第14話 嫉妬

 それから、俺は長谷川さんの意見を尊重する事で五問連続で正解する事ができた。長谷川さんは、男女差別についてネットなどで調べているのでとても詳しくて頼りになると感じた。


 俺が一番印象に残ったのは、先程の一問目と二問目の家族内で殺人を犯した男女比の問題だった。その答えは、女性が54%と男性より8%も上だった。


 それに、四問目の性行為未経験者の割合の問題も男女共に年数が経つ度に増えており、男性が12.7%で女性が11.9%と男性が多かったと言う事が印象付いてしまった。


 そう考えると、俺はこのイベントで知らなかった事が分かってきたので楽しくなってきた事に気付き始めた。


「じゃあ、七問目! 男と女、司法試験の合格者はどちらが上でしょうか? さぁ、話し合ってね!」


 次の問題は、司法試験に合格する男女比についての問題だった。これに関しては、俺はテレビで女性弁護士が貴重だと言うニュースを見た事を思い出していた。


 しかし、森さんだけは男性よりも女性の方が上だと主張してきた。俺は、長谷川さんの意見に従って正解してきたので今回も長谷川さんの意見に従おうと思ったが、森さんも折れずに反対意見を述べてきた。


「女性は、男性よりも知性があるんです」


「でも、それと司法試験は関係無いと思いますよ」


「関係あるでしょ!」


 森さんは、何故か自分の主張を頑なに捻じ曲げなかった。俺は、困って長谷川さんと目を合わせたが、長谷川さんは諦めて森さんの意見に従う事を俺に言ってきた。


 しかし、結果は男性の方が女性より44.5%も上だとフェミニスト君から解答された。森さんは、この事に何も言えず黙り込んでおり、俺と長谷川さんは何で森さんが取り乱してまで意見を言ったのか気になった。


「森さん、なんで女性と思ったんですか?」


 すると、塚田が少しキレ気味な口調で森さんに問いかけていた。案の定、森さんは何も言えずに居たので俺は塚田を宥め様としたが、塚田から一蹴された。


「だって……。このイベント、女性ばかりが悪者みたいな問題ばかりですもん」


 森さんは、女性が男性よりも能力が劣っていると証明されている問題が次々と出てくるので不満が溜まっていたそうだ。しかし、塚田はそれでも受け入れるべきだと訴えた。


「それでも不愉快なんです!」


 森さんは、感情的になって周りに聞こえるぐらいに声を荒げた。フェミニスト君は、気になって俺らに何が起きたのか尋ねてきた。


「いや、こっちの問題ですのでもう少し待って下さい」


 俺は、皆んなに注目を浴びながらフェミニスト君に少しだけ待ち時間を要求した。フェミニスト君は、それを聞いて煽りながら俺らの方へと近付いてきた。


「あれれぇ〜? どうしちゃったの?」


「うるせぇ! こっちに来るな!」


 すると、塚田はフェミニスト君に対して怒鳴り声をあげた。フェミニスト君は、俺らと共に驚いて言葉を失ってしまった。


「お前さ、さっきからAIだか何だか知らないけど調子乗りすぎなんだよ」


「えぇ、そんな事言われても仕方ないじゃん」


「はぁ? だったら、煽らなくても良いじゃねぇかよ!」


「で、でも……。それが仕事なんだもん」


「どんな仕事なんだよ。とにかく、少しの間だけでも待っててくれ」


 塚田は、このゲームの進行役であるフェミニスト君に屈する事は無かった。俺らは、清々しいと思ったが、フェミニスト君は気まずそうに黙り込んでいた。


「ねぇ、森さん。貴方の気持ち、何となくだけど分かるよ」


「それは……。同じ女性なんだし、あんな風に言われたら苛つきもします」


「でもね、貴方の事は言ってないんだよ」


「は!? 私は女性です! だから……」


「そう言う事を言ってるんじゃない!」


 俺は、塚田と森さんの会話を近くに居るので聞こえていた。塚田は、世の中の女性をあたかも自分の事の様に捉えている森さんに喝を入れていた。


 この世の中は、男性と女性の二つの存在が人類を支えている。だからこそ、どちらかが良く見えてどちらかが悪く見えるのは仕方の無い事だと塚田は森さんに伝えていた。


 しかし、それでも森さんは納得がいってない様子だった。確かに、俺はこのイベントの問題を振り返ってみると明らかに男性が女性に勝っている存在かの様な内容が何度もある。


「それは、女性だって男性に負けない物があるだろ? そう考えたらお互い様なんですよ」


「負けない物って何ですか?」


「コミュニケーション能力やしなやかさなどは女性の方が上です」


 すると、長谷川さんが塚田の代わりに女性の良い所を上げてくれた。しかし、森さんは長谷川さんに塚田に聞いているのだと伝えて一蹴した。それを見た塚田は、苛立ったのか森さんに少し強い口調で注意していた。


「それは無いですよ。森さん、言っておきますけど貴方の発言や行動一つで女性の印象が変わるんですよ」


 塚田が言うには、お互いが主語がでかくなるのは仕方ない事だと言っていた。しかし、無責任な人達の発言や行動のせいで他の人達までもが一括りにされるのは事実である。


「だからこそ、森さんは女性の一人として責任を持つべきです」


「はい……。分かりました……」


 森さんは、長谷川より同じ女性である塚田の言葉を信じて認めていた。俺は、森さんの態度に少し苛立ったが、長谷川さんが気にせずに森さんを励ましていたので目を瞑る事にした。


 それから、俺達は取り敢えず話し合いが終わった事をフェミニスト君に伝えたのでイベントが再開された。しかし、俺は今回の事で森さんが精神的に不安定になりやすい人だと言う事に気付いた。


「じゃあ、改めて! 八問目!」


 俺は、フェミニスト君が問題を提示している時に森さんの表情を見た。森さんは、下唇を噛みながら何処か睨んでいる顔をしていた。なので、それを見た俺はフェミニスト君が出した問題の内容が入って来なかった。

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