3.
店員には、評判が良かった。
個数制限を守らない人に、注意していた。
今般、個数制限されているマスクを何度もレジに並んで、購入している人に注意して、トラブルになった事がある。
そのお客さんは、レジに並ぶのだから、構わないだろうと云う。
泰子さんは、皆に行き渡るように、お互いに助け合いましょうと声を掛ける。
あるいは、レジ登録が遅いとチェッカーに文句を付ける人がいる。
泰子さんは、その内に早くなるから、皆で応援しましょうと云う。
カートを放置する人には、ルールを守りましょうと所定場所まで誘導する。
しかし、意見投書箱には、清田泰子さんの事だと思われる苦情が、何回も投書されているそうだ。
店員でもないのに、口煩く指図するという内容だ。
特に、このマスクが品切れ状態の時期には多かった。
店員の間では、事件の噂で、持ちきりだ。
清田正雄が、店を出る時と同時刻に来店した女性客について、色々な憶測が飛び交っている。
見た記憶のある店員は、居なかったそうだ。
秋山の記憶違いか。
アックス石木店では、本部の許可を得て、事件当日の防犯カメラの映像を警察に提出した。
まだ、清田正雄は、警察暑で事情聴取されているらしい。
警察は、エコバッグを置き去りにした女性客を探している。
あくまでも噂だが、清田正雄と謎の女性が共謀して、泰子さんを殺害したと、考えているらしい。
話が逸れた。
清田正雄が自宅を出たのが、午後十時三十分前後。
来店時間は、午後十時三十九分。
清田正雄は、午後十時五十七分にレジを済ませた。
謎の女性は、午後十一時四分に来店している。
午後十一時七分、一度、風除室へ出た。
何かに躓き、買い物カゴが散乱した。
清田正雄も、そのすぐ後、同時刻の午後十一時七分に風除室へ出た。
謎の女性と一緒に、清田正雄と太田のおっちゃんが、買い物カゴを片付けた。
清田正雄は、そのまま、駐車場から車に乗って出て行った。
それが午後十一時十四分。
だから、清田正雄は、泰子さんが、殺害されたと思われる午後十一時頃は、まだアックス石木店に居た。
謎の女性が来店したのは、午後十一時四分。
清田泰子さんのアパートから店舗まで車で六分から七分くらい。
時間的には、謎の女性に、犯行は、ギリギリ可能だ。
謎の女性の車が、店舗駐車場前面の道路に現れた方向は、清田さんのアパートの方面からだ。
翌、午前一時過ぎにエコバッグを秋山に預けて、帰って行った。
何も買い物はしていない。
謎の女性は、駐車場の奥に車を停めていた。
駐車場の出入口から右折して出て行った。
ナンバーは、確認出来ない。
清田さんのアパートとは、反対方面だ。
その後、謎の女性は現れて居ない。
正体も行方も分からない。
事件から一週間経った。
三好刑事が、買い物カゴを持って、惣菜売場を歩いていた。
隣で、佐伯主任が、話をしていた。
秋山が、出勤したのに気付いた。
佐伯主任は、秋山を事務所へ誘った。
三好刑事も一緒に入室した。
また、三人で、防犯カメラ映像を見ている。
謎の女性が、店舗の駐車場の出入口から右折した後、付近の防犯カメラを捜査した。
住宅街を抜けた道路から分からなくなったそうだ。
もう一度、土曜日、午後十一時七分の風徐室の映像を確認した。
「えっ?」
秋山は、その時、不審に思った。
太田のおっちゃんが、来店したのは、清田正雄が、帰る直前だった。
青果側の出入口から風除室へ出て、トイレへ行った時だ。
「主任。太田のおっちゃん、来店したんは、午後十一時過ぎ。ですね」
秋山が云った。
「それが、どうかしましたか」
三好刑事が尋ねた。
佐伯主任が、太田のおっちゃん事を話した。
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