第2話 親友

「それは、災難だったな!」


 俺は、通学中に小学校から仲が良い親友と昨日の事について語っていた。俺の親友は、塚田友美つかだともみと言って女でありながら男勝りな性格をしていた。


 塚田は、父親がボクシングで世界チャンピオンに輝いた事があり、母親はレスリングでオリンピックに出場した事があると言う両親揃って凄腕なのだ。


 そして、塚田は父親の知り合いが営んでいる柔道の道場で習い事をしている。なので、一般的な女性よりかは体格も良くて喧嘩も強い奴だった。


「でもよ、ばあちゃんからは沢山励ましてくれたし、結果オーライって事で良いよ」


「お前って奴は、本当に優しいんだな」


「俺じゃねぇよ。俺のばあちゃんの優しさが移っただけだよ」


「じゃあ、結局優しいじゃねぇか」


 塚田は、小学校の時から俺の家族の悩みを親身になって聞いてくれた。塚田には、三人兄弟で弟と妹が一人ずついる。なので、塚田は長女として兄弟の苦労が分かるそうだ。


「確かに、私は同性の友達なんて居ねぇし居たとしても面白くねぇしな。やっぱり、男と居た方が楽なんだよな」


「お前は、特殊過ぎなんだよ。漫画とかゲームとか殆どが男物じゃん」


「そ、そうだよな。でも、女性用の服とか着てると何故か落ち着かねぇんだよ」


 塚田は、小学校の時から周りの男達と楽しく連む事ができていた。そして、周りの女子からは睨まれたりした事もあったが、塚田特有の威圧で女子の恨みを亡き者として追いやる程の男勝りの性格をしていた。


「お前も大変なんだな。あ、そう言えばさ、お前の大好きな漫画が今日から新刊出るらしいぞ」


「げっ!? マジかよ!? ならさ、学校終わったら一緒に買いに行こうぜ!!」


「お、おう」


 俺は、昨日の夜に塚田が大好きな異世界系の漫画が新刊が出たと言うCMをテレビで見たので塚田に報告した。すると、予想以上の反応を見せてくれたので少し癒された気分になった。





 それから、昼休みになって塚田と一緒に弁当を持って屋上で食べる事になった。塚田は、相変わらず今日から新刊が出た漫画の事について熱く語っていた。


 しかし、俺はそれどころでは無かった。何故なら、中学生の時に付き合っていた元カノが俺らのクラスに転校してきたからだ。俺の元カノは、北村香苗きたむらかなえと言ってとても美人で勉強ができる子である。


 しかも、三年間同じクラスだったのでお互いの事が分かり合える様になり、三年になってからの約三ヶ月程は恋人として関わってきた。


 しかし、北村と別れる原因になったのは北村が俺の姉妹達を復讐する為に敢えて恋人として俺と関わったと言う事が判明したからだ。俺が中学生の時、北村とクラスの女の子が話している所を盗み聞きしてまった。俺は、それが原因で北村の事が信用できなくなってしまい、適当な理由をつけて別れを告げた。


 ちなみに、北村は俺の家族と違って父親と兄と弟の四人家族だそうだ。なので、もしかしたら俺の姉妹が北村の兄弟と因縁の関係があるのかもしれないと今更ながら頭がよぎった。


「お前……。なに悩んでるんだ? お前らしくないぞ」


「あぁ、すまない。実は、急に悩み事ができちゃったんだ」


 俺は、塚田に転校してきた北村の事について知っている事を全部話した。北村は、今日の小休憩の時間に奇妙な笑みを浮かべながら俺に話しかけた。その内容は、下校時間の時に真剣な話があると本人から告げられた。


「そう言えば、北村さんって何か闇を抱えていそうだよな」


「いや、実際に抱えているかもな。しかも、その原因は俺の姉妹達が関係しているかもしれない」


「うへー。本当だったら、武尊の家族がヤベェじゃん」


「まぁ、あんな調子だから誰かを困らせても不思議じゃないんだよな」


 俺は、妹達が他の男達を困らせていると言う事を聞かされても疑わない自信をとても感じていた。何故なら、家でもあんな調子で姉妹四人揃って俺の扱いが酷いからだ。


 それから、一日が終わって北村と約束の時間になった。塚田には、終わるまで近くのトイレとかに待っとく様に交渉はしている。


「武尊くんと話すのは久しぶりだね」


「あぁ、そうだな。しかし、何で転校してきたんだ?」


「それは、前の学校でちょっとしたトラブルが起きたの」


 北村は、難関私立の女子校に通っていたとの事だったが、クラスの子と揉めた事で北村は特別にこの学校に通う事が許されたそうだ。ちなみに、俺らの学校は中間くらいの学力をしている東京都立の共学である。


「それより、武尊君と関係を戻したいの」


「ごめん。北村とは、もう難しいんだ」


「そう……。残念ね」


「すまん。期待させた事は謝る」


 北村は、微笑みながら俺の答えを受け入れてくれた。しかし、北村は俺の事を諦める代わりに今日だけ一緒に下校する事を俺に提案してきた。


「分かった。それで、納得ができるのなら」


 俺は、北村と一緒に帰る為に塚田に頼んで漫画の新刊は一人で買いに行って欲しい事を伝えた。塚田は、予想通りに怒って俺の事を責めていたが、北村の気持ちを考えると仕方無く許してくれた。


「ねぇ、一緒に下校するの久しぶりだね」


「そうだな。当時は、毎日の様に帰っていたよな」


 俺は、北村と付き合う事で姉妹達の醜態を少しでも忘れる事ができた。普段は、女の醜い姿を間近で見ているので恋愛をする気すら起きないのに北村と関わっていると気持ちが改めようと思ってしまうのだ。


「ねぇ、この公園で少し休憩しない?」


「あぁ、分かった」


 そして、俺は北村と一緒に近くの公園のベンチに座って休憩する事になった。すると、後ろから誰かが俺の口元をハンカチで強く抑えて襲ってきた。


「う! うぐっ!?」


 俺は、襲われる恐怖心で北村を守らなくてはいけないと思ったが、北村だけは襲われる事なく俺が襲われている光景を眺めていた。


 その時、俺は眠くなりながらもやはり北村が俺の家族を恨んでいる事に気付いた。そして、俺は眠気に襲われて視界が黒く染まってしまった。

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