2.

月曜日の朝、午前七時半くらいに、アックス石木店から帰宅した。

アックス石木店は、石木町にある二十四時間営業のスーパーマーケットだ。

土曜、日曜、月曜日の三日間、午前0時から午前七時までで、休憩時間一時間の条件で、アルバイトをしている。

時給は、妻の景子にも内緒だ。

娘の千景を中学校へ送って、「なんでもするゾウ」へ、そのまま出勤した。

「なんでもするゾウ」は、何でも屋だ。

寺井社長とは、以前、秋山が、会社勤めしていた頃からの腐れ縁だ。

頼まれて、経理を手伝っている。

勿論、お客さんからの、簡単な作業なら、お手伝いしている。


午後一時。

秋山の携帯にアックス石木店の佐伯主任から着信があった。

「お疲れさまです。秋山です」携帯に出ると、「ちょっと、店まで来てくれ」挨拶もなく、いきなり店に来いと云う。

佐伯主任は、夜間責任者だから、昼間は眠っている筈だ。

ただ事では無い。


秋山は、「なんでもするゾウ」を早退した。


「ありがとう」

店舗の事務所に入ると、佐伯主任がすぐ、秋山に礼を云った。

「お疲れさまです」

秋山は挨拶した。

防犯カメラで、秋山を見ていたようだ。

店長も居る。

スーツ姿の二人も秋山の方へ振り向いた。

一見して、刑事だと分かった。

「秋山さん。こちらへ」

店長が秋山を奥の事務椅子へ招いた。

「実は…」

店長が今朝からの出来事を説明した。

四十歳くらいの男性は、店舗のポイントカードを利用していた。

住所、氏名と連絡先が分かった。

ポイントカードの持ち主は、丸肥町の清田泰子という三十六歳の女性だった。

しかし、連絡が取れなかった。

ポイントカードは、現金をチャージして使用すると、ポイントの加算が多い。

清田さんのポイントカードには、七千円近く現金チャージ残高がある。

ポイントカードを使用したのが、男性だったので、使用停止処理をした。


店長が、何度か、携帯に連絡を試みたが、応答は無かった。


今日の午前十一時頃、警察から電話があった。

午前十一半、刑事がやって来て、防犯カメラの映像を確認した。


「秋山さん。私、栗林南署の三好といいます。ご協力、お願いします」

もう一度、日曜日、午前一時頃の出来事を尋ねられたので、説明した。


「何が、あったんですか」

秋山は、三好刑事に尋ねた。

エコバッグを秋山に預けた女性を探している。との回答だった。


また、防犯カメラ映像を見ている。

店内から、女性客が風除室へ出て行った。

男性が風徐室へ出た。

女性客が、男性の横にエコバッグの載ったカートを置いた。

男性が、買い物カゴを片付けている。女性客が買い物カゴを取った。

女性客は、男性の横にあるカートに買い物カゴを置き、エコバッグをその中に入れた。

もう一人、別の男性が、散乱した買い物カゴの片付けを手伝っている。

常連客の太田のおっちゃんだ。

いつも、午後十時くらいに来店して来る。

店員に話し掛けながら割引商品を物色する。

秋山も、何回か話し掛けられた事がある。

太田のおっちゃんは、店内の、買い物カゴやカートが、散乱していたりすると、片付ける。

そして、翌、午前一時くらいに帰って行く。

なんと、三時間もアックス石木店で過ごしている。

冷房が効いているから。だろうという事だ。


昨夜、いや、今朝、風徐室の防犯カメラ映像を確認したばかりだ。

男性のエコバッグと、女性客のエコバッグが、すり替わったとすれば、このタイミングしかない。

しかし、太田のおっちゃんに遮られて、エコバッグがすり替わった事を確認出来ない。

他の角度からの映像でも、確認出来なかった。


「実はですね」

三好刑事が説明を始めた。


清田正雄さんは警備会社へ勤めている。

日曜日の午前0時からの勤務になっている。

出勤前に夜食をアックス石木店で購入した。

清田さんは、警備先で、夜食を冷蔵庫へ入れようとした。

その時、エコバッグが、すり替わっている事に気付いた。

妻の泰子さんに連絡を入れたが、応答は無かった。

日曜日、勤務を終えて、午前十時頃帰宅すると、泰子さんが玄関で死んでいた。

警察に通報した。


警察は、泰子の夫、清田正雄を疑っていた。

泰子さんの死亡推定時刻が、土曜日の午後十時五十四分だった。

アパートの隣人が、その時間に、大きな物音を聞いていた。

ちようど、毎週、楽しみにしている一週間の情報番組が、始まる時間だった。

その時、玄関のチャイムは鳴っていない。


清田正雄が勤務先から帰宅した時に、鍵は開いていた。

普段も、正雄が帰宅する時間に、鍵は開いているという事だ。


犯人は、鍵を持っていたのか、それとも、鍵が掛かっていなかったのか。

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