第19話 男女平等パンチ
それから、俺達は『ボクシングマス』と言う格闘技場で北村のチームと初戦を迎える準備をしていた。北村のチームからは、武林と牧野の男性二人がチーム代表として出場する事になったとフェミニスト君から報告を受けた。
ちなみに、このイベントはチーム代表形式となっており、各チームに二人ずつが出る事になっている。試合のルールは、総当たり戦で六回戦の二試合ずつとなっているそうだ。
フェミニスト君によると、武林は中学生から習い事でボクシングを経験しており、牧野は高校生から柔道を始めて県大会まで出場した事があるとの事だった。
「二人とも、かなりの強者ですね」
長谷川さんは、その情報を聞いてゲームが始まる前に受けた体力テストを思い出して俺らに考えを述べた。それは、この時の為に受けたのではないかと言う事だった。
「確かにそうなりますね。となると、一番成績が良かったのは塚田だな」
俺らは、塚田に目線を浴びせて本人の反応を伺った。しかし、塚田は嫌な顔を一つもせずにチーム代表として出る事を告げた。塚田は、小さい頃から父親の知り合いが営んでいる柔道場で日々の鍛錬を積み重ねている。なので、人並み以上の強さを持っている塚田が出る事で一人目は安心して選ぶ事ができた。
「しかし、最後の一人が問題ですよね」
俺らは、高い壁に当たったかの様な悩みを抱えてしまった。俺達の成績は、塚田がぶっちぎりの強さを見せるものの俺と長谷川さんはぼちぼちと言う成績だった。しかし、森さんだけは代表として似合わないと本人含めて全員が一致していた。
「残るは、俺か長谷川さんのどちらかになりますね」
「私は、武尊に出て貰いたいな」
「な、何でだよ!?」
すると、塚田は俺に出場して欲しい気持ちを訴えてきた。塚田は、俺が長谷川さんよりも体力測定の成績が良くて年齢も若いと言う理由を皆んなに伝えた。他の二人は、その理由に納得して俺に出て欲しい事を懇願してきたので俺は圧倒されて承諾するしか無かった。
「これで、代表者が決まったね。なら、代表者はボクシングマスの近くにあるチーム専用スペースで待機しててね」
フェミニスト君は、そう言った後に俺らの楽屋から出て行った。すると、森さんが俺の手を握って応援している事を伝えてくれたが、俺はそれに驚いて声があまり出なかった。
「本当に頑張って下さい」
森さんは、俺の手を強く握り返しながら自分の気持ちを訴えていた。俺は、少し嬉しい気持ちでいたが、塚田はその光景を見て嫉妬しているかの様な表情をしていた。
「すいません。ご準備の方をお願いします」
すると、ゲームスタッフの方が楽屋に現れて準備の指示を受けた。俺と塚田は、代表者として着替えた後にボクシングマスへと移動する事になった。ちなみに、長谷川さんと森さんは楽屋で待機する事になった。
「それではー! 第一回戦第一試合目を始めるよ! 準備は良いかな?」
フェミニスト君は、このゲームを観ている視聴者に声をかけながら今回のイベントを始めさせた。このイベントの勝敗は、三分間三ラウンドの間に誰かが地面に尻をついたり倒れたりすればその人の負けとなるそうだ。
「まずは、チーム・レッドからは塚田友美さんのご登場でーす!」
塚田は、周りにたくさん居るゲームスタッフに拍手されながらリングへと入った。次に、北村のチームからは高身長で大柄な武林がリングへと入った。そして、塚田と武林はボクシンググローブとマウスピースをアシスト係のゲームスタッフに渡されて装着した。
「塚田、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫に決まってるだろ」
「そうか……。なら、良かった」
俺は、塚田に一言だけ声をかけて目の前の試合に集中させた。そして、審判が塚田と武林を真ん中に呼んで試合の合図をした。
「それでは!! 試合開始!!」
すると、フェミニスト君がゴングを鳴らした事で塚田と武林はお互いの拳を当てて試合を始める事になった。その瞬間、塚田と武林の目が変わって殺気がリングから漂ってきた。
そして、塚田は武林の様子を伺いながらも距離を取っていると武林が素早く距離を詰めてきて塚田に攻撃を仕掛けた。武林は、相手が塚田と言う女性であっても躊躇う様子も無く顔面に目掛けて拳を振り上げていた。
確かに、このゲームは男女が関係無く戦いや協力をしていくと言う意識を持つ為のゲームであるとフェミニスト君から聞いて納得はしている。しかし、俺の大切な親友がやられている所を見ると耐えられなくなってくる。
すると、塚田はその攻撃を後ろに下がって避ける事に成功した。そして、そのまま塚田は距離を取って反撃を伺っていた。しかし、武林はすぐに距離を詰めて塚田の顔面に拳を一発喰らわせた。
「つ、塚田!?」
塚田は、武林の拳をまともに喰らってしまった事でよろめていた。しかし、武林は容赦なく距離を詰めて塚田の顔面を殴った。すると、塚田は勢い良く倒れて身動きをしなくなった。
「おっとぉー!? 塚田友美さん、どうしたかぁー!?」
すると、審判が塚田の気絶を確認して試合が終了した。この試合は、武林が塚田を戦闘不能にさせたので北村のチームにポイントが贈呈された。
「嘘だろ? 塚田、おい、塚田!?」
塚田は、俺が叫んで問いかけても反応する事がなかった。そして、塚田はゲームスタッフが持ってきた担架によって別室へと連れて行かれた。
俺は、何が起きたのか整理がつかないまま連れ去られていく塚田の様子を眺める事しかできなかった。このゲームは、こんなにも心が追い詰められるのかと思うと感情的になって理不尽な事を主張してしまう女性の気持ちが少しだけ分かった気がした。
すると、フェミニスト君は次の試合を告げられて準備を要求された。しかし、俺は塚田の事を思い出して呼吸するのが辛くなった。
「大丈夫ですか!?」
俺は、意識が朦朧としてゲームスタッフに駆け寄られているのを感じながら地面に這いつくばった。そして、視界が少しずつ暗くなっていくのを感じた。
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