第17話 ストレス

 それから、塚田と長谷川さんは二時間と言う時間の間で六十三個も荷物を運んだのでフェミニスト君から『630点』を貰った。ちなみに、他のチームでは北村のチームが武林と牧野の男性二人が出場して『920点』を獲得していた。


 そして、嶺城のチームでは川添と赤坂がタッグを組んで『720点』を獲得していたが、このイベントで最下位になってしまった山路のチームは女性二人で『360点』しか獲得できていなかった。


「それでは、育児対決のボーナスイベントが終わったので現時点での順位を発表するよ」


現在の順位

第一位 チーム・ブルー  1911pt

第二位 チーム・イエロー 1160pt

第三位 チーム・レッド  1139pt

第四位 チーム・グリーン 1061pt


 俺らのチームは、嶺城のチームに追い付かれながらも逆に山路のチームとの点差を縮める事ができていた。しかし、北村のチームだけが他の三チームを差し置いてぶっち切りの一位を獲得していた。


「塚田と長谷川さん、マジでお疲れ様です」


「いや、良くここまで頑張ったよぉ〜」


「そうですよね。いきなり、こんな所に連れて来られたと思ったら重い荷物を待たされたりされますからね。本当にきついです」


「ははは。でも、長谷川さんが頑張ったお陰で山路のチームとの差がこんなにも近付いてるんですよ」


 俺は、北村のチームとの点差が開いてる事や嶺城のチームに近付かれている事よりも山路のチームと近差になっている事を喜びとして皆んなを励まそうとした。


 勿論、それだけでは励ましになると思っていないが、森さんや塚田は俺の励ましに少しだけ報われている様な顔をしていた。しかし、長谷川さんだけは嶺城のチームに近付かれている事を心配していた。


「でも、いい加減にこんなゲーム終わりたいですよ」


「確かに、私も長谷川さんと同じ意見です。私がこうしてる間に彼氏は何をしているのかと思うと心配になってそれ所じゃありませんよ」


 俺は、森さんと長谷川さんが弱気になっているのを見て少し焦った。確かに、俺達は各々のプライベートを過ごしていたのに北村や山路達のせいでこんなゲームに付き合わされているのはとてもストレスが溜まっていた。


「それでも、今が大事だと思います。訳が分からない状態でも俺達は何とかここまで来たじゃないですか」


「そうですけど、これって言わば連れ去り事件みたいなものですよ」


「確かに……。言われてみれば、そうかもしれませんね」


「でも、ゲームの承諾書があるから警察に言っても無意味なんですけどね」


「長谷川さんの言う通り、嵌められたって事なんですよ」


 俺は、エスカレートしている長谷川さんと森さんのネガティブが停められなくて少しずつ焦りが募ってきた。しかし、塚田だけは冷静な顔をしながら赤ちゃんを抱いて移動した。


「皆んな……。焦る気持ちは分かるけど、そんな顔してたら赤ちゃんが悲しむよ」


 塚田は、そう言って洗面所の方へと移動して赤ちゃんに聞こえない様にした。俺は、塚田の言葉で正気を取り戻しつつあるかの様に落ち着き始めた。


「確かに、塚田の言う通りだな」


「そうですね。子供の前では、なるべく不満をぶつけない様にしないといけませんね」


「でも、塚田さんは何で至って冷静なんですかね? おんなじ境遇なら一緒に焦っても無理はないのに」


 俺は、森さんの疑問に思い当たる節がある過去をふと思い出した。それは、小学生の頃に俺と塚田の他に複数の男達だけで近くの山に行ってカブトムシを取ると言う遊びをしていた時だった。


 俺らは、夢中になりすぎて夕方の六時を回った頃に帰ろうとしていたが、場所が分からなくて遭難してしまった。なので、俺達は焦って泣き出そうとしてしまった。しかし、そんな時に塚田は勇気を出して俺達を励ましてくれた。


 俺達は、幸いにも近くに居た人が山から出る道を案内してくれたお陰で無事に帰る事ができた。俺は、その時に塚田だけは冷静になっていたので不思議になって質問した。


『なんで、お前だけ冷静なんだ? 普通なら、怖い気持ちになるのによ』


『何でかな? 私も分かんない。でも、皆んなが泣いてるから何故か冷静になれたよ』


 俺は、他にも塚田と一緒に居て絶対絶命だと思った時が幾つも感じてきたのに塚田だけは冷静に対応していた事を思い出した。


「きっと、俺達が焦っているから冷静になれたんでしょうね」


「まぁ、確かに自分よりも焦っている人を見たら冷静になれるって言いますからね」


「私はそんな気がしませんでしたよ」


 森さんだけは、塚田が冷静である事を疑問としていた。俺は、どんなに塚田と長く一緒に居るからと本人の気持ちが分かるかの様な気でいたが、森さんからは納得できないと言われて少しショックを受けた。


「ま、まぁ、人によりますよね。平本君は、塚田さんと小さい頃からずっと一緒に居るので塚田さんの事は平本君に任せましょうよ」


 長谷川さんは、ストレスが誰よりも溜まっている森さんを宥めながらも俺の擁護に徹してくれた。しかし、森さんは少し苦い顔をしながら溜め込んでいた不安を俺達に話してくれた。


「だって! こんなゲームしたくないもん!」


「確かに気持ちは分かります。でも……」


「貴方に私の何が分かるって言うんですか!」


「いや、だから……」


「平本君、そこまでにしときましょ。あまり、彼女を刺激してはいけません」


 俺は、長谷川さんから耳元の近くで注意を小声で貰った。なので、一瞬の焦りから長谷川さんの意見が正しいと判断して黙る事にした。森さんは、それでも泣きながらこのゲームの辛さを吐き出していた。


「森さん、今日は休んでいて下さい。こんな場所で休めないかもしれませんけど、貴方の担当はこの僕がやりますから」


 俺は、料理担当である森さんに代わって自分の担当をしながら森さんの担当を受け継ぐ事にした。その間は、精神的に疲弊している森さんを休ませて育児を塚田に任せる事にした。

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