彼side
「かっこいい」
「レンタル彼氏やってるってことは彼女、いないよね?彼女の立候補してもいい?」
「キス、しちゃだめかな」
「貴方ならそれ以上のことされても全然いいよ」
*
高梨律。20歳。フリーター。
将来やりたいこととかなりたいものとかない。つまらない人間だ。
俺は、今まで何かに夢中になったものがない。
幼稚園の頃、周りがカブトムシやクワガタ捕りをしているのを見て、やってみたいと思ったものの、すぐに飽きてしまい、ひとり寂しく楽しそうな皆を見ることしかできなかった。
小学生の頃、サッカーが無性にかっこいいなんて思って始めた。
でも周りが下手なせいなのか、何度もゴールを打ちまくり、つまらないってすぐ辞めた。
中学生の頃もバスケ面白そうなんて始めても、やっぱりすぐ飽きる。
高校生の頃だってそうだ。
夢中になれそうなものを見つけては、難なくこなし、すぐに飽きてしまう。
だから夢中になれるものなんて一切ないんだって思っている。
きっとこれからも夢中になれるものなんて一生現れることなんてないだろう。
そんな俺がどうしてレンタル彼氏なんて仕事してるかって?
それは、単純に給料が良いから。
ただそれだけ。
別に女の子が好きとかそういうのじゃない。
え?過去に女性に対してトラウマがあるのかって?
そんなの一切ない。
そもそもトラウマがあったらレンタル彼氏なんて仕事できないでしょ。
恋とか愛とかただそういうのがめんどくさいだけ。
自分で言うのも正直恥ずかしいけど、俺はそこそこ顔が良いのでモテる。
小さい頃から毎月誰からしらには告白される。
普通に見たら可愛いとか美人な子ばかりだけど、どうしてもこの子と付き合った時のビジョンが全く見えなくてこの20年間、誰とも付き合ったことがない。
まぁ、いわゆる童貞だ。
この顔で童貞!?って驚かれるけど別に恥ずかしいことではない。
周りを見ていても恋愛ってめんどくさそうだし、一人のが気楽。
恋とかに振り回される人生なんてごめんだ。
それにレンタル彼氏は収入の面もだけど、疑似恋愛できるから自分が恋愛した気になれる。だからリアルで恋する必要がないってわけ。
…あれ、これって、俺、もしかして何かこじらせてる…?
いやいや。
レンタル彼氏という仕事を通しての疑似恋愛も案外悪くない。
だって、【俺】個人のフィルターではなく、【レンタル彼氏】というフィルターを通して見てくれるから相手も特別な感情を抱いてくれないから逆に安心する。
だから、愚痴りたい、ただ話を聞いてほしいって子には話を聞くことに徹底しつつも、時々優しい言葉をかけてあげた。
カップル限定の可愛いカフェのパフェも甘いの苦手なはずなのに、大好きなふりをして一緒に食べた。
理想のデートプランを掲げてきた子には、理想以上のデートをプレゼントしてあげた。
それだけで俺は、恋というものを思う存分楽しんだ。
もうこれ以上は望まない。
そんな風に思っていたのに、最近といったら…。
「ねぇ律くん」
「ん?なに?」
「私、本気で律くんのこと好きになったんだけど」
「え?…ありがとう。でもその気持ちだけ受け取っておくね」
「私、本気なの!お金たくさん払うからキス、しちゃだめかな」
そう言いながら、彼女は俺を押し倒す。
「ちょっ、美緒さん、ダメですよ。俺、レンタル彼氏なんでキスはできません」
「それ以上も、だめなの…?私、律くんなら何されてもいいんだよ?」
「だめです」
「…ケチ」
はぁ。
こんな風に少し厄介な女の子が増えてしまった。
仕事だから仕方なく、甘い言葉をかけてあげたり、こうしてほしいという女の子の要望を少しでも喜んでもらおうと要望以上に行動した結果がこうだ。
特別好かれようとしたわけではない。
一応これも仕事だから。
与えられた仕事には求められた以上にする必要がある、そう思っただけなのに。
レンタル彼氏というフィルターだからできたものを”俺”というフィルターで通されてしまうと少し、疲れてしまう。
これだから恋なんて。
またそう思う日がやってきてしまった。
これからきっとまた同じような子が現れるだろう。
そういうのはもう、うんざり。
レンタル彼氏、もう辞めようかな。
ピロン♪
そんなことを考えた矢先、一通の仕事メールの通知が鳴る。
申込者:真紀 21歳 大学生
日時:2023年2月14日 12:00~15:00
場所:お任せ
やりたいこと:好き同士が行う普通のデートがしたい
備考:レンタル彼女経験者
「へぇ…経験者ね」
このメールを見た俺は、何故か今まで以上に楽しみでワクワクが止まらなかった。
小さい頃、遠足の日が待ち遠しい、そんな似た感覚。
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