第1冊「臥薪生譚」⑦

「……すげえな」


「何がです?」


「や――すごいよ。薪原さんはさ。筋道を見つけたら、直ぐに自分に適用できる。自分にとって真っ直ぐな自分で居られる。正直、羨ましいし、妬ましいよ。でも、僕はそうはなれない」


「なぜですか」


「だって僕は、分かってしまっている。自分の限界を、自分の臨界を。ここまでならできるってことを選択して、ずっと生きてきたからさ、そこから先に、薪原さんみたいに一人で飛び込むことなんて、僕じゃあできない」


「じゃあ」


「……」


?」


「……っ」


「確かに私だけなら、臥雲くんだけなら、限界はすぐに見えてくるかもしれない。臨界はすぐに訪れるかもしれない。でも二人なら――可能性は、無限になるんじゃ、ないですか」


「……っ。驚いたな、あの真面目な薪原さんがそんな夢見がちなことを言うなんて」


「そういう私も、これから知ってもらいますから」


「ったく、仕方ねえなあ」


「さ、行きましょ――天国の果てまで」


「分かった、ついてくよ。地獄の先まで」




 こうして、臥雲降彦と薪原新智にいちは、二人で学校を出、書店へと向かった。


 帰宅してから二人共、小説の執筆を始めた。


 その後、彼らが小説家として大成したかどうかは定かではない――それはまた、別の物語である。



(第1冊――読了)

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