第1話 アドバイス
俺は、女が大嫌いだ。俺の家族は、祖母・母親・姉二人・妹二人と言う女性に恵まれ過ぎていた。しかも、俺の父親と祖父は朝早くから夜遅くまで仕事で忙しくて家には殆ど居なかった。
なので、男一人と言う残酷な日々を俺は毎日過ごしていた。そして、まさに今の女性が調子に乗っているのかすぐに分かる光景に俺は出くわしていた。
「おい!
「はぁ? どこでも置いてたお兄ちゃんが悪いんでしょ? 私は知らないよーだ!」
「き、貴様……。素直に謝ってくれれば、それで終わるのによ」
「だって、知らないもん。そもそも、謝ってもお兄ちゃんは許してくれないじゃん」
「許してくれないとかじゃなくて謝るのが先だろって言ってんだよ!」
「もぉ、うるさいなぁ。あんまり、怒らないでよね」
こいつは、瑠璃と言って平本家の三女で生意気な妹の一人である。こいつは、いつも俺の物を盗んだり壊したりしては謝らずに開き直るクソ野郎だ。しかも、逆に自分がどこでも置いて壊されると理不尽に怒り出すのだ。
「お前! いい加減にしろ!」
俺は、ムカついたので瑠璃に怒鳴り上げて近くにある瑠璃の洋服を投げつけた。すると、俺の怒鳴り声に聞きつけて母親と祖母が駆け寄った。
「何してるの!?」
「ママぁ〜!!」
瑠璃は、母親が来た事で泣きながら懐に飛び込んだ。なので、俺は完全に悪者になってしまった。俺は、瑠璃に大事にしていたゲーム機を壊されたので問い詰めていた事を告げようとした。
「うるさい! 男は、悪い事をしたら黙って謝りなさい!」
いつもこんな感じだ。俺は、どんなに自分の意見を伝えようとしても言い訳としか受け入れてくれなかった。しかも、俺はあまり悪く無いのに謝罪を突きつけられた。
「ごめん……。なさい」
「ほら、瑠璃もお兄ちゃんが謝ってるよ。許してあげなさい」
「うん。分かったよ」
分かったよじゃねぇんだよ。俺は、瑠璃に対しての憎悪を心の中で感じていた。いつもこんな感じで、俺が嫌だった事を強制的に我慢させられるのだった。
「女なんか、死んでしまえば良いのに」
俺は、毎日の様にこの様な出来事を我慢してきた。と言うより、無理矢理にでも我慢をさせられてきているのだ。俺は、そう思いながら母親と祖母に呼ばれて居間室へと腰をかける事になった。
「あんたね、何があったのか教えなさい」
「本当は、あいつが俺のゲーム機を壊したんのに謝ってくれ無かったんだよ」
「でも、瑠璃はわざとじゃ無いと思うよ」
「それでも、壊したら素直に謝るべきだって言ってたじゃん」
「あのね、その現場でも見たの?」
「見てないけど、あいつが……」
「なら、瑠璃は悪く無いでしょ! 男なんだから、我慢しなさい!」
「またその話かよ」
「なに!? 今なんて言ったの!?」
「何もねぇよ」
俺は、そう言いながら母親と祖母に舌打ちをして踵を返してやった。二人は、俺の事を哀れな瞳で眺めていた。俺は、その瞳が気持ち悪くて吐き気がしそうだった。
「はぁ〜。疲れた」
そして、俺は自分の部屋に引き篭もってテレビに繋いでゲームを始める事にした。このゲームは、沢山のキャラが男女問わず選べる事ができる。なので、俺は女キャラを敵に選んでボコボコにするのにハマっていた。
「っしゃ! 勝ったぜ! ざまぁみろ!」
俺は、こんなふうにストレス発散して一日を凌ごうと考えていた。すると、祖母が扉をノックして部屋に入ってきた。
「ん、どうしたの?」
「いやね、今日の事で私から話したい事があったのよ」
祖母は、今日の事について俺に自分の思っている事を口にする為に部屋に入った。俺は、いつも母親に怒られた時はこうやって祖母が励ましに来てくれる事を感謝している。
「私はね、確かに瑠璃が悪いと思うのよ」
「やっぱり、ばあちゃんもそう思うだろ」
「でもね、今の世の中は執拗に女の味方をする奴が多いの。だから、お母さんはこうやって貴方が我慢する事を覚えさせてるのよ」
「意味分かんねぇよ。だって、それなら瑠璃が調子になってしまうじゃん。それが、俺にとって一番気にしてるとこなんだよ」
「そうだね。それに関しては、私から瑠璃に話しておくよ。でもね、人の行動ってのは言動だけでは動かないのよ」
「分かってるよ。でも、このまま行くと瑠璃が他の男にも同じ様にしてしまう。そしたら、相手によっては恨まれて殺される可能性だってあるんだよ」
「ふふふ。やっぱり、武尊は優しいんだね」
祖母は、優しく微笑みながら俺の言ってる事を理解してくれた。確かに、俺は他の男が瑠璃の生意気な行動によって恨んで仕返しをしてくる事を想像すると今のままではいかないと思っている。だけど、その事を言えるのは俺の祖母と親友の二人だけだった。
「武尊、一つだけ分かっておいて欲しい事があるの」
「なんだよ?」
「アドバイスってのは、何を言うかより誰が言うかなのよ。だから、瑠璃にとっては武尊より私とかお母さんが個別で言った方が心が動きやすいの」
「それは構わないけどよ、個別じゃなくて俺の前で言って謝らせる方が瑠璃にとって良いと思うけどね。まぁ、俺が言っても信用してくれないと思うけどな」
「そんな事はないよ。少なからず、私だけは貴方の事を信じてるよ」
「ありがとう」
祖母は、俺の肩に手を優しく置きながらもう一つアドバイスをくれた。それは、どんなに同じ言葉でも言う人によっては意味が違ってくると言う事だった。
「例えばの話だけどね、『女が悪くても男は手を出すな』と言う言葉を私に言われるのか全く仲が良くないクラスの女の子に言われるのか捉え方が違うでしょ?」
「確かに、ばあちゃんが言うと今の社会で生き抜くには男は手を出さずに別の方法で女が悪いと言う事を証明させれば良いって言う意味になるもんな」
「そう言う事だよ。でも、言う人が変わると女にとって都合が良いからその事を言っているのだと捉えてしまうのよね」
俺は、祖母のアドバイスに思わず納得してしまった。確かに、昔の事で例えると父親が『男らしくしなさい』と言っていたけど、男らしさを求めて困難を乗り越えた父親だからこそ言えた言葉であって、その言葉が男らしさを悪用して楽しようとしている女が言うと納得しないのだと思った。
「ばあちゃん……。いつもありがとな」
「良いのよ。貴方は辛いと思うけど、お母さんと私は頑張ってほしいだけなのよ」
祖母は、そう言いながら俺の部屋を出て行った。俺は、いつも祖母のアドバイスに気持ちが救われているのだと改めて思った。
「おばあちゃん……。本当にありがとう」
俺は、独り言を呟きながら戦闘ゲームを消して情けない思いを噛み締めながら部屋を暗くして寝る事にした。
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