第16話 育児

「よーちよーち。良い子でちゅよー」


 それから、俺らはチーム皆んなで協力して機械化の赤ちゃんのお世話をしていた。と言っても、育児の担当は俺と森さんの二人が担当していた。


 そして、残りの二人はと言うと俺らが世話をしている間にフェミニスト君から与えられた課題を進めていた。その課題とは、俺らがイベントをやった場所で赤ちゃんのお世話グッズを獲得する為のボーナスイベントだった。そして、俺と森さんは塚田と長谷川さんが頑張っている様子をテレビで見守っていた。


「おぎゃー!!!」


 しかし、赤ちゃんは俺らのメンタルを抉るかな様な大きな泣き声を放っていた。なので、俺らは塚田達の勇姿をゆっくりと見守る事ができていなかった。


「うわぁ、長谷川さんのスピードが落ちてますよ」


「大丈夫かな……。塚田がフォローするにも限界があるんだよな」


 塚田と長谷川さんは、合計で二十キロもする重さをした段ボールを五十メートル先の俺らがいるチーム専用の部屋まで届けていた。そして、また戻って同じ様に重い段ボールを持って届けなければならなかった。しかも、時間内に百個もする段ボールをできるだけ運ぶ事で点数に直接繋がるとの事だった。


 ちなみに、段ボール一個に十点分の得点が詰まっており、中には赤ちゃんのお世話に必要な物が入っていた。しかし、段ボールの底には錘が入っているので並大抵の力では持ち上げにくい様になっているとの事だった。


「うわぁ……。きつそうだな」


「しかも、この作業は引越し業者をモチーフにしているそうですね」


「確かに、そう言ってましたね。でも、何で山路の奴は女性二人にさせたんだ?」


「あの人は、そう言う人なんですよ」


 森さんは、少し暗い表情で山路との過去の事について俺に語ってくれた。山路は、森さんと付き合う前は森さんの事を一人の女性として関わっていたが、いざ恋人として付き合った途端に素っ気ない態度が続いていた。


「言い訳とまではいきませんが、彼はなかなか私の事を見向きもしてくれませんでした」


「『釣った魚に餌をやらない』みたいなもんだな。そりゃ、浮気されて自業自得かもな」


「でしょ? なのに、フェミニスト君からは浮気するのが悪いみたいな事を言われてむかついてるんですよ」


「いや……。それは、女性だから浮気をして良いと言う差別的な事に対して注意を受けただけだと思います」


「あぁ、確かに言われてみればそうかもしれませんね」


 森さんは、俺が間違っている事を指摘すると我に返ったかの様に認めた。俺は、山路がどんな奴かは詳しくは知らないけど森さんの話を聞いてる限りだと浮気されても文句は言えないかもしれないなと思った。


「でも、だからと言って浮気を肯定するわけにはいきません。でないと、森さんの為にもなりませんからね」


「ありがとうございます」


 俺は、もしも浮気を許したとなると人によっては何でも許されると錯覚をしてしまうと思っている。なので、今の内に指摘をして正しい道を歩ませないと人に迷惑をかけてしまい、人によっては恨まれて殺されるかもしれないと森さんに想いを告げた。


「そこまで考えてるんですね」


「そうなんですよ。でも、妹達にそれを言ってもなかなか聞いてくれなくて……。苦戦中ですよ」


「まぁ、女心は難しいって言いますからね」


 森さんは、赤ちゃんの頬を触りながら共感していた。俺は、フェミニスト君によって苦しめられた森さんの事を少し同情していたけど森さんは少しでも立ち上がろうとしている様に俺は見えた。


「おぎゃー!!!」


「おぉ〜。よしよしよし」


 俺と森さんは、塚田と長谷川さんが頑張って届けてくれたお世話グッズを駆使して赤ちゃんに施していた。お世話グッズには、赤ちゃん用の玩具やご飯などがあった。しかし、機械化されている赤ちゃんには人間用のミルクをあげるのはできないのでミルクやご飯などは全てが機械化されていた。


「それにしても、この赤ちゃんは機械とは思えない程に可愛いな」


「ですよね。なんか、まるで本当の人間の赤ちゃんかの様な感じです」


 この赤ちゃんは、とても人間の様な自然な動きをしており、俺らが笑顔を向けると何気なく笑顔を返してくれるので更に可愛げがあって癒されていた。


「おーっとぉー!! 長谷川尚輝君が転けて荷物を落としてしまったぞ! 大丈夫か!?」


 すると、テレビ画面の方からフェミニスト君が驚いた声で実況しているのが聞こえた。長谷川さんは、自分からこのイベントに参加すると言っていたのに見ていると恥ずかしくて見る事ができなかった。


「なんか、申し訳ないけど長谷川さんを見ているとこっちが恥ずかしくなるんだよな」


「でも、長谷川さんなりに頑張ってるので応援してあげましょ」


「それは勿論ですよ。応援するだけじゃなく俺らも頑張りますよ」


 俺は、森さんに言われて気持ちを入れ替える事にした。しかし、俺は決して長谷川さんの頑張りを馬鹿にしたりはしない事を心に誓って赤ちゃんと向き合う事にした。


「よっしゃ……。これで、三十九個目ぇ〜」


「あっ! 塚田、お疲れ」


「おぉう……。武尊達はどんな感じだ?」


「俺らは大丈夫だ。それより、長谷川さんが躓いてるけど大丈夫か?」


 塚田は、俺らの部屋に段ボールを三十九個も運んでいた。塚田は、長谷川さんが行きの途中で階段に躓いたりしているので作戦を考えていた。


 塚田は、まず最初に長谷川さんに荷物を持たせて途中から塚田にバトンを渡す感じで荷物を受取っていた。そして、塚田はその荷物を部屋まで運んで長谷川さんはその間に戻って荷物を取りに行くと言う作戦だった。


「とりあえず、この作戦で何とか持ち堪えてる感じだよぉ〜」


「そうか。俺らも順調にやってるから気にせずに頑張ってくれ」


「おう。任せてくれ」


 塚田は、疲れた感じの声で俺の励ましに答えてくれた。そして、俺は塚田と長谷川さんが運んでくれた荷物を持って森さんと赤ちゃんの方へと迎った。

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