ、フェミニスト君がもう少し休んでいけってさ」


「そ、そうか……」


 俺は、塚田に言われて与えられた自分のベッドに入って休む事にした。すると、フェミニスト君が近付いてこれからの事について話してくれた。


「君達がこの場所で休んでる間、他のチームの試合はとっくの昔に終わってるんだよ」


「と言う事は、僕達のチームは連続で二試合をしなくちゃいけないって事ですか!?」


「そうだよ。でも、怪我人が出場するのは難しいからこのイベントだけ不戦敗にするってのもありだよ?」


 俺は、フェミニスト君にこの後の試合について言われた。俺らは、連続で山路と嶺城のチームと対決をしなければならない。しかし、もし仮に俺らが降伏すると戦わずに相手のチームに得点が入ってしまう。


「俺は、それでも構わない……。だけど、皆んなはどうしたい?」


「僕は戦いますよ」


「私もです」


「嘘だろ!? 森さんまで戦うんですか!?」


「はい。お二人が出れないなら私が出ます」


「いや、武尊が出るなら私も出る」


「そうか……。塚田は、出る気なんだよな」


「あぁ。次は、絶対に負けねぇ」


 俺は、先程の試合で気絶してしまった塚田が出場する事を宣言してくれたので俺も出る事にした。しかし、長谷川さん達までもが試合に出ると気合いを伝えてくれたので安心した。


「いや、もう一試合ぐらい頑張る事にする」


「そうですか。リーダーの貴方が言うなら仕方ありませんね」


 俺は、どんなに気絶してしまってもリーダーとして次の対戦相手であるチーム・イエローとの試合に出場する事にした。勿論、フェミニスト君や他の人達は心配して忠告されたが、それでも俺と塚田は決意を曲げなかった。

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