第9話 男女公平

 そして、最後に長谷川さんが呼ばれる事になった。長谷川さんは、落ち着いた顔で教壇へと進んでいたが、足や手はかなり震えていた。


「では! では! 『チーム・レッド』はこれで最後になりました! 長谷川尚輝君です!」


 長谷川さんは、『チーム・グリーン』の人達を見ながら教壇に立った。そして、フェミニスト君はいつものノリで長谷川さんに男女平等について説明をさせた。


「僕は、男女平等なんて無理だと思います」


 俺らは、長谷川さんの言葉に呆気を取られていた。しかも、フェミニスト君も長谷川さんの言葉に戸惑って喋れていなかった。しかし、長谷川さんだけは続けて自分の思いを伝えた。


「何故なら、生まれた時から男女の身体や考え方が違うのに対してそれを一緒にするのは何が何でも無理だと思います」


「な、なるほど! なら、長谷川尚輝君はどうすれば男女が良くなると思うのかな?」


「僕は、男女公平を目指すべきだと思います」


 長谷川さんは、昭和時代の様な考え方を例え話として用いて説明をした。昔は、確かに男性が家族を守る為に外で稼いで女性は家族を支える為に家庭に入っていた。


 それは、今では差別的な考えとして言われているが、公平に役割がある事で内容が違ってもお互いが責任と義務を背負っているので違いがあっても良いのではないかと述べていた。


「僕が思っているのは、違いを認めた上でどうやって共存していくかだと思います。なので、このゲームに関しては違いを認めずに平等に扱うと言っている事に対して反論の気持ちを持ってます」


 フェミニスト君は、長谷川さんの持論について驚いていた。長谷川さんは、皆んながドン引きしている中でも自分の主張を言い続けた。しかし、『チーム・グリーン』の人達は笑いを堪えながら長谷川さんを小馬鹿にしていた。


「た、確かに、長谷川尚輝君の言っている事は一理あるよね。そうやって、臨機応変に対応していくのは大事だと思うよ」


 フェミニスト君は、俺が思った以上に長谷川さんの意見を理解していた。そして、フェミニスト君は圧倒されながら長谷川さんの過去を振り返っているとネットでも自分の意見を主張していると皆んなに過去を晒した。


 ネットでは、誰もが匿名で活動しているので女性であっても男性と偽る事ができる。長谷川さんは、そんな環境下でも自分の意見を述べているので男女差別には当てはまっていない様だった。


「そ、それでは! 少し気まずいけど判決を言い渡すよー!」


 フェミニスト君は、そう言って『無罪』と言う判決を長谷川さんに下した。俺は、その結果を周りの人達と共に驚いていた。フェミニスト君からすると、長谷川さんは女性の事を思った上で平等では無く公平を目指すと言う気持ちに惚れたとの事だった。


 それに、長谷川さんは仕事をする上で女性だからと贔屓する事は無かった。そして、母親が自立した女性として周りに尊敬されている事からこの様な結果へと至ったそうだ。


「あくまでも、このゲームのテーマは平等だからね。長谷川尚輝君には、有罪にしようと思ったけど言ってる事は男女差別に至ってないから合格だよ」


 フェミニスト君は、長谷川さんの事を気に入ってる様に接していた。そして、長谷川さんのお陰で俺らのチームにポイントが贈呈されて合計で『200ポイント』になった。


「すみません。おめでとうございます」


「いえ、とんでもございません。僕は、非力なりに一所懸命にやっただけです」


 俺は、気まずい状況の中でも長谷川さんがポイントを稼いでくれたので嬉しかった。長谷川さんは、どんなに『チーム・グリーン』の人達に笑われても挫けずに自分の気持ちを伝えていた。なので、俺はそんな長谷川さんの姿を見て心強く感じた。


「そう言えば、長谷川さんのお母さんについて気になったのですが……」


「ん? 僕のお母さんですか?」


 俺は、フェミニスト君が長谷川さんの母親がとても自立心が高いとの事を耳にしたので少し気になって質問した。


 長谷川さんの母親は、大手企業の部長として仕事に取り組んでいた。最初は、男には興味が無い程に仕事に取り組んでいた。しかし、長谷川さんの父親と出会った事で一目惚れをして結婚に至った。


 父親は、母親と同じ会社に勤めていたらしいが、立場は母親の方が上なので恋愛まで発展するのにかなり時間がかかったとの事だった。そして、長谷川さんの父親は母親にアタックされた事で付き合う事になった。


 しかし、父親よりも母親の方が年収は上なので父親が仕事を辞めて専業主夫になる事になった。周りからは、偏見な意見が寄せられていたが、母親は二人で話し合って決めた事だと強く否定していた。


 長谷川さんの母親は、今は夫と長谷川さんの為に仕事に打ち込んでいるとの事だ。そして、父親は母親の為に家庭を支えて仕事がしやすい様にしていた。長谷川さんは、両親の素敵な姿を見て育った事に感謝していると誇りを持っていた。


「僕の母親は、責任感があるので家族の為に必死に周りの偏見に立ち向かってたんです」


「そうなんですね。フェミニスト君が長谷川さんの母親について軽く言ってたので気になりました。すみません」


「いえいえ、気にしなくて良いですよ。それよりも、森さんの事を気にしないと」


 そして、俺らは肝心の森さんについて目線を向けた。これに関しては、チームの皆んなが森さんの対応に困っていた。


「私が寄り添うから、武尊達はそっとしてあげといてほしい」


「まぁ、塚田が言うならそうしようか」


「そうですね。森さんが立ち直るまで僕達だけで頑張りましょう」


 俺らは、森さんがこのイベントで精神的ダメージを負ってしまったので三人で気を配りながら今日のイベントを乗り越える事を小さな声で誓い合った。

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